小説『親父と一緒にいきなりトリップ【H×H】』
作者:プータ()

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 第七話 暴力×救出

 街中をおおよそ尋常でない速度で走りながら純は思う。先ほどの情報屋でのやり取りは本心だが、そこにはもう一つの思惑がある。それはここでシズクを助けた場合の未来が変化するかと言う事だ。この世界は漫画の世界に酷似しているのは間違いない。原作にかかわって態々実験するよりはこういった過去に一人と接触したほうがかなりの安全に世界はどう変わるかを観測が出来るのではないかと思ったのだ。それによっては将来的にどういう行動をとったの方がいいのかというのもわかるかもしれない。場合によってはキメラアントをどうにかできるかもしれないし、出来なければ安全確実クジラ島にでも引っ込んでればいいと思っての行動だ。

 「町外れの洋館、そこがさらわれた人が届けられる場所。下手したら今夜にでも街の外につれてかれる可能性もある」

 そう情報屋から聞かされてすぐさま向かっている三人。途中すれ違う人は何事かとこちらを見るが数秒で見えなくなるので驚いている。目立つのもやむなしと走る、もしも間に合わなかった場合の事を考えてだ。
 だんだんと郊外に向かって走ると建物も少なった。ここらであれば騒がしくしても全く問題ないだろう。教えられた洋館が見えると三人は立ち止まり、洋館からは見えぬよう隠れる。
 
 「ここまでは来たけど、どうする?」
 「とりあえず取引がしたいと持ちかけるしかないんじゃないかしら?」
 「だが、そう簡単に面識の無い者たちに教えるものではないと思うが」

 純が切り出しグリアが答えるがそれを勇気が切り捨てる。勇気の言うとうり、身しらずの見るからに怪しい三人が取引がしたいと持ちかけても色々と問題がある。下手をしたら犯罪を知られたと思ってこちらに敵対してくる可能性すらあるのだ。

 「でも、結局はいくしかないんだ、だったらこのまま行って、だめならだめで……情報屋のおっさんの忠告道理にするしかないかな」
 「……私はこれでも殺人の経験はあるわ、だから禁忌感は薄いけど。二人は出来るの?」

 グリアの発言に息をのむ純と勇気。グリアはこの世界の住人だ、だから二人は心の中ではそういった可能性を思ってはいたが態々聞くことではないと何も言わなかったがこのタイミングで暴露された。それは純と勇気を思っての言葉だろう。異世界の住人たる二人にとっては殺人とは最大の禁忌、たとえそれが悪人だろうと禁忌感を感じてしまう。グリアは二人のそういった潔癖なところに気がついていたからこそこのタイミングで言ったのだろう。

 「僕は大丈夫だ」
 「俺も」

 二人はこの世界で生きると早くから決めていた。だから殺人に対する禁忌感を薄れさせるために動物を積極的に狩って見たり等、血や臓物になれるための特訓を行っていたのだ。だが抵抗感がなくなったわけではない。ここで出来なければ結局はシズクはろくな事にならない。それがわかっているから二人は覚悟を決めた。

 「だったら、行きましょう。私もこれ以上は言わないわ」

 三人は隠れていた木の中から出て館へ向かう。正面の門には特に人は居ない。だが監視カメラや高い塀などがある。グリアが門の横にあるインターホンを鳴らす。

 「どちら様でしょう?」

 インターホンから機械越しの無機質な男性の声が聞こえる。純の心臓は通常よりも早く鳴っており緊張状態なのは明らかだ。だか表情には決して出さぬように気をつける。

 「プロハンターのグリアと申します。本日はお取引がしたくうかがいました」
 「……そうですか、失礼ですが監視カメラにハンター証を掲示していただいても?」

 ハンター証を掲示すると「暫くお待ちを」と言い残してインターホンが切れる。少しすると門が開き中からスーツ姿の男性が出てくる。能力者ではないがその雰囲気は厳しく、明らかに一般人といえない体躯。身のこなしからしても荒事には慣れているのだろう。

