小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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今回は早めに投稿できました。それと今回、読者の皆様に質問がありますので、感想に返答をいただけると幸いです。

それではどうぞ。

一部文章を修正しました。

其の十一。自分研究。時々、友人兼魔法使い。






八坂と洩矢がここを離れて数十年かたった。
あの時は目を覚ましたら頭は痛くなる上に吐き気が収まらない、など色々と酷い目にあった。そうなりながらも二人を見送った後、結局あの蛇の事聞けなかったと若干後悔していた。コテツから見たら落ち込んでいるように見えたらしく、事情を話したら何とも言えない表情をしていたが。
その日はコテツとの組手はやらないで一日寝て潰してしまった訳だ。

次の日からはコテツと組手をしたり、キノコや木の実を採りに行ったり、そうやって過ごしているうちにコテツが自力で空を飛べるように――コツ自体は洩矢に教えてもらった様だが―――なったり、いろいろあった。

で、だ。ここ最近オレ自身の戦闘の技術が全く伸びてないような気がしてきた。
人としての姿で戦えば右の『愚者』の長さを活かして間合いに入れないようにし、仮に入られたとしても防御不可な左の『椿』で斬る。相手が距離を取った場合は『鷲爪』を使った射撃で応戦する。

妖怪として戦えば両腕の『口』で食い千切る様な攻撃を仕掛けたり、妖力の弾幕を張ったり、尾の剣を使った妖力を纏った薙ぎ払い、もしくは過剰な量の妖力を乗せた連続突きと、それに伴って発生する妖力を纏った衝撃波。あとは、今まで一回も使ってはいないが妖怪時の胸辺りにある口、両腕にある口の計三つの口から放つ光線。

他にも、『是、射殺す百頭』や『空間切断』等もあるのだが…戦いで使える様な技などはもう少し種類が欲しいというのが本音だ。
よって――

「コテツ。悪いが今日の組手はなしでいいか?少し一人でしたいことが出来た」

「………は、はい、構いませんよ。でも行き成り如何したんですか?」

「―――なに、オレも従者には負けていられないと思っただけだ」

これは偽りなき本心。―――と言うかオレ個人としては従者よりも主の方が弱く在るという事を受け入れられそうにない。














最初その言葉を聞いたときは夢か何かかと思った。
数十年前の主と神奈子さんが喧嘩―――と言うか、あの勝負自体元々神奈子さんと諏訪子さんが、主が二人の国の害になるかを推し量る為の建前だったらしい。でも結局有耶無耶に終わってしまったけれど、絶対に悪い奴じゃないと分かったから良い、と帰る真際に神奈子さんが笑いながら言っていた―――の後、神奈子さんがお酒を飲んで倒れてしまったので僕が塔の四階まで運んだ。

…あの時は大変だった。体中を弄られて、寝惚けながら抱き着いてきて…僕は主と違って枯れてないので、その…。

…そ、それはさて置き。
僕もお酒を飲んだのだけど、僕個人としてはもう飲みたくない。主はお酒は好きらしいけど、すぐに気分が悪くなるから飲まないと言っていた。

それで、僕と神奈子さんがあの場を離れている間に主と諏訪子さんの間で一悶着あったらしい。そして、次の日から主は少し変わった。

明確に変わったと分かるわけじゃ無いけど―――言い方が合っていれば、憑き物が落ちた様に、安心したように―――確かに変わっていた。
特に顕著だったのは考え方だろうと思う。今までは誰かと仲良くなる為なら、言い方は酷いと思うけどどんな手でも使っていた。でも今は諦める事―――この諦めるは新しくだれかと仲良くなる方では無くて、自己犠牲までして仲良くなろうとすることの方―――をしている。これは推測なんかじゃなくて、その事を主自身が認め、僕の前で口にしたことだ。…それにしても、包帯を外したままで居るのは最近ようやく慣れてきたけれど、最初の内は大変だったなあ…。
まあ、それはともかく。先ほどの「一人でしたい事が出来た」…。

