小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

           『英雄龍VS黒邪の龍王』




時と場面は変わって立体駐車場。今回のゲームの本命である太陽、祐斗、ゼノヴィアの三人は同じ人数のシトリー眷属と戦っていた。相手は『女王(クイーン)』真羅、『戦車(ルーク)』由良、『騎士(ナイト)』巡の三人。真羅は長刀、巡は刀を携え、由良は無手だ。いずれも駒王学園の生徒、そして生徒会のメンバーだ。

「おうらぁ!!!」

両手に車、という頭がおかしいとしか言い様の無い装備の太陽。高速で振り回される二台の車にシトリー眷属の三人も不用意に近づけずにいた。そこに祐斗とゼノヴィアの攻撃が加わり、太陽達は優位に戦闘を進めている。太陽の攻撃範囲から逃れようと、真羅達は大きく後ろに跳んだ。

「祐斗、ゼノヴィア!!」

二人の名を呼びながら太陽は両手の車を左右に突き出す。太陽の意図を瞬時に理解した二人は車の屋根に飛び乗った。そうらぁ! と太陽は車を振り抜き、二人を弾丸のように飛ばした。意表を突かれるも、真羅達はこの急襲をどうに防いだ。祐斗と真羅、ゼノヴィアと巡の刃がぶつかり合って火花が散る。祐斗とゼノヴィアはそれぞれの相手の胸を蹴り、太陽の隣へと戻った。

「今ので駄目か。一人くらい取れると思ったんだがな」

車を投げ捨て、太陽は僅かに表情を苦くさせる。左隣にいるゼノヴィアも同様だった。

「言い訳をするつもりではないが、こう制限が多いと私も太陽も本来の力を発揮できないな。それに夜明に貸してもらったこいつも宝の持ち腐れだ」

とんとん、とゼノヴィアは夜明から借りた龍殺しの聖剣、アスカロンで肩を軽く叩く。以前、アザゼルの言っていたもう一本の聖剣というのはアスカロンのことだ。本来の威力と宿った英雄龍の力もあり、相当な威力を有した代物になっていたが、如何せん今回のような戦闘ではそのパワーが仇となっている。

「太陽さん、ゼノヴィア。今回のゲームは『電撃戦(ブリッツ)』だから、余り時間をかけるのは」

「少なくともいい結果にはならないだろうな。それにソーナが何を仕掛けてくるかも分かったもんじゃないしな……よし、ゼノヴィア。お前、アスカロンじゃなくてデュランダル使え。私はゴッドイーターを使うから」

「正気か? 私のデュランダルとお前のゴッドイーターを同時に使ったら、この駐車場の一角を消し飛ばしかねないぞ」

止めた方がいい、と首を振るゼノヴィア。祐斗も太陽の言葉に賛成しかねているのか、ゼノヴィアに同調している。だが、二人の反応を前に太陽は大丈夫だ、と言い切った。

「ゴッドイーターの魔弾とデュランダルの聖なる斬撃。相手を攻撃する時に互いを相殺するようにすれば、被害は最小限に留められるはずだ」

それに反転(リバース)対策にもなる、と太陽は続ける。反転(リバース)は跳ね返す力を違えれば効果を発揮しない。『聖』と『魔』を同時に反転(リバース)させるには相当な技量が必要とされる。仮に相手側に反転(リバース)を使えるものがいたとしても問題はないと太陽は踏んでいた。

「あぁ、確かに先生が反転(リバース)には気をつけろ、みたいなことを言っていたな」

「言っていたなって……」

今の今まですっかり忘れてた風のゼノヴィアに祐斗は軽く泣きたくなった。微妙な気持ちを切り替え、三人は改めて相手に視線を向ける。

「じゃあ、僕は二人が攻撃を当て易いように敵を誘導すればいいね?」

「あぁ、頼んだ」

「木場、こいつを使え」

一歩前に出た祐斗にゼノヴィアがアスカロンを手渡した。聖魔剣とアスカロンを構え、祐斗は神速の動きで三人へと打ちかかっていく。一方の太陽とゼノヴィアは異空間からそれぞれの獲物を引き出し、動き始めた。

