第十一話 ハンター試験終了×純の出会い
勇気とシャルナークの対戦が始まってから早五分、それ以外の受験者達は圧倒されていた。
最初はシャルナークの突進から始まった。いわゆる体当たりだ。勿論、相手は勇気なのでオーラをまとっての攻撃。勇気はそれよける。シャルナークもそれは予想していたのだろう、すぐさま勇気の方へとまた飛び掛り今度は足をけりつけた。勇気はすぐさま足に凝をして防御する。おおよそ人の体と体がぶつかったような音とは思えない音を場内に響かせながら二人は飛び跳ねる。その後も受験者達には全く見えない攻防をしながら五分ほど殴り合っているのだ。
勇気がこの世界に来てからはかなりの鍛錬をした。それでもここまで動けるのは不思議だろう、理由は元の世界での経験もあるからだ。若い頃は古武術をかっこいいと言う理由でやってたからだろう。恥ずかしくて純には黙っているのでばれていないだろうが。
「化け物じゃねえか……」
「私達とはレベルが違うわね」
次に戦うミカゴとゲハルにはこの攻防には全く着いていけない。二人は二回戦だ。負けたほうがこの戦いの敗者と戦う事になる。そうなった場合は相手にならないだろう。
「ねえ勇気は使わないの?」
「……発の事か?」
「うん」
「まだ未完成なんだよ。それにシャルナークだって使ってないだろう?」
「へー、それでも使ってくれない?俺まだ作ってないし参考に」
「降参してくれたらいいよ?」
「意地悪だなー」
「かがみ見てこいよ」
ふたりは殴りあいながら話している。他の受験者には何がなんだかわからない会話だろう。さりげなくシャルナークが嘘をついてるが。
実は勇気はもうすでに発を使っている。そろそろ効果が現れてくる頃だ。シャルナークの口数が段々と減っている。そして息が荒くなって咳をしているのだ。
「はぁ……けほっけほっ、俺になにかした?」
「さあ?」
シャルナークの問いをごまかす勇気。勇気がしたのは簡単だ。まだ未完成ながら砂を動かす発を使って、砂を相手の呼吸に合わせてゆっくりと肺に送り込んだだけ。これだけで相手の呼吸は難しくなる。それに加えて現在はかなり体を動かしている状況だ。酸素消費量もかなり高い。今のシャルナークは無酸素運動を常にしているようなものだ。普通なら体も重く動かしにくいだろう。ここまで動けているのはシャルナークのポテンシャルが高いおかげだ。
「降参しない?」
「うわぁー、げほ……性格、わっる!」
「シャルナークほどじゃないよ!」
二人の動きは現在止まっている。シャルナークの息継ぎが響いていいるのみだ。シャルナークとしては何をされたのかわからないと言うのは怖い。
「ふう……降参」
その宣言に審判は勇気のハンター試験合格を告げる。勇気とシャルナークは闘技場からでてくる。同時に砂を操りシャルナークの口から出す。ゆっくりとばれないように少量ずつをだ。ネテロや他のパリストンは気がついたが言わない。受験者は何か訝しげな表情をしたが勇気が闘技場から出てくるとミルバがそっちによって「すごかったです!」といって色々とはなしかけている。
「シャルナーク大丈夫か?」
「酷いなー、何したんだか教えてよ?」
「秘密、本当にまだ未完成だしね」
「んー……」
シャルナークは考え込んでしまった。自分がやられた事が気になるのだろう。勇気の能力はいまだ未完成だが操る砂の量と反比例して操作性が悪くなっていく。今回はかなり少量をこっそりとシャルナークの呼吸に合わせて操作したのでかなり精密操作ができていた、そのため今だ未熟なところの多いシャルナークではわかりにくかったのだろう。未来のシャルナークであれば見破っただろうが。