「……まさか…偽物?」

そう勘繰ってしまうほど、僕の中での主の変化は劇的だったといえる。

















さて、先ほどと変わって今オレがいるのは八坂と喧嘩した川原。ここなら十分な広さもある上に、周りにあまり被害も無い。

「……」

とは言え、行き成り来ても何も思いつかなかったので『愚者』と『椿』の二刀流でひたすらに『敵』を想像し、戦いながら、考えを纏めていたわけだが。

「…ふうっ……」

一旦剣舞を止めて、今し方考えた事をやってみようと思う。

まず、空を飛ぶこと。これはやり方が分からないが、オレなりのやり方でやってみようと思う。
本来であれば恐らく、霊力であれ妖力であれ神力であれ身体に纏わせて飛んでいるのだと思うが、足場が無い時点でオレには絶対性に合わない。よって、オレが考えたのは―――

「…よし、これはうまくいったか」

―――妖力を纏わせるのではなく、固めて足場代わりに使うといった所だ。空を飛ぶ相手ならこちらも空を飛んだ方が対応しやすいだろうが、そう言う意見はどうでもいいと頭の中で一蹴し、この状態で走れるか確認する。
結果は、まあ大丈夫だった。ただ、妖力の消費量がやや多かったので、戦いに用いる際にはいろいろと気を付けなければならない。

次に行ったのは、人の姿のまま、妖力を使った身体強化だ。
だが―――

「……ダメか」

これは見当が付いていたが、やはり妖力を流すと流した部位が妖怪化してしまってうまくいかない。

如何したものか…。













「――――――――――――あ」

閃いた。そうだ、これなら上手くいくかもしれない。閃いた事をそのまま実行に移した。

オレが何を閃いたか。それは、妖力を身体に流し込むのではなく、身体に纏わせる方法だ。上手くいくとは思わなかったが、成功すればこれは切り札になるのではないか?と気合を入れて挑戦してみる事にした。

「―――」

―――意識を集中し、頭の中で想像する。

身体を強くするのではなく、鎧を纏って強くなるように。

己の中に渦巻く力。その力を己の外に出す様に、けれど、逃がさないように。



―――ズッ…、とオレが妖怪化するときと同じような、周囲の空間ごと蝕まんと言わんばかりの多量の妖力がオレを中心に発生する。けれど、オレにしか分からないであろう明確な違いがあった。
まず、その妖力が形を変えては行くが、蠍のような姿ではなく、人の姿のオレに纏わりつくように形を変えていく。それに伴って、妖力が収束していくのが手に取るようにわかった。



―――やがて、妖力はオレの右上半身は皮膚が無くなってしまっている部分からまるで噴出する様に。それ以外の部分は薄らと黒い霧の様なモノが身体を覆っている。
『愚者』は右腕の妖力を伝って燃え盛る様な黒い妖力を身に纏い外見上、右手と『愚者』の柄が繋がっているように見える。『椿』も薄らとだが妖力を纏い、その刀身は更に鋭さを増しているように見えた。
そしていつも以上に身体に力が漲る感覚がしっかりと合った。

「―――成功か…だが」

自分でも気分が高揚しているのが分かる。だが、同時に分かったこともある。

「長くは持たないか…」

こればかりは仕方が無いと思う。常に妖力を垂れ流しにしているようなものだ。恐らく十分持つか持たないかくらいしか維持できない。
そう考えていた直後。





バチィッ!!!と弾け飛ぶ音と共に身体に纏っていた妖力が霧散していく。
そして―――

「がっ……ッ!!!!!???」

それと同時に襲いかかってくる、激痛。
斬られた、刺さった、殴られた、焼かれた、抉られた、裂かれた、捻じ切れた、潰れた―――
ありとあらゆる痛みをぐちゃぐちゃに混ぜ合わせ、挙句にそれを更に濃くしたかのような痛みがオレを襲う。

