小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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         『名乗り上げって大事だよね? よね!?』





『ソーナ・シトリーさまの『兵士(ポーン)』一名、リタイヤ』

光と共に消えていく匙。流れるグレイフィアのアナウンスを聞きながら夜明は無言で匙を殴った拳を握り締める。

「(夢、かぁ……)なぁ、小猫」

ゆっくりと夜明は振り返る。微笑を浮かべているが、その手はまだ固められたままだった。

「あいつの拳、重かったよ……やっぱ格好良いな、誰かのために必死になれる奴って」

「夜明先輩……」

小猫は夜明に歩み寄ると、きつく握り締められた拳にそっと手を添えた。それから笑顔を浮かべ、夜明を見上げる。

「……夜明先輩も格好良かったです」

「……そっか」

はい、と小猫は頷いた。パン! と両手で頬を叩き、夜明は気合を入れ直す。先に進もうと一歩を踏み出したが、急に視界が暗転しその場に膝を突いた。駆け寄ってきた小猫に大丈夫だ、と手で応えながら夜明は自分の身体に繋げられたラインを見る。いきなり真っ暗になった視界、力が思うように入らず、小刻みに震えている身体。

(そういうことか……)

やってくれるぜ、と夜明は苦笑いを浮べながら立ち上がる。多少、ふらついてはいるが、足取りはしっかりとしていた。

「……先輩、大丈夫ですか?」

「あぁ。即行で決着をつければモーマンタイさ」

(ま、裏を返すとさっさとしないと危ないんだけどな)

にゃはは、と夜明が笑って見せたその時、通信機に連絡が入る。リアスからだ。相手の本陣に向かって進み始めたとのこと。決着は近い。夜明と小猫は顔を見合わせて頷き、決戦へと赴いた。














ショッピングモール中央広場。買い物客が休む場所のようなものだ。円形に配置されたベンチ、その中央には時計のついた柱。そして柱の目の前には敵の『王(キング)』であるソーナ・シトリーの姿があった。

「御機嫌よう、月光夜明君、塔城小猫さん。それが英雄龍の禁手ですか」

「大将自らご出陣ですか? 大胆なこって」

「リアスの眷属である貴方が言えた台詞ですか?」

違ぇねぇ、とソーナの冷徹な物言いに夜明は苦笑いを浮かべる。ソーナは結界の中に立っていた。発生させているのは『僧侶(ビショップ)』二人。その内の一人が夜明から伸びたラインと繋がった何かを持っていた。

(予想通り、ってか)

己の予想が悪い方向に当たり、夜明は静かに舌打ちする。少しすると、『女王(クイーン)』の真羅が姿を現した。更に遅れて太陽達三人もやって来た。太陽の左肩から先がないのを見て、夜明と小猫は揃って魂消る。最後にリアス達が中央広場に到着した。

「太陽! ……どうせ大丈夫ね。ソーナ、中央に出てくるなんて大胆ね」

「お前が言えた義理か?」

厳しい表情のリアスに太陽は茶化すような声音で軽口を叩く。左腕がない状態を大丈夫の一言で片付けられたのが気に障ったのか、口調は多少意地が悪かった。

「部長、ギャスパーは?」

「ニンニクトラップでダウン中。今はここからすぐ近くにあるベンチで寝てるわ」

いくらヴァンパイアとはいえ、ニンニク如きでダウンしてしまったギャスパーに思うところがあるのか、リアスは微かなため息を漏らす。

「ギャスパーのことは後回しだ。ってか夜明。お前のそれ何だ? 新手のファッションか?」

太陽が夜明の身体から伸びたラインを指差す。あぁ、これか? と夜明はラインを軽く持ち上げて見せた。

「ちょっとした意地の張り合い」

その言葉と同時に夜明は額に手をやった。身体はふらつき、目の焦点があっていない。

「夜明?」

いの一番にリアスが夜明の変化に気づく。続いてアーシアが『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で夜明を回復しようとしたが、夜明本人がそれを制した。

「無駄だよ、アーシア。これはお前の『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』じゃ回復できない。フェニックスの涙でも無理……でしょ、会長さん?」

「分かっていたんですか?」

この感覚とは友達なもんで、と夜明は冗談めかしながら笑って見せ、不意に視線を鋭くさせた。その視線が向けられるのは『僧侶(ビショップ)』の一人、彼女が持っているラインと繋がったパックのようなものだった。中身は血のように赤い。というよりも、それは血そのものだった。

