小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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         『ミレニアム』





「んじゃ何か? 十年後のお前は『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』の禁手(バランス・ブレイカー)、『時空制覇の邪王眼(オール・ルーラー・バロール・ビュー・アイズ)』の力で時を逆行できるようになったと?」

「そ。普段はサーゼクス様たちの命で封印してるんだけど、今回はこの時代の私がダーリンの血を飲んで力に目覚めちゃったから」

「あなたの『時空制覇の邪王眼(オール・ルーラー・バロール・ビュー・アイズ)』の力とリンクしてしまって、一時的にギャスパーがあなた(十年後のギャスパー)になってる……」

そういうことだね、と頷いてみせる大人ギャスパー。余りの事に理解が追いつかず、夜明とリアスは困ったように顔を見合わせる。ちなみに後、数分もすればギャスパーは元の姿へと戻るようだ。

「というかお前、キャラ変わりすぎてないか? 十年の間、お前に何があった?」

「それはね、聞くも涙、語るも涙の私の苦労の歴史が」

手短に話せ、とばっさり切られ、大人ギャスパー涙目。よしよしとリアスに慰められ、大人ギャスパーは話し始める。早い話、夜明達と一緒の時を過ごしていく内に引き篭もり、対人恐怖症のままでは駄目だと思ったギャスパーが自分を変えるべく、色々と頑張ったのだそうだ。その結果が、ボンキュッボーンの彼女である。

「ギャスパー、お前頑張りすぎだろ」

えへへ〜、と大人ギャスパーは照れ臭そうに笑いながら頭をかく。その頑張りの大きな要因が、夜明に相応しい女性になるためだということは黙っておいた。大人ギャスパーの身体つきをジロジロ見ていたリアス。ゆっくりと手を伸ばし、ペタペタと身体に触る。

「十年の間に随分と成長したのねギャスパー。何があったの?」

「いや〜……好きな人に触られると大きくなるって本当だったんですね」

大人ギャスパーの言葉の意味が分からず夜明は首を傾げるが、リアスは顔を赤く染めていた。羨ましい、とリアスが羨望の眼差しで大人ギャスパーを見ているのも、夜明にとっては謎だった。ふと、何かを思いついたリアスは夜明を部室の隅へと行かせ、自分はこそこそと大人ギャスパーと何かを話し始める。

「ちょっと聞きたいんだけどギャスパー。あなたがこれだけ成長してるってことは、小猫やアーシアは」

「うん。マスターや朱乃さんに負けず劣らずエッチィ身体つきしてきたよ。小猫ちゃんはお姉さん並になってるし、アーシアちゃんはアーシアちゃんでゼノヴィアさんみたいに大胆になっちゃったし」

十年の時を経て、グレモリー眷属のロリ枠はえらいことになってしまったようだ。その原因が一人の男にあることは明白である。へ〜、と頷きながらリアスは一番気になっていることを訊ねる事に。

「そ、それで、十年後の夜明の、その……恋人って」

「うん、十人くらいいるよ」

え゛っ、とリアスは彫像よろしく固まった。そんなことはお構い無しで大人ギャスパーは何かを指折り数えていく。

「え〜っと、まずマスターを含めた眷属の皆でしょ。後はミカエル様の『御使い(ブレイヴ・セイント)』のエースと慢心女王にフェニックスちゃんと龍神」

他にも二人くらい恋人になりそうな子がいるけどね〜、と大人ギャスパーはやれやれといった風に肩を竦め、夜明にジトッとした目を向ける。そんな目で見られる心当たりは無く、夜明は戸惑いを顔に浮べていた。あ、でも安心していいよ、と大人ギャスパーはまだ凍り付いているリアスの肩を叩く。