「――――………〜〜〜〜〜ッ!!!!!!」

時間にして数秒程でしかなかったのだろうが、オレにとってはその数秒が途轍もなく―――永遠に続くのではないかと錯覚するほど、長く感じた。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ………これは、要練習、だな…」

膝から地面にうつ伏せになるように倒れこむ。
先ほどの高揚感は身をひそめ、代わりに働かなくても良い疲労感が体中に襲いかかってくる。それに気が付いた直後、日がまだまだ高いうちからオレは眠りについた。









―――泡沫が眠りについた川原。

まずそこに現れたのは、大きい熊。それも一頭では無く、三頭。

泡沫のすぐ傍まで近寄り、その顔を彼の頭に向け、匂いを嗅ぐ。

他の二匹も同様に、「クンクン」と擬音が付いても不思議では無い程、可愛げに匂いを嗅いでいた。

その後、まるで安心したかのように最初に匂いを嗅いでいた熊が泡沫の脇で寝転がる。他の二匹も同様に、だ。

―――気が付けば、泡沫は三匹の熊に囲まれる様にして眠っていたが、起きてもたいして驚かなかったらしい。

まあ、閑話休題(それはさておき)―――













「――やあ、久しぶりだね。泡沫君?」

何時もの様にグルに夢の中で会う真っ白の空間で、グルがそう言ってきた。

「…もうその発言がオレの中でのお前の決まり文句と化してるんだが。…それで、何の用だ?」

「えーと、用事は二つ。一つは、『命の魔導書』のこと」

「…あー、そう言えばアレの使い方未だに分からないで物置の中にしまってあるんだったか」

言われて思い出した。

『命の魔導書』。
グルが言うには普通の魔法―――この普通の定義がオレにはよく理解できないが―――から極めて難易度の高い魔法、果てには始まりの魔法―――世界の破壊、創造をも可能とする知識が納められた魔導書。
しかし、この魔導書の真の力は『命の共有』。
例えば、オレとグルの命を共有するとしよう。すると、もう片方が生きている間はもう片方は絶対に死ぬ事が出来ず、死ぬためには命を共有した相手も同時に死ななければならないらしい。

で、オレは『命の共有』の発動方法を教えてもらうのを忘れていた為、今まで使う事が出来なかった。

「それで、どうやって発動すればいいんだ?」

「ああ、発動方法自体は簡単だよ。魔導書の中央にあたるページに書かれていた文字、呼んだでしょ?意味は理解できていない筈なのに、理解できる部分」

「そう言えば、そんな文章もあった。確か…

『生を謳歌し、死を恐れよ。生に進み、死に堕ちよ。生は光。死は闇。生とは繁栄。死とは滅亡。生とは善であり悪、死とは悪であり善。
生をもって死を知れ。死をもって生を知れ。
生と死は鏡写しの対極。
生とは死へと向かう道筋。その道筋は逆走すること叶わず。
なれど、その道を恐れるな。恐れた時こそ、真に死に飲まれ、打ち勝った時こそ、真に生を知るモノとなる』

だったか?」

「へえ、あの文章全部覚えてたんだ」

「何度か読み返したりして気が付いたら覚えてた。それで、発動条件は?」

「はは、君らしいね。…発動条件は『命の魔導書』に触れている状態でその文章を読み上げる事。命を共有する相手は文章を読み上げる際に頭の中で強く思い描いた人物と共有されるよ」

…意外だった。文章が鍵となっているのは見当がついていたが、死を恐れてはならない、だとかの面倒な条件が課せられていると思っていたんだが、思いのほか緩かった。

「…まあ、そうだね。そう思うかもしれないけど、あくまでその文章は発動するための鍵に過ぎないんだ。その文章そのものが制約になっているわけでは無いよあと、読み上げた後は魔導書をしまっても大丈夫だからね」

