小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『パーティって大抵楽しめる奴とそうでない奴で分かれるよね』




ゴオオォォォォッッッ!!!! 夜明の眼前を焔が埋め尽くす。触れてもいないのに肌を焦がすような熱さだ。夜明は片手を前に突き出す。

「『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』!!」

業火と夜明の間に燐光を放つ七枚の花弁が現れた。火炎は『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』ごと周囲を呑み込む。全ての花弁が一瞬で砕け散る。花弁の後ろにいたはずである夜明の姿は無かった。

「上か!」

タンニーンが上空に顔を向けると、アンリミテッド・ブレイドを展開させた夜明が太陽を背に飛んでいるのが見えた。すぐさま大きく息を吸い込み、タンニーンは再び極大のブレスを吐き出す。大質量の火炎が視界一杯に迫ってくる中、夜明は両腕に『猛き極光(べオウルフ)』を創り出し、更に大声で叫んだ。

「禁手化(バランス・ブレイク)!!」

淡い輝きを放っていた籠手が爆発的な光を放って巨大化。手甲部分に六つの宝玉、肘部分に撃鉄のような装置を取り付けた、肉厚で極太の巨腕と化す。橋などの巨大な建造物を支える柱のように太い。更に具足が消滅し、代わりにブースターのようなものが夜明の背に装備された。

「『猛々しき撃滅の閃光(ベオウルフ・レボルバー)』!!!!!」

右巨腕の撃鉄が二回打ち鳴らされる。手の甲にある宝玉が二個、眩い輝きを放ち始めた。夜明は火炎に向かって右拳を叩き付けた。

ゴバァァァァァァァンッッッ!!!!!!

インパクトの瞬間、周囲一体を照らし出すほどの光が拳の先から放たれる。空一面を覆い尽くすほどの火炎に巨大な穴が穿たれた。背中のブースターを噴かし、その穴から飛び出した夜明は右巨腕の撃鉄を響かせた。残りの宝玉四つに光が灯る。

「おうらああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」

「正面から来るか! ならば俺も応えよう!!」

タンニーンは胸が大きく膨らむほど息を吸う。口内までせり上がってきた猛火を再び飲み下し、一発の火球として撃ち出す。ブレスのような範囲はないが、濃縮された分高威力だ。夜明は咆哮を上げて『猛々しき撃滅の閃光(ベオウルフ・レボルバー)』を火球にぶち当てた。

ズオォォォォォォォンッッッッ!!!!!!!!

とんでもない爆音と光輝をばら撒いて光の巨拳と火球がぶつかり合い、紫色の空が白と赤で染まる。ぬぅ!? とタンニーンは余りの光量に目を閉じた。その一瞬に夜明はタンニーンの真下へと潜り込み、左巨腕を腹に叩き込む。

「ゴフゥッ!!」

「まだまだまだぁ!!!」

撃鉄の音が六回連続で響いた。左巨腕の宝玉全てが光り輝き、一瞬遅れて大質量の閃光がタンニーンを上空へと打ち上げる。すぐにタンニーンは巨大な両翼を広げ、上昇を止めた。下方を見れば、既に『猛々しき撃滅の閃光(ベオウルフ・レボルバー)』を消した夜明が両手で光り輝く刀身を持った長剣の柄を握っている。

「約束された(エクス)……勝利の剣(カリバー)ぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

振り抜きと共に放たれた光の大奔流は魔力によって加速し、究極の斬撃となってタンニーンに迫った。これが『最強の幻想(ラスト・ファンタズム)』を謳われた聖剣か! とタンニーンは己の全力を以って応える。限界まで息を吸い込み、腹の中で魔力を限界まで練り上げ火種とする。

「『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』といわれた我がブレス! 受けきって見せろ!!!」

タンニーンの口腔から放たれた炎の息。最早、広大とか大質量なんて言葉が馬鹿らしくなるような代物だった。少なくとも夜明の視界に映っていた空が火炎で見えなくなっている。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』の斬撃が星だとすれば、『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』のブレスは夜空そのものだった。