試験は進んでいく。ミカゴとゲハルの戦いは双方がナイフ使い。熟練度の差でミカゴの勝利となった。双方ともシャルナークとの対戦がよほど嫌なのか鬼気迫るものがあった。
第三試合はミチアとミルバの戦い。ミチアは篭手を使い相手の武器を流しながら戦い、ミルバは少し大きめの鉈を振り回して戦っている。ミルバのもう甲を防ぎすんでのところでミチアの勝利となった。
第四試合のシャルナークとゲハルはすぐさまゲハルが降参をして次の勝負にかけることにした。
最終試合はゲハルとミルバとなった。だがゲハルはミカゴとの勝負でかなり傷を追い、血を流しすぎていたため体力消費などの面で不利な戦いとなりミルバの勝利となった。
「第279回ハンター試験、最終試験合格者五名、ハンター試験合格!これにて今回の試験は終了となる!」
勇気のハンター試験は合格で終わった。
「あんた誰だよ!」
いつものように森で修行をしていた俺。修行場に来ると見知らぬ人と会ったのだ。見た目は砂漠を渡る様な外套とターバンを巻いている無精ひげを生やした男だ。ついでにグリアさんとシズクは家でのんびりと過ごしている。
「物騒なガキだなー」
「何の用でここに来たんだ?!」
俺は目の前の不審者を警戒する。今は俺以外家に男子がいないし、ちっぽけなプライドだが男が女に守ってもらうと言うのはなんとなく嫌だ。それにある程度強くなったせいか目の前の男には俺は絶対にかなわないとわかる。今現在の俺では隔絶した実力だ。恐らくグリアさんでも無理だろう。
「いや、俺は別に危害はくわえねえよ!」
「んなこと信用できるか!」
「んー俺は道に迷っただけなんだがな……」
ぱっとみ相手に害はないように見える。それに暴れられたら俺は絶対に勝てない。
「街ならあっちにあんぞ」
俺は町のほうに指を差す。
「んー、できればのどが渇いたんで水でもほしいんだが」
「ずうずうしいな!」
「それに俺は怪しいもんじゃねーよ、ジン・フリークスってんだ。ジンって呼んでくれ」
一瞬時が止まったように感じる。なんでこんなところにいるだってばよジンさーーーん。
「もしかして、プロハンターの?」
「おお、よくしってんな」
「べつに」
まあこの人がジンだとしたら確かに害はないな……。むしろこの人に念を習えば強くなるよなー。まあそれはできたらていいや。
「水ならいいよ別に……」
「おぅ、悪いな!」
そのままジンを連れて家まで行く。説明をどうしようか悩むな……。明らかに不審者だものなジンは。俺は原作を知っているから多少なりともその人となりを知ってるからいいけれど、グリアさんはわからない。まあ水をあげればいいだけか。
「ついたよ」
「おう!ん?ここって……」
何か思案し始めるジン。
「ちょっと待ってて、水取ってくるから」
そのまま玄関のドアを開ける。今現在はシズク用になっており百キロほどだ。
グリアさんはリビングでテレビを見て、シズクはソファーで小説を読んでいる。
「あら、早かったのねジュン?」
「いや、ちがうよ、道に迷った人がいてさ、水がほしいって言う人が来てるんだ」
「……その人は大丈夫なの?」
「プロハンターだし大丈夫だと思うよ?ジン・フリークスってひとでさ」
「まあ、ジンさんが!?」
そう言って玄関に行ってしまったグリアさん、知り合いだったのだろうか?
