幸運なことに、俺の戦いが始まったのは夏休みに入る直前だった。
悲惨な「僕の夏休み」にしたくないものである。
また、クラスメートの誰かに、「星野くん、新学期から見ないね。」とか、言われない様にしたいところである。
俺はひとみに連れられて、警察署からは離れたところにある極秘捜査本部へと足を運んだ。
この捜査に関わる重要人物しか場所を知らないし、入ることもできないらしい。
俺はひとみからキーカードをもらい、それを使って中に入った。
入ると、そこはかなり大きなパソコンと付属の機材のセットが5つほどある狭くて薄暗い部屋だった。
そこから先の奥の部屋は、丸テーブルとソファーがいくつか置いてあり、休憩できるようになっている。
その中にはおよそ4名の捜査員がおり、その中の一人がひとみの父親だった。
いかついがどことなく優しさを醸し出している男だ。
「君が星野 秀くんだね。」
「はい。」
「もうBBCにはお手上げでね。君の腕のことはひとみから聞いている。
ひとまず、ウイルス駆除の策を練りたいところなんだ。追跡はその後だ。」
「分かりました。」
俺は、ひとみ父に案内されて、奥の部屋に座った。そして目の前の机の上のノートパソコンを示された。
「これはウイルスに感染されたパソコンだ。なんのウイルスか、君に分かるかい?」
「ちょっと待ってください。」
俺はパソコンのチェックをした。画面の下部に小さな目の表示がされており、そこをクリックすると、
意味不明な文字が示され、不気味である。
さまざまなデータファイル、メールボックスなどをチェックした。
「分かりました。おそらく`sweet love’ でしょう。」
「なにそれ・・・。」
ひとみが引いている。怖がっている。いくら警察官僚の娘だとはいっても、
ひとみもやはり女の子だ。
「ワームですね。ネットワークを勝手に移動するやつです。別のパソコンに送信された添付メールから
企業内ネットワークを使ってこのパソコンに侵入したんでしょう。メールに潜んでいたこいつは、アドレス帳を使うことによっても他のパソコンを侵害しています。」
「ふむ、君はよくBBCのことについて知っているらしい。
このウイルス駆除ソフトを一人で作れるか?」
「3日あれば、なんとかやれると思います。」
「それでは君に頼んだ。あちらの大きなパソコンのうちの1台を使いなさい。
なにか困ったことがあったら、捜査員に尋ねなさい。
それから、ひとみ。」
「なに?」
「ひとみはここに入ってこないこと。」
「分かってる。私がいたら秀の迷惑になるもんね。」
「そうだな。」
「ひとみがいようがいまいが俺は変わらないぞ。ここにいてもいいんだぞ。」
ひとみ父が困った顔をしていた。
「大丈夫、私子供じゃないから、外にいる。でも、時々なら入ってきていいよね。」
俺は何の気兼ねなしにうなずいた。
そしてひとみ父がしぶしぶうなずいた。