「これが、『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』……!!」

炎に呑み込まれ、夜明は熱波と灼熱に全身を覆われた。





「……これ、どうすんだよ?」

「……やりすぎたな」

修行後、二人は困ったようにため息を吐く。結果的に言えば、『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』を放った夜明は服が焦げるのと、軽い火傷を負うだけで済んだ。しかし、周囲の森や山までは無事とはいかず、

「グレモリー領の一部を焦土にしてしまった……」

視線の届く範囲全てが焦土と化していた。大地はプスプスと煙を上げ、森は根っこも残さず焼き払われ、聳え立っていた山も見事に消し飛んでいる。

「明日が修行最終日だけど……グレモリー卿と夫人に謝る練習するか」

「……本当にすまない」

二人は揃ってグレモリー邸である城に視線を向けた。遠くから見てもはっきりと分かる城を映した視界が滲んでいくのを感じながら夜明は思う。

(結局、禁手(バランス・ブレイカー)には至れなかったか……)

元龍王、『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンとの十数日に亘る修行でも夜明は禁手(バランス・ブレイカー)に至ることは出来なかった。














修行が終了した日、夜明はタンニーンの背に乗ってグレモリー邸へと帰ってきた。シトリー眷属とのゲームまで後五日。これからの日程は休息、各々の調整に当てるそうだ。それに翌日には魔王主催のパーティもある。ちなみに領地の一部を焦土にしてしまったことをアザゼル経由でグレモリー卿に伝えたら笑って許してもらった。

「グレモリー卿の度量の広さには感服するばかりだ……では、俺はこれで。魔王主催のパーティには俺も出席するから、またその時に会おう。月光夜明、ブレイズハート」

「あぁ、修行に付き合ってもらってありがとな、タンニーンの旦那」

『礼を言うぞ、タンニーン。パーティで会うのを楽しみにしている』

「あぁ、俺も楽しかったぞ。あの『英雄と謳われた龍(ブレイヴ・ドラゴン)』に協力する日が来ようとはな……」

長生きはするものだ、とニヤリと笑うタンニーン。どうせならタンニーンと彼の眷属ドラゴンの背に乗ってパーティ会場に行くということになった。

「連絡はグレモリーに連絡を入れる。では、また明日ここに来よう」

さらば! とタンニーンは翼を羽ばたかせて空の向こうへと消えていった。後ろ姿が見えなくなるまでタンニーンを見送りながら、ブレイズハートはぼそりと呟く。

『タンニーンめ、悪魔に転生してから少し丸くなったな。ティアマットも奴を見習えば良かろうものを……』

「そんな酷いのか?」

『うむ。『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』の名は伊達ではない』

「や、夜明」

ブレイズハートと話していると、聞き覚えのある声に名を呼ばれた。振り返ると、ボロボロのジャージスッ方の祐斗が立っていた。剣の師匠とアザゼルにしごかれたようで、足元が若干ふらついている。

「そっちも大変だったみたいだな」

「うん、師匠に一から剣を教わったからね。それにアザゼル先生からも剣系神器(セイグリッド・ギア)の扱いも教わったし……夜明のほうはどうだった?」

「俺か。流石に元龍王と休憩睡眠なしで十日間近くぶっ通しで実戦形式修行をするのはきつかったな」

「そ、それは大変だったみたいだね」

うんうん、と頷く夜明に祐斗は顔を引き攣らせる。お前以外は帰ってきてるのか? という夜明の問いに祐斗が答えようとすると、今度は女性の声が耳に届いた。声の主はゼノヴィアだった。全身を包帯でぐるぐる巻きにしている。声と包帯の間から覗いている緑のメッシュが入った髪で辛うじて、彼女だと分かった。

「おいおいゼヴィ。どんな怪我したんだよ、そんな包帯巻くなんて……」

呆れる夜明に祐斗がこれじゃミイラだよね、とくすくす笑う。するとゼノヴィアは若干不機嫌な声音で話し始めた。

「失敬な。私はピラミッドに永久保存されるつもりはないぞ」

そういうことじゃなくて、と二人は揃ってため息を吐く。そもそも、冥界にピラミッドがあるなんて話、少なくとも夜明は聞いていなかった。その後、三人はアーシアと合流し、その次にリアスと会った。

