小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

          『友として』




ゲーム開始時刻。フロアに集まった夜明達、流れるアナウンス。

『開始のお時間となりました。なお、今回のゲームは短期決戦(ブリッツ)形式を採用しております。制限時間は三時間、それではゲームスタートです』

「『雷撃(ブリッツ)』ですか。そんなルールがあったんですね」

だから、今回は前もって作戦を設ける時間があったのか、と夜明は一人頷く。リアスが椅子から立ち上がり、気合の入った表情で一同の顔を見渡す。

「指示はさっきの通りよ。夜明と小猫。祐斗とゼノヴィアと太陽の二手に別れるわ。夜明達は店内から、祐斗達は立体駐車場から進行していってちょうだい。ギャスパーは複数のコウモリに変じて店内の監視と報告、進行状況によって私と朱乃、アーシアが夜明側のルートで進むわ」

全員が連絡用のイヤホンマイクを耳につけたのを見届け、リアスはもう一度皆の顔を見た。

「さぁ、行くわよ私の眷属達。もう、これ以上無様は晒せないわよ!」

『はい!!』

それぞれが気合の入った返事をする。念入りにゴッドイーターを点検していた太陽が二人を振り返る。

「そんじゃま行くか、ゼノヴィア、祐斗」

「あぁ」

「行きましょう」

んじゃあ、と手をひらひらと振る太陽を先頭に三人は立体駐車場へと繋がる道を歩いていった。次に夜明と小猫が役割を果たすため、本陣から進みだす。夜明と小猫の役割は陽動。今回のゲームの本命は太陽達だ。ゲーム前、夜明が禁手(バランス・ブレイカー)に至ったことはタンニーンが話したことで、周知の事実となっていた。勿論、そのことはソーナも知っている。だからこそ、ソーナは絶大な力を持つ夜明を無視できない、とリアスは踏んだ。

(太陽の場合、俺よりも強いんだけど、何重にも力が封印されてるからな)

それに引き換え、夜明は基本的に何の制限もされてない上に能力の多様性も半端じゃない。故に力がものをいう実戦ならともかく、こういった特殊なルールを用いるゲームでは夜明のほうが脅威となっていた。それはソーナも理解している。だからこそのおとりだ。

「……夜明先輩、頑張りましょう」

「あたぼうよ。俺達はリアス・グレモリーの眷属、負けはありえねぇ」

残ったリアス達に手を振り、夜明と小猫は店内を歩いていく。周囲を警戒しながら動いているので、大きく動く事は出来なかった。途中で見つけた自動販売機の陰に隠れ、前方を窺う。不審な影は見当たらない。

「しっかし、思えば室内戦って初めてだな」

夜明は一人呟く。ライザーの時は馬鹿みたいに広い室内で戦ったので今一実感がない。駒王協定の時の魔女達との戦いはほとんど十年後ギャスパーが一人でやったので、夜明にとってちゃんとした室内戦はこれが初めてだった。ふと、隣の小猫を見ると、頭から猫耳を生やしていた。しかも尻尾のオマケ付き。

「……」

暫し呆然とし、徐に夜明は小猫の猫耳を突いた。ふにゃん、とくすぐったそうな声をあげ、小猫は夜明を見上げる。

「……何ですか、夜明先輩?」

「いや、その、何ですかって……何これ?」

「……猫又モードです」

戸惑い気味に猫耳を示す夜明に何故か小猫は胸を張りながら答える。そ、そうか、と面食らいながらも夜明は頷いた。軽く咳払いして視線を進路に戻す。相変わらず、不審な点は見受けられなかった。

「向こうも待ち伏せとか罠を警戒して進んでんのか? 行くぞ、小猫」

声をかけるも返事は無い。見ると、小猫は少し陰のある表情を浮べて俯いていた。猫耳も若干シュンとなっている。また何か悩んでるな、と察した夜明は出来るだけ優しい声で訊ねた。

