小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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            『禁手化(バランス・ブレイク)!!!!!』




「この感じは……」

テラスの柵にもたれながら煙草を咥えていた太陽の表情が険しいものになる。柵から身を乗り出すようにして、ホテル周辺の森を見回した。超高層ホテルの最上階からでは森の中を見ることは出来ないが、感じることは出来る。森の中にある嫌な感じの黒いオーラを。

「他の皆は……気付いてないのか」

柵を掴み、テラスの外に身を躍らせようとしたその時、背後から声がかけられた。筋骨隆々のスーツ姿の好青年、サイラオーグだった。

「いい夜だな、太陽……どうした、今にも飛び降りようとして?」

「いんや、ちょっとばかし嫌な気配を感じてな……十中八九『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一員だろ」

この森のどっかにいる、と太陽が森を指差すと、サイラオーグは視線を鋭くさせて太陽の隣に並んで森を見下ろした。

「確かに妙な気配を感じるな。どこから感じられるのかまでは分からないが……その敵は幻術や空間操作に長けているようだな」

「それに、微かだが仙術の香りもする。魔王主催パーティの警備を掻い潜り、これだけの実力者が揃っている中でほとんど気配を感じさせない」

そんな芸当が出来るの悪魔を、太陽とサイラオーグは一人しか知らない。小猫の姉であり、SSランクのはぐれ悪魔、黒歌。どうするつもりだ? とサイラオーグは太陽を見る。

「魔王様に報告し、パーティを中断させるべきだろうか?」

「それはそれで気が引けるな。今回のパーティには非戦闘員である悪魔も多い。そいつらが混乱してパニック、なんてことは避けたい」

どうしたものか、と悩む二人。ふと、視線を持ち上げた太陽はあぁ〜、と間延びした声を出す。

「あぁ〜、サイラオーグ。私達がどうこう考える必要はなくなったぞ」

何故だ? と問うサイラオーグに太陽は夜空を指差す。彼女の指先が示すその先には巨大な両翼を広げ、夜天を疾走するドラゴン、『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンの姿があった。タンニーンは真っ直ぐに森の中へと飛び込んでいく。

「タンニーンが動いたってことはもう放っといても大丈夫だろ」

「しかし、万が一という場合がある。それとなく、魔王様たちにだけでも伝えておくべきだろう」

魔王達への報告をサイラオーグに任せ、太陽自身はテラスから飛び降り、森へと走っていった。














夜明とリアスは小猫の後を追い、ホテルの外へと出ていた。周囲に小猫の姿が見当たらなかったので、リアスはすぐに使い魔のコウモリを飛ばして周囲を探らせる。その間、夜明とリアスはホテル前にある噴水で待機。

「主である私にまで黙ってパーティから抜け出すなんて、やはり小猫の様子はおかしいようね」

「何か追っかけてるように見えましたが」

心当たりがあるのか、リアスは表情を剣呑な物にする。リアスの考えを聞きたかったが、勘繰るのはやめておこうと夜明は使い魔が戻ってくるまで無言を貫いた。しばらくして、コウモリが戻ってくる。

「森? ホテル周辺にある森にあの子は行ったのね?」

夜明とリアスはコウモリの後を追って森の中へと走っていった。真っ暗な森の中を進んでいく二人。時折、ドレスに脚をとられてリアスは転びそうになるが、その度に夜明が彼女を支えたため一度も転ばずに済んでいる。数分も走っていると、何かを感じた夜明はリアスに止まるようジェスチャーした。すぐにリアスは夜明と一緒に近くの茂みに潜り込む。

「部長、あそこを」

夜明の指先が示すその先、小猫がいた。何かを探すようにキョロキョロと首を動かしている。

「久しぶりじゃない?」

闇の中から聞き覚えの無い声。声のほうに振り向いた小猫の視線を追うと、そこには黒い着物姿の女性が立っていた。どことなく、小猫と雰囲気が似ている……女性的なボディラインの差はいかんともしがたいが……。

