小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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今回は、前後編に別れています。まず、前編。




其の十。争い?勘違い?話し合い。前編



「――主、起きてください」

「ぅん………ありがと…今、どれぐらいだ?」

コテツに起こしてもらい――すぐに今日何があるかを思い出したオレは頭が痛くなってきた。


「もうすぐ日が昇る頃です。組手はどうしますか」

「そうだな…今日はやらないでおくか。いつ神の二人が来るかも分からないからな」

「……それでもこんなに早くから来るはずはないと思いますけどね」

コテツが苦笑いしながらボソッと何かを言ったようだったが、オレには聞こえなかった。

「朝食採って来る。コテツはどうする?」

「僕も行きます」

そんな感じで、朝と言うにはあまりに早い時間帯から起きて、木の実を採って、他愛も無い会話をしていたオレたち。








その帰り道。日が昇ってきたくらいの頃。

「コテツ、オレって包帯外しといた方がいいか?話し合いとかだと、顔を見せないって言うのは失礼だと思うんだが。妖怪の姿で参加した方がいいか?」

「…は、外さなくてもいいと思います。それと、妖怪の姿だと話し合う以前に戦闘の意思表示だと思われちゃうんじゃないですか?あの姿だと、妖力が全開ですし」

冷や汗を流しながらそう言ってきた。

オレの包帯外した姿を見られれば、相手によっては見た瞬間気絶するだろう。オレも思う。
ただ…いい加減コテツはずっと一緒に居たんだから慣れてもいいと思うんだが。オレだって好きでこんな風に包帯巻いてる訳じゃ無いんだ。

まあ、それはどうでもいいとして。妖怪の姿だと妖力を抑える事が出来ない。

前にも似たような事を言った覚えがあるが、オレの場合『妖力を使う=全力の戦闘』が勝手に成立する。
要するに、オレは妖力を身体強化に使う事が出来ない訳だ。

オレはこれをどうにか出来ないものかと考えに考えていた。そして、オレは自分の能力を思い出した。

『食べたモノを力に変える程度の能力』

この能力の効果は、何も妖力だけじゃなく、自分の身体にも適用できる。例えば、筋力だとか、視力聴力とか。まあ、聴力は良くする気は無いが。

オレは人が出てきてからも食事を続けていた理由はこれだ。食べる量は少ないが、むしろ少ない方が人たちに迷惑を余り掛けずに済む。その上、三日坊主のオレからすれば、こういう人間だったころの習慣を利用した方が長く続けられる。

――今の所、筋力にしか能力を使っていない影響もあって、力技で木をへし折る事がようやく出来るようになってきたところだ。
コテツはその気になれば普通にそんな事できる上に、能力の関係上、一対一の真正面からの戦闘になった場合、少なくとも武器を使ったりしない限りは確実に負ける。妖怪化すれば勝てるのだが。

そんな事を話している間に塔にまで辿り着いた。

今は、一階でそのまま座り、朝食を食べながらコテツと話している。

「…そうか」

「あ、それと念のために懐に『鷲爪』は入れておいてくださいね?相手の目的が主と僕の命だった時の事を考えて、用心に越したことは無いですから」

「…コテツ。流石に相手に失礼じゃないか?相手は『話し合いたい事がある』って言ってたんだ。きっと大丈夫だろ」

流石にそれくらいはオレも考えていた。本当に不味くなったときは妖怪化してでもオレとコテツが死なない様にし、尚且つ相手を殺さずにどうにか解決するつもりだった。

…確実に面倒事になるのは必至だが。

「それはそうですが……。と、ともかく、僕の言いたいことが分かっていればいいです」

「…分かったよ…ごちそうさま」

まあ、コテツは何だかんだ純粋に心配してくれてる事が分かるから嬉しい。
オレより強い筈なのに、オレの事を『主』と呼んで慕ってくれている相棒。
そう言えば、今まで碌に感謝の言葉を言えてなかったなと、ふと思った。

