小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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          『ゲーム開始直前』




ついにソーナとのゲーム決戦前夜。夜明達はアザゼルの部屋に集まって最後のミーティングをしている。余談だがリアスは夜明を禁手(バランス・ブレイカー)に至らせたことで評価が上がったようだ。『禍の団(カオス・ブリゲード)』の中でも特に危険視されているヴァーリの仲間を退けたことがポイントになったそうだ。

「夜明、禁手(バランス・ブレイカー)の調子はどうだ?」

アザゼルの問いに夜明はそうっすね〜、と小首を傾げる。

「発動させるのにこれといった制限はないです。なろうと思えば即行でなれますし、解除も自分の意思で出来ます。持続時間は大体一日、創造する神器(セイグリッド・ギア)のグレードが高いと、それに応じて持続時間が短くなっていくらしいです。後、ブレイズハート曰く、神滅具(ロンギヌス)も創れるみたいです」

それと、と夜明は軽く右腕に力を込めた。すると右手首のバングルが黄金の輝きを放ちながら巨大斧剣に姿を変える。夜明は周りの仲間たちに当たらないようにしながらエクスライズをアザゼルに見せた。

「こいつが使えるようになりました。『勝利を射殺す百頭の剣(エクスカリバー・ナインライブズ)』。対幻想種モードの威力は神滅具(ロンギヌス)に匹敵します」

対人モードは使ったことないから分かんないけど、と夜明は締めくくる。

「そうか……夜明、現段階では神滅具(ロンギヌス)を創造するな。どれだけの負担がお前の身体にかかるか検討もつかないからな。これから修行で少しずつ創れるようになっていけ」

うっす、と夜明は頷いた。次にアザゼルはリアスに身体を向ける。

「リアス、ソーナ・シトリーはどれだけお前たちのことを把握してる?」

「ほとんど把握されていると思うわ」

フェニックス家とのゲームを録画された映像が一部、放送されたのでいたし方のないことと言えた。更に言うなら、ギャスパーや小猫の素性もある程度割れているだろう。

「つまり、ほとんど知られてるって訳か。で、お前は向こうのことを余り把握してないと」

えぇ、とリアスは少し悔しそうに頷いた。ま、気にすんな、とアザゼルはさらっと流した。

「相手のことが分からないなんてのはゲームでも実戦でもよくあることだ。戦況に応じて柔軟に対処していけばいい。人数はこっちが多いんだよな?」

リアスは首を縦に振る。ソーナの眷属は『女王(クイーン)』一、『戦車(ルーク)』一、『騎士(ナイト)』一、『僧侶(ビショップ)』二、『兵士(ポーン)』二。ソーナを含めて八人。対し、リアスには『死神(デスサイズ)』という例外の駒が与えられているので、一人だけ眷属の数が多い。次にアザゼルはホワイトボードに何かを書き始める。

「レーティングゲームはプレイヤーに細かなタイプをつけている。パワー、テクニック、ウィザード、サポート。この中でいうとリアスはウィザードタイプ、魔力全般に秀でたタイプだ。朱乃も同様。木場はテクニックタイプ。スピードと技で戦うタイプ。ゼノヴィアはスピードに特化したパワータイプ。一撃必殺を狙っていくタイプだ。アーシア、ギャスパーはサポートタイプ。小猫と太陽はパワータイプ」

で、この中でもお前は異色だ、とアザゼルは夜明を指差した。

「お前は神器(セイグリッド・ギア)の特性上、どのタイプにもなりうる。あえていうならオールラウンドタイプだな」

続いてアザゼルはタイプにおいて注意すべきことを記していく。パワータイプはテクニックタイプのカウンターに気をつけるようにと。

「特に太陽、お前は常にカウンターを警戒してろ。お前みたいなパワータイプの究極はカウンターで返ってくるダメージが尋常じゃないからな」

「確かに。全力の時ならともかく、力を封じられたこの状態じゃカウンターも警戒しとかなきゃな」

うんうん、と太陽も自分に言い聞かせるように頷いている。それと、と今度は夜明を指差す。

「お前は常に神経を研ぎ澄ませてろ。ソーナ・シトリーみたいに綿密な作戦を立ててゲームに臨んでくる手合いはお前みたいな奴を最も警戒している。どんな手で自分の作戦を潰してくるか分からないからだ。あいつはお前を全力で倒しに来るぞ」

