小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                『弱者に吼える資格なし』





「う〜ん……」

「どうしたの、月光君?」

深夜。悪魔の仕事に行くために部室にある魔方陣の中央に立っていた夜明は顎に手を当てて悩んでいた。夜明の様子を不審に思った木場が話しかけると、夜明は思考の海から戻ってくる。

「いや、最近マンネリ化してきた気がしてな」

「マンネリって……何が?」

「召喚された時の登場」

質問をした当の本人である木場は勿論、部室にいた全員が固まった。揃って奇異なものを見る目を夜明に向けるが、夜明本人は途轍もなく真剣な表情である。

「いやな。何時もは不屈の翼を出しながら登場するんだけど、そればっかりやってるからさぁ。何か別なのに変えた方がいいかな〜って……そこん所どう思う?」

夜明の質問に対し、太陽がこの場にいる全員の心を代弁する。

「んな下らないこと考えてる暇があったらさっさと契約を果たして来い駄目眷属!」

ソファーに寝転んでいた太陽が投げた小物入れが夜明の額を直撃。夜明がもんどり打って倒れるのとほぼ同時に魔方陣が輝き始め、夜明を依頼者の下へと運んでいった。

「ったく。何考えてるんだあいつは?」

「……月光先輩なりに、悪魔らしさを追求してるんだと思います」

「なら聞くが小猫。お前は悪魔らしさを求める際に登場シーンのことを考えるか?」

小猫は勿論のこと、皆、太陽の問いに引き攣った笑みを浮かべるしかなかった。小さく悪態を吐きながら太陽はソファーに寝転がって目を閉じる。しかし、数秒もしない内にパッチリと瞼を上げてソファーから跳ね起きた。

「どうしたの、太陽?」

「いや……おい朱乃。夜明が召喚されたのってどこだ?」

「え? え〜っと……ここから一時間くらい離れた場所に立っている一軒家ですね」

魔方陣を触りながら確認する朱乃の返事を聞き、太陽は立ち上がって窓へと歩いていった。

「ち、ちょっとちょっと。本当にどうしたのよライト?」

「嫌な予感が当たってるのかどうか確認するだけだ。杞憂ならそれで良いが、当たってればかなり悪い事が起こる気がするんだ」

ライトと呼ばれたことも突っ込まず、太陽は真剣な表情を浮かべて窓の外へと消えていった。














「痛ってぇ!! つつ……太陽の奴、思いっ切りぶつけてくれやがって」

引っくり返った状態のまま召喚された夜明は天井を視界に収めながら依頼者の顔を拝む事になった。急いで起き上がり、ビックリしているだろう依頼者に謝ろうとする。

「あぁ〜っと、悪いな。少し向こうでばたばたしてて、な……」

ここで夜明はある違和感に気がつく。目の前に依頼者がいないのだ。今までなら召喚されたその場に依頼者がいたはずなのに。

「……」

最初、トイレにでも行ってるのかと思ったが、夜明はすぐにその考えを打ち消した。廊下の方から漂ってくるのだ、濃厚な血の鉄臭さが。リアスの眷属になったことにより底上げされた身体能力の一つ、嗅覚に従って夜明は部屋を出た。他人の家を勝手に歩き回るなんて気が引けるが、そんなことを言ってられる状況ではないと夜明の本能が告げている。

「身体は翼で出来ている」

両手に蒼と銀の直剣を創造し、臭いの元であるリビングの前へとやって来た。扉は閉まっているので中は見えない。しかし、中がとんでもない惨劇になっていることは血の臭いの濃さから容易に想像できる。二度、三度と深呼吸。気を落ち着け、一気に扉を蹴り破る。

「……」

暫く待ってみるが、特に反応は無い。それでも油断することなく夜明はリビングへと転がり込んだ。素早く起き上がり、周囲に視線を走らせる。ふと、壁に変ったオブジェが飾ってあるなと思ったが、すぐにそれがオブジェなどではない事に気がつく。

「……何じゃこりゃ?」

それはこの家に住んでたであろう男だった。胴、両手両足を極太の釘で打ち付けられ、逆十字の形で磔にされている。流れ出ている血の量から、既にこの男を助けるのは無理だと容易に理解できた。