「黒歌姉さま……」

「ハロー、白音。お姉ちゃんよ」

白音というのは小猫の本名。小猫の名前はリアスが彼女を眷属にした際につけたものだと、夜明はリアスの母から聞いていた。小猫の本名を知っている、そして小猫が姉と呼ぶその女性悪魔。

「あいつが小猫の姉貴、黒歌ですか……」

かつて、主を殺したSSクラスのはぐれ悪魔。小猫が感情の起伏に乏しくなった大本の原因。黒歌の足下には黒毛の猫が座っていた。小猫がその黒猫を追ってここまで来たのは容易に理解できる。

「……姉さま。どういうつもりですか?」

小猫の怒気を含んだ声音に黒歌は笑むだけだ。

「そんな怖い顔しないでほしいにゃん。悪魔さんたちがここで大きなパーティをやるって聞いたからちょっと気になっちゃって。にゃん♪」

お前も悪魔だろ、と夜明は内心で突っ込む。すると、今度はどこかで聞き覚えのある声の持ち主が闇の中から出てきた。

「ははは、黒歌。こいつ、もしかしてグレモリー眷属かい?」

ヴァーリの仲間、孫悟空の美侯だった。『駒王協定』の時にヴァーリを助けに来た際に見たのと同じ中国武将のような鎧を纏っている。まさかヴァーリがテロを企んでる? 夜明は素早く周囲に視線を巡らしたが、ヴァーリの姿はおろか、気配すら感じられない。

「言っておくけど、気配を消しても無駄だぜぃ、英雄龍にその主の姉ちゃん。俺っちや黒歌みたいに仙術を知ってると、ちょっとした気の流れの変化で大体分かるんだよぃ」

美侯は夜明とリアスが隠れている茂みに視線を向けて言う。完全にばれていることを悟った二人は素直に茂みから出た。小猫は驚いて目を小さく見開いている。

「……夜明先輩、部長」

「よぉ、猿野朗。『駒王協定』の時に会った以来か? お前のせいでヴァーリを殺し損ねちまったのは苦い思い出だぜ」

「そんなこと言われてもねぃ。ヴァーリから聞いた話じゃ、お前さんの実力不足が原因だろぃ? それを俺っちのせいにされても困るんだぜぃ……というかお前、かなり強くなってないかぃ?」

さあな、と答えながら夜明は渋面を浮べて舌打ちする。美侯の言っていることは全くの正論だったので何も言い返せなかった。気を取り直し、夜明は二人を睨む。

「何でここにいんだ? テロか?」

「いんや、そういう命令は今回、俺っちらには来てねぇよぃ。ただ、俺も黒歌も冥界で待機命令が出ていてねぃ。あんまりに暇だったんで、黒歌の奴、悪魔のパーティ見学してくるとか言いだしてねぃ。中々帰ってこないから迎えにきたらこの場面に遭遇したってわけ」

OKぃ? と聞き返してくる美侯に暇なんだな、お前等も、と夜明は呆れた表情を浮かべる。早い話、黒歌がパーティ見学に使っていた黒猫の使い魔を小猫が偶然見つけ、ここまで追いかけてきたということだ。