「外出組は皆、帰ってきたようね」

久しぶりの主との再会。それぞれが挨拶を交わす中、夜明はリアスの微妙な変化に気付く。

「あれ、部長。ここ最近、ドラゴンと接触しましたか? それも相当な力を持った」

リアスの全身から微かに残り香とも言える、ドラゴンのオーラを感じたのだ。それにリアスの右腕には見覚えの無い、意匠の凝った腕輪(バングル)が付けられていた。漆黒と深紅を貴重とした、美しいがどこか禍々しいオーラを放つそれ。よく気付いたわね、とリアスは嬉しそうに笑う。

「時が来れば教えてあげるわ。皆、一度お風呂に入ったら夜明の部屋に集合してちょうだい。それぞれの修行の報告をしましょう」

何で俺の部屋? という夜明の突っ込みは綺麗にスルーされる。ちなみに修行の報告で、タンニーンとの睡眠休息なし十数日ぶっ通し修行の内容を話したら、全員引いていた。














次の日の夕暮れ時、駒王学園の夏制服に着替えた夜明が客間で待機していた。腕にはグレモリー家の紋章が入った腕章が巻かれている。パーティはそれでいいそうだ。女子連中は準備があるとかで、メイド達に連れて行かれた。祐斗も用事があるとかでいない。話し相手がいないので、夜明はルービックキューブを創造して暇を潰していると、ここでは聞こえないはずの声が聞こえた。

「月光か?」

声の主はシトリー眷属、匙だった。夜明はグレモリー邸に匙がいることに驚きながらも挨拶をする。

「よぉ、匙。何でお前がここに?」

会長が部長に会いにきたのか? という夜明の問いに匙はそんな感じかな、と頷く。ソーナはリアスと一緒にパーティに行く事になってるそうで、ついてきた匙は広い屋敷に迷ってここまで来たそうだ。少し離れた席に腰かけた匙が真剣な面持ちで話しかけてくる。

「そろそろゲームだな」

「そうさな。パーティが終わって何日もしないでゲーム……・気の休まる暇がないというか」

「俺、結構鍛えたぜ」

「俺は……そこまででも無いかな。結局、禁手(バランス・ブレイク)に至れなかったし」

さらっと禁手(バランス・ブレイク)のことを呟く夜明に匙はスケールの違いのようなものを感じた。と言っても、互いが互いの主のために命を懸けて戦うという点において、二人は一致しているわけだが。

「月光、先月にあった若手悪魔の会合で会長が言ったこと、覚えてるか?」

「あぁ、あのどんな悪魔でも分け隔てなくゲームを教える学校を作るってやつだろ?」

「俺達は本気だ……俺、先生になるのが夢なんだ!」

突然、匙が顔を真っ赤にさせて叫ぶように言う。一瞬、夜明は目を丸くするが、すぐにゲームの学校の先生か、と納得する。

「ふぅん……レーティングゲームを教える学校の先生ね……いいんじゃねぇの? 少なくとも、俺はその夢が命を懸けるに足るものだと思うぜ」

夜明の言葉に匙は嬉しそうにだよな! と鼻息を荒くした。嬉しそうに己の意見を語る匙の言葉を真剣に聞きながら、夜明は思う。

(上級下級貴族平民関係無しにゲームのことを教える学校、ね。少なくとも、あの老害共が生きてる間は茨の道だろうな……匙、お前は会長さんを支えることが出来るのか?)

「……羨ましい限りだ」

匙の話を聞いている内、無意識に夜明はポツリと囁いていた。

「羨ましいって……何がだ?」

怪訝な表情を作る匙に夜明は肩を竦めて見せる。

「誰かの夢に殉じることが出来るってことがさ。俺にはそういうの、まるで無いからな?」

「何言ってるんだよ。お前にだって夢があるんだろ?」

匙もソーナを経由して、リアスから夜明の夢を聞いていた。リアス・グレモリーの自慢になるような最強の『兵士(ポーン)』になること。そして過去現在、未来永劫において、誰も超えられないような“最高”の英雄龍になること。匙からしてみれば、夜明の夢の方が余程壮大だった。しかい、夜明はそうじゃないと首を振る。