「……(ギチッ)!」

口の中で嫌な音がした。どうやら、怒りの余り奥歯を噛み砕いてしまったらしい。血液混じりの唾液と共に砕けた奥歯を吐き出す。

「駄目だぜぇ。人ん家の床に唾を吐き捨てるなんて! 教育のなってねぇクズ野郎だな」

声が聞こえた瞬間、夜明はその方向に直剣を投げていた。ガィンッ! 硬質な音がリビングに響き、夜明が投げた蒼の直剣は回転しながら天井へと突き刺さる。

「これをやったのか手前か?」

「んぁ? そうだよん。『悪い奴はおしおきよー』ってさるお方も言ってるじゃん。っていうか俺なんでこんなクズ野郎の質問に答えちゃってんの? ってかお前も何俺に質問しちゃってくれてるの?」

ベラベラと余計なことを喋るその男に夜明は早々に切れた。

「質問に答えろ!!」

神器(セイグリッド・ギア)を展開させ、リビングの中を蒼、白、蒼銀三色の輝きで照らす。さっきまでニヤニヤ笑みを浮かべていた男の顔が固まる。

「へ、なにその翼? こんなの聞いてないぞ俺? え、何? 悪魔召喚の儀式と見せかけて天使召喚の儀式だったの!? あれ、これまずくね俺!? 天使様、この俺、フリード・セルゼンの行動にお怒り? それなら勘弁してちょ。だってこいつ、悪魔を召喚するようなクズ野郎なんだぜ」

慌てふためいている男の一言一言に憤怒を煮え滾らせ、翼を見せ付けるように羽ばたかせていた夜明は再び蒼の直剣を創造して切っ先を白髪の青年に向ける。

「安心しろ。俺は手前が思ってるような存在じゃねぇよ」

「と言うと?」

「人間だよ。生粋のな……」

でも、と付け加え夜明は戦闘体勢に入る。

「悪魔を主と仰ぐ眷属だけどな」

「へぇ。ってことはぶち殺しの切り刻みオッケーのクズ野郎君? 何だ〜、それならそうと早く言ってよ〜……悪魔に媚売ってるクズが一丁前に天使気取ってんじゃねぇよぉぉぉぉ!!!!!」

「知るかぁ!!!」

刀身が無い剣の柄と拳銃を取り出したフリードに突貫する。一刀の下に切り捨てようと直剣二本を振り下ろすが、フリードの持つ柄から光の刃が飛び出して夜明の斬撃を防いだ。

「ここでズドン!」

鍔迫り合いをしながらフリードは夜明の脚に向けて拳銃の引き金を引いた。何の発砲音もしなかったが、その代わりに何かが硬い物にぶち当たったような音がけたたましく木霊する。

「あっるぇ〜? そんなの今まで無かったぞ? どっから取り出した?」

「答える義理なんかねぇよ!!」

銀の直剣を消し、脚を守る盾を創造して銃撃を防いだ夜明。空いた左手でフリードの顔面に拳を叩き込もうとするが、バク宙で見事にかわされてしまう。夜明が追撃するよりも速くフリードは拳銃を乱射した。再び襲い掛かってくる音の無い弾丸を切り払い、若しくは避ける。しかし音もしない、見えない弾丸を避けるのは想像よりも難しいらしく、一発が脚を掠め、肩を撃ち抜かれた。

「ひゃはははは! 光の弾丸を放つエクソシストの祓魔弾はどうだい! 痛い? 痛いに決まってるよなぁ。悪魔に仕えてるクズ野朗には効果覿面!」

「黙れ。攻撃が少し当たったくらいで喚くな」

耳障りだ、と夜明は足元の盾を蹴り上げ、フリードへと飛ばす。光の剣で弾き飛ばそうとしたその瞬間、内側から弾けるように盾は霧散してちょっとした目晦ましとなった。反射的に目を閉じたフリードの肩に激痛が走る。盾に変って夜明に創造された槍が喰らいついたのだ。両脚に力を込め、夜明はフリードを槍で刺したまま壁へと突撃して縫いつける。動けなくなったフリードを蒼の直剣で斬ろうとするが、一瞬早くフリードは光の剣で槍を切り夜明の一刀を回避した。

