小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『若手の会合……その前に』





玄関ホールでリアスの母、ヴェネラナとの衝撃的な顔合わせから数時間後、夜明達はダイニングルームにいた。大きく、それでいて長いテーブルの上にはとても食べ切れなさそうな料理が並んでいる。ちなみにゼノヴィアは無事に回収された。席についているのはリアスと眷属悪魔、リアスの両親とミリキャスだ。

「遠慮せずに楽しんでくれたまえ」

リアスの父親の一言で夕食は始まった。目の前の料理にどう手をつければ良いのか分からず、夜明は無言で天井を仰ぐ。視界に入り込んでくる巨大なシャンデリア。そう言えば、用意された部屋の天井にもシャンデリアが吊るされてたなぁ〜、と頭の片隅でぼんやりと思う。

(というかあの部屋。普通に一世帯の家族が暮らせるぞ)

並みの家の敷地なみに広い部屋には何人も寝れそうなベット、その他にもテレビや冷蔵庫、生活に必要な家具が全て揃っていた。広すぎる部屋にアーシアとゼノヴィアが夜明のところに転がり込んできたのは余談だ。再び嘆息し、夜明は周りの仲間達を見る。

リアスは勿論のこと、『女王(クイーン)』と『騎士(ナイト)』である朱乃と祐斗の食べ方は非常に綺麗だった。アーシアとゼノヴィアは四苦八苦しながらも様になる食事をしている。太陽は豪快さの中に優雅さを感じさせ、まだ小さいミリキャスも上手に食べていた。

(まぁ、なるようになるか)

意を決し、食器を手に取る夜明。食べ始めた夜明を見て、大勢の悪魔に涙目になっていたギャスパーもちびちびと食器を動かす。小猫はといえば、食事その物に手をつけていなかった。見かけによらず健啖家である彼女にしては珍しい。

「小猫、腹へってないのか? だったらもらうぞ」

隣に座っている太陽が小猫の目の前にある皿から肉汁の滴るステーキのようなものを掻っ攫った。しかし、小猫は無反応だった。リアスの咎めを無視し、太陽は小猫の反応の薄さに訝しげに眉を顰める。

「リアスの眷属諸君。ここを我が家と思ってくれたまえ。欲しい物があったら遠慮なくメイドに言ってくれ。すぐに用意させよう」

とリアスの父親、グレモリー卿が言ってくれるが、求めるものが何も無いので夜明は愛想笑いを浮べるしかなかった。

「ところで月光夜明くん」

「ん……何ですか?」

グレモリー卿に名を呼ばれ、夜明は慌てて口の中のものを飲み下す。どんな話題が飛んでくるのかと身構えていたが、グレモリー卿の話は実に平和的なものだった。

「お爺様は帰ってこられたのかね? もしそうなら、近い内に挨拶に行こうと思っているのだが」

「お爺様ってじz……祖父のことですか? どうなんでしょう? ここ一年半くらい顔見てないですからねぇ」

更に言うなら、ついこの間に写メが届いた。オーロラが浮かぶ夜空を背景にシロクマとモンゴル相撲をするという、ネタとしか思えないような代物だ。流石にあれを見せるわけにもいかないので、夜明は若干顔を引き攣らせながら祖父が当分帰ってこない旨を伝える。

「月光夜明くん」

連続で名を呼ばれ、夜明は面食らうが極力表情に出さないようにしながらはい、と返事をした。

「今日から私のことをお義父さんと呼んでくれても構わない」

余りに予想外すぎる言葉にブフーッ! と盛大に飲んでいた水を噴出す夜明。涙目になりながら咳き込み、背中を摩ってくれるメイドに礼を言い、それからグレモリー卿に視線を移す。

「いや、そんなの、畏れ、多、いです」

閊えながらもそれだけ伝える。

「あなた、それは性急過ぎますわ。物事には順序があるでしょう」

妻に諭されるグレモリー卿。

「うむ、しかしだな。他にも彼に目をつける上級悪魔がいるかもしれないし」

「それならリアスがしっかりと繋ぎ止めるでしょうから心配ないでしょう」

「そうだな。私は少し心配性のきらいがあるようだ」

夜明の目にはこのやり取りでグレモリー卿が奥さんに論破されたように見えた。きっと、リアスが結婚したらこんな感じになるんだろうなぁ、と夜明は関係ないことを考える。ちらっと視線をリアスに向けると、顔を真っ赤にしているのが見えた。食も進んでない様子。