「とにかく俺は諦めが悪い。どんだけぶちのめそうが何度ぶっ飛ばそうが立ち上がる、しつこい油汚れみたいな野郎だ。ダメージによる正攻法で倒すのは難しい、難しいというか時間がかかる。だったら正攻法以外のやり方で倒せばいい。例えば、ラインで血を抜き取ったりとかな」

所詮、俺は人間ですしね、と夜明は肩を竦める。

「人間は体内の血液の半分を失うと死に到る。転生悪魔にすらなっていない俺ならその弱点は他の連中と比べてより顕著になる。戦闘不能状態になれば眷属は強制的に医療ルームに転送されるからな。着眼点は見事ですよ、会長さん……ところで知ってます? このゲームが始まるまでの間、俺が龍王のタンニーンに鍛えられてた事?」

「……何が言いたいんですか?」

夜明の心意を測れず、ソーナは僅かに眉根に皺を寄せる。他の皆も戸惑いの表情を浮べていた。周囲の者の困惑に構わず、夜明は言葉を続けた。

「いやぁ、これが思いの外きつくてですね。修行を開始し始めた頃なんて特に酷かったですよ。身体の一部分を消し飛ばされたのも一度や二度じゃない」

その状態で何時間も戦わなきゃいけないこともね、と夜明は意味ありげに口角を吊り上げる。夜明の話を聞いたソーナはある考えに到達し、表情を剣呑な物にさせた。ソーナの思考を肯定するように夜明は片手を突き出し、赤い液体を球状に創造する。それは紛れも無く血だった。

「血液を創造できるようになること。それがタンニーンとの修行で俺が生き残る最低条件だったんですよ」

身体の一部を失った状態で修行なんてすれば、相当な量の血を失うだろう。まして、それが龍王との修行となれば尚更だ。だからこそ、夜明は血の創造を容易に出来るようになった。

「身体の一部と一緒に血液を創造するのは前からやってるから慣れてるんですよ。でも、今回は血だけを抜き取られてるからそういう訳にもいかない。こうやって目の前で創るってんならともかく、体内、それも血管の中でピンポイントでやらなきゃならないとなると、少しずつしか創れませんから」

オマケに創るよりも抜き取られるほうが早いと来てる、と夜明は盛大にため息を吐きながら肩を竦めた。

「そこまで分かっていて、何故、ラインごと腕を切り落とさないのですか? 貴方なら腕を切り落としてから創るなんて造作も無い事でしょう」

訝しげに問うソーナに夜明は言ったでしょ、と苦笑いする。

「意地の張り合いだって。こいつは俺と匙との意地の張り合いなんですよ。あいつが俺を戦闘不能にするのが先か、それとも俺がゲーム終了まで生き残ってるか。あいつがあそこまで俺に食い下がってたのも、時間稼ぎだろうし」

ならば、その覚悟と挑戦を真正面から受けるのみ。それが友として、男としての最大限の礼節だと夜明は思っている。

「ま、あえて一つだけ言っておきましょう……血を失ったぐらいで俺が倒れると思うな。その程度でリアス・グレモリーの翼は折れない」

血の気を失って青くなった顔の中で強い光を湛えた瞳が輝く。夜明の鋭い眼光に射抜かれ、知らずソーナは唾を飲んでいた。

「貴方、一体何者?」

ソーナの問いに夜明は待ってましたと言わんばかりにポーズを取る。それも前々から用意していました、と言わんばかりに迷い無い動きだ。

「勇気凛々、主を傍で守護するドラゴン、月光夜明だ!!」

高らかに響く名乗り上げ、吹き抜ける一陣の寒風。時が止まったかのように一同は動かない。嫌な沈黙の中、祐斗が一番最初に口を開いた。

「……夜明、何それ?」

「……いや、俺この間、禁手(バランス・ブレイカー)会得したじゃん? それが男の子の夢、変身だったからさ。やっぱ、ヒーローみたいに名乗り上げしながらやった方がいいかなって……」

ほら、俺って英雄龍じゃん? と夜明は顔を真っ赤に染めながら言う。しかし、今のをやって心の底から後悔しているのか、声はどんどん尻すぼみになっていった。そこに太陽の止めの一言。