「俺のはな、夢って言わないんだよ。俺のは」

「夜明、お待たせ。匙くんも来てたのね」

丁度良く、夜明の言葉を遮るようにドレス姿のリアスが客間へと入ってきた。続いて部員の面々も。やはり、彼女たちも西洋ドレス姿だった。ソーナも皆と同じ様にドレスアップしている。ただ一人、太陽だけ漆黒の男物スーツだった。相変わらずすぎて涙が出てきそうだ。

「太陽、その格好」

「女物は好かん」

夜明の言いたいことを先回りして黙らせる。そう言われては、もうぐうの音も出ない。全員が揃ったところで、庭に何か重いものが着地する音が聞こえてきた。数分後、執事がやって来る。

「タンニーンさまとその眷属の方々がいらっしゃいました」














数十分後、夜明達は夜空にいた。元龍王、タンニーンの背から見下ろす下界の光景は格別だった。お〜、と夜明は何度乗ったにも関わらず、子供のようにはしゃいでいる。タンニーンの身体から頭を突き出し、地上を見ている夜明に同じくタンニーンの背に乗っている太陽とリアスは苦笑いを浮べる。

「そう言えば太陽。あなた、クトゥルフ神話の神々に戦いを挑みに行ったんでしょう? 身体は大丈夫なの?」

「あぁ。一切合財問題ない。最初の頃は何度もSAN値直葬されかけたが、最後ら辺は普通に戦ってたな。世界にはまだまだ強い奴がいるってのが分かったよ……そうそう、ニャルラトホテプとクトゥグアとメールアドレス交換したぞ」

かけるか? と携帯を取り出す太陽にリアスは盛大に顔を引き攣らせ、手を振って断りの意を示した。

(奏者よ)

いきなりブレイズハートが声をかけてきた。驚きながらも夜明はどうした、と精神世界にダイブするために目を閉じる。数秒後、目を開けるとそこは様々な大きさの歯車が宙に浮かんだ世界、エジソンの精神世界だった。眼前にはブレイズハートとイスカンダル。そして、

「夜明、おっひさ〜」

目の下に濃い隈を作ったエジソンだった。こいつらも寝不足になるんだ、と変な所で感心する夜明にエジソンは黄金に光り輝く小さな宝玉が埋め込まれたバングルを手渡す。目を凝らすと、腕輪に九頭のドラゴンが描かれている事に気付く。

「これが君の新しい武器。まだ禁手(バランス・ブレイカー)には至ってないみたいだし、使い方や名前は追って説明するよ〜……お休み」

バタン、と前のめりに倒れるエジソン。おい、と夜明が呆れ顔で声をかけようとするが、イスカンダルの大きな手に制せられる。

「今度ばかりは寝かせてやれ、夜明。こ奴、文字通りお前の武器を創ると言ったあの日から一睡もしないでこの武器を創り上げたのだ」

「そう、か……ちなみに二人はこいつのことを聞いたり」

してない、と二人は揃って首を振る。武器を作ってる間、エジソンは完全に外部との接触を遮断していたので仕方ないといえば仕方ないが。

「と、そろそろパーティの会場に着くそうだぞ。余も奏者と共に参加したかったのだが……」

「諦めろ、ブレイズハート。悪魔達はドラゴンを嫌っている。転生して悪魔になったタンニーンはともかく、お前が出ては余りいい顔をせんだろ」

イスカンダルに諭され、ブレイズハートはうるうると目を潤ませる。苦笑いを浮べながら夜明はブレイズハートの頭を撫でた。

「んな顔するなよ。今度、一緒に遊んでやるから」

「約束だぞ、絶対だぞ!」

はいはい、と手を振りながら夜明は精神世界から浮き上がっていった。







夜明が覚醒した時、既にタンニーンとその眷属はパーティ会場となる超高層ホテルについていた。既にタンニーン達は大型悪魔専用のスペースに移動したそうだ。ポリポリと寝ぼけ眼で頭を掻く夜明の襟をリアスは苦笑しながら正す。

「しゃっきりしなさい、夜明。そんな表情、パーティ中に浮べちゃ駄目よ?」

「すみません……そう言えば、先生はどこに?」

「あの人はお兄さま達と一緒に別ルートから来るみたい。すっかり仲良しなんだから」

確かにアザゼルは人の心に入り込むのがいい意味で上手い男だ。何よりサーゼクスを筆頭とした魔王達は非常にノリが軽い。アザゼルと仲良くなるのに時間はかからなかったろう。

