小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

            『月光夜明の目指すもの』





「おいおい大将。あんたまで来たのかよ?」

そりゃ宣戦布告だからあんたが出てくるのは分かるけどよぉ、と難色を示す酒呑童子。その隣では利書文が腕組みしながら眼鏡男を非難の目で見ている。

「酒呑の言うとおりだぞ少佐。貴様は比喩表現無しで『ミレニアム』の誰よりも弱いのだから」

「はっはっは。ここまで部下にぼろ糞に言われる大隊指揮官が過去にいただろうかねぇ? 未来にもいないな、断言できる」

何で少し嬉しそうなんだよ? と夜明は喉元までせり上がってきた疑問を飲み込む。それよりも気になるのは少佐と呼ばれた少年と美少女を見たヴァーリとアザゼルの反応。どう見ても赤の他人という訳ではなさそうだ。

「さて、まずは堕天使総督殿。和平協定の締結、おめでとう!! 祝辞を述べよう。そして次にこの言葉を贈ろう! さぁ、戦争をしよう!! 情け容赦のない糞のような戦争を、鉄風雷火の限りを尽くし、三千世界の鴉を殺す嵐のような闘争を!!!!!」

どこまで本気か分かりかねる口調で少佐は祝辞を述べた後、狂気に彩られた瞳でアザゼルを見ながら叫ぶ。それは紛れも無く、和平を結んだ三大勢力への宣戦布告だった。しかし、アザゼルの視線は赤髪の美少女に釘付けになったまま動かない。固まったままの堕天使総督を横目で一瞥し、クレアが前へと進み出る。

「確か、少佐といったか? 何が目的だ?」

何時もの柔和な口調を彼方へと飛ばし、きつい語気で問うてくるクレアに少佐はおどけたように片手を持ち上げて見せた。

「目的? 目的とは愚問だな十代目アレクサンドロ・アンデルセン殿」

にやにやと人の神経を逆撫でするような笑みを浮かべ、少佐はヴァーリとカテレアを指で指し示した。

「我々は彼ら『禍の団(カオス・ブリゲード)』と同じテロリストなのだよ? 目的と呼べるような崇高なものなど持ち合わせてなどいないさ」

「貴様らのような輩達と我々を一緒に」

激昂するカテレアが叫ぼうとするが、黙れと少佐に睨まれ言葉を飲み込む。見てくれはただの肥満体だが、この男には言い知れぬ凄み……いや、狂気が宿っていた。その狂気がカテレアを気圧させたのだ。

「お前とは話していない。私は彼女と話しているのだ。貴様のように汚泥のような恨み辛みに塗れた売女ではなく、彼女のように美しきお嬢さん(フロイライン)と話すのは久方ぶりなのだ。黙っててくれないかな売女(べイベロン)」

カテレアを押し黙らせ、少佐は再びクレアと向き直りながら繰り返す。

「テロリストは目的などという高尚なものを持ち合わせてなどいないのだよ。あるのは押し通したい主義主張。そしてその主義主張を他者に押し付け、認めさせるための暴力だけさ!! まぁ、それを目的というご大層な言葉で偽るかは当事者の自由だがね」

更に極論するならお嬢さん(フロイライン)、と少佐は言葉を続けた。

「我々に主義主張を他者に押し付け、認めさせるための暴力はあれど、肝心の主義主張は持ち合わせていないのさ」

「ならば、何故行動を起こす」

両手を大きく広げ、少佐は高らかに言い放つ。

「大戦争を! 一心不乱の大戦争を!!!!」

ただ、それだけのために。コカビエルと同じタイプ、いや、それ以上に厄介な人物だ。この男自体には戦闘能力はない。だが、この男はコカビエルを凌駕するだけの戦力を何人も有しているのだ。

「狂っているわ、あなた……」

リアスが搾り出すように呟く。少佐は裂けたような笑みを口元に浮かべ、リアスを振り返った。素早く夜明はリアスの前に出て、少佐の視線を真っ向から受け止める。

「あぁ、安心したまえ英雄龍くん。君の主を害そうとする気持ちは今の我々にはないよ……さて、紅のお転婆お嬢さん(ヴィルトファング)。我々のことを狂っているというか。よろしい、ならば私も問おう。君達悪魔、ひいては堕天使や天使、そして人間の正気を一体どこの誰が保証してくれるというのだね?」

返答に詰まるリアス。少佐は両腕を広げて首を竦めた。

「お互い、話すことは山とあるだろう。だが、その全てが無意味だ。何故なら狂気に染まった私と君達が相容れるということなど、未来永劫こないだろうからね。それに私の仲間と話がしたいという者が二人ほどいるようだな……ヴァンデューク、ラファオール」