「月光夜明さん。夜明さんと呼んでもよろしいかしら?」

今度はリアスの母親、ヴェネラナに呼ばれた。特に問題ないので、夜明は頷いて快諾の旨を示す。

「暫くの間はこちらに滞在するのですよね?」

「はい。部長がこちらで様々な行事があると仰っていたので」

「そう、ちょうど良いわ。あなたには紳士的な振る舞いを身につけてもらわないといけませんから」

紳士的な振る舞い? 夜明が頭上に疑問符を浮べていると、バン! と誰かが強くテーブルを叩いた。見ればリアスが柳眉を吊り上げて立ち上がっている。

「お父様、お母様! 先ほどから黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういうことなのですか!?」

リアスの一言にヴェネラナは目を細めた。憤怒の形相を作っているわけではないが、その表情からは背筋が寒くなるような凄みが感じられる。

「お黙りなさい、リアス。ライザーとの婚約を解消したのを忘れたりはしてないわね? 私達がそれを許してるだけでも破格の待遇だと思いなさい。お父様とサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々に根回ししたと思っているの? 一部からはグレモリーの我侭娘が伝説の英雄龍を使って婚約を解消した、と言われているのですよ?」

「つっても、お宅らが勝手にリアの婚約なんてしてなかったらそんなことにもならなかったけどな」

小さく、だが確実に聞こえるだけの声量で太陽が囁いた。ヴェネラナに軽く睨まれるも、太陽は悪びれた様子も無くケタケタと笑うだけ。ま、あれだな、とグラスに注がれていたワインを一気に飲み干す。

「リア、今回はお前が折れろ。お前自身、嫌じゃないんだろ?」

太陽の言葉にリアスは頷き、不承不承といった風に席に腰を下ろした。

「あんだけ馬鹿やらかして(実際やったのは夜明だが)、その上もう一つの最大級の我侭を聞いてくれたんだぞ。これ以上、お前はお袋さん達に何を求めるんだよ?」

諭すような口調で太陽に言われ、リアスは口をモゴモゴさせながらヴェネラナとグレモリー卿に謝罪を口にした。ヴェネラナも一息吐いた後、柔和な表情を作る。

「あなたの最後の我侭だもの。最後まで責任を持つわ」

すると、見る見るうちにリアスの顔が赤くなっていく。夜明と視線が合うが、すぐに顔を背けてしまう。何が何やら分からない夜明を太陽はニヤニヤしながら見ていた。














冥界にあるリアスの本邸に訪れた次の日、月光夜明は上級悪魔や上級階級、貴族とはなんであるかをミリキャスと一緒に学んでいた。最初は悪魔の文字やら何やらちんぷんかんぷんだったが、夜明自身、元々要領がよかったのですぐに冥界の知識を吸収していった。その様はスポンジに吸い込まれる水を連想させ、夜明の教育係を任されていた悪魔も驚いていた。

「他の皆は部長の案内でグレモリー領を回ってるっていうのに……ほれ、出来たぞミリキャス」

予定よりも勉強が早く終わらせた夜明は英雄龍の能力をフルに活用し、ミリキャスに小さなドラゴンの像を作ってやっていた。ありがとうございます、と礼を言い、ミリキャスは目をキラキラ輝かせながら銀で出来たドラゴンの像を受け取る。モデルはドラゴン時のブレイズハートだ。

(奏者よ。何で余をドラゴンにしたのだ?)

(……お前、自分がドラゴンだってこと忘れてないか?)

{言うだけ無駄だぞ、夜明。余が英雄龍だった時も、こやつはドラゴンの姿に戻ったことはほとんどない}

イスカンダルと一緒にため息を吐いていると、部屋のドアが開いてヴェネラナが入ってきた。

「おばあさま!」

見た目、完全に美少女のヴェネラナがおばあさんと呼ばれることに果てしない違和感を感じる夜明だった。

「夜明さん、ミリキャス。勉強の方はどうかしら?」

「えぇ、まぁ外国語覚えてるみたいで楽しいですね」

膝の上にちょこんと乗っているミリキャスの頭を撫でつつ、夜明は勉強の率直な感想を述べる。夜明に懐いた様子のミリキャスを見て、ヴェネラナは微笑んだ。

「もうすぐリアスと皆さんが帰ってきます。今日は若手悪魔達が魔王領に集まる恒例のしきたり行事がありますから」

ヴェネラナに言葉に夜明はそんなのがあったことを思い出す。リアスと同年代の若手悪魔が一同に会するらしい。全員が正式なレーティングゲームデビュー前の悪魔達だ。名門、旧家の由緒ある上級悪魔の跡取りがお偉方のもとに集まり、挨拶がてら互いを意識しあうというものだそうだ。

