小説『ローズヒップは事件の香り』
作者:狂ピエロ(カガク生活)

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「…私ですか?私が犯人。なかなか面白いことをおっしゃいますね、花茂芽さん。しかしその根拠は何でしょう?あるんですよね?」
彼女は自分が犯人だと言われているのにも関わらず無表情でそう答えた。
「もちろんです。それを今から証明してご覧にいれましょう。参りますよ?」
そう言った瞬間目の前の空間が変わった。
そう、『kill the liar』だ。

―kill the liar 花茂芽―
慣れとは実に怖いものだ。別にどうとも思わなくなってしまった。この銃も、赤い壁面も、犯人の仮面も。
「ではまず、犯行の順を追っていきましょう。あなたを犯人と仮定してのお話ですから、否定していただいても構いません。」
「…ええ。わかりました。」
「まずあなたは事件現場に向かった。この時間はいつごろですか?」
「…たしか…春さんの後だったと思いますが?あの人もそうおっしゃっておられましたし。」
私はニヤリと笑い、その話の矛盾を突いた。
「それはおかしいですね。あなたが事件現場に入ったのは、春さんが入るより前のはずですが?」
「…それこそおかしな話じゃないですか。第一、その証拠は…」
「そうですね。証拠はありません。ですが、証言はありました。あなたの甥、兎螺君です。彼が証言してくれた話では、春さんじゃないもう一人の人間が出てくるのを春さんの後に見たと。彼は春さんが入る時も見ていましたが、もう一人の人間…つまり犯人は出るときしか見ていないのです。犯人は春さんの入ってくる前に現場にいた考えるのが妥当じゃないですか?」
「…まぁそうですね。しかし、先に入っていたらだれか気づくでしょう?」
「いいえ、それは大丈夫です。なぜならそこには人一人隠れることができるスペースがありました。そこに隠れれば何もばれずに忍ぶことが可能です。」
そこまで話終えると銃から弾が発射され、仮面が割れた。思いのほか仮面は柔らかかったのか、五分の一ほど欠けた。
「…さすがですわ。そこまではまぁいいとしましょう。続けてください。」
「わかりました。あなたは先に忍んだあと、思わぬハプニングが起きます。それは春さんの来訪です。いくら隠れるスペースがあるとはいえ、人を呼ぶはずありませんものね。ここまではよろしいですか?」
私は黙ったまんまの彼女に尋ねた。
「…ええ。筋は通ってますね。」
「それでは続けましょう。次は事件です。あなたはレイピアで架令さんを刺した。そしてそれを春さんのフォークでもう一度刺し、今度は偽造工作を…」
「待った。」
そこで須照美は私の言葉を遮った。
「第一、春さんが来るのは想定外だったのでしょう?それじゃあ、あのフォークはどうしようとしたのかしら?」
「簡単です。あなたは夜烏ビルの紅一点シェフですからね。フォークを手に入れることはそう難しいことでも無かったはずです。」
「…あなたよくフォークを見られましたか?あれには特殊な装飾が施されていて、春さん用に用意されたものです。あれはこのビルに一つしかありません。それをどこから用意しましょう?」
「…そもそもあのフォーク、最初から春さんのお盆にあったのでしょうか?」
すると一瞬だけ須照美の顔が曇った。
「あれは確かに最初からそう決まっていたかもしれません、しかしあなたはシェフです。それを手に入れるのも容易いことでしょう。違いますか?」
するとまた弾が発射され、仮面が欠けた。もう少しで仮面は壊れる…もう一息だ。私はもう一度銃を構えなおした。

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