――だからこそ、本人の目の前で言っておこうと思う。

「――コテツ。お前は、オレには勿体無い位、いい従者だよ」

「…え?」

コテツは呆けたような顔をして、木の実を両手で掴んだまま固まってしまっている。
…何となく、居づらい。

「さてと、食後の運動に散歩でも行ってくる」

「え、ちょ、い、行き成りどうしたんですか主!!??」

オレは立ち上がって、早口でいろいろ言葉を発しているコテツを尻目に、塔の外に出た。
そして、塔の外に出て十歩歩かない内に――

「――お前がこの森に住み着いてるっていう、妖怪か?」

聞き覚えのない、女の声が聞こえてきて、オレは足を止めた。
声が聞こえた方――空中に目を向ける。そこには、見覚えのない、背の高い紫がかった青い髪で、背中に輪状の何かを付けた女と、同じく見覚えのない背の低い金色の髪で、変な形の帽子をかぶった女――いや、どちらもまだ少女と言うべきか――が立っていた。

だが――何故だろうか。酷く違和感を感じた。

「そう――だと思うぞ。逆に聞くが、あんたらはオレと話し合いたいと狼に伝えた神の二人か?」

戦う気は一切無いが、念のためにいつでも『椿』か『鷲爪』を取り出せるように構える。
二人は空中から降り、地面に足を着けた。
――口を開いたのは金髪の少女の方だった。

「そうだよ。…あれ、でもおかしいね。私達はあの狼に自ら神と名乗った覚えは無いんだけど?」

「生憎、霊力でも無く、妖力でも無い力を持ってる存在なんて、オレたちは神しか知らないもんでね」

「そうかい――ってオレ『たち』?」

そう言って不敵な笑みを浮かべたかと思えば、急に驚いたような顔をする、背の高い方の神。恐らく、反応から察するにオレの事を知ってはいても、コテツの事は知らなかったのだろう。別に知られても問題ない事だった。

と、ここで違和感の正体に気が付いた。
(―――何であの二人はオレに嫌悪感を向けてこない?)
これだ。神だから、とか言う理由では無いだろう。
まあ、話し合いの場でそういう感情を表に出すことを抑えているのだとすれば、凄いもんだと本気で思うが。それは後で聞くことにしよう。

背の低い方の神は何かオレに話しかけようとした直後――

「――主。大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ」

その疑問を明かすヤツ―――コテツの登場によって、その疑問の言葉は遮られた。
…でも、だ。コテツ。










お前は頭良いとか前に言ったり、今さっき言った言葉は『主思い』を付け加えた上で、今は取り消そう――――馬鹿、あの二人を見た途端から四肢を地面につけて、殺気を振りまいて、臨戦体勢になったら、考えるまでも無く争いになるのは確実だ。

向こうの神二人もそれに当てられて、背の高い方は何処からともなく出した巨大な柱の様なモノをいつでも投げれるような状態だし、背の低い方も金属で出来た、少し錆びついている人一人位は問題なく通れそうな輪状の武器の様なモノを背後に幾つか出して、右手には同じく少し錆びついた金属の剣を持ってる訳なんだが。







流石に腹が立ってきたオレは、空間から『鷲爪』を取り出し、真上――空に対して構える。
神二人は、オレの手にあるモノを怪訝そうに見ていた。コテツはそれに気が付く様にして、オレの方を見る。
直後。
バンバンバンッ!!!!!!!と、初見であったり、耳が良かったりすれば確実に驚くほどの爆発音が三回、響く。

神二人は驚いた様子でオレの事を見て、コテツは慣れているとはいえ近くで、それもほぼ不意打ちで大きい音を聞かされて、両耳を押さえている。
オレが聴力を良くしない理由はこれだ。下手に耳が良すぎると、もしも戦いになった時に『鷲爪』が使えなくなる。

「――さて、オレとしては喧嘩くらいならともかく、誰かが死ぬような争いごとは勘弁願いたいんだが……」

三人が落ち着いてきたことを確認し、オレはそう言った。

「神二人には悪かった。従者が身勝手な行動を取るとは思って無かったモノでな。だが、オレの事を思っての行動だったんだ。勘弁してやって欲しい……それとコテツ。後で説教な」