 「お待たせしました、応接室にご案内せよとの事なのでこちらに」

 そのまま館のほうへと歩く四人。
 館の中はいかにも高そうな壷や絵画、絨毯等が引いてある。あまり品がいいとはいえない。

 「こちらに主人がおられます、武器等はお持ちでしたら預からせていただきますが」
 「何も持ってきてないわ、あくまで商談としてきてるから」
 「それは失礼を」

 さりげなく武器を取り上げようとしてくる相手を見て警戒度を上げる純。グリアはそれほど気にした様子が無いのはこういった経験の差なのだろう。現に勇気もあまり気にしていないようだ。
 男性がドアをノックする。
 
 「どうぞ」

 そのまま三人は中に入る。中は豪奢なソファーや絵画等がありかなり気合の入った内装だ。屈強な男性が三人といすに座っている高そうなスーツの男性が一人居る、屈強な男性は護衛で座っているのが上司なのであろう。

 「はじめまして頭首のビグ・リノメルドだ。こんなところまでようこそ」
 「こちらこそ突然の訪問、大変失礼いたしました。プロハンターのグリアと申します」
 「本日は取引がしたいとのお話でしたが?」
 「ええ、誘拐、詳しく言えば親と取引した子の一人を買い上げさせていただきたいと思ってうかがいました」
 「はて?何のことでしょう?誘拐とは穏やかではありませんな」

 空気が変わる。周りの護衛も明らかに身体に力が入ったのがわかる。純や勇気も心の中で準備を整えている。もし戦闘になった場合はすぐさま動けるようにだ。

 「とぼけなくてもいいです。ここに連れて来られているのも調べていますし、保護者や親類と取引しているのも知っています。誤解の無い様に言わせていただくと、摘発するつもりもあなた達に害を与えるつもりも無いのです。単純に今日の朝連れ去った子を買わせていただければいいだけなので」
 「……無理ですな」

 眼を細め威嚇するように言う男性。

 「私たちもはいそうですかと納得するわけにも行きませんし。あなた達を生かしておく得もない。それにあなた達をどう信用しろと?それにいくらハンターといえど子供づれで来た時点で私達には勝てないだろう?」

 そういった男性に合わせるように護衛の男性達が銃を構える。そしてドアからも追加で三名入ってくる。その手にもナイフと銃がしっかりと装備されていた。本物の銃など見たことの無いような純は自分になじみの無い世界のせいか緊張して口が渇いてしょうがなかった。
 
 「それにあなたのハンター証も良い値で取引が出来る、それを奪ったほうが良い値段でしょう」

 純はこれがハンターハンター(ハンター証を狩るハンター)かと心の中で突っ込んだ。これのおかげで少し緊張がほぐれた。意外と余裕があるかもしれない。

 「では、商談は不成立だと?」
 「する意味が無い。自分の浅はかさを呪ってください……やれ!」

 ビグがそういった瞬間六人が一斉に銃を発砲する。計六丁の銃の弾丸はすべて三人に命中し、薬莢と火薬の匂いが舞う。

 「な!」

 銃弾が当たった三人を見てマフィアの七人は驚愕に目を見開いていた。三人には確りと当った筈だが当の三人は無傷でたたずんでいる。

 「ど、どういったことだ?」

 護衛の一人がうろたえる。それに煽られ他の護衛も慌てている。常人からしてみれば銃弾をくらって無傷と言うのはありえない出来事だ。
 
 「何をして居る撃てーーー!」

 ビグの怒号によって慌てていたマフィアが銃を乱射する。その渇はさすがにファミリーのリーダーといえるのだろう、一瞬にして浮き足立っていたものたちが銃を構えなおし掃射し始める。だがそこまでだった。各自打ち終わったものから眼に見えて戦意が失せ顔が青ざめている。それはビグも一緒だ。全員のマガジンが空になると静寂が広がった。
 能力者である三人は銃が撃たれた瞬間に一斉に堅で身体を覆ったのだ。その防御力と言えばかなりのもの。纏の状態では銃であれば銃弾で貫く事は出来たであろうが、堅ともなれば完璧に防ぎきる。