少佐に名を呼ばれ、赤髪の美少女、黒髪の少年はそれぞれアザゼル、ヴァーリの前へと進み出る。沈黙が流れる中、紹介しようと少佐は二人を指し示す。

「わがミレニアムの『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』、そして『炎翼大魔(ヴァルログ)』だ」

一番最初に口を開いたのは美少女だった。

「あはは、久しぶりアザゼルおじさん」

「ヴァン、か? お前、本当にヴァンデュークか!?」

美少女の名を呼ぶアザゼルの顔は常識を逸していた。掴みかからんばかりに美少女へ手を伸ばそうとするアザゼルの肩を掴み、クレアは落ち着くよう耳元で呟く。

「落ち着いてください。堕天使のトップであるお方が見苦しい」

クレアに諭され、落ち着きを取り戻したアザゼルは謝りながら再び美少女を見た。知り合いですか? というクレアの問いに頷き、アザゼルはゆっくりと口を動かし始める。

「こいつの名前はヴァンデューク・ルシフェル……かつての大戦の際に負った傷が原因で死んだ俺の親友、最強の堕天使『ルシフェル』の忘れ形見さ」

そして赤龍帝でもある、と少佐が注釈を加えた。ん? と首を傾げながら夜明は口元を手で覆っているリアスを見る。

「あの、部長。確かルシフェルってルシファーと同一の存在なんじゃ……」

「人間界にはその認識が一般的なんでしょうけど、実際は違うの。ルシファーは冥界における魔王を示し、ルシフェルは最強の堕天使……でも、彼に娘がいたなんて」

それも人間とのハーフ。人間の部分で神滅具(ロンギヌス)『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』を身に宿し、堕天使の部分で絶大なルシフェルの力を引き継いでいるのだ。冗談みたいな存在とは彼女のことをいうのだろう。驚く夜明に少佐は悪戯っぽく語りかけた。

「驚いているようだがね英雄龍くん。その程度で驚いていては身がもたんぞ?」

彼女のような、奇跡としか言いようの無い存在がこの場にもう一人いるのだから。少佐は白き全身鎧(プレートアーマー)に身を包んだヴァーリを見上げる。つられて一同もヴァーリを見た。ヴァーリはマスクを展開させて素顔を露にさせる。

「俺の本名はヴァーリ、ヴァーリ・ルシファーだ」

は? と夜明は目を丸くする。その隣ではリアスが眼球を零さんばかりに目を見開いている。それだけヴァーリが告白した事実は衝撃的だった。

「死んだ先代ルシファーの血を引く者なんだ、俺は。旧魔王の息子である父と人間である母の間に生まれた混血児。人間の部分で『白い龍(バニシング・ドラゴン)』の神器(セイグリッド・ギア)を宿した。ルシファーの血縁であり、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』でもある。俺やそこの赤龍帝、ヴァンデューク・ルシフェルのような者を公式チートというのかな?」

「嘘よ、そんなの……」

リアスが信じられない様子で頭を振るが、アザゼルが肯定する。

「いや、本当さ。世界のバグとしか思えないような存在がいるのだとしたら、こいつとヴァンがそうなるな」

「恐らく二人は史実に残っている過去現在、そして未来永劫最強の白龍皇と赤龍帝になるだろうな」

「そいつぁ……笑えないな」

顔を引き攣らせる夜明。ヴァーリは今度、『炎翼大魔(ヴァルログ)』と呼ばれた少年、ラファオールの方に身体を向けた。

「久しぶりだな、ラファオール」

「そういうお前は相変わらずの戦闘狂のようだな、ヴァーリ」

僅かにヴァーリは眉を持ち上げる。

「兄を呼び捨てか……お前こそ変わりないじゃないか」

「兄、か。そういう台詞は兄らしい事を一つでもしてから吐け。お前を兄、まして肉親だと思ったことは一度も無い」

過去に大きな確執があるのか、両者の間の空気は相当にギスギスしていた。二人が絶対零度の視線をぶつけ合っていると、ラファオールが徐に何かを取り出す。どうやら通信機のようだ。ラファオールは通信機を耳に押し付け、二、三やり取りをしてから少佐を振り返る。