「十年後で一番ダーリンとイチャラブしてるのマスターだから」

「ほ、本当!?」

リアスは嬉しそうにぱぁっ、と顔を輝かせた。大人ギャスパーはにやにやと意地の悪い笑みを浮かべている。

「でもねぇ、未来とは本来無限に変じていくもの。これからどういう風になっていくかは誰にも分からないよ〜」

それこそ、神々ですら。うっ、とリアスは一瞬怯むが、改めて夜明を落とすことを決意した。

「(部長とギャスパー、何を話してんだ……っ!!)部長、ギャスパー!!」

大声で二人の名を叫び、夜明は走り出す。え、と驚きの表情を浮べるリアス。その横では大人ギャスパーがあ、忘れてた、と自分とリアスに向かって飛んできた魔力弾を打ち払っていた。

「お前達、私達のことを忘れて何を話している!!」

全身から怒気を放つ魔女達がリアスと大人ギャスパーに向けて掌を突き出している。先ほど、ギャスパーが防いだのは魔女の一人が放った魔力弾だ。ぽりぽりと頭を掻きながら大人ギャスパーはあちゃ〜、という表情を作っている。

「そう言えば、停止させただけでまだ倒してなかったね。すっかり忘れてた……復活するのは構わないけど、少しは空気読んでよね〜。私とマスターが話してる途中なのに」

大人ギャスパーが不機嫌さをアピールしてプンスカ怒っているが、魔女達はそんなことはお構い無しで魔力弾の一世掃射を浴びせてきた。迫り来る魔力弾の嵐の前に夜明が躍り出ようとするが、それよりも早く大人ギャスパーが視線をきつくさせる。それだけで全ての魔力弾だけを停止させた。

「ギャスパー! お前、こんなこと出来るようになったのか!? 凄いな!!」

驚く夜明に褒められ、気をよくした大人ギャスパーは右腕を闇で包んだ。こんなことも出来るんだよ! と右腕を一閃。右腕から放たれた闇は無数のコウモリへと変じ、飛翔して見る者全ての視界を封じながら魔女達を切り裂いていく。コウモリの暴風が止むと、床の上には血に塗れた魔女達が倒れ伏していた。血の海と化した部室の床、凄惨という表現がピッタリだった。

「「……」」

無言で大人ギャスパーを見る二人。やりすぎた、と感じた大人ギャスパーはこつんと自分の頭を叩く。

「やりすぎちゃった☆」

「「やりすぎだ!!」」

二人に怒鳴られ、大人ギャスパーは頭を抱える。派手に出血こそしているが、幸い魔女達に致命傷は見られなかった。魔女達に最低限の手当てをして、リアスは魔女達が逃げられないように封印術式を施す。その間に大人ギャスパーはもとの姿へと戻った。その際に夜明はこんなことを言われる。

「ダーリン。今はダメダメだろうけど、私のこと見捨てないであげてね。私が変われたのも、強くなれたのも、全部ダーリンのお陰だから」

「んなこと言われんでも、絶対に見捨てないっての」

夜明の返答を聞いて安心したのか、大人ギャスパーはにっこりと笑って二人に手を振る。唐突に大人ギャスパーの姿がぶれ始めた。二人が驚いてる間にぶれは始まった時と同じ様にいきなり収まる。そこには元の姿に戻ったギャスパーの姿が。

「……あ、あれ? 部長、夜明先輩。僕……」

どうやら大人ギャスパーだった時のことは覚えてないようで、ギャスパーは困ったように首を傾げる。夜明はポンポンとギャスパーの頭を撫で、今度な、と微笑んだ。二人にリアスが呼びかける。

「二人とも、すぐに魔王様たちの下に戻るわよ!」

はい! と威勢良く返事をする二人。部室から出て行くリアスに続く。旧校舎の玄関まで行く間、ギャスパーはずっと夜明の背中に引っ付いていたが、置いておくとしよう。足早に玄関口へと移動する三人。

『呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵呵っ!!!!!!!!!!』

突然、聞き覚えのない声の大笑いが三人の耳に届く。顔を見合わせ、急いで玄関口へと向かい、外に出た三人が見たのは、

「……嘘でしょ」

「た、太陽お姉様!!」

「どういう状況だ、こいつは」

血反吐をぶち撒けて地に倒れ伏している太陽。宙に浮かぶ禁手(バランス・ブレイカー)状態のヴァーリにカテレア。剣呑な表情を浮べるクレアに戸惑いと驚愕をかけて二乗したような表情を浮べるアザゼル。そして二人と対峙しいている謎の集団だった。