「何をするつもりか分かりませんが、一人で私達三人を倒しにくるとは無謀ではありませんか!?」

真羅の言葉。どうやらこの場を祐斗一人に任せ、太陽とゼノヴィアが先に進むつもりだと思っているようだ。『騎士(ナイト)』の速さを存分に発揮し、三方向からの攻撃を捌きながら祐斗は微笑んでみせる。

「一人であなた達を倒そうなんて思ってはいないですよ。これはチーム戦ですから!!」

アスカロンの切っ先で円を描き、三人を吹き飛ばす。祐斗は素早く視線を走らせ、三人の内で最も大きな隙を生んだ由良へと突っ込んだ。二刀で切り裂くと見せかけ、腹部に蹴りを打ち込む。腹に強烈な一撃を受けた由良は後ろに大きく飛んでいった。彼女の飛んでいく先に太陽とゼノヴィアが飛び出す。

「合わせろゼノヴィア!!」

「分かっている!!」

由良を挟み込む形で弾丸と斬撃が放たれた。空中で『聖』と『魔』の相反した属性を持った攻撃がぶつかり合い、派手な余波を放って周囲を揺るがす。床に軽く罅やクレーターが生まれるが、二人のパワーから考えて被害は軽いと言えるだろう。二人の攻撃を同時に受けた由良は光を放つ間もなく消えた。

『ソーナ・シトリー様の『戦車(ルーク)』一名、リタイヤ』

再びそれぞれの眷属に分かれて対峙する。

「即興の合わせ技だったが、存外に上手くいったな」

一人減り、二人になった相手を見ながらゼノヴィアはデュランダルを見る。威力は最小限に留めているにも拘らず、凄まじいオーラを放っていた。

「次はどうする? 同じ手が通用するとは思えないけど」

「祐斗、お前はあの刀持ってるほうと戦ってろ。その間に私があの長刀を捕まえる。その後は」

「もう一回私とお前の合わせ技だな。しかし、捕まえると言ってもどうやって?」

ゼノヴィアの問いに太陽は口元に自虐的な笑みを浮かべる。だが、その表情は同時に固い決意も含んでいた。

「私の中にいる連中に出張ってもらうさ……一生使わないつもりだったが、朱乃も小猫も自分の力と向き合ってるんだ。私だけ、避けてるって訳にもいかないだろ。ゼノヴィア、あの長刀を床に縫い付けててくれ」

太陽がゴッドイーターを持った手と反対の方を持ち上げる。瞬間、祐斗とゼノヴィアを寒気と不快感が襲った。湿りざらついた舌で全身をねぶられる錯覚。相手も怖気を感じているようで、警戒した目で太陽を睨んでいる。

「あぁ〜、先に言っておく。ひどい目に遭っても恨むなよ」

太陽の言葉が終わらぬ内に彼女の足下からどす黒いものが溢れ出し、駐車場の床を飲み込んでいった。この黒いのはまずいと直感したらしく、真羅と巡は大きく後ろに下がった。同時に祐斗が巡に、ゼノヴィアが真羅に仕掛ける。祐斗は巡と切り結びながら駐車場の奥へと消えていった。ゼノヴィアはといえば、デュランダルの凄まじいオーラで真羅を黒いのに追い詰めている。

「ふっ!!」

極限まで威力を抑えた斬撃がデュランダルから放たれた。床を真っ二つにしながら迫るオーラに真羅は回避を余儀なくされ、太陽の黒いのに足を踏み入れてしまう。瞬間、真羅の足首に鋭い痛みが走った。

「これは……!」

視線を足下に下ろした真羅は戦慄する。太陽を中心に駐車場の床を覆いつくした黒い何か。そこから頭だけを生やしたかなりの大きさの犬が真羅の足首にがっちりと牙を食い込ませていた。反対の足首には犬と同じ様に黒いのから出てきたムカデが絡みつき、真羅の動きを封じている。