(どんな連中が出てくるのやら)














リアス達が城に帰ってからすぐに夜明達は例の列車で魔王領へと移動していた。途中、宙に展開されている長距離ジャンプのための魔方陣を潜り、列車に揺られ続けること三時間、一行は魔王領都市ルシファードに到着した。

騒ぎを避けるために地下鉄へと乗り換えるそうだが、

「リアス姫さまぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

一歩遅かったようだ。黄色い歓声にぎょっとしながら夜明は声が飛んできた駅のホームを見る。ホームにいる大勢の悪魔がリアスに憧れの視線を向けていた。

「部長は魔王の妹でその上美人ですから、下級、中級の悪魔達にとって憧れの的なんですよ?」

朱乃の説明に夜明は納得顔で頷く。彼の背後では大勢の悪魔に反応して涙目になったギャスパーが某奇妙な冒険に出てくるチープ・トリックよろしく張り付いていた。その時、面倒くさそうに頭を掻いていた太陽がそっとリアスに耳打ちする。

「おいリア。私は別ルートから行かせてもらうぞ。同族殺しの『ヘルシング』がお前と一緒にいたらまずいだろ」

言うや、足早にどこかへと行こうとする太陽の首根っこをリアスの手が掴んだ。

「どこに行くのかしら太陽? あなたは私の眷属、夕暮太陽なのよ。主である私と一緒に行くのが当たり前でしょう」

でもな、と口をモゴモゴさせる太陽だったが、有無を言わさぬ態度のリアスに黙って従った。気になった夜明は小声で朱乃に訊ねる。

「朱乃さん。太陽の奴、同族殺しとかヘルシングとかって言ってますけど、何なんですか?」

「……私が言えることではありませんわ。でも、近い内に太陽自身が話してくれると思うから、それまで待ってあげて」

はぁ、と頷きながら夜明は再びホームの方向に目を向けた。

「リアスさまぁぁぁぁぁ!!!!!」

とりあえず、自分の主が野朗にも人気だということが分かった。














地下鉄に乗り換え、更に揺られること五分。夜明達は目的地である、都市で一番大きい建物の地価にあるホームへと来ていた。ここに魔王を始めとしたお偉方、若手悪魔達が集まっているらしい。リアスを先頭に地下からエレベーターに乗り込む。全員が乗っても大丈夫なほど、大きなものだった。

「もう一度確認するわ。皆、何が起こっても平常心でいる事、何を言われても手を出さない事。上にいるのは将来の私達のライバル。無様を見せるわけにはいかないわ」

一同、再び気合を入れて顔合わせへと臨んだ。かなり上に上ったところで漸くエレベーターは止まった。一歩踏み出せば広いホール。使用人と思しき人がリアスや夜明達に会釈した。

「ようこそグレモリー様。こちらにどうぞ」

案内に従って廊下を歩いていくと、一角に複数の人影が見えた。知己の人物らしく、リアスはその一角へと歩を進めていく。

「サイラオーグ!」

向こうもリアスを確認すると、歩み寄ってきた。筋骨隆々の、ワイルドな風貌の男だ。イスカンダルにも引けをとらないタッパの持ち主。瞳は紫、武闘家という表現が的確だろう。

「久しぶりだな、リアス」

にこやかにリアスと握手を交わす。その男からはピリピリと迫力のある波動が感ぜられた。男の眷属と思しき悪魔達も夜明達に視線を送っている。結構強そうだな〜、というのが夜明の感想だった。

「変わりないようね、何よりだわ。初めてのものもいるわね。彼はサイラオーグ・バアル。私の母方の従兄弟でもあるの」

言われてみれば確かにリアス、というよりもサイラオーグの面貌をサーゼクスに似ていた。

「俺はサイラオーグ・バアル。バアル家の次期当主だ」

バアルといえば、魔王の次に偉い『大王』の一つだ。大物の登場に夜明は僅かに目を剥く。驚く夜明の傍らから太陽がにょきっと顔を出した。

「というか、お前こんなところで何してんだよ?」

フランク過ぎる口調だった。しかしサイラオーグは意に介する様子も無く、肩を竦めて見せた。

「太陽か。何、余りに下らなかったのでな。それで出てきた」

「下らない……他のメンバーも来てるの?」

「アガレスとアスタロトは既に来ている。後から来たゼファードルとアガレスがやり合い始めてな」

心底不快な表情でサイラオーグが嘆息したその時、

ドオオオオオオオオオオオオオオオオンッッッッッッ!!!!!!!!!