時は少し巻き戻り、謎の一撃に太陽が倒れた場面まで遡る。

「……私は悪い夢でも見ているのか?」

「……太陽ちゃんが」

太陽の強さをよく知っているサーゼクスとセラフォルーは彼女が倒れたことが信じられず、茫然自失としていた。ミカエルも太陽が倒された事に驚いていたが、ヴァーリのことをアザゼルに問いただしていた。

「どういうことですかアザゼル、何故、白龍皇が夕暮嬢に攻撃を!?」

「……やはり、か。こうなるとは心のどこかで予想していたが」

そんなことを言っている場合ですか!! と諦観を含んだ表情を作るアザゼルにミカエルは語気を強くする。

「……っ! 皆さん、これから私はこの会議室に強力な結界を張ります。この戦いが終わるまで、絶対にここから出ないで下さい」

クレアは自分が知る友人の中で最も強い太陽が倒れた事に驚いていたが、すぐに意識を切り替えてサーゼクス達を振り返った。和平を結んだ、この三大勢力のトップが倒れるような展開だけは絶対に避けねばならない。クレアは懐から一冊の聖書を取り出す。独りでにパラパラと捲れ始めた聖書のページが舞い飛び、会議室の壁に張り付いた。

「しっ!!」

袖口から飛び出した無数の銃剣を投擲し、クレアは全ての聖書のページを壁へと縫い付ける。すると会議室が結界に覆われた。素人が見ても、一瞬で強固だと分かる代物だ。

「俺も行くぜ」

再び懐に手を入れたクレアにアザゼルが言う。クレアは僅かに目を細め、やんわりとアザゼルをこの場に留めようとした。

「出来れば止めて欲しいですね。もし、私の予想が当たっていたら、誰かを守りながら戦うのはかなり難しいです」

「ガキじゃあるめぇし、自分の身くらい自分で守るってぇの」

それに、とアザゼルは神妙な表情になる。

「ヴァーリが、身内が迷惑かけちまったからな……」

その表情に何か感じるものがあるのか、クレアはそれ以上アザゼルを止めず、懐から聖書を取り出した。独りでに捲れ始める聖書を見下ろしながらクレアはアザゼルを見ずに口を動かす。

「この結界は内側から出る分には何の問題もありません。ただ、一度でも外に出れば二度と戻れないことは了承しておいてください」

アザゼルが頷いたのを見て、クレアは何か小さく囁いた。すると、聖書のページが舞い上がって彼女の身体を覆い隠す。聖書のページが全て床に落ちた時、既にクレアの姿は会議室になかった。アザゼルも背中から十二枚の翼を広げ、会議室の外へと飛び出す。

(太陽ほどの猛者が気付かないほどの気配遮断、そして一撃で倒す打撃……こんな芸当が出来るのは奴しかいない!)

瞬時に空間を移動したクレアは倒れ伏す太陽のすぐ傍に現れた。その横にアザゼルが降り立つ。二人は自分達を見下ろしているヴァーリとカテレア、そして太陽を打ち倒したであろう、大笑いしていた人物が立っているであろう場所を見据える。

「おいヴァーリ。これも『禍の団(カオス・ブリゲード)』が用意した余興か?」

アザゼルの問いにヴァーリは否定しようとするが、それよりも早く何も無い空間から答えが返ってきた。

「いやいや、そいつ等は何も関係ないさ。これはわしら『ミレニアム』の宣戦布告よ」

やはりお前達か、と毒づくクレアの目の前に何の前触れも、気配すら無くそれは現れた。中国の武術家のような服装の、燃えるような髪の持ち主だ。

「おい銃剣。あいつ、いつの間にあそこにいた?」

アザゼルの問いにクレアは最初からだと答える。

「圏境。姿を自然と合一することで己の存在を消失させる技法。自然と同化する故、物理的、魔術的に索敵、もしくは感知することはほとんど不可能。武術の達人中の達人が使える超技法だ……そうだろ、魔拳士李書文?」