「グロいだろ? 私の眷属、みたいなもんだ。死ぬほど使いたくなかったんだが……まぁ、私だけ我がまま言い続けるのも駄目だと思ってな」

囁くように独り言を続けながら太陽は真羅に歩み寄り、胸元にゴッドイーターの銃口を突きつけた。

「チェックだ。私達は先に行かせてもらう」

「くっ!」

真羅は拘束を振りほどくのを無理だと判断すると、懐から小瓶を取り出して太陽に中身を振りかけた。反射的に左腕を持ち上げ、太陽は顔にかかりそうになる小瓶の中身を防ぐ。

「こりゃフェニックスの涙……そういうことか!」

「気付いたところで遅い、反転(リバース)!!」

フェニックスの涙が持つ強力な回復力が反転(リバース)によって甚大なダメージとなって太陽を襲った。

「があぁぁぁっ!!!???」

「太陽!?」

フェニックスの涙のほとんどを浴びた太陽の左腕が嫌な音を立てて燃え始める。激痛に顔を歪めながら太陽は一歩、二歩と後ずさった。主である太陽の集中力が切れたため、床を覆っていた黒いものが綺麗さっぱりなくなる。同時に動きを封じていた犬とムカデも消えたので、真羅はその隙に駐車場から逃れた。

「っ! 逃がしてしまったか……」

すぐにゼノヴィアが後を追おうとするがそれよりも太陽のことが心配になり、彼女は太陽に走り寄った。

「大丈夫か、太陽?」

「いや、大丈夫じゃない。痛すぎて泣きそうだ」

実際、涙目になりながら太陽は尚も燃え続ける左腕に銃口を向け、躊躇い無く引き金を引いた。ゴッドイーターの銃口から吐き出された弾丸は太陽の左肩に命中、血飛沫を撒き散らしながら彼女の左腕が吹き飛ぶ。

「いでで……まさか回復のアイテムであるフェニックスの涙を攻撃に使ってくるなんてな……発想がぶっ飛んでやがる。ゼノヴィア、悪いけど止血手伝ってくれないか」

「あぁ……太陽、フェニックスの涙が反転(リバース)でダメージに変換されたということは」

「お前の考えてるとおりだろうさ。ソーナは多分、アーシアも反転(リバース)で倒すつもりだ」

アーシアの神器(セイクリッド・ギア)、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』は絶大な回復力を持つ。それが反転(リバース)によってダメージに変えられたら……。

「一瞬で撃破されるな。ゼノヴィア、木場が戻ってきたらすぐに進むぞ。リアと一緒にいるアーシアの前に反転(リバース)の出来る奴が出てきたらまずい」

真剣な顔でゼノヴィアは頷く。その後、巡を撃破した祐斗と合流し、太陽達はすぐに先へと進んだ。














「……」

「がふぅ!!」

夜明が無言で突き出した拳が盾のように束ねられたラインを突き破り、匙の顔面を強打する。匙はそのまま背後にある店舗へと勢い良く叩きつけられた。夜明と匙の殴り合いが始まって数分が経過している。夜明が禁手(バランス・ブレイカー)、『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』を発現させてからはずっと同じことの繰り返しだ。夜明が匙を殴って吹き飛ばす。匙は立ち上がって夜明へと向かって行く。その繰り返し。

「まだ、まだぁ!!」

ぶち壊れた店舗の中から足を引きずるようにして匙が出てくる。何度も『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』に打ち込んだため、既に拳はボロボロ、バックリと裂けた傷口からは骨すら見えていた。

「行け!!」

匙が複数のラインを夜明に飛ばす。夜明は背中の三翼を羽ばたかせてオーラを放ち、ラインを弾き飛ばして接続を許さない。しかし、さっきの奇襲で繋げられた意図不明のラインは何をしても外せなかった。今度は夜明の方から仕掛け、匙の腹に拳を捻じ込んだ。更に龍殺し(ドラゴン・スレイヤー)のオーラを創り出し、匙の体内に注ぎ込む。匙の目が大きく見開かれ、口から大量の血反吐がぶち撒けられた。

「……勝つんだ、俺は」

仰向けに倒れようとするが、匙は夜明の腕を掴んで身体を支える。

「お前に勝って、一歩を踏み出すんだ!!」

身体を引き上げる勢いを利用して匙は夜明に頭突きをぶちかます。当然、夜明の頭部は兜に覆われているので、匙の方がダメージは大きい。匙の額が割れ、血がダラダラと流れ出す。目に血が入るのも構わず、匙は攻撃を続けた。夜明もそれに応じる。