「と言うか、今のはいくらなんでも無いだろ。はっきり言って……格好良くない」

「ごふぅ!!」

太陽の言葉の刃に胸を貫かれ、夜明は大量の血反吐をぶち撒けながらその場に倒れ伏した。うつ伏せの状態のまま、しくしくと泣き始める現英雄龍(笑)。

「分かってたんだ、分かってたんだよ……自分でもこれは無いかなって。でも、何か叫びながら変身するのって男の子の夢じゃない浪漫じゃない!!」

『だとしても今のは無い』

グレモリー、シトリー全員に突っ込まれ、夜明は真っ白な灰と化していた。良く見ると、口から何か白い魂的なものがはみ出ている。

「あ、もう無理。今ので折れた。俺の心、折れちゃった」

「そんなことで折れてどうするの! 全く……アーシア!」

リアスの指示を受け、アーシアは夜明を回復させるために傍へ駆け寄ろうとするが、太陽がそれを制した。

「待った。今、下手に夜明を回復させると反転(リバース)でダメージに変えられるぞ。やるなら、反転要員を潰してからだ」

言いながら、太陽は視線を真羅に向けた。

「長刀は私が倒す。そっちの二人は朱乃、お前がやれ」

太陽の指名に朱乃は驚いたような表情を浮べる。微かに笑みを浮かべながら太陽は祐斗とゼノヴィアに助け起こされている夜明を顎で示した。

「夜明に良いとこ見せるんだろ? しっかりやれよ」

片目を瞑り、ゴッドイーターを構える。

「左腕の借り、返させてもらうぜ」

「かの『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』に二度も銃口を向けられる日が来るとは思ってもみませんでした。いいでしょう、今度こそ貴方を倒してみせます」

太陽の指が連続でトリガーを引く。立て続けに放たれた魔弾を全て避け、真羅はデパートの奥へと走っていった。太陽は右手だけで器用に弾倉をゴッドイーターに込めながら真羅の後を追う。一方、朱乃は、

「夜明君」

名を呼ばれ、祐斗とゼノヴィアに左右から支えられながら夜明は顔を上げた。視線の先では朱乃が黄金のオーラと雷を放っている。夜明と視線が合うと、朱乃は少し儚げながらも毅然とした笑みを浮かべた。

「私のこと、見てて下さい」

「……はい!」

力強く頷き、夜明は己の脚だけで立つ。ラインに血を抜かれ続け、立っているどころか意識を保っていることさえ不思議な状態だ。それでも夜明は朱乃の覚悟を見届けるために己の脚だけで身体を支える。

「行きます……!」

朱乃の両手から大出力の雷が放たれ、シトリーの『僧侶(ビショップ)』二人に向かって襲い掛かる。直撃の瞬間、『僧侶(ビショップ)』二人は『反転(リバース)』で朱乃の雷を返そうとするが、雷は反転することなく『僧侶(ビショップ)』二人を飲み込んだ。

「今のは雷光。雷だけを『反転(リバース)』させても意味がない。光も『反転(リバース)』させなければ力は覆らない」

『ソーナ・シトリー様の『僧侶(ビショップ)』二名、リタイヤ』














横薙ぎに振り抜かれた長刀を姿勢を反らすことで太陽は真羅の一撃を避けた。その体勢のまま腕を伸ばし、ゴッドイーターを真羅の顔に突きつける。

「くっ!」

太陽が弾丸を放つよりも早く真羅は首を逸らす。銃口から吐き出された魔弾は真羅の頬を掠めるだけに留まった。大きく後ろに下がる真羅。太陽は姿勢を戻しながら二発、弾丸を放つ。真羅は両手で長刀を回し、柄で魔弾二発を受け流した。

「やるねぇ!!」

ゴッドイーターのグリップから抜き出した空の弾倉を蹴り飛ばす。放たれた矢のように飛んだ弾倉は真羅の額を直撃。真羅が怯んだ隙に太陽は間合いを一気に詰めた。

「そらぁ!!」

跳躍し、宙で体勢を捻る太陽。縦回転の蹴りを予想した真羅は長刀を頭上にかざして防ぐ構えを見せる。予想通り、太陽は回し蹴りを放った。しかし威力は真羅の推測を遥かに上回り、太陽の蹴りは長刀を真っ二つにへし折る。そればかりか、衝撃で真羅を打ち上げた。

「なっ……」

浮き上がった真羅の腹部に太陽は叩き付けるようにゴッドイーターの銃口を押し付け、引き金を引いた。撃ち出された魔弾は一直線に真羅の体内を貫く。身体が地面に落ちる前に真羅の身体は光と共に消えた。

『ソーナ・シトリー様の『女王(クイーン)』一名、リタイヤ!』

「借りは返したぜ……これで、残りはソーナだけか」

ゴッドイーターを異空間に戻しながら太陽は軽く息を吐き出す。

「文字通りの大将対決、か。リアの修行の成果、見せてもらうか」

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