殺気のこもったクレアの視線が叩きつけられるが、男、李書文はそんなの何処吹く風といった風に受け流し、口を大きく開いて哄笑した。

「呵呵呵呵呵!! よく知っているな小娘! まぁ、死神の小娘は薄々わしの存在に気付いていたようだがな」

その証拠に李書文の拳打は太陽の真芯を捉える寸前に打点をずらされた。大した小娘よ、と感心する李書文の隣に誰かが現れる。今度は何だ! と怒鳴るアザゼルが見たのは身の丈二メートルを超える筋骨隆々の巨漢だった。巨漢は李書文、それから倒れる太陽へと視線を移す。

「おいおい、魔拳士。あの嬢ちゃんに无二打ぶちかましただろ? いいのかよ? 大将が今回はただの宣戦布告だから、誰も死なせるなって言ってたじゃねぇか」

外見に違わない巨漢のドラ声に李書文は再び大笑いする。

「知らぬのか酒呑の? あの小娘は冥界で『死神』と恐れられた実力者だぞ。手加減もした故、そう簡単には死なんよ」

まぁ、当分起きれぬだろうがな、と李書文は締め括る。酒呑のと呼ばれた巨漢は興味なさげに唸りながらクレア、アザゼルを見た。

「この二人が三大勢力のトップか? 三大勢力だから一人足りねぇ気がするんだが」

「一人はアザゼルだが、もう一人は悪魔祓い(エクソシスト)よ。確か『銃剣』とか呼ばれていたような気がするが」

「ほう……堕天使の総督に嬢ちゃん。それに白龍皇。俺ぁ酒呑童子! 一つよろしく頼むぜ」

そう言って巨漢、酒呑童子は片手を上げながらにぱっと笑ってみせる。カテレアは眼中に無い様子だ。アザゼルは極大の光の槍を作り出しながら並ぶ李書文と酒呑童子を睨んだ。

「何が目的だ? お前等『ミレニアム』も『禍の団(カオス・ブリゲード)』と同じで俺達三大勢力のトップを暗殺しにきたのか?」

否、と二人は首を振る。寧ろその逆だ、と返した。その言葉の真意が分からず、アザゼルは勿論、クレア、ヴァーリとカテレアも怪訝な表情を作る。

「その逆よ、堕天使総督。わしらは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の邪魔をしに来たのだ」

「もし万が一。まぁ、ありえねぇと思うが、そいつらの暗殺が成功しちまった場合、和平を結んだ三大勢力という強力な喧嘩相手がいなくなっちまうからな」

喧嘩を売るならでかく、強いやつの方がいい。酒呑童子は子供のように笑ってみせる。詰まる所、こいつらは三大勢力のトップを殺させないためにここに来たのだ。それも、和平を結んだ三大勢力という強大な敵を作り出すためだけに。

「まともじゃない……それはお前等の独断か?」

否、と再び李書文は首を振る。

「わしらの『頭』の判断よ」

「とても正気とは思えないな」

ぼそりとクレアが呟いたその時だ。

『それは酷いなシスタークレア……いや、十代目アレクサンドロ・アンデルセン殿』

また、この場にいない者の謎の声が聞こえてきた。李書文と酒呑童子の視線を追うと、空間の一部が歪んでいた。現れたのは痩躯の黒髪の少年、それと赤い髪の美少女。二人に挟まれている、軍服を纏った肥満体の眼鏡男。黒髪の少年を見たヴァーリは息を呑み、美少女の姿を捉えたアザゼルは目を見開く。

「……嘘でしょ」

「た、太陽お姉様!!」

「どういう状況だ、こいつは」

そこにリアス、夜明、ギャスパーの三人が加わった。一同をゆっくりと見回し、眼鏡男は両腕を後ろで組みながら朗々と声を響かせる。

「諸君、私は戦争が大好きだ」














※後書き

軍服の肥満体眼鏡。これだけで誰だか分かりますね。あ、黒髪の少年はBLEACHのウルキオラ、赤い髪の美少女はネリエルを想像してください。ではでは〜。

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