「美侯、誰よこの子?」

夜明と面識のない黒歌は隣の美侯に問うた。

「英雄龍だよ」

へぇ、と黒歌の目が丸くなる。

「この子がヴァーリを瀕死寸前にまで追い込んだ現英雄龍?」

そこまで強そうに見えないんだけど、と零す黒歌に美侯は油断しないほうがいい、と話す。

「相手と歴然とした実力差があったって、こいつは少しの隙から勝利をもぎ取っていく。そういう凄みがあるんだよぃ」

不意にふぁ〜、と美侯は大きな欠伸を漏らした。

「黒歌、そろそろ帰ろうぜぃ。どうせ、俺っちらはパーティに参加できないんだしよぅ」

「そうね、帰ろうかしら。でも、白音はいただいていくにゃん。あの時、連れて行ってあげれなかったからね♪」

「勝手に連れ帰ったらヴァーリが怒るかもしれないぜぃ?」

「この子にも私と同じ力が流れてるって話したら、ヴァーリもオーフィスも納得す」

二条の閃光が暗闇を斬り裂き、黒歌と美侯の頭目掛け走る。二人は頭を逸らして飛んできた武具をかわした。二振りの武具はそのまま森の中を飛んでいき、後方にある木々を切り裂いていった。二つの剣を創造し、射出した夜明は目の前の敵二人が自分の奇襲をいとも簡単に避けたことに内心で舌打ちしながら視線を厳しくさせる。

「何、こっち無視して勝手に話進めてんだこら。こいつはリアス・グレモリーの眷属、お前等みたいな危険人物の巣窟である『禍の団(カオス・ブリゲード)』になんてつれていかせるわけねぇだろうが」

「いやいや、いくらヴァーリを退けたお前さんでも俺っちと黒歌を同時に相手には出来んでしょ?」

「試すか、クソ猿?」

氷塊のように冷淡とした口調で夜明はアンリミテッド・ブレイドを展開させる。へぇ、と口元に凄みのある笑みを浮かべ、美侯も指をポキポキと鳴らす。二人から発せられた闘気で周辺の大気がビリビリと震える。

「来い……!」

「如意棒!!」

叫ぶ二人の手にそれぞれの得物が現れる。夜明は紅の魔槍を構え、美侯は棍を解き放つ。

「『刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)!!!!』

「伸びろ如意棒!!」

急激に伸びた棍の先端に夜明は魔槍の切っ先をぶつけた。バギィ! と派手な音を立ててゲイ・ボルグの穂先が砕け、如意棒の先端が跳ね上がる。夜明は舌打ちして両手に銀翼蒼星を創造した。

「おうおうおう! マジに強くなってるじゃねぇか英雄龍!! 黒歌、あいつを無視して嬢ちゃんをつれてくのは至難の業だぜぃ!!」

嬉々として手元の棍をクルクルと回しながら美侯は黒歌を見る。

「嬉しそうね、お猿さん。でも、確かに強いわねこの子。ヴァーリを退けたのも頷ける……めんどいから殺すにゃん♪」

黒歌が笑った瞬間、その場の空気が変わった。何か周囲の地形や風景が変わったわけではないが、どこか今まで立っていたところから別の場所に飛ばされた。そんな感覚。夜明は視線を鋭くさせて黒歌を睨む。

「空間を結界で覆って外界から遮断しやがったか」

「そゆこと♪ ここならド派手に暴れても外には漏れないし、外から悪魔が入ってくることもない。あなた達は私たちにここで殺されてグッバイにゃ♪」

ほざけ雌猫、と挑発するも夜明は内心で苦虫を噛み潰していた。まずこの二人、ヴァーリほどでないにしろ、相当な実力者だ。一対一でならともかく、二対一、それもリアスと小猫という護るべき対象があるこの状況では夜明が圧倒的に不利だった。結界が張られてるので二人を逃がすことも出来ない。

(最悪、こいつら二人捕まえてそのまま自爆だな)