「さっき、ソーナに宣戦布告されたわ。『私達は夢のためにあなた達を倒す』って」

「そうですか……匙も俺にレーティングゲームの学校の先生になるって夢を話してくれましたよ」

ソーナはレーティングゲームの学校を建てるために人間界の学校へとやって来たそうだ。己の夢のために異界へとやって来るその覚悟。何故、お偉方はソーナのその気高さを評価できないのだろうか? と夜明は本気で悩んだ。

「そこまで旧家や名家の面子が大事なのかねぇ……」

「そういうことを公共の場で言っては駄目よ? でも、勝つわ。私達にだって譲れない夢と目標があるのだから」

当たり前だ、と夜明は強く頷く。相手が親友であっても、どれ程の夢を抱いていようが全力を以って勝ちにいく。それが相手への最大限の礼儀だ。そうこうしている内に一行はパーティ会場である、ホテル最上階の大フロアの扉前へと来ていた。

「夜明、各御家の方々から声をかけられたらちゃんとあいさつするのよ?」

「はい、大丈夫です」

そこら辺のことは短期間だが、ヴェネラナにみっちりと仕込まれたので抜かりは無い。大フロアに入った夜明達を向かえたのは煌びやかな広間に大勢の悪魔、そして天井から吊るされた巨大なシャンデリアだった。その後、各々に別れ、夜明はリアスと共に各御家へあいさつ回りをした。














「あぁ〜、面倒くさかった。そんなに伝説の英雄龍が珍しいのかね」

珍しいに決まってるだろ、という突っ込みが聞こえてきそうな台詞だった。リアスとのあいさつ回りから解放された夜明は早速、パーティ会場の隅っこへと引っ込んでいた。リアスと朱乃は少し離れたところで女性悪魔と話している。祐斗は祐斗で大勢の女性悪魔に囲まれていた。ふと、視線が合う。

(助けて)

(頑張れ)

視線で救助を求める祐斗にいい笑顔で手を振ってやり、夜明は隅っこに用意された席に座っているアーシアとギャスパーを見た。二人とも、パーティの空気に慣れないのか少しぐったりしている。

「夜明、アーシア、ギャスパー、料理を持ってきたぞ。食べろ」

そこに両腕に大量の皿を器用に抱えたゼノヴィアが颯爽と現れた。オマケに飲み物まで持ってきている。元神の使途であるこの美少女に抜かりは無い。夜明達はそれぞれゼノヴィアに礼を言いながらグラスや皿を受け取る。

「しっかし、本当に大勢の悪魔がいるな」

「あぁ。人ごみが苦手のギャスパーにはきついだろうな」

夜明とゼノヴィアは会場にいる悪魔達に視線を走らせる。この中に何人の転生悪魔がいるのだろう、と二人で取り留めの無い話をする。ちなみに太陽の姿は会場に無い。彼女は早々にテラスに出て、煙草を咥えてボ〜っとしていた。ふと、夜明は自分を見ている女の子悪魔の視線に気付く。その少女の顔に夜明はどこか見覚えがあった。

「お前、確か……」

「お、お久しぶりですわね、英雄龍」

「えっと、確かライザー・フェニックスの妹で『僧侶(ビショップ)』の……レイヴェルだっけか?」

夜明が名前を覚えていたのが余程意外だったのか、少女、レイヴェルは驚いたように表情を固める。すぐにわざとらしく咳払いし、場を取り繕った。

「そ、そうです。レイヴェル・フェニックスですわ。名前を覚えていていただいて光栄ですわ」

「いや、そんな大層なことでも無いだろ……そういや、兄貴って元気か?」

リアスとの婚約パーティに殴りこんで以来、ライザーと顔を合わせていないので夜明はライザーの近況を知らなかった。レイヴェルは小さくため息を吐く。

「あなたのお陰でお部屋に引き篭もってしまいましたわ。人間であるあなたに敗北し、あまつさえリアスさまを奪われたのだから仕方が無いといえば仕方が無いのですが……いい加減、うじうじされるのも嫌になりますわ」

