小説『ローズヒップは事件の香り』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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―秋桜楽屋 花茂芽―
私はドアノブに手をかけた。すると、中から断片的に声が聞こえてきた。
「…だから…は、もう…やめてって…も言ってるじゃない!」
中から聞こえてくる声は段々大きくなってくる。
「あなたが…っていうのは聞いたけど…もう…え?ハンカチ?…ってないわよ。なんで知ってるのよ?…が持ってるの?なんで…分かったわ。じゃあ切るわよ?」
そこで声は途絶えた。しかし、声はまだ聞こえていた。
「…中に入ったらいかがです?花茂芽さん?」
私は自分の心臓が跳ね上がる音を聞いた。バレてたか…ドアノブをまわし、私たちは楽屋の中に入った。
「…お気づきでしたか?」
「ええ、足音があなた達のものでしたから…」
「足音で人がわかるんですか!それは驚きですね…」
「昔から耳だけは良くて。例えばあなたは柔らかい足音。正治さんは硬く、軽い音。来井さんは…面白いおとですね。」
「すごい…よくわかるねwそんなのw」
その言葉を遮るように、春は言い放った。
「それで?ご要件はなんでしょう?もう隠すことはありません。なんでも聞いてください。」
「ええ…あの、今ハンカチはお持ちですか?」
「ハンカチですか?今はもってないですね…それが、何か?」
「そうですか。いえ、シェフの天木さんにお話を伺ったところ、あなたはハンカチをお持ちでないと言う話でしたので…」
「…先ほどの会話、聞いておられましたよね?」
春の口調と目つきが鋭いものになり、私を見つめて尋ねた。
「ええ、まぁ。」
「あれ、天木からの電話だったのです。彼女少し変わってて…私のハンカチを持ってたのも彼女です。で、預かってるんだけど…っていう話に。結局このあと取りに行くって言うことになりまして。」
そうだったのか…彼女が私に隠していたことはそれだったのか。それであんなに興奮して…まぁいい。今は彼女の話を聞くのが最優先だ。
「あの、私も同行させていただいてもよろしいですか?」
「ええ、構いませんよ?それじゃ、行きましょうか。よろしければ、正治さんと来井さんも。」
「え?ああ、はい。それでは。」
「わかりました〜w」
明らかにボーっとしていた正治と可笑しな声の来井は返事をし、私たちの後をついてきた。
そして私たちは再び厨房へと向かった。

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