小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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         『スケールのでかさパネェ』




時が経つのは早いもので、あっという間に旅立ちの日となった。どのような方法で冥界に行くのか楽しみにしていた夜明、アーシアとゼノヴィア、眷属とアザゼルを引き連れてリアスが向かったのは……最寄の駅だった。

「……夜明。私は日本に来てまだ日が浅いからそこまで日本の文化に精通していないのだが……日本では電車で冥界に向かえるのか?」

んな訳ない、と夜明はゼノヴィアに首を振ってみせる。疑問の絶えない新米眷属三人を連れ、リアスは迷う様子を見せずに駅のエレベーターへと向かった。先ず最初にリアスと朱乃が入り、続いて新米三人が乗り込む。どう頑張っても五人までしか入らないので、一回降りることに。

「……あれ? この駅って上の階しかなかったような」

疑問に思う夜明を余所にリアスはポケットからカードのようなものを取り出す。リアスがカードを電子パネルに向けると、電子音と共に下に下りていく感覚が夜明達を襲った。僅かに眉を持ち上げる夜明の横ではアーシアが驚き、ゼノヴィアは首を軽く傾げるだけだ。クスクスとリアスと朱乃が笑っているうちにエレベーターが止まる。

「この駅の地価にはね、秘密の階層があるの」

「マジすか!?」

驚く夜明にリアスは苦笑しながら頷いて見せた。この町で高校生活を送っていた夜明だったが、そんなものがあったとは知らなかった。それも当然のことで、そこは悪魔専用のルートだからだ。

「他にも悪魔にしか通れない領域はたくさんあるんですよ?」

朱乃の言葉に頷きながら夜明はエレベーターから降りた。そこには駅のホームのような大きな広場があった。某ファンタジー小説の柱が入り口の駅を髣髴させる。おぉ! と目をキラキラさせながら夜明は周囲を見回す。

「秘密基地みたいで格好いいですね!」

夜明の感想にリアスは軽く噴出した。少し待っている内に太陽達が降りてくる。

「全員揃ったから、三番線に行くわよ」

リアスの先導のもと、夜明達は広いホームを歩いていく。注意深く見てみると、壁には魔法的な明かりが灯っている。夜明達の他に人影はなかった。ふと、横を見てみるとそこにはリアスの隣にいたはずの朱乃の姿が。夜明が首を傾げていると、そっと手を握ってきた。

「?」

「(にっこり)」

視線が合うと、ニッコリフェイスが返ってくる。とりあえず、夜明は朱乃の手を軽く握り返した。ただそれだけのことなのに朱乃は顔を真っ赤にし、だが嬉しそうに繋いだ手に力を込めた。

「……」

今度は逆側の手をゼノヴィアが握ってきた。両手に美少女という状況の中、再び疑問符を浮べて夜明は頭を捻る。リアスにジト目、アーシアとギャスパーに涙目で睨まれる始末。最後尾では太陽とアザゼルが声を出さぬように必死で笑いを堪えていた。

「あの、部長。そろそろですよ?」

状況を見かねた祐斗が前方を指差す。そこには開けた空間があり、一般的に認識されている電車とは異なる電車のようなものがあった。フォルムは鋭角的で、悪魔的な紋章が所々に描かれている。グレモリー、それにサーゼクスの紋章もある。

「グレモリー所有の列車よ」

スケールの違いにぐうの音も出ない夜明。しかし、こんなのまだ序の口だった。














リィィィィン、という汽笛の音と共に列車が動き出す。夜明達は中央から後ろの車両にある席に座っていた。リアスは一番前の車両にいる。主と眷属の線引きがきっちりしてるんだな〜、と夜明は窓の外を見る。列車はトンネルのような薄暗い場所を走っていた。

「どのくらいで着くんですか?」

夜明は向かい側の席に座っている朱乃に訊ねる。夜明の隣にはアーシア、朱乃の横にはゼノヴィアが座っている。通路を挟んで向こう側の席には祐斗、小猫とギャスパー。アザゼルと太陽はそれぞれ別々の席を占領して寝ていた。

「一時間ほどで着きますわ。この列車は正式な方法で冥界に辿り着けるようになってますから」

正式な方法? 怪訝な表情を浮べる夜明に朱乃は新しい眷族の悪魔は一度、冥界で正式に入国手続きをしなければいけないことを話した。ふと、夜明はリアスの婚約パーティーをぶち壊した時、普通に転移の魔方陣で冥界に入ったことを思い出す。

(あれ、これってもしかしなくても不法入国?)

