小説『ハイスクールD×D 不屈の翼と英雄龍』
作者:サザンクロス()

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                『新たな『僧侶』 夜明の決意』




「おーい、起きなよ月光君。意外と寝坊助なんだね」

「誰が寝坊助だ誰が」

瞼を開けると、顔を覗きこんでくる木場が視界に飛び込んできた。呻き声を上げながら木場を押し退け、夜明は上半身を起こす。

「無事だったか。小猫は?」

「無事だよ。さすがに無傷とは言い難いけどね」

そうか、とホッと息を吐き出す。こんな事に巻き込んで、それで取り返しのつかない怪我をさせてしまったらそれこそ本当に申し訳がない。

「良くやったわね夜明。貴方なら堕天使レイナーレを倒せると信じてたわ」

声のした方を向くと、何故かそこにリアスと朱乃が立っていた。

「部長に朱乃さん、何でここに? って、それはどうでもいいや。部長、神器(セイグリッド・ギア)を身体から取り出す方法と入れる方法を教えてください」

「用事が終わったから魔方陣でここまでジャンプしてきたのよ。教会に跳ぶなんて初めてだから緊張したわ」

それならばリアスがここにいる理由も納得がいく。ちなみに地下の連中は? という夜明の問いには二人の素敵な微笑だけが返ってきた。

「それにしても教会がボロボロですわね。よろしいのですか部長?」

何やら困り顔の朱乃。理由を訊ねると、教会は神、それに属する宗教の所有物なので、そこを悪魔などの手によって破壊されると、報復に刺客に付け狙われることになるのだそうだ。

「もっとも、今回は堕天使が私利私欲のために利用していた上に捨てられた場所だから大丈夫でしたけど」

なるへそ、と夜明が納得していると小猫と太陽が現れた。

「部長、持って来ました」

「こっちも回収完了と。しっかし、目覚めて間もないってのに神器(セイグリッド・ギア)を創造するとは……末恐ろしい奴だな」

小猫は気絶したレイナーレを、太陽は夜明が創った紅い魔槍を運んできた。太陽は魔槍を掴んでるのとは逆の手に何か持っているが、夜明の場所からは上手いこと死角になっていて見えない。

「ありがとう小猫、太陽。それじゃ、起きてもらいましょうか。朱乃」

リアスの指示を受け、朱乃は魔力で水球を作り出し、床の上に転がっているレイナーレの顔へと落とした。

「ゲホッ、ゴホッ!」

水球が直撃し、レイナーレは激しく咳き込みながら意識を取り戻す。ゆっくり目を開いたレイナーレが最初に見たのは自身を見下ろしてくるリアスの姿だった。

「ご機嫌麗しゅう、堕天使レイナーレ」

「グレモリー一族の娘か……」

「リアス・グレモリーよ。短い間だけど、お見知りおきを」

笑顔のリアス、それを睨むレイナーレ。そうやって両者は長いこと黙っていたが、レイナーレが嘲笑を浮かべる。

「してやったりと思っているんでしょうけど残念。今回の計画、上には内緒にしてあるけど私に同調して協力してくれる堕天使はいるわ。私が危うくなった時、彼らは」

「その彼らってのはこいつらのことか?」

横から割って入った太陽がレイナーレの目の前に何かを転がす。それは脊髄ごと身体から引っこ抜かれた男の頭だった。その中には以前に夜明を襲ってきた者も含まれていた。太陽の言い方から察するにレイナーレの協力者だった堕天使なのだろう。ひっ、と息を呑んだレイナーレに太陽は笑顔で告げる。

「カラワーナ、ドナーシク、ミッテルトだったか? 中々の狗っぷりだったぞ、お前の仲間は。拘束制御術式三号を解除する必要も無かった。無様に命乞いをしてきたから脊髄ごと頭を引っこ抜いてやった」

