小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『ヘルシングとは?』




「私はシーグヴァイラ・アガレス。大公、アガレス家の次期当主です」

先ほどの眼鏡姉ちゃん、シーグヴァイラがリアスとその眷属達に挨拶する。大広間修復のために何人かのスタッフが呼ばれたが、既にウォルターの手によって綺麗さっぱり元通りになっていた。

「流石ね、ウォルター」

「簡単なことでございますよ」

リアスの賛辞にウォルターは余裕の笑みを見せるだけだった。グラシャラボラス家のゼファードルは太陽に気絶させられ、まだ意識を回復してないので眷属は主抜きでテーブルについている。

「ごきげんよう。私はリアス・グレモリー。グレモリー家の次期当主です」

「私はソーナ・シトリー。シトリー家の次期当主です」

リアスにソーナが挨拶し、続いてサイラオーグが立ち上がる。

「サイラオーグ・バアル。大王、バアル家の次期当主だ」

威風堂々とした自己紹介だった。夜明はさっきリアスから聞いた、サイラオーグが若手NO1という話を思い出す。次に口を開いたのは先ほどの騒ぎでも優雅にお茶を楽しんでいた優男だ。

「僕はディオドラ・アスタロト。アスタロト家の次期当主です。よろしく」

アスタロトの名で夜明はあることを思い起こす。確か、現ベルゼブブを出した名家だ。そしてグラシャボラスは現アスモデウスを輩出させている。あんなヤンキーが次期当主でいいのだろうか? 表情に出ていたのか、隣の席にいるサイラオーグが夜明に説明してくれた。

「グラシャボラス家は先日、お家騒動があったらしくてな。次期当主とされていた者が不慮の事故で亡くなってな」

「あいつが次期当主候補の一人ってことですか」

そういうことだ、とサイラオーグは頷く。しかし、と夜明は改めて集まった面々を見やった。それぞれの主は勿論、眷属達も良い面をしている。流石は未来を担う若手悪魔とその眷属といえた。

「おい月光。何をキョロキョロしてんだよ?」

「いや。皆、良い面してんなぁって思って」

「何言ってんだ。お前は英雄龍なんだぞ? もっと堂々としてろよ」

それじゃ英雄龍を鼻にかけてる嫌な野朗じゃねぇか、と内心で思う夜明。少しばかり目つきをきつくさせ、夜明は匙を睨んだ。

「堂々とすることに英雄龍もクソも関係ないだろうが。そういうお前こそ『黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)』なんだろ? お前こそアホなこと言ってねぇでしゃきっとしてろ」

匙は一瞬、顔を強張らせて何か言いたそうだったが、結局何も言い返してはこなかった。

「確かに俺はヴリトラを宿した神器(セイグリッド・ギア)を宿してるよ。でも、お前みたいに主の自慢の眷属じゃないんだ……」

その時の匙の表情が苦しげなものに見えたのは夜明の気のせいではなかったはずだ。疑問を感じ、問い返そうとすると扉が開いて使用人が入ってくる。行事とやらの始まりだ。














夜明達が案内されたのは異様な雰囲気の場所だった。かなり高いところに席があり、そこにお偉方と思われる悪魔が腰かけている。その上には更に偉そうなおっさん共。もう一つ上には魔王達が並んでいる。サーゼクスとセラフォルーの顔は知っているが、残りの見覚えの無い二人はベルゼブブとアスモデウスだろう。雛壇みたいだな〜、と夜明は薄っすらと思っていた。

(にしても……)

嫌な目つきだ、口の中で小さく呟く。そもそも目線を合わせようとする意識すら見えない席の位置に向かっ腹が立つし、何よりお偉方の見下すような視線が気に入らない。リアスの後ろで待機しながら夜明は早くもこの場から帰りたくなっていた。

「よく集まってくれた。次代を担う貴殿らの顔を確認するために集まってもらった」

ちなみにこの会合は定期的に行なわれるそうだ。非常に面倒なことこの上ない。

「早速、やってくれたようだが……」

(それを黙認してた連中がほざける台詞かよ)

思う夜明だったが。勿論口には出してない。その後は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と『ミレニアム』についての話がされた。その際にサーゼクスは若手悪魔をこの二組織との戦闘には投入させない旨を告げる。その事に関してサイラオーグが不満そうだったが、サーゼクスの説得もあり一応の納得を見せた。

「最後にそれぞれの今後の目標を聞かせてもらえないか?」

お偉方の長々としたありがたい話(笑)、今後のレーティングゲームに関しての話が終わり、サーゼクスが居並ぶ若手悪魔達に問う。いの一番に答えたのはサイラオーグだった。

「俺は魔王になるのが夢です」

はっきりと、堂々とした態度でサイラオーグは言い切った。お偉方もサイラオーグの並ならぬ意思を秘めた相貌に感嘆の吐息を漏らす。

「大王家から魔王が出たら前代未聞だな」

「俺が魔王になるしかないと冥界の民が感じればそうなるでしょう」

サイラオーグは再び言い切る。その横顔に迷いは一切無かった。ヒュ〜、と太陽が小さく口笛を吹く。リアスに窘められ、太陽は苦笑いを浮べて軽く手を振った。サイラオーグの次にリアスが今後の目標、グレモリー家の次期当主として相応しい生き方をし、レーティングゲームの各大会で優勝することを話す。