まぁ、何にも言われてないしいっか、と己の中で自己完結。実際、あれはサーゼクスの裏技みたいなものだったので、特例中の特例だ。朱乃もあの時のことを思い出したのか、クスクスと笑う。

「あれは例外中の例外みたいなものですから大丈夫ですわ。ただ、主との性的接触のことで罰せられるかもしれませんが」

え゛、と固まる夜明。次にリアスとの共同生活を思い出した。一緒に風呂に入る、一緒のベットで寝るなどその他諸々が性的接触になるとしたら、夜明は問答無用で監獄に打ち込まれる事になるだろう。マジかよ、と顔を手で覆う夜明の膝の上に誰かが乗った。朱乃だ。潤んだ瞳がエロい。

「眷属同士でのスキンシップなら問題ありませんわ。こんな風に……」

夜明の手を取り、自分の太腿に誘導しようとする。慌てて夜明が止めようとするその前に朱乃の隣にいるゼノヴィアが動いた。朱乃の首根っこを掴み、強引に席へと引き戻す。流石に痛かったのか、朱乃は少し表情を顰める。

「もう、痛いじゃないゼノヴィアちゃん」

「すまない。しかし、目の前であんなことをされては流石に気分が悪いのでな」

バチバチと視線をぶつけ合わせる二人。アーシアは夜明を守ろうとしてるのか、夜明の手を引っ張って朱乃を涙目で見ていた。

「朱乃さんの影響で夜明さんが変態になっちゃいます……」

「男の子は変態なくらいが丁度いいのよ?」

「それはないです」

断言できた。ため息を吐きつつ視線を逸らすと、通路の向こうにいるギャスパーが可愛らしく頬を膨らませていた。祐斗は苦笑を浮かべ、夜明に頑張れと手を振っていた。小猫は我関せずといった風に窓の外を見ている。

(小猫の奴、調子でも悪いのか?)

家にいた時もそんな感じだったので、夜明は少しだけ小猫のことが心配になった。

「よく言ったわアーシア。大体、下僕と主のコミュニケーションなんて極普通の事よ」

そこにリアスがやって来る。紅のオーラを全身から放ってお怒りのご様子。うふふ、とリアスに睨まれても朱乃は笑みを崩さない。

「主と取り合うというのも面白そうですわ」

何を? と聞きたかったが、それをすると洒落にならなさそうなので夜明は黙っていた。一つため息を吐き、リアスは自分についてくるようジェスチャーする。

「来なさい夜明。ここにいたら朱乃のせいであなたが変態になっちゃうわ」

「だからって自分と一緒に来させるのはおかしいんじゃないかしら?」

夜明を連れて行こうとするリアスを朱乃が呼び止めた。リアスと立ち上がった朱乃に挟まれる形になり、夜明は慌てて視線を交互に走らせる。リアスは視線を剣呑にさせ、朱乃は微笑の中に妙な凄みを潜ませている。

「何かしら朱乃? 私はこれから夜明と添い寝をするの」

「あらあら。なら、私は寝台車両に行って夜明くんと色々なことでもしようかしら」

色んなことって何!? と問いたかったが、二人の迫力に圧されて縮こまってるしかなかった。

「この列車には食堂まであるのか。夜明、行ってみよう」

そこにガソリンを注ぎ込むようにゼノヴィアが加わってくる。負けじとアーシア、ギャスパーも立ち上がった。五人の美少女に揉みくちゃにされる夜明。

「ぬぁーっ!」

「……見てて飽きないねぇ」

悲鳴を上げる夜明と彼を囲む五人の美少女を、太陽は薄目を開けながら見ている。が、すぐに眠くなったのか、両手を枕に二人掛けの席に横になった。














夜明が五人に色々とされている内に列車は次元のトンネルを抜け、目的の場所へと辿り着いた。その間にグレモリー領がとんでもなくでかいことが分かった。

「日本の本州とほぼ同じって……」

呆れている内に列車が止まった。夜明達は降車したが、アザゼルだけ列車に乗ったままだ。このまま列車に乗って、魔王領へと向かうらしい。手を振るアザゼルを見送り、駅のホームに下りた夜明達を出迎えたのは。

『リアスお嬢様、お帰りなさいませ!!』

天地を揺るがしそうな大音声。そして空砲と楽隊の演奏、グレモリー家の皆々様だった。地上だけでなく、空にも出迎えと思しき謎の生物に乗った兵士がいる。夜明とゼノヴィアは目をパチクリさせ、アーシアとギャスパーは夜明の背後に隠れた。

「お前等、こんくらいで驚いてたら大変だぜ?」

太陽がニヤニヤ笑いながら四人の脇を通り抜けていく。慌てて太陽の後を追うと、大勢の執事とメイドと挨拶しているリアスがいた。そこに歩み寄ってくる、見覚えのある銀髪メイド。グレイフィアだ。

「お帰りなさいませお嬢様。道中、何事も無くて何よりです」

その後、グレイフィアに誘導されて一同は豪華絢爛な造りの馬車の元へ。馬も普通のものではなく人間界にいるものと比べて体が大きく、眼光が鋭かった。並みの肉食獣なら一睨みされただけで逃げ出すだろう。