「どうした?」

「……戦う決意はしました。力を使う覚悟を決めました……それでも、やっぱり怖いです」

猫又の力を使って姉のように、黒歌のようになってしまわないか。戦場に立ってなお、その不安は小猫の心に暗い影を落としていた。そして後輩の告白を聞き、銀の男は、

「はははは!」

豪快に笑い飛ばして見せる。突然、笑い始めた夜明に小猫は驚くが、少し怒ったような表情を作る。

「……何も笑うことないじゃないですか」

「ならねぇよ、お前は。あんな己の力に負けた雌猫なんかにな」

根拠は? という小猫の問いに夜明は断言する。

「俺がお前を信じてるからだ」

「……それだけ、ですか?」

それ以外に根拠が必要か? と夜明は悪戯っぽい笑みを浮かべ、呆れと驚きを混ぜた表情を浮べる小猫の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「お前が自分自身を信じられないんなら、今はそれでも良いさ。ただ、俺を信じろ。お前を信じる俺を信じろ」

僅かに抵抗する小猫の髪型をくしゃくしゃにし、夜明は優しく微笑む。

「大丈夫だよ、お前は。何てったってお前はリアス・グレモリーの眷属で、俺の自慢の後輩だからな」

「……ありがとう、ございます」

嬉しそうに頬を染める小猫を夜明はもう一度撫でた。小猫も抵抗しようとはせず、目を細めながら夜明の手を受け入れる。不意に蕩けていた小猫の表情が険しくなった。

「……夜明先輩。二人、真っ直ぐこっちに向かってきてます」

「仙術か?」

夜明の問いに小猫は無言で頷く。仙術の一部を解放したので、気の流れをそこそこ把握出来るそうだ。

「後、どれくらいでエンカウントしそうだ?」

「……十分程度です」

そうか、と夜明は両手で頬を叩いて気合を入れる。まずは牽制、と夜明は背中から三翼を展開。周囲に複数の武具を創り出し、正面に向けて射出した。かなり先まで飛んでいったのを視認し、『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』で周囲に被害を出さない程度に小さく爆発させる。

「これで少しは怯んでくれる……わきゃねぇか!!」

口角を吊り上げながら夜明は視線を上に持ち上げる。夜明の視線の先では黒いロープのようなものが天井へと伸びていた。そしてロープの主は、

「月光!!」

匙だった。ターザンのように天井から降ってきた匙。その背中には小猫が探知したであろう、もう一人がしがみ付いている。膝蹴りの体勢で迫ってくる匙に夜明は右拳を構えた。

「いらっしゃいませぇぇっ!!!!!」

匙の攻撃に合わせて拳を繰り出す。夜明の拳打が匙の膝にぶち当たった。メキ、と拳が嫌な音を立てるのも構わず夜明は拳を振り抜き、背中のもう一人ごと匙を吹き飛ばした。いってぇ〜、と夜明は手をプラプラさせながら目の前の敵、匙に視線を向ける。匙の背中に乗っていた少女、生徒会の一年生も既に戦闘態勢だ。

「よ〜、匙。まさか『黒い龍脈(アブソーション・ライン)』でターザンごっことは恐れ入るぜ。しかも何だそりゃ、イメチェンか?」

軽口を叩きながら夜明は以前と形状が異なる匙の右腕を示す。前はデフォルメされた黒いトカゲの頭部がくっついているだけだったが、今では数匹の黒い蛇が匙の右腕に巻きついている。その黒い蛇が一匹、夜明の右腕と匙の神器(セイクリッド・ギア)を繋いでいた。おまけに意図の不明なラインが一本、夜明の身体から伸び、遥か先と繋がっていた。さっきの時か、と夜明は微かに舌打ちする。

「お前、結構器用なんだな」

言いながらラインと蛇を引っ張ってみる。当たり前だが、その程度でどうこうできる代物ではない。

「ま、俺もかなり修行したからな。奇襲は失敗したけど、ラインは繋げられたしイーブンってとこか」

そうかよ、と夜明は拳を鳴らす。目の前の敵を倒す、ただそれだけだ。隣に小猫が並んだのを横目で確認し、夜明は視線を匙達に向ける。

「そんじゃまやりますか、小猫」

「……はい!」

気合を入れていざ戦闘、と思ったその時、

『ふみゃああああああああああああ!!!!!!!!????????』

何とも可愛らしい悲鳴が店内に木霊する。ギョッとする夜明と小猫。遠くから聞こえるので、誰のものかは分からない。だが、何となく夜明と小猫は予想がついていた。

「ギャスパーか?」

「……だと、思います」

二人揃って視線を前に向ける。匙がにやけているので、悲鳴の主はギャスパーでほぼ間違いないだろう。

「匙、一つだけ聞かせろ……ニンニクか?」

「あぁ、ギャスパーちゃんの神器(セイクリッド・ギア)が封じられてるってのは俺達も聞いてるからな。だとすれば、ヴァンパイアの力で店内の様子を窺ってくるって会長が予想してたのさ。で、自分達の本陣を活用しようってな」