その後も若手達が己の夢を語っていき、最後にソーナが残った。

「冥界にレーティングゲームの学校を建てるのが夢です」

ソーナの言葉にお偉方は揃って眉根を顰めた。

「レーティングゲームを学ぶ場所なら既にあるはずだが?」

お偉方の確認にソーナは頷く。しかし、それは上級悪魔や一部の特権階級の悪魔のみが学ぶ事を許されている学校だ。彼女、ソーナ・シトリーが目指しているのは下級悪魔や転生悪魔も分け隔てなく通える学び舎。生徒会長である彼女らしいといえば彼女らしい夢と言えるのかもしれない。そしてお偉方はソーナの夢を、

「「「「「ハハハハハハハハハハハハハッッッッッ!!!!!!」」」」」

笑った。瞬間、夜明はこの連中とは絶対に相容れないと直感した。他者の、それもこれから未来を担う若者の夢を笑う。それは夜明にとって紛れもない“吐き気を催す邪悪”だった。

「悪魔業界も大変だねぇ」

こんな老害がいて。同じ心境なのか、視界に映る太陽も忌々しそうに小さく舌打ちしている。セラフォルーは妹の目標に全力で頷いていたが、お偉方は冷徹な声で返した。

「ソーナ・シトリー殿。下級悪魔、転生悪魔は上級悪魔たる主に仕え、才能を見出されるのが常。そのような要請施設を創設しては伝統と誇りを重んじる旧家や名家の顔にドロを塗る事になりますぞ?」

その伝統や誇りとやらに守るべき、重んじるべき価値はあるのだろうか? 少なくとも、このお偉方様たちにはあるんだろう、と夜明は冷めた目でお偉方を見ていた。ちら、と横を見ると、匙が顔を真っ赤にさせてぶるぶる震えている。余程、主であるソーナの夢を笑われたことが我慢できなかったらしい。声を荒げて匙がお偉方に噛み付き始める。しかし、お偉方からは一蹴され、ソーナから諌められる始末。

(匙、そろそろ止めとけ。それ以上は会長さんの顔を潰す事になるぞ)

尚、言いたいことがありそうな匙にそっとアイコンタクトを送る。悔しそうにしながらも匙は矛を収めた。しかし、己の夢を馬鹿にされたというのにソーナは落ち着き払っていた。自分の夢に微塵の疑問を挟んでいない様は気高さを感じさせる。

「話は変わるが、以前に伝えた件に関しては考えてくれたかな、トワイライト・ヘルシング殿」

ソーナの時とは打って変わり、媚を売るような口調でお偉方は太陽に話しかけた。その場にいる全員の視線が集中する中、太陽は苛立ちと不快感を隠す様子も無く視線をきつくさせる。

「……考えるも何も、この前はっきり言っただろ。私はヘルシングの名を名乗る気は無いってな」

「うむ、確かにそうだが、よくよく考えたのかね? 本来なら貴殿は眷属としてではなく、主としてこの場に立っているはずだった。ヘルシング家の主として、眷属を率いたいとは思わないのかね?」

くどい、と太陽は冷淡に返すだけだった。

「私は親友であり主であるリアス・グレモリーを支えられればそれでいい。今更、ヘルシングを復興させようとか、汚名を雪ごうなんて考えは微塵もない……と言うか、お宅らの考えてることなんて大体察しがついてるってぇの」

ボリボリと頭を掻きながら太陽はお偉方を睨む。

「私のクソ親父が封印されてかなりの期間経ってるからな。封印その物が弱くなっててもおかしくない。いや、あいつなら内側から封印を破って復活する可能性もある。復活したら、あいつは真っ先に魔王様方とあんた達を狙うだろうな」

平和というのが死ぬほど嫌いだからな、あいつ、と太陽は苦虫を噛み潰したような表情で続ける。

「差し詰め、クソ親父が復活した時の対応策として私に恩を売って自分達の側に引き込もうとしたんだろ? 同族殺しのヘルシングに媚まで売って。全世界、あいつに対抗できる奴なんてオーフィスか私くらいのものだからな……」

まぁ、安心しろ、と太陽は嘲笑を浮べてお偉方の顔をそれぞれ見ていった。

「あのクソ親父が復活したら、私が出張ってやるよ。あんなのに実現した三大勢力の和平を滅茶苦茶にされるのは私も嫌だからな」

それきり、太陽はもう何も言わなかった。その後、リアスとソーナのレーティングゲームの試合が決まったのだが、その話の間、太陽はずっと心ここにあらずといった風だった。














「そうか、シトリー家と対決か」

グレモリー邸へと帰ってきたリアス達を出迎えたのはアザゼルだった。リビングに集合し、会合での事の顛末を話す。

「人間界の日付で対戦の日にちは七月の二十五日。約二十日間か」

勿論、その二十日間を怠惰に過ごすわけではない。アザゼルは既に夜明達のそれぞれの修行メニューを考えていた。詳しいことは翌日の朝、ということになる。そのまま流れで解散、というふうになりそうだったが。

「太陽、お前の言ってるヘルシングって何なんだ?」

夜明のこの一言でそれぞれの部屋に戻ろうとする者達の足が止まった。全員から視線を向けられた太陽は困ったような表情を作る。

「あぁ〜、そういや話してなかったな。リア、このこと知ってるのってお前と朱乃だけだったか?」

コクリとリアスは頷く。オーライ、と立ち上がっていた太陽はソファーに再び腰かけた。

「お前等も座れよ。結構、長い話になるぞ」

全員が座ったのを見て、太陽はポツポツと話し始めた。

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