「不用意に近づいたら蹴り殺されそうだな……」

「こいつらグレモリーの馬は特別凶暴でな。昔、馬泥棒に入った悪魔数人が蹴り飛ばされて帰らぬ者になったよ」

「……マジか?」

唖然とした様子の夜明に太陽はさぁ? と微笑を残すだけだった。馬車へと乗り込み、リアスの家まで移動。パカパカという馬の蹄の音が妙に可愛らしい。馬車の窓から顔を覗かせて、視線を走らせていた夜明の視界に何か巨大な建造物が飛び込んでくる。

「……あの、部長。あれって」

まさかと思いつつ、夜明はその城を指差しリアスに問うた。すると予想の斜め上をいく回答が返ってくる。

「あれは私の家の一つで本邸なの」

「あぁ〜、本邸ですか……私の家の一つ?」

俺、とんでもない人の眷属になっちゃった? と改めて思う夜明だった。馬車はリアスの家の庭と思しき道を進んでいき、暫くして止まった。到着したらしい。その証拠に従者のような者が馬車の扉を開いて会釈している。先に降りたリアスに続き、夜明達新米眷属もおっかなびっくり外に出た。

「「「……」」」

夜明達は目の前の光景に唖然。彼らの眼前では大勢のメイドと執事が両脇に整列し、一本の道を作っていた。赤いカーペットが城の入り口へと続いている。

「お嬢様、皆様。どうぞお進み下さい」

グレイフィアに促され、歩き出そうとした時。メイドの列の間から小さな人影が飛び出した。

「リアス姉さま、お帰りなさい!」

「ただいまミリキャス。大きくなったわね」

駆け寄ってきた可愛らしい紅髪の男の子をリアスは愛しそうに抱き締める。

「太陽、この子は?」

ゼノヴィアの問いに太陽は一言で簡潔に答える。

「サーゼクスとグレイフィアのガキだ。リアスの甥だな」

太陽はよっ、と片手を上げる。

「久しぶりだな、ミリキャス」

「太陽姉さまもお久しぶりです!」

足下にじゃれ付いてくるミリキャスをひょいと抱き上げ、そのまま肩車する。嬉しそうに笑うミリキャスと太陽を見て、ゼノヴィアがボソリと呟く。

「まるっきり反応が親戚のおじちゃんって感じだなぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」

太陽の蹴りの風圧で吹き飛ばされたゼノヴィアが一瞬で紫色の空へと消えていった。目にも止まらぬどころか、気付く事すら出来ない早業だった。振り上げた片脚を下ろし、太陽は不機嫌そうに眉を顰める。

「誰が親戚のおじちゃんだ。こちとらピッチピチだってぇの」

発言からして親父臭ぇ。そう思う夜明だったが、キジも鳴かずば撃たれまいという格言を思い出し、無言を貫いた。リアスは呆れ顔でグレイフィアにゼノヴィアの回収を頼んだ。

「さぁ、屋敷へ入りましょう」

リアスにミリキャスを肩車したままの太陽が続く。夜明達も置いていかれないようについていった。その間、アーシアとギャスパーはずっと夜明の背中に引っ付いたままだった。巨大な門を潜り、玄関ホールへと。二階へと続く階段、天井の巨大なシャンデリアを見て、夜明は現実離れしたスケールにただ呆然とするだけだった。

「お嬢様。早速、皆様を部屋にご案内しようと思うのですが」

「そうね。私もお父様とお母様に帰国の挨拶をしたいと思ってたところだし」

リアスの言葉にグレイフィアは予定帳と思しきものを取り出す。母親は家にいるらしいが、父親は現在外出中とのこと。夕食までには帰ってくるので、そこで顔合わせする事になった。それまでの間、夜明達は用意された部屋で休む事に。

「あらリアス。帰ってきてたの?」

グレイフィアの指示の元、美人のメイドたちが夜明達の荷物を運んでいると、上のほうから声が聞こえてきた。見れば、階段からドレス姿の美少女が降りてくる。容姿がリアスとそっくりだった。強いて違う点を挙げるとすれば、髪が亜麻色であることと目つきが少しきついというとこ。リアスの姉だと踏んだ夜明は頭を下げる。

「お母様、ただいま帰りましたわ」

へ? と間抜けな声を出して夜明は顔を上げた。そこに追い打ちをかけるように太陽が美少女に声をかける。

「おっすグレモリーのばあさん。相変わらず若いな。何食ってたらそんなになんだ?」

「え、お母、さ……ま?」

アホみたいに口を開いている夜明を見て、リアスと太陽は苦笑いを浮べる。美少女も口元に手をあて、上品に微笑んでいた。

「リアス、その方が月光夜明くんね?」

自分の名前を知られていた事に夜明は更なる驚愕を浮べる。夜明の心中を読んだのか、リアスの母親は頷いた。

「娘の婚約パーティーで一目見ましたわ。あなたの天井を破っての登場は軽く伝説になっているのですよ? 初めまして、リアスの母、ヴェネラナ・グレモリーです。よろしくね、月光夜明くん」

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