それに、才能に頼りきってるきらいがあったので、良い薬になったと己の兄に対してかなり辛辣。手厳しいな、と夜明は苦笑いを浮べる。その後、レイヴェルは夜明に自分がライザーの眷属から母親の眷属になったことを話す。そんなことも出来るのか、と夜明は少し驚く。

「と、ところで英雄龍」

「その英雄龍ってのやめれ。俺には月光夜明って立派な名前があんだからよ。普通にそっちで呼んでくれ」

夜明の言葉にレイヴェルの表情が驚き、それから嬉しそうなものへと変わる。勿論、この男にはかのじょの表情が変化した理由など分からない。

「お、お名前で呼んでもよろしいのですか?」

コクンと頷く夜明。

「で、では、遠慮なく夜明さまと呼んで」

「いや、さまは別に要らないんだが」

やんわり伝えるが、これは大事な事です! と凄い剣幕で押し切られた。そこに見知った顔の女性がやって来た。ライザーの眷属であり、夜明と戦った『騎士(ナイト)』のカーラマインだ。

「レイヴェル、旦那様のご友人がお呼びだ」

「分かりましたわ。夜明さま、今度、お会いできたらお茶でもいかかでしょうか? わ、私でよろしければ、お手製のケーキを、ご、ご馳走して差し上げてもよろしくてよ」

そう言うと、レイヴェルはスカートの裾を摘んで一礼し、去っていった。よぅ分からん子だ、と夜明が首を傾げていると、カーラマインが話しかけてくる。

「久しいな、月光夜明」

「よ。確かカーラマインだったか?」

「あぁ。あの時の戦いはいい経験になったよ。最も、君にとっては私との戦いなんて小さなものだろうけどな。聞いたぞ、コカビエルや白龍皇と対峙して、その悉くを撃退したとか」

いや、そう言うわけじゃないんだが、と夜明は頭を掻く。何だか、自分に関する噂が相当な尾ひれをつけて流れているような気がした。

「レイヴェルの付き添いか?」

「そんなところだな。あの子も目を離しておくと凄い事になりかねないからね……婚約パーティでの一戦以来、彼女は君のことばかり話しているよ。余程、ライザー様と君の戦いが印象的だったんだろうな」

そりゃそうだろう。実の兄を打ち倒し、義理の姉になるものを奪っていた男のことは嫌でも忘れないだろう。ま、当然だわな、と夜明は肩を竦めた。

「あいつの兄貴の婚約を邪魔したんだから、嫌われるっての」

「寧ろ、その逆なんだがな……」

「何じゃそら? まぁいい。レイヴェルにいつかお茶をご馳走してもらうって伝えといてくれ」

「本当か? 彼女も喜ぶよ。では、月光夜明、良い宴を」

お前もな、と夜明は手を振って去っていくカーラマインを見送る。会話に入れず、隣で首を傾げていたゼノヴィアがそっと夜明に訊ねた。

「夜明、今の連中は」

「ゼヴィが眷属になる前、一回ゲームをやったんだよ。その時の対戦相手」

「そうか。お前達も色々とやってるんだな」

まぁな、と答えたその時、夜明の視界に何かが映った。小猫だった。何か、慌てたような表情でパーティ会場から抜け出そうとしている。訝しげに思った夜明は後を追うことに。ゼノヴィア達には知り合いがいたと嘘をつき、小猫を追いかける。小猫は既にエレベーターを使って下へと降りていた。

「隣は……ラッキー!」

丁度、隣のエレベーターが空いていたので、夜明はそれに乗り込む。続けて誰かが乗り込んできた。振り返ると、そこにはリアスの顔があった。

「どうしたの、そんな真剣な表情を浮べて?」

「部長! ……小猫の奴が何か妙な感じで降りていったんで」

「それは気になるわね。よし、行きましょう」

一もにも無く夜明はリアスに賛成する。しかし、よく自分がエレベーターに乗るのが分かったな、と夜明はそのことをリアスに聞いてみた。すると、リアスは魅力たっぷりの笑みを浮べてこう答えた。

「私はいつもあなたのことを見てるのよ」

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