「…だから、人の心を読むな。もう一つは?」

そこまで言った途端、グルが笑顔を止めて真剣な顔になる。そして、言った。

「泡沫君。君は、あの能力を―――『他者に嫌われる程度の能力』を捨てる気は無いかい?」

「…その事なんだが」

そこまで言って、オレは言葉を区切って言う。

「…その、何だ。オレはお前に、お前から自分の意志でこの能力を貰った。だからこの能力を捨ててはいけないと常々思っていた。それにコテツだって居るんだ。独りじゃないんだから大丈夫だと思ってた」

「―――思ってた、と言う事は、今は?」

「―――本心を言えば、オレは今この能力が疎ましい。すぐにでも捨て去りたかった。でも、捨てきれなかった」

グルは目を見開いて驚いていた。『何で?どうして?』と言った感情がその顔にありありと浮かんでいる。

「…馬鹿な話だが、最近オレはこの能力があるからお前との繋がりが保ててるんじゃないかと疑っていたんだ。オレは。
だからさ、グル。オレからも一つ聞いておきたい」

―――お前は、これからもオレの友人で居続けてくれますか?

「……はあ。君は、変な所で律儀と言うか、頑固者と言うか…」

苦笑いしながら、続けざまにグルは言った。

「もちろんだとも。―――それと、勘違いしないで欲しいね。僕はその能力があったから君との繋がりがあった、何て一度も考えた事は無いよ」

「―――ありがとう、グル―――いや、グルスキャップ」

「ふふ、どういたしまして。…おや、そろそろ時間だね」

思わず泣きそうになりながら、それを堪える。グルは笑顔で答えてくれた。
やっぱりオレは恵まれていることを再認識した直後、真っ白い空間に罅が入っていく。

「…だな。じゃあな、グル。また今度会おう」

「うん。けど、今度会うときは夢の中じゃなくて、現実で会おう。それじゃあね―――」

グルがそういうと、オレの視界が真っ黒に染まった。









「…んん……」

目を覚ますと、空は夕焼けになっており、周りは熊が寝ていた。妖力は回復していないが身体の疲労感はある程度は回復した。
…ん?熊?

「…おお」

僅かに驚き、ゆっくり手を伸ばし、左側で寝ていた熊の頭を撫でる。撫でてやった熊はゆっくりと目蓋を開け、その四肢を地につけて、オレの顔を舐め回してきた。

「あ、こら。そういうことはやったら駄目だぞ?」

怒る気は全くなしに怒ったように言う。すると熊は舐め回してくるのを止めて、下あごをオレの右肩に乗せてきた。

他の熊も起き上がり、オレにじゃれついて来る中、グルと話していたこと、グルが最後に言った言葉を思い出した。

『うん。けど、今度会うときは夢の中じゃなくて、現実で会おう』

思い出した途端に笑みがこぼれる。いつになるかは分からないが、その日まで待とうじゃないか。

「…後は、オレの能力、か…」

方法ならとっくに気が付いてる。問題は今のオレには妖力が足りない事だ。まあ、数日位休んでおけばこれはどうにかなる。あとは、上手くいくかだ。

「…よしよし、そろそろ離れな」

そう言うと、一匹の熊は未練がましそうに、他の二匹は一度こちらを向くとそのまま森の中に入って行き、それに気が付いた熊が慌てて森の中に入って行った。

「…よし、帰るか」

そう呟いて、未だ疲労感が抜けきらない身体で歩きながら塔に帰ることにした。




…塔に入って、コテツに「貴方は…本当に主ですか?」と聞かれて思わずこけてしまったのは完全に余談だ。














読者の皆さま、『東方鬼蠍独拒記』の作者、寄生木です。
こんな自分の駄文を呼んで下さり、真にありがとうございます。
今回、あることでアンケートを実施したいと思います。

それは、以下の二つです

1、メインヒロインを誰にするか(原作キャラであればだれでも構いません。ハーレムも可)。

2、これ以上話の本筋にに関わるオリキャラを出しても構わないか。(現時点で泡沫、コテツ、グル、真里)

この二つです。

期限は、九月三十日二十三時五十九分までとさせていただきます。

それでは、これからも東方鬼蠍独拒記をよろしくお願いします。それでは。

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