巨大な破砕音と共に建物が大きく揺れる。かなり近くから聞こえてきたので、夜明は反射的にリアス達の前に『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』を張っていた。危険が無いと判断し、七枚の花弁を消す夜明を見てサイラオーグは小さく呟く。

「いい反応だ。リアス、良い眷属を見つけたようだな」

「月光夜明。リアスの『兵士(ポーン)』であり、現英雄龍さ」

誇らしげに胸を張るリアスの隣で太陽が夜明の背中を指差す。サイラオーグは寸の間、驚いた表情を見せた後そうか、とだけ呟いた。リアスとサイラオーグはそれぞれの眷属を従え、音がした方向にあるドアへと向かった。

「……何じゃこりゃ?」

扉の向こうの光景を見て、夜明は呆れたように一人ごちる。絢爛な装飾がされてたであろう大広間は破壊尽くされていた。椅子やテーブルも無残な残骸と化している。中央ではそれぞれの眷属を従えた若手悪魔が一触即発の雰囲気で対峙していた。眼鏡に黄色いローブの美少女悪魔は比較的普通の悪魔を従え、もう一方の上半身裸ので全身に魔術的なタトゥーを彫ってる青年悪魔は邪悪な雰囲気の魔物と悪魔を後ろに控えさせている。

「女がアガレスで男はゼファードル。奥にいて我関せずの優男はアスタロトだ」

太陽の説明に従い、視線を奥にやってみると、無事にテーブルを保ったまま中央の二人を見ている、優男風の悪魔がいた。眷属全員がフードを被っているので、全様は分からない。

「どうでも良いけど止めなくていいんですか? これからここで顔合わせやるのに」

「いや、ここは時間が来るまで若手が待機するための広場だ」

ここで顔合わせをする訳ではない、とサイラオーグ。

「本来なら若手が集まって軽く挨拶を交わす程度なんだがな。血の気の多い連中を集めるんだから、問題の一つも出てくる。それも良しとしている古き悪魔達もどうしようもないな」

「そうね……太陽、止めてきてちょうだい」

リアスの台詞に太陽は視線だけを向ける。

「おいおい、何があっても手は出さないんじゃなかったのか?」

「これ以上暴れられて、顔合わせの時間が延びたらたまったものじゃないわ。それに、あなたなら余裕で彼らを降せるでしょ?」

絶対の信頼を乗せたリアスの言葉に太陽はへいへいと肩を竦める。首をコキコキと鳴らし、太陽は無言で睨み合っている両チームの間に歩を進めていった。

「おいリアス。大丈夫なのか……アガレスとゼファードルは?」

「大丈夫だと思うわ。太陽もちゃんと手加減すると思うし……多分」

そっちの心配かい、なんて突っ込みは無い。現に夜明達もアガレスとゼファードルの心配をしているからだ。はい止め止め、と太陽は手を叩きながら無造作に両チームの間に割って入る。

「そこまでにしとけお前等。これ以上やったら面倒な事になるぞ。というか、私の主に迷惑がかかるから止めろ。止めないんなら私も相応の態度で相手をするぞ」

太陽の遠慮の無い言葉にゼファードルが青筋を立てる。

「ヘルシング(同族殺し)の血を引いた汚物が何をえらそ」

最後まで言い切る前にゼファードルは太陽に頭を掴まれ、床に叩きつけられた。ゼファードルの頭が床にめり込み、さっきの振動よりも大きな衝撃が建物を揺らす。言い間違えた、と太陽は痙攣しているゼファードルの頭を踏みながらアガレスに目を向けた。

「死ぬか止めるか。好きなほうを選べ」

どっちでも構わないぞ、私は、と最終通告。太陽に気圧され、アガレスは勿論、主を足蹴にされたゼファードルの眷属も何も言わなかった。腰抜けが、と吐き捨て太陽は指を鳴らす。刹那、太陽の背後にウォルターが現れた。相変わらず、どこに潜んでるんだと問いたくなる早業だ。

「ウォルター、広間を直しといてくれ」

「御意」

ウォルターに指示し、太陽は近所に散歩に行った後のような気軽な足取りでリアス達のところに戻ってくる。

「終わったぞ」

「……部長。これは明らかに役不足だと思います」

夜明の言葉を否定するものは誰一人としていなかった。

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