匙達の本陣といえば、食材品売り場だった。そこまで聞いた段階で大方の予想はついたのか、夜明は片手を額に当てて盛大にため息を吐く。

「ニンニクのトラップを作ってギャスパーを引っ掛けたか」

「ご名答。つっても、リタイヤのアナウンスが無いのをみると、ギリギリのところで逃げたみたいだな」

リタイヤしなかったのを喜ぶべきなのか、それともニンニク如きに怯んでしまう彼女の不甲斐なさを怒るべきなのか? 再び嘆息し、夜明は静かに決意した。

「ギャスパー。当分、お前の飯はニンニク三昧だ」

後者だった。とりあえず、ギャスパーのニンニク克服メニューを考えるのは後回しにし、夜明は両手に銀翼蒼星を創造する。エクスライズはまだ対幻想種モードしか使ったことが無いので、今回は使わない方針だ。

「小猫、お前はあっちの一年を頼む。俺は匙とやり合う」

はい、と小猫が頷いたのを確認し、夜明は匙へと向かっていった。匙に後数歩のところまで間合いを詰め、一気に床を蹴って前に飛び出し二刀を振り抜く。後ろに下がり、匙は夜明の攻撃を回避する。追撃をかけようとする夜明。対し、匙は少し離れた場所にある店舗へとラインを伸ばした。

「おらぁ!!」

匙は思いっきりラインを引っ張る。ラインの先に繋がっていた大きな何かが店舗から飛び出し、横殴りの形で夜明を直撃する。自分に直撃し、粉々になった木材を見て夜明はそれがタンスかその類の大きな家具だったと悟る。

(あの店は家具屋だったか!)

家具の直撃を受け、怯んだ夜明に匙が駆け寄る。体勢を立て直す前に夜明の顎を匙のアッパーカットが打ち抜く。更に攻撃を加えようと拳を握るが、二撃目を放つ前に夜明に腹を蹴られ匙は後ろへと吹っ飛んだ。

「来い!!」

夜明は周囲に複数の武具を生み出し、匙に向けて放った。空気を切り裂き飛んでいく武具群。かなりの速さだが、匙は空を切る武具群を正確にラインで捉え、夜明へと返した。

「やるねぇ!!」

戻ってくる武具群を弾こうと夜明は銀翼蒼星を構えるが、ラインに引っ張られて体勢を崩した。そこに武具群が襲い掛かってくる。

「ちぃ!!」

無理に身体を捻り、夜明はどうにか武具群を避けた。そこに匙が放った魔力の弾が迫ってくる。完全に体勢を崩され、動けない夜明はアンリミテッド・ブレイドを輝かせる。

「アイアス!!」

夜明の目の前に七枚の光花弁が広がる。『熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)』に匙の魔力弾がぶち当たった。ビギィ!! と嫌な音を立ててアイアスの花弁が三枚、一気に砕け散る。残った花びらにも罅が走るのを見て夜明は銀翼蒼星を投げ捨ててゲイ・ボルグを創造、アイアスに向けて投擲した。ゲイ・ボルグの穂先がアイアスを後ろからぶち破り、魔力弾を貫く。魔槍は唸りを上げ、匙目掛けて飛翔する。

「『突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)』!!!!!」

炸裂弾よろしく爆発しようとする魔槍に向け、匙はもう一発魔力弾を放つ。魔槍と魔力弾は衝突し、互いを相殺した。

「……やるじゃん」

「月光、俺は本気だ。俺は本気でお前、英雄龍を倒す」

もう一度呟いた夜明に匙が言い放つ。その瞳には決意が満ちていた。そうかい、と夜明はもう一度銀翼蒼星を創り出す。頭の中では先ほど打ち消されたゲイ・ボルグについて考えていた。いくらアイアスと魔力弾をぶち抜いてたからとはいえ、紅の魔槍があそこまで簡単に打ち消されるとは思えない。