「あ、ああ、分かった」

「わ、分かったよ」

「は、はい……」

ようやく、場が落ち着いてきた。これで、本題に持って行ける。

「それじゃあ、さっさと本題に入るとしよう。確か、話し合いに来たのだったな。それで、何の用だったのかを聞きたいんだが、その前に、一つ尋ねたい。名前は?」

「…おっと、そう言えばそうだったね。私の名は八坂神奈子だ。神奈子で構わないよ」

「私は洩矢諏訪子って言うんだ。私も諏訪子で構わないからね。よろしく。えーと…」

二人の名前――八坂と洩矢の名を聞いて、オレは眩暈がした。少し前にコテツが言ってた争いを起こした神の二人だったからだ。

「…自分で聞いておいて自分が答えないというのもなかなか滑稽だな―――数多。数多泡沫だ。悪いが、オレは姓の方で呼ばせてもらう」

「僕はコテツと言います。…先ほどはすみませんでした」

「気にしなくて良いよ。泡沫の言葉に嘘偽りが無いなら、ね」

洩矢…ワザとなんだろうが、そういう事言われるとなんだか傷つく物もある。まあ、どうでもいいが。

「それで、争いを起こしたことで有名な神の御二人が、オレみたいな弱小妖怪に何の用だ?」

「まて、『弱小』?お前、本気でそんな事言ってるのか?」

「?まあ、面倒そうな話は後に残しておいて、本題に入りたいんだが」

「…それもそうだね。じゃあ、さっさと用件だけ言わせてもらうよ」

そうやって、八坂は間を開けて――言った言葉に対して思わず即答してしまった。

「簡単に言えば――――この土地を私に渡して欲しい」
「いや無理だろ」














私は、神奈子が泡沫と話してる間、猫の妖獣――コテツと話していた。
話してみると、話の分かるやつだった。妖獣の中には、コテツみたいに話せるやつもいるし、獣と何ら変わりないやつがいるからね。

「ねえコテツ」

「何ですか諏訪子様?」

「あはは、様なんて付けなくていいよ。それで、あんたが主って呼んでるやつ――泡沫ってどんな奴?」

「――では、諏訪子さんと…どんな、ですか……そう言う風に聞かれたことが無いので、曖昧な言葉になってしまうかもしれませんが、構いませんか?」

「うん。全然良いよ」

それに、話を聞けば何かしら分かるかもしれないしね。泡沫が自分の事を知ってて弱小妖怪ってわざと嘘をついたのか。それとも本当にあの話(・・・)を知らなかっただけなのか。

「……直接言うと悲しまれそうですけど…危うい?」

「…危うい?」

「はい。主は、動物も好きなんですけど。その、極端すぎるくらいに人や妖怪、神さえも例外なく好きなんです――いえ、好きと言う言い方もおかしいですね。主は――主の自身の能力が原因でもあるんですが――恐らく、独りで居たく無いんです」

「ええ、と?ごめんよく分からなくなってきた」

独りで居たく無い?
…意外だった。この森の周辺にある村の人間全員から疎まれている妖怪の事とは、私は到底思えなかった。
――でも、今言った『危うい』との関連性が、あまり見えてこない。

「何と言えばいいんでしょうかね?こう…一人で居たく無いがために、一緒に居る人の『頼み』を断ろうとしないんですよね。たとえ、それが自分の命に関わるような事であっても…」

「――それは、『危うい』って言うよりは、『狂っている』って言った方が適切かな…?あと、能力って?」

本来、まともな思考が出来るなら、人間であれ妖怪であれ――私たち神であれ――自分の利益などは最低限考えている。そうでもないと、真っ先に来るのは自身の破滅に他ならない。
―――でも、泡沫は違った。孤独でない為なら自分から、破滅の道を喜んで渡るような主だと、苦笑いしながら語っていた。