「月光ぉぉぉぉ!! 一つ聞かせろ!! お前は夢を笑われたことがあるか!!??」

「少なくとも、部長の眷属になってからはねぇよ!!」

言葉と打撃の応酬。ダメージは明らかに匙の方が大きい。だが匙は一歩も引かない。何度吹き飛ばされようが立ち上がり、攻撃の手を休ませない。

「夢を馬鹿にした連中を見返すためにも、俺達の本気を見せるためにも、お前を超えていく!!」

何度聞かされたか分からない言葉が匙の口から飛び出す。不意に夜明は攻撃の手を止め、軽くため息を吐いた。

「さっきから黙ってりゃ夢夢夢夢……うるせぇんだよ!!!!!」

匙の一撃を避け、床を這うようなアッパーカットを繰り出す夜明。夜明の拳は狙い過たず匙の顎を打ちぬいた。数秒の間、宙を舞い、匙は床へと叩きつけられる。ふらつきながら立ち上がろうとする匙に追撃をかけず、夜明は『英雄龍の鎧(アンリミテッド・ブレイド・スケイルメイル)』を解除した。

「夢を馬鹿にされた? そりゃ悔しいだろうさ。笑われれば必死にもなるだろ……一つ聞かせろ、匙。お前等の掲げた夢ってのは、人の夢を馬鹿にしたり笑ったりするような下らない奴等に否定されたくらいで折れるほどやわなものか?」

一瞬、匙の動きが止まった。違うだろ! と夜明は唾を飛ばしながら叫ぶ。

「どれだけ必死なのかはお前の攻撃から全て分かる! 夢に対してどれだけ真剣なのかも!! 命を懸けるほどの覚悟があるなら一々喚くな!! 黙って示せ!! 叫ばなけりゃお前の覚悟は伝わらないのか? 喚かなきゃお前の覚悟は示されないのか?」

一度言葉を切り、夜明は匙を見据えた。

「若手悪魔の顔合わせの日、夢を笑われても会長さんが何も言わなかった理由が分かるか? あの人には絶対の意思があったからだ。例え誰に否定されようが笑われようが、自分の夢を実現させるって不屈の意志がな……会長さんを支えるお前がぎゃあぎゃあ喚いて、そんな様でどうすんだよ。男なら黙って行動で示せ」

そっちの方がいかしてるぜ、と夜明はにやっと笑う。

「惚れた女の夢を絶対に叶えるんだろ? もっと格好つけていけよ」

「月光……俺は……!」

立ち上がり、何か言いかけるが匙はそこから先を口にしなかった。言葉など要らない。ただ、胸のうちにある覚悟を示すだけだ。匙はゆっくりと拳を握り締める。そこに覚悟を込めるように。不意にボッ、と匙の右腕の神器に黒い炎が灯った。

『所有者の覚悟に呼応してヴリトラが目覚めようとしている』

ブレイズハートの呟きに夜明はアザゼルの言葉を思い出す。

『やっぱりドラゴン系の神器(セイグリッド・ギア)は面白い。宿主の感情次第で様々な姿に変化していく』

(おっかねぇ限りだな)

微かな苦笑を唇に浮かべつつ、夜明も右手を拳の形にする。こちらも蒼銀のオーラを揺らめかせていた。

「「……」」

無言で視線を交わす両者。僅かな沈黙の後、同時に床を蹴って飛び出す。

「匙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!!!!!!!!!!」

「月光ぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!」

繰り出された二人の拳はクロスカウンターよろしく相手の顔面を捉えた。凄まじい威力の一撃が互いの頬を貫く。二人はクロスカウンターの体勢のまま、互いから視線を逸らさなかった。不意に匙の瞳から光が失われる。

「悪いな、匙」

ずるずると倒れる友人に夜明は拳を下ろしながら宣言する。

「今回は俺の勝ちだ」









まずは謝罪をば。一ヶ月近く放置してすみませんでした。その割には話の内容のクオリティが酷いですが……。とりあえず言い訳。ここ二週間くらい、ずっとインターネットが繋がらなかったんですよ。無線は勿論、有線でも駄目っていうね。つい先日、ようやっと直ったんで投稿しました。これからぼちぼちやってくんで、読んでいただけると嬉しいです。

後、一つだけ質問、この作品の太陽ってうざいですか?

では、次の投稿で会いましょう、サザンクロスでした。

-63-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




ハイスクールD×D 13【BD付限定版】 イッセーSOS (単行本)
新品 \0
中古 \9915
(参考価格:\4725)