そこで笑顔を引っ込め、太陽は旧友を懐かしむような表情を浮かべた。

「私はな、天使達のことはそこまで嫌いじゃないんだ。連中は神の犬だ、だが揺るがない。主のために動く姿は犬は犬でも誇り高き狼を連想させる……でもだ」

表情を一変させ、レイナーレの髪を掴んで上を向けさせる。

「お前ら堕天使は反吐が出るほど嫌いだ。主を裏切り、捨てたお前等は狗だ。いや、狗畜生以下の存在だ」

言いたい事を言い終えたのか、太陽はレイナーレの髪を放して鼻を鳴らす。

「流石は『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』と言うべきかしら?」

「何、『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』には劣るさ」

リアスの賛辞に太陽は愉快そうに喉を鳴らす。二人は示し合わせたように夜明を見た。

「三対の翼……まさかとは思っていたけど、やはりそうだったのね」

「夜明、お前が堕天使(これ)に勝てた最大の理由が分かった。お前の神器(セイグリッド・ギア)はただの神器(セイグリッド・ギア)ではない」

太陽の言葉にレイナーレ含め、皆が怪訝そうに眉を上げる。

「『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』、神器(セイグリッド・ギア)の中でもレア中のレア。蒼、白、蒼銀の翼。そして武器を創造するという力が何よりの証拠よ。貴方も名前くらいは聞いた事あるでしょ」

リアスの言葉にレイナーレは表情を驚愕に染めた。

「あ、アンリミテッド・ブレイド……『神滅具(ロンギヌス)』の一つ。世界すらも創造するといわれたあの忌まわしき神器(セイグリッド・ギア)がこんな子供に……!」

「言い伝えの通りなら飛行能力はあくまでオマケ、万物を創造するのが『英雄龍の翼』の能力。神器(セイグリッド・ギア)さえも創造し、世界をも創り出す。神をも超えた禁忌の領域に足を踏み入れる許可証……お前もこの神器(セイグリッド・ギア)を知ってるだろ? 刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルグ)、心臓を貫いたという結果を作り出してから放たれる殺傷能力抜群の神器(セイグリッド・ギア)さ」

手の中でくるりと紅い魔槍、ゲイ・ボルグを回す。

「……とんでもねぇシロモノだな、俺の神器(セイグリッド・ギア)は」

「ま、まだ世界を創造するのは無理だろうけどな。神器(セイグリッド・ギア)だってそう長い時間、保っていられる訳でもない」

太陽の言葉を肯定するようにゲイ・ボルグは手の中で霧散し、粒子となって儚い光を放ちながら散っていった。昇っていく魔力の粒子を見送りながら、夜明はゲイ・ボルグを創造した時の感覚を思い出し、忘れない事を誓う。

「まぁ、扱いが難しいのも確かね。『英雄龍の翼』は物を創造するのに高い集中力が必要な上に莫大な魔力を消費するから」

「そうなのか……あの、部長。ありがとうございます、俺を月光夜明(おれ)でいさせてくれて」

深々と頭を下げる夜明をリアスは愛おしそうに撫でた。

「夜明、私の眷属、私の兵士(ポーン)。貴方は貴方でありなさい。例え、私と対立する事があっても。部室で私に啖呵を切った貴方の姿は心と身体が震えるほど気高かったわ」

「……はい! って、そういやあの変態白髪野朗はどこに行ったんだ?」

「あいつならどっかに行ったよ。これを残してね」

木場から一枚の紙を受け取り、夜明は紙を開いた。そこにはただ一言、血文字でこう書かれていた。

「『次は殺す』か。はっ」

鼻を鳴らして夜明は紙を握り潰す。部下でフリードが自分を見捨てて逃げたのが信じられないのか、レイナーレは呆然とした表情を浮かべている。

「さて、それじゃ後始末と洒落こむか」

「そうね」

バキボキと指を鳴らす太陽、周囲に破滅の紅い魔力を纏うリアス。『深紅の死神(スカーレット・デスサイズ)』と『紅髪の滅殺姫(ルイン・プリンセス)』に睨まれ、レイナーレは哀れさを感じるほどに震えていた。レイナーレの視線が夜明に移る。途端、媚びたような、甘えるような表情を作る。