密かに夜明が覚悟を決めたその時、上空から羽ばたきと共に声が聞こえてきた。

「リアス嬢と月光夜明がこの森に入ったと思って急いで追いかけてきてみれば、結界で封じられるとはな」

「タンニーンの旦那。何であんたがここに」

「何、パーティに相応しくないどす黒いオーラを感じてな。それで飛んできてみればお前とリアス嬢が森に入っていくのが見えた」

牙を剥きだしにして小さな炎を吐き出すタンニーンを見て、美侯は歓喜した様子で棍を肩に担ぐ。

「今度は元龍王『魔龍聖(ブレイズ・ミーティア・ドラゴン)』タンニーンかよぃ! 参ったねこりゃ! 黒歌、もうこりゃやる他ねぇって!!」

「確かに龍王クラス以上の首を二つ持っていけば、オーフィスも黙るでしょうね」

黒歌の言葉に空中でホバリングしていたタンニーンが豪快に笑いながら夜明に視線を向けた。

「聞いたか、月光夜明? そこの黒いのは俺達の首を取れるつもりでいるようだぞ」

「勘弁してくれよ。俺はドラゴンであって、首なし騎士(デュラハン)じゃないんだぜ?」

「筋斗雲っ!!」

美侯は足下に出現させた金色の雲に飛び乗り、空中のタンニーン目掛けて真っ直ぐ飛翔していった。更に手にした如意棒を長大に伸長させ、タンニーン目掛けて横薙ぎに振るう。

「俺はこの猿の相手をしよう!! お前達はそこの黒いのをやれ!!」

美侯の一撃を回避し、タンニーンは大きく口を開いた。大音量と共にタンニーンの口から炎が噴き出し、夜空を朱に染め上げる。夜明の視界に映る空一面を覆うほどの炎でも力をセーブしているというのだから驚きだ。

「あはは、やるねぃ元龍王!!」

「どこの山猿かと思えば孫悟空か! このタンニーンの一撃をかわすとは中々楽しませてくれる!!」

空でタンニーンと美侯が激闘を繰り広げ始める中、夜明達は黒歌と対峙していた、妖艶な微笑を浮かべているが、彼女の身体からは嫌な感じのオーラが滲み出している。タンニーンにどす黒いオーラと言わしめるだけのことはあった。

(嫌なオーラだ)

「……姉さま、私はそちらに行きます。だから、部長と夜明先輩を見逃してあげてください」

突然、小猫がそんなことを口走る。夜明が口調を荒げようとするが、それよりも早くリアスが小猫を抱き締めた。

「何を言ってるの小猫! あなたは私の眷属、勝手なことは許さないわ!」

しかし、小猫は弱々しく首を振る。

「……駄目です。姉さまの力は私が一番よく知っています。姉さまの力は最上級悪魔に匹敵します、部長と夜明先輩では……」

「それでも絶対にあなたを渡すわけにはいかないわ! あんなに泣いてたあなたを黒歌は助けようともしなかった!」

激昂するリアスに黒歌は笑みを浮かべるだけだった。

「妖怪が他の妖怪を助けるわけ無いじゃない」

「それが家族であっても妖怪だから助けない、か。やるせないねぇ」

首を竦めながら夜明はリアスと小猫を護るように黒歌との間に入る。

「白音、私達のところに来ない? そんな紅い髪のお姉さんよりも白音の力を理解してあげられるわよ?」

「……いや、あんな力、要らない……誰かを傷つけて、不幸にする力なんて……」

涙をぽろぽろと零す小猫をより一層強く抱き締め、リアスは絶対の意思を込めた瞳で黒歌を見据える。

「黒歌、力におぼれたあなたはこの子の心に二度と消えない傷を残した。あなたが主を殺したせいでこの子は地獄を見た。小猫の唯一の肉親であるあなたに裏切られ、頼る先をなくして大勢の悪魔達に罵られ、処分までされかけて、この子は辛いものをたくさん見てきた。だから、これからは私がたくさん楽しいものを見せてあげるの! この子は私の眷属、『戦車(ルーク)』の塔城小猫、私の大切な下僕! あなたには指一本だって触れさせやしないわ!」

