小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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…まず、更新が遅れて本当に申し訳ありませんでした。夏休みが終わってしまい、月一更新が限界になりそうですが、これからも読んでいただけるなら幸いです。

それでは、後篇。今回は短いですが、どうぞ



一部修正しました。

すみません、誤字を修正しました。









その十。争い?勘違い?話し合い。後編




さて、あの後何があったか説明しておく。

八坂の攻撃でオレの身体に巻いてあった包帯が破れ、八坂がオレの身体の右側を見て混乱。

問題無いと言い張っても流石に外見上こうなってると変な心配をされてしまって、結局喧嘩は中止となった。その際賭けに使っていた二つだが、考え直してみると洩矢の能力――坤を創造する程度の能力――大地に関わる物であれば何でも作れる能力があるから、オレが渡そうが渡さまいがその気になれば自分で創り出せたらしい。
因みに、八坂の能力は乾を創造する程度の能力―――天候を操る事など造作も無く行う能力だそうだ。

そのような能力を持っているからこそ人たちにとっても、妖怪や神にとっても畏怖の対象になってるのだろう。それに比べてオレは人も、妖怪も、神も問わず唯拒絶しかさせない。

羨ましいと思ってしまった。同時に自嘲した。
オレがこの能力をアイツから貰ったのは、他者との繋がりが切れるのが怖かったから。一人でいれば繋がりが切れる事も無く、オレが傷つくことも無いと考えたから。
だが蓋を開けてみればどうだ。オレは能力の効果とは逆の、『他者に好かれること』を望んでいる。




失礼、だいぶ話が脱線した。

それで、向こうの賭けた物…オレに空の飛び方を教える事だが。向こうはオレに教える気満々だったが、断った。賭けた物をこちらは実質何の被害も無く受け取るのはおかしいと思ったから。それに、飛ぶ訳では無いが空中での移動方法なら無い訳でもない。だからそう言って断った。

包帯は千切れてしまった部分を結び、身体に巻かず首巻のようにしている。物置の中にしまいこんでおいた他の包帯は風化していて、とてもじゃないが使えたものでは無かった。
つまり、顔は曝け出したままだ。コテツは少し怖がっているが、あの二人は気にしている様子は全くない。コテツも少しは見習ってほしいと思ってしまった。




で、だ。今オレたちが何処に居て、何をしているのかと言うと。






「主!大丈夫ですか!?」

「こらコテツ。酔い潰れてるやつの前で騒ぐのはいけないよ?…でも本当に大丈夫?」

「………」

「ほらほらどうした?まだまだ酒盛りは始まったばかりだぞ?」

「大丈…夫…」

「神奈子は煽るな!泡沫も泡沫で無理して飲もうとす―――ちょ、流石に待って!?本当に死ぬ気!?」

「………」




オレたちは喧嘩をしていた川原を離れ、オレたちの家の前で酒を飲んでいた。


…ああ、分かるとも。何で行き成りこんな展開になったかなんてオレが全部見ていたから分かっているとも。

簡素に一言で説明すると、だ。

――オレたちは今酒を飲んでいる。いや、飲んでいた。









こうなった原因は八坂の一言から。

「よっし、酒盛りでもしようか」

その言葉に洩矢が同調し、近くに居た白く―――とてつもなく大きい蛇に何やら命令をしていた。
命令を受けた蛇が何処かへ行って暫く時間が開いて、無性に気になって思い切って尋ねてみた。

「八坂、『酒盛り』って何だ?あと洩矢、あの白い蛇は?」

そのことを聞こうとした直後、件の白蛇が戻ってきた。戻ってくる前と違いがあるとすれば、尻尾を器用に樽に巻きつけて戻って来たことか。

「酒も飲んだことも無いのかい。驚いたよ」

「…酒?」

とまあ、こんな風になあなあになりながらも、酒盛り――酒を飲む行為らしい――をしてる訳だが…。









…今思うと本気で止めて置けば良かったと後悔している。
別に酒が不味いわけじゃ無い。むしろ逆だ。美味い。だがそれがいけなかった様だ。
理由は二つ。一つは美味いからこそ止められなくなる、という悪循環。
もう一つは――

「……頭痛い……」

――オレが極端に酒に弱い事だ。
一口口に含んで、そのまま飲んだ。説明できないオレをこれほど恨むことはそうそうないと言えるほど美味かったのだが、直後に一瞬眩暈がした。

そのあとは、八坂に強引に飲まされたり、洩矢と談笑していたり、コテツが相当お酒に強いが相当な酒嫌いだと言う事が分かったり、自分から少し酒を飲んで止めようとした直後に八坂に強引に飲まされたり―――

そのような感じで、今オレの意識は朦朧としている。
八坂とあのよく分からない白い蛇―――ミシャグジと言う洩矢が統制している祟り神らしい。後日、コテツが教えてくれた―――は酒を飲み過ぎて今はコテツに塔の四階…誰も使っていない階に運ばれている。洩矢も泊まって行く予定の様だ。コテツも送ったら今日は先に寝かせてもらうと言っていたので、今は実質オレと洩矢の二人だけで酒を飲んでいた。

「いや本当に神奈子がごめんね…」

「…気にしなくて良い。今日だけでいろいろな事を知ることが出来た」

そんな他愛の無い会話を続けていた。

―――ふと、思った。


「…オレは、何がしたいんだろうな……」

「え?どうしたの、泡沫」

口が思った―――思っていたことをそのまま発してしまう。どうやら相当酔いが回っていたらしい。
洩矢に聞こえていてしまった様だが、それでもオレの意思に反して口は動き続ける。