 「純、勇気」

 そのグリアの一言が始まりだった。一瞬にして純と勇気はドア付近の護衛に踊りかかる。
 勇気は一番右の護衛に一瞬で肉薄し堅のまま顔を殴る。その衝撃で首が曲がってはならない方向に向いた。そのまま隣にも同じ事をする。純は一番左の護衛に向かってただ腹部を殴るだけだ。だが流で手にオーラを集めて殴ったせいで殴った場所が消し飛んだ。血飛沫が純の殴った方向にぶちまけられる。一方的な虐殺だった。
 終わってみればあっけないと純も勇気も思った。思ったよりも感慨も禁忌感も感じない。汚いと思ったがそれだけだ。それは恐らく相手が悪人であったと言うのもあるのだろう。マフィアともなれば人をあやめているのだろし、自分たちも銃で撃たれたところだ。
 二人がビグのほうに振り返るとそちらも終わっていた。ビグは無傷だが他三人は頭が消し飛んでいた。

 「す、すまなかった、謝るっ、か、金もやる!だ、だから命だけは!」
 
 ビグは顔を真っ青にしながらみっともなく命乞いをする。スーツの股間には水をかけたような跡がある、失禁もしているようだ。

 「そんな事はいいからさらった奴を出せ」
 「わ、わかった」

 純の言葉におびえながらも返答する。ビグからしたら化け物にでも見えているのだろう、拳一つで臓物をぶちまけるような子供なのだから。そのままビグに純は案内をさせる。
 ここで勇気とグリアはお互いに視線をあわせる。意味はお互いにわかっている。生き残りの排除だ。二人は純とはなれて屋敷の掃除に行った。二人なら円で探りながら移動すればすぐにでも他を排除できる。

 「こ、ここの地下に居る」

 ビグに連れて来られたのは何の変哲もない部屋だ。だが純が円で調べると地下があることが確かにわかる。ビグがおびえながらリモコンのスイッチを何個か押すと隠し階段が現れた。もしもビグを殺していたら面倒だったかもしれないなと純は思う。
 そのまま純はビグを先頭に階段を下っていく、一応の保険としてビグに先を歩かせる。少し歩けば階段は終わり鍵付の扉があった。美具あけさせるとベッドがいくつかあるだけの簡素な部屋だ。照明も最低限のものがあるだけ。ベッドのうちの一つにシズクは確かに居た。寝息は聞こえるのでねているだけだろう。

 「何で眠ってる?」
 「く、くすりだ、害はない」

 ビグは戦々恐々としながら答える。いつ殺されるかもわからないが言う事を聞かなければ拷問でもされる可能性もある。それならば従うしかないのだ。

 「じゃあ金は?あと取引の証拠」
 「両方二階の絵画の裏に」
 
 純は自分でも驚くほど冷静に冷酷だった。この先シズクのために必要なお金もここで調達してしまおうとするぐらいにはだ。それは脳内物質がそうさせているのか純自身が気がついてなかった自分の性格かはわからない。

 「な、ぐぇ」 

 それがビグの最後の一言だった。純が一瞬で首を捻じ曲げたのだ。せめて痛みを感じないように文字道理の瞬殺だった。
 


 純がシズクを抱えて地下からでるとグリアと勇気はすでに部屋の外に居た。

 「お疲れ」
 「その子は大丈夫なの?」
 「くすりで眠ってるだけみたい、特に怪我もしてないよ」

 勇気がいたわるように一言言う。シズクが寝ているのを見てグリアが心配したようだが眠ってるだけだと言うと安堵した表情を見せた。

 「ちょっとシズクを預かってて」
 「いいけど、どうすんだ?」
 「証拠とお小遣いとってくるよ」
 「……」

 シズクを預けられた勇気が胡散臭そうに純を見送った。当然だろう純の口からお小遣いなどと出てくるのだから。

 「純は強かね」

 グレアの一言が心にしみる勇気だった。
 その後絵画の後ろに隠された取引の帳簿などや金品をいただき屋敷を後にした。
 グリアは屋敷を出る前にもう警察を呼んでいたのか屋敷の前にはすでに何台かのパトカーがいた。その後簡単な事情聴取をその場で受けた。中の人たちが全員死亡しているのが少しばかり問題になったがグリアがハンター証を見せるとスルーされた。改めてハンター証のすごさを理解した勇気と純だった。
 それからは簡単だった、三人はその足で警察とともにシズクの保護者のところに行き証拠を突きつけた。二人は驚くほど狼狽し散々「変態」だの「ガキ」だのいいながら警察に連れて行かれた。言ってる意味はよくわからなかったが恐らく数年は収監されるだろうとの事だ。
 シズクの今後については純がこのまま放って置いて旅団に入られてもこの苦労が無駄になってしまうので、自分が面倒を見ると言った。生活費についても暫くは持つほどの金額を屋敷からいただいていたのでほぼ問題はない、足りなければ天空闘技場だ。グリアが本人に聞くのが先だといい保留となった。現在は情報屋のホテルにてシズクが目覚めるのを待っている状態だ。説得等は純に任されている。

