小説『カゲロウデイズ 書いてみた』
作者:ロサ()

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 時計の針の音で目を覚ました。
 思わずガバッと起き上がると、固いコンクリートの地面ではなく布団とベッドが僕の皮膚に当たり、布独特の優しい肌触りを脳へ伝える。
「ゆ、ゆめ……?」
 暗い部屋の中で明かりもつけず、ケータイに表示される日付を確認する。
 そして、その日付を口に出して、確認するように耳へと言い聞かせた。
「八月、十四日……、ご、午前、十二時」
 脳内で何度も反芻し、思わず枕に八つ当たりするように頭を下ろした。
 天井を見上げる。夏といっても暗い夜の天井。
「……夢、だったのか」
 夜なのに泣き叫ぶ蝉の声が、僕の夢の終わりを告げる声を思い出させた。
 二度寝する気が全く起きず、結局僕は夢を忘れるかのようにゲームやら録り溜めしておいたドラマなどを見て、一日を無駄に過ごした。

 次の日。八月十五日。
 ケータイのスケジュールに彼女と公園で会う約束が記されていたので、時間に間に合うように外に出る。
 夢と同じような陽射し。そして、夢と同じく彼女と公園の前で出会い、夢と同じように木陰に近いベンチに腰掛ける。
「夏といえば、何を連想する?」
「……」
 夢と同じ質問を、彼女はした。思わず、僕も夢と似た内容の台詞を返してしまう。
 あれは夢のはずなのに、どうしてここまで一致するのだろうか。
 そこで、僕はこのあとのことを思い出す。猫が現れて、猫を撫でていると逃げて、彼女が―――
「どうしたの?」
「……今日は、もう帰ろうか」
「顔真っ青だよ……? 大丈夫?」
「少し陽射しにやられたかな……。情けない」
「しかたないよ。送ろうか?」
「そ、そこまでは大丈夫」
 猫が現れる前に公園から立ち去った。
 公園を抜け、彼女は僕の手荷物を両手で包む。
「持つよ」
「そこまでは悪いよ」
「いいの!」
「ううん。大丈夫だから」
 彼女は少し頬を膨らませながら、僕を見つめる。
 そんな顔をされてもなぁ……。
 すると、僕達二人に周りの人が上を見上げ口を開いている。
 群衆の中から一人の男性が僕達に向けて大声で呼びかける。

「君たち、危ない―――!」
「えっ?」

 思わず声のしたほうを向くと、身体が誰かに突き飛ばされる。
 少し後ろに下がった瞬間、上から落下してきた鉄骨が何本も僕のいた場所に突き刺さる。
 そして、その場にいたのは僕だけじゃなく――――

「え……」

 砂煙が晴れると、彼女の体を鉄骨が貫いていた。
 僕は目の前の映像に脳の処理が追いつかず、呆然と、その光景を見るだけだった。
 一呼吸おいて、周りの人たちは劈く声で悲鳴を上げた。地面ごと揺らしたであろうその悲鳴と、吹きぬけた時に鳴り響く風鈴の音がコンクリートジャングルに空廻りしたかのように反響する。
「大丈夫か!? 君!?」
「あ、ああ……」
「救急車を、早く!!!」
「うそ、だ」
 そうだ、これは夢だ。昨日見た夢と同じで、きっとすぐに目が覚める。

「夢じゃない」
 
 目の前に、あの夢に現れた陽炎が嗤いながら立っている。嗤いながら、言葉を発する。
「ま、また、また、またお前か!? なんなんだよ、お前は!?」
「夢じゃない」
「おかしいだろ! お前は一体、なんなんだよ……」
「君、大丈夫か!? おい、おい!」
 横にいる男性が肩を揺する。陽炎相手に僕が叫んだからだろうか、精神を安定させるために肩を揺すり続ける。
 ゆっくりと、あのときの夢のように意識が遠のいていく。眩んでいく視界に映った彼女の横顔は――――

 
 笑っているような気がした――――。

-3-
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