「そうですね…諏訪子さん。主を見たとき、嫌悪感か、それに準ずる感情が湧き上がってきませんでしたか?」

「あー確かにそうだね。でも、何で………まさか…」

「言ってしまえば、『他者に嫌われる程度の能力』。効果は、言わなくとも分かると思いますが、主が言うには『能力の事を知ってる人物には効果が半減し、本当に信頼しあえたなら能力は無効化される』らしいです。実際、僕の知ってる限りでは主の能力の影響を受けなかった人を二人知ってますしね」

絶句した。
本来、能力と言うのはその能力の保有者にとってどのような形であれ有益に働いたりするものだという話を聞いたことがある。けど、泡沫にとってそれは真逆の意味合いを持っているという事になる。確かに、そんな能力を持っていれば嫌でも独りで居たく無いと考えるわけだ。
そんな彼に私は少しばかり同情した。

――後で神奈子にも教えておこう。話が終わってからいろいろ要らない誤解を招きそうだし。

「――でも、いろんな欠点があることが主の良い所なんですよ」

「良い所?」

「はい。能力故と言うべきなんでしょうけど、独りで居る事の辛さを知ってるんですよ。だから、誰かとの繋がりをとても大事にしますし。現に僕も元々は動物だったとはいえ主が拾ってくれなかったら今頃土の一部にでもなってますから」

「…なるほどね。うん、分かった。ありがとねコテツ」

そんな会話をしていた私達だったけど、泡沫の口から出た発言により、彼のぶっ飛びぶりがコテツの予想よりも上だったことはもう少し後の話。






そんな会話のあと、神奈子と泡沫の会話の内容がこっちにも聞こえてきて、コテツは初めは意外そうな顔をしていたけど、すぐに納得したような顔になった。

私は理由が分からなかったから、コテツに尋ねてみる事にした。

「…理由を聞いても良い、コテツ?」

「いや、諏訪子さん。簡単な事ですよ」

そう言って、コテツは苦笑いをしながら、こう告げた。

「だって、この土地――渡すも何も、今現在は貴女たちの土地ですから」


……
………
…………へ?

「…その話は本当?」

「はい、少なくとも、ここは大昔から主と僕が住み着いてた場所ですから。流石にそれくらいは知ってますよ。まあ、主の事だから別の理由も含めて言ったのかもしれませんが」

…別の理由?

「別の理由って?」

「これの事です」

コテツが指差した方を見る。そこには、神奈子の御柱よりも大きな、白い物があった。

「僕らが今住んでる家――家と言うよりは、塔ですけど――これ、主が自分で作った物なんです。流石にあの大きさになっちゃうと、動かし様が無いんですよね…」

一応、原因の一握りは僕に有るんですけどね、とコテツは付け加えた。

…あー。成程ね。確かに、神社一つくらいならともかく、こんな馬鹿みたいに大きい家が在ったんじゃあ、移動も何も無いか。

―――って、ん?ちょっと待って。

「コテツ。今、聞き間違いじゃ無ければ家って言わなかった?」

「はい、これが僕たちの家ですよ?」

……一体、何年かけてここまで大きな家を建てたのやら。












「――まあ、そういう事だ。渡すも何も、ここは既にアンタらの土地だから出て行けなんて言われない限りは、オレがどうこう文句を言う事はない」

「そ、そうか…そうだったのか…」

コテツの言っていた内容がこっちにも聞こえてきたので、一緒に理由を説明してもらった訳だが。

…ここまで落ち込むとは思っても見なかった。
何となく、見てられなくなったオレは、八坂に話を振ることにした。

「ところで、さっき、オレが弱小って言ったとき、何であんなに驚いていたんだ?」

これは、率直な疑問だ。最近はコテツ以外の妖怪ともほとんど会って無い――少なくとも、最後に会ったのは十年ほど前――上に、人たちとは更に長い年月会って無い。いやまず、能力の問題上会えない。
―――オレはこの森の外で、自分が何と言われているか、全く知らないのだ。

「…本当に知らないんだね。良いさ。教えてあげるよ。
――泡沫、アンタ、『鬼蠍』と言う呼び名に心当たりは無いかい?」









後編へ続きます。書き方を少し、変えてみました。

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