 「純ってちゃっかりしてるよな。まさかあそこからお金をいただいてくるとは……」
 「俺は今回の事で借金しちゃったからね、速く返さないといけないと思ったらやってた」
 「そんな、気がついたらやってたみたいな……」

 勇気もかなりあきれていたが純の言っている事は正論だ。そもそも10歳の少年に100万の借金は重い。お金の重みを理解している純は借金と言うのはしたくない。なんだかんだ400万ほどくすねてきたので借金も返せたのだが。
 布団が擦れる音がするのでベットを見るとシズクが眼を開けていた。

 「ここは……?」
 「ここは俺たちの部屋だよシズク」
 「私は売られたんじゃ……」

 表情には見えにくいが少し顔をしかめるシズク。その言葉を聴いた純はなんともいえない表情だ。

 「今から説明するから聞いてほしい」

 純は子供にもわかりやすく簡単に説明した。シズクが誘拐されたのを知って個人的に調べた事、そしてシズクの場所を突き止めて助け出した事、保護者は捕まったこと。
 
 「そこでシズクに相談がある」
 「相談?」

 一編に話して通じるか純は不安だったがどうやら理解はできたようだ。シズクの方も冷静に聞けている。最も心の中では純の事をテレビから出てきたヒーローのように感じている。そのあたりは10歳の少女だった。

 「俺と一緒にすまないか?」
 「それ知ってる」
 「ん?」
 「プロポーズ」
 「それちがう!」

 シズクの偏った知識により純の言葉は勘違いされたようだ。だがグリアは噴出して、勇気は爆笑していた。

 「テレビで見た」

 どうだと言わんばかりに純を見つめるシズク。純はなんだかいたたまれない気持ちになりながらも言葉を選んで言う。

 「えっとだな、家族にならないかってことなんだ」
 「……家族は嫌」

 純は何故断れたのはわからないが冷静に聞く。

 「どうして?俺と家族になるの嫌?」
 「今まで家族って言った人は碌なことなかったから」

 それは当然だろうと三人は思った。暴力や育児放棄、果ては人身売買までされたのだ。これで信用しろというのは難しいだろう。家族という言葉に懐疑的なるのも無理はない。

 「俺達はシズクの嫌がることなんてしないよ、だから信じてほしい」

 シズクの手を両手で握り確りとシズクを見つめる純。心なしかシズクの頬が朱に染まっている。

 「……わかった」

 シズクも直感的にはわかっていた。純たちは今までの保護者達とは違うと。でも今までが今までで躊躇しただけだ。シズクの返事を聞いた三人は顔をほころばせた。

 「あと、聞きたいことがある。さらわれる前母に聞いたら変態って言ってた事」
 「ん?」
 「昨日、純のパンツ中になんか居たのをきいたら変態って言ってた、変態って何?」

 純に視線のプレッシャーが襲い掛かった。グリアは頬を染めながらそっぽを向いてちらちら見ているし、勇気は「……露出?」などと呟きなながら哀れんだような眼で見てくる。
 純は先ほど捕まったやつらのことを思い出していた。変態だのガキだの言っていたのは俺のことだったのかと。

 「あれは何?変態って何?」
 
 とにもかくにも純はこの状況と誤解をどうにかしなければならなかった。

 「変体ってのは蛹が蝶になることさ」
 「へー、じゃあ水着の中に居たのは?」
 「……」

 純はどうすればごまかせるかわからなかった。


 

 あとがき
 今回は三人称で書いてみました。なんとなくこれはこれで面白いかもしれないなあと書いていて思いました。描写の仕方はこちらのほうがしやすいかもしれません。
 シズクが本格的にヒロイン路線に。まだまだ子供なので彼女は物を知りません。教育もあまりまともに受けていないのでテレビの知識が中心です。あとこんの作品のシズクちゃんは原作開始時に19の設定です。

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