「……この能力を手に入れて、もう自分が傷つくことは無いと思ってた。始めから一人なら、オレのせいで誰かを傷つける事も、オレが傷つくことも無いと。だけど、ふたを開けてみればどうだ?オレは結局一人で居る事を拒んでる。誰かと一緒に居たい。誰かに好かれたい。そんなことを本気で望んでる。
…ああ、分かってるとも。この能力を持ってるからこそ、アイツに望んだからこそ、オレは本当なら誰とも共に居る資格何て無い。それでも、誰かがオレを好いてくれるなら、オレと共に居てくれるなら、オレは―――」


――喜んで命を差し出そう。












パンッ!と渇いた音が鳴る。同時に左頬がじりじりと熱くなる。

「…え?」

「…ふざけるな」

顔を俯かせ、声を震わせながら洩矢はオレの胸倉を掴み、自身の顔の近くまで持っていった。
…帽子に付いている目までオレを睨んでる様な気がするのはオレの勘違いだろう。

「そんな能力を持ってるから誰かに好かれる資格は無い?誰かが共に居てくれるなら喜んで命を差し出す?
―――ふざけるな!だったら何でお前は他者と共に居る事を、好かれることを望んでる!?私はお前じゃないから何があったのか何て知らないし、知る気も無い。でも、お前の言ってることが間違ってることくらい分かる!…だから」

そこまで言って、一呼吸おいてから洩矢は言った。

「だから…お前は――泡沫はずっとそれに耐えてたんでしょ?だったらもう我慢する必要は無いよ。…もし否定されても私は――私達はお前を嫌ったりなんか絶対にしない」

胸倉を掴まれ、大声で怒鳴られたと思えば、今度は慰めるような口調でオレを抱きしめながら、洩矢は言った。

「…嘘じゃ…無いんだな…?」

「こんなことで嘘ついてどうするっていうんだよ…」

呆れる様に笑いながら洩矢はそう言う。

「…うあ……」

オレは、まるで心の中の堰を切ったかの様に、しばらく泣き続けていた。











「にしても、泡沫もいろいろ抱えてるんだねぇ…」

「……見苦しい所を見せて悪かった」

久しぶりに大声あげて怒ったから少し喉が痛いけど、今は怒ってよかったと本心からそう思える。

嫌われることは望まないのに、その能力(原因)を捨てようとは絶対にしない。
何とも変わった―――いや、歪な考えだと思う。でも、泡沫の独白の中にアイツと呼ばれる人物…気になると言えば気にはなるけど、そもそも能力を作り出すなんて芸当を出来るのは私の知る人物らを考えても、全く覚えが無い。

「ねえ泡沫、さっき言ってたアイツって誰?」

「そうだな…オレの『最高の友人』と言った所か…。それ以上は言及しないでもらえると助かる」

「ふーん…最高の友人…ねえ…?」

…そこまで意外だったという訳でもないけど、泡沫は相当長生きしている筈。少なくとも私達よりは。そこまで考えて改めて泡沫の顔を見る。左側は中々にいい男なのだが、右側がそれを遥かに上回るほどの恐怖を演出してしまっている。皮だけが腐りおちてしまったかのような状態で、右目のある筈の場所は空洞だった。

相当の長生き。そしてその顔。

「実は友達が居ないとか?」

しまった…思わず聞いてしまった。

「それは無い。…と言うかいきなり何でそんな事を聞いてきた」

「い、いやね。少なくとも私たちが生まれる前から生きてたみたいだったし、その、能力を貰ったのも話を聞いた感じ相当昔だしね。もしかしてもうその人は死んでるんじゃないかなーって」

「―――ああ、成程な。確かにそういう風に考えるのも当然なのかもしれないが。そうだな…まあ、アイツが死ぬという事がオレには想像も付かないが」

「…そんなに?」

「…………うろ覚えだが、数回死んでおいてすぐに蘇ってくるような者をどのようにして死なせ、殺せばいい?」

「…はあ?」

「そういう事だ。言い方が酷くなるが、アイツには『生きた非常識』当たりの呼び名が丁度いいとオレは思う」

…一体どんな人物なんだろう。最早そこまで来ると何と言えばいいのか判断に困る。

「…さて、そろそろ月が上がりきる。もう寝るか?」

そう言われて空を仰ぎ見れば、確かにもう月は上がるところまで上がってしまっているように見えた。

「…うーん、うん。そうするよ」

「それじゃあ着いて来てくれ」











さて、洩矢を塔の四階まで―――八坂が使っているが、別に構わないとの事だったので――連れて行きオレは自分の使っている階層へと行った。

「…はあ…今日は疲れた……」



体を動かすのも嫌なくらいで、思わずその場で寝てしまいたくなったがどうにか睡魔に負けそうな自分の意思をねじ伏せ、寝床―――巨大な頭骨は風化して辛うじて原型が分かる程度―――まで移動する。

移動している間に、改めて考え直すことが出来た。

―――ああ。オレってやっぱり恵まれてるんだな―――

と、そこまで考えて。ようやく寝床の上に横たわることが出来た。
洩矢が言っていたが、酒を飲み過ぎた次の日はすこぶる身体の調子が悪くなるらしい。そう言われて、明日は大丈夫だろうか、などと考えているうちに、オレの意識は暗闇に落ちた。














誤字脱字等あれば、ご報告をよろしくお願いします。

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