『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』の多様性は神器(セイグリッド・ギア)の中でも群を抜いている。それに使い手である夜明もまだ未熟ではあるが、徐々にアンリミテッド・ブレイドを使いこなし始めている。どのような状況下でも対応することの出来る夜明にソーナは細心の注意を払うだろう。

「それならそれで上等。リアス・グレモリーの翼が絶対に折れないことを証明してやる」

掌に拳を打ち込みながら夜明は口元に凄みのある笑みを浮かべる。最後に、とアザゼルはペンに蓋を被せながら一同を見渡した。

「今回のゲーム、お前たちが勝つ確立は八十パーセントと言われているが、そんなもの何の当てにもならない。勝てる見込みが一割以下でも、勝利をもぎ取ってきた連中を俺は見てきた。一パーセントの可能性を甘く見るなよ」

真剣な表情のアザゼルだが、そこまで心配していなかった。何せ、リアスの眷族の中にはその一パーセントの可能性の体現者がいる。圧倒的な実力差を持った白龍皇を撃退して見せた英雄龍。諦めを母親の腹の中に置いてきたかのように戦い続け、常に不屈であり続ける男。少なくとも、月光夜明がいる限りリアスたちが戦いを諦めることは決してないだろう。

「絶対に勝てるとは思うな。絶対に勝ちたいと思え……それが今回、俺がお前らに送る最後のアドバイスだ」

アザゼルの言葉をそれぞれの胸に刻み、アザゼルが抜けた後もリアス達は戦術を話し合っていた。














決戦日、リアス達はグレモリー邸の地下にある巨大魔方陣からゲーム会場へと移動しようとしていた。アーシアはシスター服、ゼノヴィアはボンテージのような戦闘服。それ以外の面子は駒王学園の制服を着ている。魔方陣の外にはグレモリー卿、ヴェネラナ、ミリキャス、アザゼルの姿があった。

「リアス、すでに一戦負けているのだ。勝ってきなさい」

「グレモリー家の次期当主として恥ずかしくない戦いをしてきなさい」

「リアス姉さま、頑張ってください!」

「今回、教えるべきことは教えた。全力を出し切ってこい」

この場にいないサーゼクスとグレイフィアは既に各陣営の要人専用観戦会場へ移動していた。三大勢力だけでなく、アースガルズのオーディンを筆頭とした様々な勢力のトップもそこに来ている。この後、アザゼルもそっちに移るそうだ。将来有望、魔王の妹である二人が戦うというだけあって、今回の一戦は注目を浴びていた。

(勝ちにいきますか)

魔方陣の輝きが増してく中、夜明は静かに拳を握り締めた。ついにゲームが始まる。




魔方陣からジャンプして到着したのは幾つ物テーブルが並んだ場所だった。どこだここ? と夜明は周囲を見回す。そこは飲食フロアらしく、いくつもの店が並んでいた。デパートの階層のようだ。へ〜、と視線を走らせている夜明の眉根が僅かに寄る。店の配置に妙な見覚えがあったのだ。

「ってかここ、駒王学園の近くにあるデパートじゃん」

「本当ね。まさかここがゲームの舞台になるなんて予想外だわ」

太陽とリアスが首を巡らせていると、店内アナウンスが聞こえてきた。まさかそこまで再現したのか!? と驚く夜明。しかし聞こえてきたのは今回のゲームの審判(アビーター)役を務めるグレイフィアの声だった。

『わが主、サーゼクス・ルシファーの名の下、ご両家の戦いを見守らせていただきます。どうぞよろしくお願いします。早速ですが、今回はリアス様とソーナ様が通われている学び舎、『駒王学園』の近隣にあるデパートをゲームフィールドとして異空間に用意させていただきました』