「いってぇじゃねぇか、このクソ悪魔がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

吼えながらフリードは拳銃を乱射させる。対し、夜明は槍も直剣も消して肉厚の大剣を創り上げた。大剣を盾にして祓魔弾を防ぎながらフリードに突進する。勢いのままフリードを巻き込み、壁へと叩き付ける。大剣を足で押さえつけ、手甲を纏わせた左拳を大きく引いた。

「うらぁ!!」

首を捻ってフリードは夜明の拳をどうにか避けた。フリードの代わりに殴られた壁は大きく陥没し、大穴をぶち開けた。殴った時の衝撃で大剣の拘束が僅かに緩み、フリードは壁際から転がり出る。

「あっれっれ〜、おっかしいなぁ〜。何で倒されるべきクソ悪魔にちょっと圧されちゃってるの俺? おかしくない、おかしくないこれ絶対におかしいよ」

「知るか」

信じられないといった表情で自分を見てくるフリードに絶対零度の視線を送りながら夜明は大剣を構えた。その時だ。

「ひっ!」

入り口のほうから息を呑む音が聞こえ、夜明はぎょっとして背後を振り返る。この前、夜明が教会に案内した金髪のシスターがそこにはいた。

「アーシア! お前、何でここに!?」

「隙ありぃ!!」

敵の視線が逸れた瞬間を見逃すわけも無く、フリードは拳銃の引き金を引きまくった。反射的に夜明は祓魔弾を回避しようとするが、射線上にはアーシアがいる。もし避ければ……。

「ちぃぃっ!!!」

夜明は両腕、両翼を大きく広げて祓魔弾を一身に受け止めた。更にフリードの一撃が迫る。咄嗟に後ろへと跳んだが、袈裟懸けに切られてしまった。

「死ね死ね悪魔! 塵になって俺の悦楽のために消えやがれ!!」

「ま、待ってください!!」

膝をついた夜明にフリードが止めの一撃を与えようとする。そこにアーシアが夜明を庇うように割って入った。死体を見た恐怖からかその身体は震えているが、それでも両腕を広げてフリードを真っ向から見据えている。

「おいおい、アーシアたん。君、自分が何やってんのか分かってんのかなかな?」

「分かってます……お願いです、フリード神父。この人を、夜明さんを見逃してあげてください」

「はあぁぁぁぁぁぁああああ!? 何馬鹿言ってんだお前!? 悪魔も、それに与する人間も全部クソだって教会で習っただろうが! 頭に虫でも涌いたのか手前ぇぇ!!」

「そんなことありません! 夜明さんは良い人です! 例え悪魔に与していたとしてもそれは変りません! 人を殺すなんて主が許されるはずがありません!」

狂気を宿すフリードの眼光に臆することなく、自分の意志を崩さずアーシアは目の前の殺人神父に物言いをした。フリードが剣の柄で殴ろうとした直後、

「お〜、夜明。その子抱えて後ろに跳べ」

ここには居ないはずの仲間の声が聞こえた。ビックリして目を見開く夜明だが、身体は言われた通りにアーシアを抱えてリビングから飛び出した。刹那、圧倒的な力の塊がリビングの壁を吹き飛ばし、置いてある家具をフリード諸共ぶっ飛ばした。

「はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)か。勘が当たったな。夜明……無事だな」

大穴どころか、壁その物を破壊してリビングへと入ってきた太陽は夜明が無事なのを確認すると、問答無用で肩の上へと担ぎ上げた。

「別にお前のことは助けないぞ。悪魔がシスターを助ける道理なんて無いからな」

感情の籠っていない目でアーシアに告げ、肩の上で何か喚いている夜明を無視して太陽は自身が破壊した穴から外へと飛び出していった。














あの後、部室へと連れて来られた夜明は早速太陽に食って掛かった。その際にリアスから悪魔祓い(エクソシスト)が二種類に分けられると言う話を聞かされる。神の祝福を受けた正規の悪魔祓い(エクソシスト)と、何らかの理由で有害とみなされ、始末されそうになるも生き延びたはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)。