「少佐、リベティアから連絡です。そろそろ、退路を確保するのが難しくなってきたとのことです」

そうか、と頷き少佐は一同の顔を順々に見ていく。

「名残惜しいが諸君、今回はこれでお別れだ。今度会う時は、そこがいつ如何なる場所であっても戦場となることだろう!」

「このまま黙って逃がすとでも?」

クレアが袖口から銃剣を飛び出させる。指の間に銃剣を挟むように構えるクレアを少佐は余裕綽々の様子で見ていた。

「勇ましいな美しきお嬢さん(フロイライン)、いや、銃剣(ベイオネット)殿。だが、この状況で君は我々に手を出すことが出来るのかね? 敵は伝説の二天龍の片割れ『赤龍帝』。『炎翼大魔』に『二の打ち要らず』、『鬼頭領』。この面子を相手に君は堕天使総督、現魔王サーゼクス・ルシファーの妹というハンデを抱いたまま、戦えるのかね?」

忌々しそうに舌打ちするクレア。少佐の言うとおり、クレアはアザゼルとリアスというハンデを抱えている。アザゼルは自分の身くらいは自分で守れるだろう。だが、リアスはそうはいかない。いくら魔王の妹とはいえ、彼女の戦闘能力は現時点ではそこまで高くない。きっと、クレアとミレニアムの戦闘の余波で死んでしまうだろう。

(見逃すしかないのか……!)

クレアが悔しそうに歯軋りしたその時、

「く、くくく……じゃあ逆に聞くがよ豚野朗。手前等はここから素直に逃げ出せると思ってるのかよ?」

聞く者の背筋を粟立たせる、死神の手のような声だった。声の主はゆっくりと、幽鬼のようにゆらりと立ち上がる。

「手前等はこの私に、『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』に喧嘩を売ったんだぞ? このままただで帰れる訳がないだろうが!!」

全身から死そのものを連想させる漆黒のオーラを溢れ出させ、夕暮太陽は少佐たち『ミレニアム』をそれだけで殺せるんじゃないかと思わせるような目で睨んでいた。太陽が立ち上がったことにミレニアムは驚いているようだ。特に李書文は目を瞠っている。

「わしの『无二打』を喰らって絶命するどころか、この短時間で立ち上がるとは……呵呵呵呵呵!!! いくら手加減してたとはいえやるではないか死神の!! やはり縊り殺すなら猫よりも虎よ!!」

哄笑しながら李書文は太陽に向けて拳を構える。最強の拳法家の名は伊達ではなく、李書文のその動作だけで大気が彼の身体から滲み出る闘気でビリビリと震えた。

「少佐、悪いがここで一つ戦らせてもらうぞ。あれを相手に背を向けるなど愚の骨頂よ」

「俺も参加するぜ。さすがにあれと一対一は厳しいだろ」

身の丈ほどもある、スパイクつきの金棒を取り出した酒呑童子が李書文の横に並んだ。更にそこへ少佐からの指示を受けたヴァンデュークが加わる。

「行くよ、ドライグ」

『おおさ。相手は死神と謳われたヘルシングの落とし子、相手にとって不足はない!!』

彼女の左腕に現れた赤色の籠手、『赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)』の宝玉が輝いている。既にドライグとの意思疎通は出来ているようだ。クレアぁ!! と太陽は禍々しい波動を放ちながら友の名を呼ぶ。

「これから私は拘束制御術式第一号を解除するぞ!! ここいら一帯が焦土になるのを防ぎたかったら急いで私とこいつらを次元の狭間に送れ!!!」

頼むというよりも脅迫に近かった。クレアは大慌てで構えていた銃剣を投げて地面に突き刺し、太陽と利書文たちを囲むように即興の魔方陣を描く。

「拘束制御術式第一号、解放!!!!!」

太陽のオーラが爆発的に膨れ上がる。それと同時に魔方陣が輝き、太陽達をどこかへと運んでいった。

「間に合った〜……」

ほっとため息を吐きながらクレアはその場に座り込む。太陽達のような実力者を一瞬で遠くの次元に送ったことは相当負担になっているようで、呼吸が荒かった。ヴァーリは少佐の傍らに残っているラファオールをちらっと見る。