今回の戦いの場となるこのデパート。二階建ての吹き抜けで、横面積がかなり大きい。屋上は駐車場になっており、他にも立体駐車場が隣接している。

『両陣営、移転された先が本陣でございます。リアス様の本陣は二階の東側、ソーナ様の本陣は一階西側でございます。『兵士(ポーン)』の皆様はプロモーションの際、相手の本陣まで赴いてください』

お互いの本陣は対角線上にあるようだ。そこに到るまでに様々な店があるのでいくらでも利用できる。シンプルに戦闘、というわけにはいかないだろう。

『なお、今回のゲームには特別なルールが課せられました。詳細は格本陣にあります資料でご確認ください。回復品であるフェニックスの涙は各陣営に一つずつ支給されます。作戦を練る時間は三十分。この間に相手のチームとの接触は禁じられております。ゲームスタートは三十分後に予定しております。それでは作戦時間です』

アナウンス後、全員が一箇所に集まり作戦会議となった。

「フィールドは駒王学園の近くにあるデパートを模したもの。屋内戦になるわね」

ライザーとのゲームでフィールドだった駒王学園と違い、今回は完全な屋内だ。駒王学園では校庭があったが、このデパートには戦いが出来るだけの広い屋外の場所はない。

「おいおい、マジかよ」

その時、今回のゲームのルールが書かれた紙を見て、太陽がうなり声を上げる。一同の視線を集めてから、太陽は手に持った紙を見せた。

「『バトルフィールドとなるデパートを出来るだけ破壊しないこと』……ど派手な戦闘は出来ないってことね」

「これ、私に戦うなって言ってるようなもんだろ……」

大きなため息を吐きながら太陽は片手で顔を覆い隠す。力で眼前の敵を打ち倒す、それが駄目ならその上を行く力で相手を圧倒する。それでも駄目なら圧倒的な暴力をもって敵を蹂躙する。それが太陽の戦い方だ。そこに手加減や手心が入り込む余地は一切ない。完全なる力で戦う太陽にとって、今回のルールは最悪の相性だった。それは他の面子にもいえた。

「ゼヴィのデュランダルも今回は使えないよな」

「あぁ。攻撃の際に周囲を破壊しないなんて真似、私とこの暴君じゃ無理だ」

エクスライズなんてもってのほかだ。ぶっ放した瞬間、このデパートが跡形もなく消し飛んでしまう。勝てはするかもしれないが、リアスの評価が最悪になるだろう。

「それにギャスパーの目も効果ないよな。障害物やら色々あるし……って、今回『停止結界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)』は禁止されてるんだっけか」

禁止された理由は単純明快、まだ使いこなせてないから。夜明の血を与えることも禁じられている。ゲーム中はアザゼルが専用に作った眼鏡で効果を抑えていなければならない。大変だなぁ、と夜明に撫でられるギャスパーは涙目だった。

「がたがた無いものねだりしても仕方ねぇ。派手なことが出来ないからって、私達の全てが封ぜられたわけじゃない。やりようなんて幾らでもある」

太陽の言葉に皆が頷く。その後、リアスの支持で祐斗が立体駐車場を、太陽が屋上を確認しに行った。

「ギャスパー。あなたはゲームが始まったらコウモリに姿を変えてデパートの各所に飛んでちょうだい。序盤(オープニング)ではデパート内の様子を逐一知らせてもらうわよ」

「は、はいぃ! 頑張ります!!」

一応のプランが固まり、残りの時間、各々のリラックス方法で待機することになった。皆が思い思いのほうに歩いていく中、夜明はエジソンに呼びかけた。

(エジソン。エクスライズの対人モードって今の俺に使えるのか?)