「そういう連中は堕天使のもとへと走るのよ」

「悪魔を殺したい悪魔祓い(エクソシスト)と悪魔が邪魔な堕天使の利害が一致したてことですか?」

「そう。そういう連中と言うのは本当に性質が悪いの。堕天使の加護がある分、心置きなく悪魔やそれを召喚する人間を狩ることが出来るのよ。その少年神父も背後に堕天使がいる組織に属している『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』なんでしょうね」

リアスの話にそうですかと頷き、夜明は傷の手当をしてくれている朱乃を押し退けて横たえられているソファーから立ち上がった。

「待ちなさい夜明。貴方、どこに行く心算なの?」

「そんな危ない連中のいる所にアーシアを放り込んでおく訳にはいかない。アーシアを助けにいきます」

制止を聞かず、部室から出て行こうとする夜明を太陽が呼び止める。

「お前じゃ無理だ。諦めろ」

足を止め、夜明は怒気を隠そうともせず、腕を組みながら壁にもたれている太陽の胸倉を掴んで引き寄せた。

「そもそもお前があの時、俺を連れて帰らなければアーシアが危険な目に会うことも無かったろうが。お前に助けられなくても俺はあの神父野朗を倒せたんだよ」

「だろうな。だが、その先はどうなる?」

太陽の言葉に夜明は疑問符を浮かべる。

「その顔、全く分かってないって表情だな……良いか、夜明。この際、あの白髪神父はどうでもいい。問題はあの金髪のシスターだ。何であいつはあんな所にいた? 彼女が赴任してきた教会はあそこから離れているぞ。考えられる理由は一つ、彼女があの白髪神父、そして白髪神父が所属している組織の仲間だからだよ。そうでもなければあのシスターがあの場にいた説明がつかない」

驚きに目を見開く夜明に太陽は諭すように言う。夜明の手を胸倉から外し、深紅の瞳で銀眼を覗き込んだ。

「どういう理由であの子が組織に属しているかは分からない。だが、確実なのはあの子が連中にとって相当重要な存在であると言う事だ。そうじゃなければ、あんな信心深い子、とっくの昔に殺されているはずだ」

ここで問題だ、と今度は太陽が夜明の胸倉を掴んだ。

「お前があの子を助けたとしよう。そうなればどうなる? 連中は総力を挙げて彼女を奪い返しに来るぞ。それ相応の理由があるんだからな。そしてグレモリー家(こっち)もお前という眷属が襲われるのだから堕天使やはぐれ悪魔祓い(エクソシスト)に対応しなければならない……晴れて全面戦争の開幕だ。夜明、もしそうなったらお前に責任が取れるのか?」

言葉を失った夜明に太陽は無理だろう、と追い打ちをかける。

「お前個人が連中を相手に出来る力があるのなら私も何も言わない。でも、お前にはその力は無い。お前は優しい、それは分かる。でもな、優しさだけで誰かを救えるほどこの世界は優しくないんだよ。この際だからはっきり言ってやる。弱者が誰かを救うだの何だの喚くな。耳障りだ」

「っ!! ……部長、今日は気分が優れないんで帰らせてもらいます」

太陽の手から解放されても夜明は暫くの間、無言で動かなかった。少ししてリアスに頭を下げてから誰とも視線を合わせないように部室から出て行く。

「太陽、さっきのは少し言い過ぎだったんじゃ」

「主たるお前が妥協するな馬鹿。リア、お前少し夜明に甘すぎるぞ。あいつが人間だということを踏まえても、お前のは行き過ぎている。気遣う事と甘やかす事を同義にするな」

太陽の厳しい言葉にリアスはしゅんとなってしまう。ま、心配するな、と太陽はさっきまで浮かべていた厳しい表情を緩ませた。

「夜明(あいつ)が私の予想通りの奴だったら、この後に取る行動は一つだけさ」

楽しげな表情を浮かべ、太陽はあの言葉を呟く。

「堕天使(ばけもの)や狗に成り下がった人間を倒すのも何時だって人間だ……」

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