「助けて夜明くん! この悪魔が私を殺そうとしてるの! 貴方のことを愛してるわ、だから一緒にこいつらを倒しましょう!」

「……って言ってるけどどうする?」

木場に促され、夜明は言い放ってやる。

「消え失せろ、存在すら残さずにな」

「だそうよ……私の下僕に言い寄るな」

「お前に夜明は高嶺の花だ。諦めるんだな」

表情を凍りつかせたレイナーレに二人の魔力が襲い掛かった。堕天使は存在諸共呆気なく消し飛んだ。レイナーレという堕天使が存在していたという名残の黒い羽すらも、太陽の手によって掻き消された。














「って、ぶっ殺せば普通に神器(セイグリッド・ギア)を取り出せたのかよ。あれこれ考えて損したぜ」

さっきまでレイナーレが存在していたところに淡く輝く光球が浮かんでいた。儀式での光景を見ていたので、すぐにそれが神器(セイグリッド・ギア)だと夜明には分かった。光球を手に取り、夜明は笑顔で一同を振り返る。

「こいつをアーシアに返してやれば生き返って万事解決ですよね?」

夜明の問いに答える者はおらず、皆一様に沈痛そうな表情を浮かべていた。

「どうしたんだよ、そんな面して」

「夜明、あの」

言い淀むリアスに代わって太陽が口を開いた。

「夜明。そのシスターはもう死んでいる。神器(セイグリッド・ギア)を戻してあげても、生き返る訳ではないんだ」

え、と夜明の顔が凍りつく。

「な、何言ってんだよ? 神器(セイグリッド・ギア)を引き抜かれたんだから死んだんだろ、アーシアは? だったら、神器(セイグリッド・ギア)を戻してやれば生き返るんじゃ」

「夜明。どんな理由にしろ、死んだ人間は生き返らないのよ」

諭すようなリアスの言葉。愕然とした表情で立っていた夜明はゆっくりとアーシアが寝かされている長椅子へと歩いていった。跪き、穏やかなアーシアの死に顔を撫でる。

「こいつの夢って何か知ってますか? 友達と花を買ったり、本を読んだり、喋ったりすることがアーシアの夢なんです」

誰も何も言わない。

「俺、アーシアと約束したんです。綺麗な花を置いてる花屋を紹介してやるって。お勧めの古本屋にも連れて行ってやるって」

「……そうか」

「俺、アーシアに言ったんです。夢を全部叶えてやるって。アーシアの試練も終わらせるって。アーシアを取り巻いているクソみいてぇな状況もぶっ壊してやるって……俺は、俺は……」

肩を震わせながら夜明は搾り出すように囁いた。

「俺、こんなに自分が情けないの、生まれて、初めて、です……」

歯を食い縛り、声を押し殺して泣く夜明。涙がアーシアの顔へと落ちていく。不意に暖かく柔らかな感触が夜明けを包んだ。

「泣かないの。貴方は本当に良く頑張ったわ」

震える夜明を抱き締めながらリアスはあるものを取り出す。

「夜明、これが何か分かる?」

「これは……『僧侶(ビショップ)』の駒?」

目の前に出された、血のように紅い駒。

「説明するのが遅れたけど、爵位持ちの悪魔が手に出来る駒の数は『兵士(ポーン)』が八つ、『騎士(ナイト)』、『戦車(ルーク)』、『僧侶(ビショップ)』が二つずつ、『女王(クイーン)』が一つの合計十五よ。前にも話したとおり、私にはもう一人の『僧侶(ビショップ)』がいるけど、もう一つだけ『僧侶(ビショップ)』の駒があるの」