(問題ないと思うよ。ただ、ぶっつけ本番になっちゃうから、威力の調整とかが上手くいかないかもだけど……)

そこは俺が何とかするさ、と夜明はエジソンとの会話を終える。ん〜、と伸びをしながら仲間達を見る。リアスは飲食フロアの店で紅茶を注いでいた。ギャスパーはドーナツを食べるか食べまいかを悩んでいる。アーシア、ゼノヴィアはハンバーガー店の前で何かを話していた。祐斗は飲食フロアの近くにあるドラッグストアを物色している。太陽は見つけた喫煙所でタバコを噴かしている。朱乃の姿が見えない。

(ま、あの人なりにリラックスしてるんだろ)

と夜明は自己完結し、自分も自分なりの方法で待機してようと、本屋へと向かった。今週の週間少年誌を読んでなかったからだ。すぐに近くにある本屋を見つけ、中に入って少年誌を手に取る。

「え〜っと、今週のジャン○は〜っと」

少年誌をパラパラと捲る夜明の背後で何かがゆっくりと動く。少年誌を読み耽っている夜明はまだ気づいてないようだ。

「夜明くん♪ 何をしてるのかしら?」

背後からの抱きつき。それに伴い背中に押し付けられる極上の弾力を持った二つの双山。振り返るとそこには案の定、朱乃のニコニコフェイスがあった。

「朱乃さん。いや、別に。今週のジャン○とか読んでなかったから、今の内に読んどこうと思いまして」

淡白に答えると、再び夜明は少年誌を読み始めた。朱乃が抱きついてるというのに、気にする様子は一切無い。何の反応もしない夜明にむっとしたのか、朱乃は軽く頬を膨らませる。むに〜、と夜明の頬を引っ張った。更に夜明の目じりに人差し指を当て、イーッとする。悉く読むのを邪魔され、小さくため息をつきながら夜明は朱乃を振り返った。

「どうかしたんですか?」

「別に何でもありませんわ」

夜明から離れてぷい、とそっぽを向いてしまう。ポリポリと頭を掻く夜明。徐に呟いた。

「大丈夫ですよ」

「っ!」

驚き、振り返る朱乃。もう一度、夜明は大丈夫です、と頷いた。

「朱乃さんなら絶対に使えますよ、堕天使の力」

「……うふふ、何でもお見通しですわね、夜明くん」

胸に凭れるように寄り添ってくる朱乃の背中を夜明は軽く撫でた。

「戦う勇気はある。でも私に流れる堕天使の力を使うのが怖いの、嫌なの……でも、夜明くんが見ててくれたら」

「はい、見てます。だから安心して使ってください」

夜明はにっこり笑って見せた。朱乃は瞳を潤ませている。ふいに朱乃はゆっくりと顔を夜明に寄せていった。朱乃の瞳に吸い込まれるような感覚を覚え、夜明は固まる。

「ん……」

二人の唇が重なった。数秒後、両者は離れる。夜明は顔を真っ赤にさせ、朱乃は頬を上気させている。

「あ、朱乃さん……」

「ゲームが終わったら、リアスには内緒でもっと凄いことをしてあげますわ」

うふふ、と笑いながら去っていく朱乃を夜明は呆けた表情で見送った。唇には柔らかくて甘美な感触がリアルに残っている。唇に触れていると、どこからか視線を感じた。視線を向ければ、小猫がじ〜っとこっちを見ている。自然と視線がかち合った。

「……見たか?」

「……何のことだか分かりません」

殆ど、見たと同義の返答だった。おぉ、と顔を両手で覆う夜明に小猫が歩み寄ってくる。んぁ、と顔を上げる夜明。小猫は夜明の手をとると、ポンと自分の頭に乗せた。

「……私も、猫又の力を使ってみようと思います」

「……そうか」

「……だから、見ててくださいね」

私のことも。了承の意味を込め、夜明は小猫の頭を撫でた。気持ちよさそうに目を細め、小猫は耳を赤くしながら夜明を見上げる。

「……やっぱり、夜明先輩は優しい英雄龍です」

「そうかい。時間だ、行こう」

この戦いはただのゲームではない。お互いの夢と野望、そして一歩を踏み出すための戦いだ。そのことを胸に刻みつけ、夜明は小猫と共に本陣へと戻っていった。




※ども、こんにちわ、サザンクロスでっす。ちょっと、京都行ってました。映画村楽しかったですはい。いつの間にやらアクセス数が十万超えてました。こんな駄作を読んでくださった皆様には感謝の念に絶えません。何か記念にやろうかと思ってるのですが……何をやったもんでしょうか。では、サザンクロスでした。

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