リビングまでジンを連れてきたジンさんは飲み物を出して話している。シズクは俺のそばに引っ付いている。知らない人だから警戒しているのかもしれない。
「いや、グリアが子供と暮らしてるなんてな」
「うふふ、半年くらい前から一緒に住んでてね」
「へえ」
色々と話し込んでいるようだ。なんでもおじいさんの頃からの除念のお客さんとして来ているとのことだ。顔が広いなジン。
そうだ!もしかしたら修行の相手をしてくれといったらしてくれるかもしれない。
「なあ、ジン」
「どうしたジュン?」
「俺と組み手してみてくれないか?あと念の相談がしたいんだ」
「んー、別にいいぞ」
意外とあっさり決まった。いやジンの性格ならこんなもんだろう。
ジンを連れて先ほどいたいつもの修行場に来る。
「いつでも来な」
そう言ったジンは限りなく自然体だ。体に力みの一つもなく構えもない、だが何処に攻撃しようとも全く通用する気がしない。それでも攻撃しなければ進まない。
「ふっ!」
脚力を強化して飛び掛る。しかし身長差があるのでどうしても低い攻撃になる。ならいっそとジンの足をすくう様な蹴りをする。堅の状態でだ。
「甘いな、俺のほうがオーラ量が多いんだからそれじゃだめだ」
その言葉のとうりに足をオーラで覆うジン。砂鉄袋を蹴りつけたような感触が足に響く。堅してこれかよ!ならばと片手で地面に立ち逆の足で相手のわき腹を狙う。
「遅い、連撃をするならもっと早く、相手の功防力移動や凝の速さ以上でやらなければ意味がない、もしくはフェイントをかけたりして相手の虚をついたりな」
こっちのめいいっぱいの攻撃すべてを受けて顔色一つ変えないジン。ありないだろう!これが世界で五指に入る念能力者か!
「今度はこっちから行くぞ」
そう言って仕掛けてくるジン。一瞬で俺に肉薄する。ジンが手を動かしたのを眼の端に捕らえるが何をするのかわからない、とっさに腕をあげて防御をする。流や凝が追いつかないのでただの堅になってしまうがしかたがない。ただのパンチのはずなのに腕がきしむ!
「やめだ」
ジンの一言で俺の緊張が途切れる。俺はその場で膝をつき汗が噴出し息が荒くなる。
「全体的に練度が足りない。反応速度は悪くないが一番は経験不足だな」
正直言って多少は食いつけるとうぬぼれてた!だが実際には手も足も出ない。悔しい。だがそれでこそ世界最強クラスなのだろう。凝、流、オーラの量、何をとっても勝てる要素はない。でも一発くらいは入れたかった。これは鍛錬と言う形だったから態々けりを受けてくれたのだろう。実際ならよけて背後に回って一撃を食らわせるようなさがある。
「まあ気を落とすなよ。俺は強いからなしょうがない」
嫌味に聞こえるが不思議と嫌な気持ちにならない。これがジンのなせる人徳なのだろうか。
その後は念についての質問等をして家に帰った。色々と役に立つような事だ。グリーンアイランドの事も聞いた。
ジンは結局水と夕飯を食べたその日のうちに出て行った。ここには本当に迷ってきたらしい。だがここで俺は色々と悩んでしまった。もしも俺がキメラアントをどうにかしてしまった場合、アルカの事件や会長の選挙なんてものは起こらない。その場合ゴンはジンに会えない。まああのゴンの性格からしてそのうち会う事はできるのだろう。しかしそれは絶対じゃない、それになるべくなら小さいこのうちに父親に合わせてあげたいと思う。悩みどころだ……これは今後の課題だな。
一方勇気はハンター試験終了後は講習を受けてからは、皆と分かれて携帯を買った。自分と勇気とシズクの分だ。勿論自分の携帯に最初に登録したのはグリアの番号だ。
「勇気さん!」
「ん?」
声をかけられた勇気は声のほうを振り向く、その先にいたのはミカゴ、ミチア、ミルバの三姉妹だ。声をかけたのはミルバだ。しかしさっき分かれたばかりのミルバたちがいるのは不思議だと勇気は思う。
「どうしたの?」
「ホームコードを渡しとこうと思いまして、それに携帯買ったんですよね?だったらぜひとも私の番号を最初に!」
鼻息荒く話しかけるミルバ、勇気はやや引き気味だ。なんとなく好意を向けられているのはわかる勇気。
「もう登録しちゃったんだけど……」
「えーーーー!だ、誰ですか!?」
「引かれてるじゃない……」
「初恋みたいだしねぇ」
勇気につっかかるミルバ、ミカゴとミチアがそれに反応する。
結局なかば強引に携帯の番号を交換された勇気。「絶対電話します!」と言ったミルバはミカゴとミチアに引きずられていった。