「『僧侶(ビショップ)』の力は眷属の悪魔をフォローすること。まぁ、このシスターの神器(セイグリッド・ギア)は『僧侶(ビショップ)』にピッタリだわな」

リアスが何をする心算なのかを察した太陽は夜明を長椅子の傍から退けた。

「手伝ってちょうだい、太陽」

「あいよ、我が主っと」

リアスが『僧侶(ビショップ)』の駒をアーシアの胸の上に置く。それに合わせ、太陽は両手を合わせて膨大な魔力を放ち始めた。そこにリアスの魔力も加わり、聖堂内が紅に染め上げられる。駒と一緒に神器(セイグリッド・ギア)がアーシアの体内へと沈んでいく。夜明はその光景を唖然としながら見ていた。

「……ふぅ」

紅い魔力が収まり、静寂を取り戻した聖堂内に小さな息を吐き出す音が流れた。少しして、アーシアの瞼がパッチリと開いた。

「あれ?」

アーシアの声。もう二度と聞こえぬはずの声に夜明はその場に突っ伏し、声を出さないで泣いていた。

「悪魔をも回復させるその力があったからこそ、私はその子を生き返らせた。ふふ、守ってあげなさい、夜明」

「ほれ、泣いてないでシャッキリしろ」

太陽に起こされ、夜明はアーシアを抱き締めた。

「え、夜明さん?」

「お帰り、アーシア」














後日、夜明は部室でリアスからある話を聞かされていた。それは夜明を眷属とする際にリアスが消耗した『兵士(ポーン)』の駒の消費した数の事だった。

「貴方を私の『兵士(ポーン)』にした時、八つ全ての駒を消費してしまったわ。対象の能力次第で消費する駒の数は変わるのよ。『兵士(ポーン)』が全部無くなった時、貴方を絶対に私のものにするって」

「はぁ……」

それもこれも、全てこの身に宿る『英雄龍の翼(アンリミテッド・ブレイド)』の所為だろう。ため息を吐きながらも、夜明は今の状況に不満を感じていなかった。リアスや太陽達といるのは楽しいし、何よりっこの力のお陰でアーシアを助け出す事ができた。ゆっくりと握り拳を作り、夜明はある決意を固める。

「部長。俺、最強の『兵士(ポーン)』になります。部長が胸を張って、「この人間は私の『兵士(ポーン)』だ」って言えるような『兵士(ポーン)』になります」

それが命を助けてくれた彼女に対する精一杯の恩返しだ。あら頼もしい、と笑顔を浮かべながらリアスは夜明に顔を近づける。困惑する夜明の額に柔らかい感触が生まれた。

「これはお呪いよ。これからも頑張りなさい」

固まる夜明。数秒後、自分に何が起こったかを認識して顔を真っ赤に染める。

「え、あの、え、あれ、えあっるぇ〜!!!???」

と、意味不明なことを叫んでいる夜明をリアスと一緒になってニヤニヤしながら観ているものがいた。

「おぉ〜、おぉ〜、青春だねぇ〜。そこまでしておいてやれ、リア。さもないと家の『僧侶(ビショップ)』の片割れが嫉妬で怒るぞ」

入り口でニヤニヤ笑いを浮かべる太陽。リアスは怖い怖いと言いながら太陽の後ろを見る。そこには駒王学園の制服を着たリアス・グレモリーの『僧侶』として転生したアーシアの姿があった。顔を赤くさせ、笑顔を引き攣らせている。

「え、どうしたアーシア? 何でそんな顔してんだ?」

「そ、そうですよね。リアス部長は綺麗だから、夜明さんも好きになってしまいますよね……だ、ダメ! そんなことを考えてはいけません!」

主へのお祈りポーズを取り、途端に走った頭痛にアーシアは呻く。

「アホかお前は? 悪魔になったんだから、神に祈ってダメージを受けるのは当たり前だろ」

太陽に小突かれて涙目になっているアーシアを慰めながら夜明は思う。

(こんな日常も悪くはない)

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