力強く言い切るリアス。小猫はリアスの言葉に大粒の涙を流していた。夜明は口元に誇らしげな笑みを浮かべながら黒歌に向き合う。

「こいつの力を理解できてなくとも、あんたよりよっぽど心は理解してるようだぜ、俺の主は」

黒歌は一度苦笑し、氷のように冷たい笑みを浮かべる。

「じゃあ、死ね」

「手前がな」

夜明は地面を蹴り、三翼を羽ばたかせて一気に黒歌に切りかかった。エックス字に振り抜かれた銀翼蒼星の刃が黒歌の身体を確かに捉える。だが、夜明は手応えを感じなかった。それどころか、切り裂かれた黒歌は血を噴出さずに冷笑を浮べてゆらゆらと揺れている。

「幻影か!?」

夜明が後ろに飛び退こうとした瞬間、黒歌の幻影が爆散した。同時に薄い霧のようなものが森の中へと広がっていく。もろに霧を吸い込んだ夜明は激しく咽ながら周囲に視線を走らせた。黒歌の姿はどこにも見当たらない。

「隠れやがったか、猫よりも鼠がお似合いだな。部長、小猫をつれて下がってくださ」

「あっ……」

「……これは」

夜明の言葉の途中で二人は揃って膝を突く。慌てて屈みこみ、二人の容態を確認する夜明。すぐに二人が膝立ちになった原因を理解し、苦虫を噛み潰した顔で舌打ちした。

「この霧、毒か……!」

「そうよ♪ それにしても、何であんたは無事なのかしらって、そう言えばあんた、人間だったっけ? この霧はね、悪魔や妖怪にだけ効く毒霧だにゃん。かなり毒を薄くしたから、全身に回るのはもう少し時間が経ってからよ。じわじわと嬲り殺しにしてあげるにゃん♪」

声のした方向に夜明は銀翼を投擲する。主の手元から解き放たれた銀翼は真っ直ぐに飛び、高い木の枝に座っていた黒歌を貫いた。しかし、それも幻影だったらしく、霧散するだけ。それだけじゃなく、夜明達の周りに着物姿の女性が次々に現れていく。

『奏者! この霧、かなりまずいぞ! あの雌猫と同じ力を宿している小娘はともかく、グレモリーは後数分ももたぬぞ!!』

ブレイズハートの言葉が頭の中で響く。軋むほどに歯を食いしばり、夜明は頭をフル回転させる。通常の傷ならともかく、仙術を用いた攻撃を回復させる術を夜明は持っていなかった。何か手は無いか考えていた夜明の脳内にあるアイデアが浮かぶ。

「小猫! お前、あの黒いのと同じ力を宿してるんだよな? だったらそれを使って少しでも毒霧を中和することが出来ないか?」

「え? ……やれないことは、ないと思いますけど……」

躊躇う素振りを見せる小猫。夜明は小猫の肩を掴み、瞳を覗き込む。

「お前、部長が死に掛けてるんだぞ!? 俺達の主が隣で苦しんでるんだぞ! それを如何にかできる力がお前にはあるんだろ!?」

「……いや、あんな力、使いたくない……」

いやいやと小猫は首を振る。思わずカッとなり、夜明は小猫を怒鳴りそうになったが、リアスに手首を掴まれ喉元まで昇ってきた言葉を飲み込む。その代わり、目をすっと細くさせ無表情になり、ゆっくりと立ち上がった。

「小猫。俺ぁこれからお前に結構きついこと言うが、耳塞がずに聞けよ」

一呼吸置き、夜明は言い放った。

「いつまで悲劇のヒロイン気取ってるつもりだ、お前?」

夜明の言葉に小猫は身体を竦ませる。リアスも夜明の口から出てきたのが予想外にきつい言葉だったので、止めさせようとするが、夜明は構わずに続けた。

「あんな力使いたくない? あぁ、そうだろうさ。誰だって、誰かを不幸にする力なんて使いたくないだろうさ」

だが、その力は小猫だけが持っているものなのだろうか? それならギャスパーはどうなるんだ? と夜明は小猫を見下ろす。

「あいつは『停止結界の邪眼(フォービトゥン・バロール・ビュー)』なんてとんでもない神器(セイグリッド・ギア)を宿し、小さい頃から誰も彼もを否応無しに停めていた。それが嫌で、あいつは引き篭もって誰とも、仲間である部長達さえも関わりを持とうとしなかった」