『奏者よ、奴の胸を見てみよ』

ふと、ブレイズハートが声をかけてきた。ブレイズハートの言葉に従い、夜明の視線が匙の胸部に向けられる。ラインが心臓部分から伸びている。

「死ぬ気か、お前?」

瞬時に匙が命を魔力に変換しているのを察した夜明は目を細めて訊ねる。口元に笑みを貼り付けて頷く匙。しかし、その目は真剣そのものだ。

「あぁ、文字通りの命懸けってやつだ。月光、お前に俺達の悔しさが分かるか? 夢を馬鹿にされ、笑われた俺達の必死さが分かるか? この戦いは冥界全土に放映される。シトリー眷属は俺達の夢を馬鹿にした奴らに、冥界の全ての皆に本気を見せなきゃいけないんだ!!」

瞳に炎を燃やしながら匙は吼える。一方、夜明はばつが悪そうな顔をしながら頭を掻いていた。不意にバンッ! と小気味の良い音が周囲に響く。二人が音の方を振り返ると。小猫が白い気を纏わせた拳を相手の胸に打ち込んでいた。

『ソーナ・シトリー様の『兵士(ポーン)』一名、リタイヤ』

アナウンスと共に匙の後輩が光となって消えていく。

「……私はリアス・グレモリー様の『戦車(ルーク)』、英雄龍の後輩なんです。絶対に負けません」

まだ白い気を帯びている拳を握り締め、小猫は静かに言い放つ。休む暇もなく小猫は夜明に加勢しようとするが、夜明は片手でそれを制した。

「小猫、そこで見てろ。こいつは俺が倒す」

「夜明先輩、これはチーム戦です。協力して戦いましょう」

それでもだ、と夜明は頑なに小猫の助力を拒否する。そもそも、匙は夜明と戦っている間、小猫に攻撃しなかった。その気になればラインを伸して後輩を援護できたにも拘わらず、だ。匙はこのゲームだけじゃない、英雄龍である月光夜明に勝ちたいのだ。それも一対一で。

「小猫。お前、俺に言ったよな? 自分のこと、見ててくれって。俺はお前が仙術の力で相手を倒すのを見届けたぞ。今度はお前が俺の戦いを見届ける番だ。ま、安心しろ」

俺は負けねぇよ、と夜明はにっと笑う。まだ何か言いたげだったが、小猫は無言で一歩下がった。サンキュー、と軽く手を振り、夜明は匙に向き直る。

「悪いな、月光……俺はお前に勝つんだ。お前に、英雄龍に、月光夜明に! 俺は勝つ! 勝って夢への一歩を踏み出すんだ!!」

「俺に勝つことが夢への一歩とは、嬉しいこと言ってくれるねぇ。こちとら『英雄龍の翼(これ)』がなきゃただの人間だっつぅの」

転生悪魔ですらありゃしねぇ、と肩を竦めて見せる夜明。んなこたぁどうでもいいんだよ、と匙ははき捨て、夜明を強い眼差しで睨む。

「人間か転生悪魔なんてことは関係ねぇ! 俺はお前が心底羨ましいんだよ。リアス先輩の自慢、英雄龍。不死のフェニックスを打ち破り、白龍皇すら撃退した男。最上級悪魔どころか、神々ですらお前に一目置いてる。なのに俺には何もない。お前と同じ時期にシトリー眷属になったのに、何もねぇんだよ! だから、俺はお前をぶっ倒して自信と自慢を手に入れるんだ!!」

匙は声を張り上げる。一方の夜明は驚きに目を見開いていた。匙が、自分の友がここまで自分に勝ちたいと願っていたとは露ほども思っていなかったからだ。やがて夜明は上等、と口端を微かに持ち上げてみせる。

「だったら俺をぶっ倒して見せろよ。俺もお前を本気でぶち倒してやる……ブレイズハート!!!!」

『応! 奏者よ、奴の力は白龍皇や赤龍帝に比べ矮小だが、志は奴らに勝るとも劣らぬ! 心してかかれ!!』

「分かってる!!」

『Brave(ブレイヴ)Dragon(ドラゴン) Balance(バランス)Breaker(ブレイカー)』!!!!!!』

夜明の背の三翼が光輝する。放たれた光はオーラと共に夜明を包み、鎧となっていく。禁手(バランス・ブレイカー)、『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』。ここに爆現。

-62-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 13 イッセーSOS (富士見ファンタジア文庫)
新品 \630
中古 \339
(参考価格:\630)