「お前は行かないのか?」

「少佐を残し行けと?」

逆に問い返され、ヴァーリは愚問だったと今度はアザゼル、そして夜明を見た。

「銃剣が立てぬ以上、俺とカテレアと戦うのはアザゼルと月光夜明のどちらかになるのかな?」

ヴァーリの一言でその場に緊張が走る。アザゼルと夜明は一瞬で戦闘態勢に入った。

「俺としてはアザゼルとも戦ってみたいんだが……」

そこで一旦言葉を切り、ヴァーリは夜明を指差す。

「それ以上に君と戦ってみたいな、月光夜明」

カテレアは訝しげな表情を作ってヴァーリ、夜明と視線を移していた。

「あれが噂の人のままグレモリーの眷属になった英雄龍? そこまで強くは見えないのだけれど」

「彼を甘く見ないほうがいいぞ。彼の真髄は強さではなく、不屈の魂と爆発的な成長にある」

「意外だな、ヴァーリ。お前がそこまで英雄龍のことを評価してるとはな」

アザゼルの台詞にヴァーリはにやっと笑ってみせる。

「最初、彼の存在を知った時は落胆を通り越して笑えたけどな。だが、調べていく内に思ったんだよ。彼は英雄龍に相応しい者だとな」

英雄とは何か? 決して折れることなく立ち続ける、不屈の勇者。どんな敵が相手であろうとも怯むことなく立ち向かう戦士。それが英雄だというのなら、月光夜明という人物は英雄という条件を見事に満たしていた。

「君の戦いを見ていくうちに俺はこう思っていたよ。弱くはあるが、君は英雄に相応しいとね」

どんな状況でも諦めずに戦い続ける夜明に、ヴァーリは尊敬にも似た感情を持つようになっていた。そして何よりもヴァーリは夜明の成長性を楽しみにしていた。

「君は初戦から間もなくで神器(セイグリッド・ギア)を創造し、不死のフェニックスをも退けて見せた! 君が俺の本当のライバルになった時の追い上げを想像すると武者震いが止まらなくなるよ」

「……いや、まぁそこまで俺のこと評価してくれてるのは嬉しいんだけどねぇ……」

頭をポリポリ掻きながら夜明は困ったような表情を浮べる。正直言って、公式チートと呼べるヴァーリにこんなことを言われても何の実感も涌かなかった。それに公式チートはもう一人いる。しかも、宿敵という妙な縁のオマケ付きで。

「俺は部長のために生きていければそれで良いのによ〜……そっか。過去現在、未来永劫において最強の赤龍帝、白龍皇か……」

うんうん、と頷いた後、夜明は何かを決心したように拳をぶつけ合わせた。そして『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』内に眠る先輩の名を呼ぶ。

「おい、イスカンダル」

数秒後、夜明の隣に酒呑童子に迫る巨躯の持ち主、『征服王』イスカンダルがマントを翻して立っていた。イスカンダルは腕を組みながらジロリと夜明を見やる。

「何か用か、小僧?」

「夢を見つけた」

ただ一言。それだけで通じたのか、イスカンダルは目を輝かせて身体ごと夜明に向き直った。

「ほぅ。それで小僧。どのような夢を貴様は追いかけるのだ?」

「過去現在、未来において俺は“最高”の英雄龍になる」

夜明の言葉にイスカンダルは大きく目を見開く。その発言は先輩であるイスカンダル、ひいては歴代英雄龍たち全員への挑戦状だった。にやりと笑いながらイスカンダルは夜明と視線の高さを合わせる。

「これまた剛毅に出たな小僧。貴様は余達歴代英雄龍を超え、未来においても勝る者なき英雄龍になろうというのか?」

「あぁ。俺の相手は過去現在、未来永劫最強の白龍皇と赤龍帝なんでな。それくらい目指さなきゃ戦えないさ」

イスカンダルは豪快に笑いながら夜明の背中を叩いた。少し涙目になる夜明ににかっ、と笑いかける。

「いいぞ小僧! 届かぬからこそ挑む、それが覇道!! よかろう! 余の力、貴様に託そうぞ!!」

腰に佩いた剣を引き抜き、頭上へと掲げイスカンダルは叫ぶ。

「小僧、否、月光夜明!! この征服王、イスカンダルと共に覇道を謳い、覇道を示そうぞ!!」

剣を一閃。途端、何も無かった空に雷鳴が轟き、もくもくと黒い雷雲が現れる。次の瞬間、雷が天から降り注ぎ、轟音と共に夜明を貫いた。

「「夜明(先輩)!!??」」

リアスとギャスパーが叫ぶ。しかし、雷に打たれたというのに夜明は傷一つはおろか、火傷一つ負わずに立っていた。暫く己が両手を見下ろし、イスカンダルの力が何たるかを理解した夜明はゆっくりと白龍皇、ヴァーリ・ルシファーを見上げる。

「それじゃ、始めるか」












※一つ質問です。

『英雄龍』対『白龍皇』と『深紅の死神』対『赤龍帝と愉快な仲間達』どっちが見たいですか? 前にも似たようなアンケートをしたので多分、『英雄龍』対『白龍皇』になると思いますが……。コメントかメッセージにてお答えいただけると嬉しいです。では、サザンクロスでした。

-47-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 15 限定版 陽だまりのダークナイト
新品 \4725
中古 \
(参考価格:\4725)