しかし、彼女は夜明と出会う事で変わった。おっかなびっくりしながらも、自分の中にある力と向き合い、成長したのだ。太陽も似たようなものだ。彼女は自分の中にあるヘルシングの血を忌み嫌っている。だが、それでも彼女なりに折り合いをつけ、自分の信念に基づきその力を振るっている。

「朱乃さんだってそうさ。無くしたいと願うほどに嫌っていた堕天使の血を受け入れようとしている……自分から逃げてるのはお前だけだぞ」

甘ったれるのもいい加減にしろ、と夜明は冷然と言い切った。

「なぁ、おい小猫。お前、これからどうするんだ? ずっとそのまま、自分の中にある力を拒否して、怯えて生きていくのか? リアス・グレモリーの眷属、『戦車(ルーク)』なんだろお前は?」

今の自分くらい、乗り越えて見せろ! と夜明は声を大にして叫ぶ。その時、幻影の一人が手を突き出して夜明に魔力弾を放った。夜明ならば容易に弾き返せるだろう一撃。だが、夜明は防ぎも避けもせずに魔力弾を真正面から喰らった。ドォン! と腹の底に響くような音と共に夜明の全身が煙で包まれる。

「こんな一撃も避けられないの? 本当にヴァーリを退けたの?」

呆れと嘲りを混ぜた黒歌の声が森の中に木霊する。次の瞬間、煙が内側から大きく膨らみ、吹き散らされた。そこには両手を組み、三翼を広げた夜明が立っていた。頭から血を流してはいるが、しっかりと日本の脚で立っている。

「見ろよ、小猫。お前の姉ちゃんは何の防御もしてなかった俺を倒せなかったぜ? こんな悪魔でもない、ただの人間を倒す事すら出来ないんだぜ?」

お前が恐れてる力なんてそんなもんだ、と夜明は小猫に笑いかける。

「こんな程度の力、飲み干してみせろよ。何、安心しろ。お前がお前の姉ちゃんみたいになっちまいそうになったら、俺たちや部長がぶん殴ってでも止めてやるし、お前にとやかく文句をつけてくるくそったれは俺がぶっ飛ばしてやる」

だから、恐れずに。怖がらずに一歩進んで見せろ。お前には俺達がついてる。そういう意味を込めて、夜明はポンポンと小猫の頭を撫でた。

「護ってやるよ、俺が」

「……夜明、先輩」

柔らかな笑みを浮かべる夜明。背中から展開されたアンリミテッド・ブレイドが微かな燐光を帯び始めていた。さて、と振り返る。

「……あんた、何者よ?」

「駒王学園二年生、オカルト研究部所属、月光夜明。小猫の先輩で部長の後輩……主の道を切り開くための剣、仲間達を護るための翼さ、覚えておけ!」

夜明が言い切った瞬間、アンリミテッド・ブレイドの輝きが増していく。その様は夜空に輝く星のようだった。護る。主の決意に答えるべく、『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』は光と共に莫大な蒼銀のオーラを放っていく。

『至った、本当に至ったぞ!!』

『はっはっは! 護るためにこの力を使うか! 行け、現英雄龍よ!!』

『夜明、早く至るんだ! そして私の最高傑作の華々しい初陣を飾るんだ!!』

ブレイズハート、イスカンダル、エジソンが口々に叫ぶ中、夜明は己の中で産声を感じた。

『Brave(ブレイヴ)Dragon(ドラゴン) Balance(バランス)Breaker(ブレイカー)』!!!!!!』

夜明の全身が光とオーラに包まれる。輝くその様はまさしく地上の星。全身を覆う光とオーラが鎧と化す。禁手(バランス・ブレイカー)、『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』を纏った夜明の姿がそこにあった。

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