小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

はい、今回も早めの更新が出来ました。アンケートはまだまだ続いておりますので、ご協力お願いいたします。

…にしても、やっぱり八雲の二人や幽々子、幽香(メインヒロインにはならなくても適度に出す予定ではいます)にその他のキャラ…口調やら性格を再現する自信が全くと言っていいほどないです…出来るかな…?

後今回、オリキャラは出ますが何と言うか納得できない方も多くいらっしゃると思います。その際は感想までよろしくお願いいたします。それではどうぞ


一部記述の追加をしました。申し訳ありません…。
更に追加しました…泣きたいorz
またまた、です。しかも今度は追加どころか一部結構大きく編集…オレの馬鹿野郎…









其の十二。『オヤスミ』。付喪神?


―――グルと夢の中で会った日。塔に帰って来てすぐのコテツの発言を受けて、すぐにコテツを説得して本物だと分かってもらえた日から数日―――と言うか何故オレが偽物なのかと疑われた理由を全く理解できていないんだが―――再び一人で妖力を纏いながら『愚者』と『椿』を振るっていた。

―――『悪鬼化』。
この状態にそう名付けた。
それと、この姿になって二つ分かったことがある。既に分かっているのは、気分が高揚することと、身体能力が上昇することか。
一つは、妖力を纏っている『愚者』――正確には右手で持った武器にはオレの『食べたモノを力に変える程度の能力』が付随されるようだ。つまり、この状態で何かを斬れば斬るほどこの状態を維持できるという事。『鷲爪』の場合、銃身が妖力の影響でやけに長く見え、弾の射程距離が相当延びていた。

もう一つは、まあ分かっていたことだが、これは諸刃の剣だったという事。自力で悪鬼化を解いた―――少しずつ集中を崩していく感覚でやってみたところ上手くいった―――のは良いが、妖力の消費量が多すぎて妖力が余っていても消費した分の負担がオレの身体に襲いかかってきた。つまり、一度解いてしまえば後は無防備になってしまう。
今後の戦闘、もしくは喧嘩になった際、悪鬼化をどれだけ上手く使えるかが鍵になるとオレは思った。

――そして更に数日。
オレはコテツにグルの事を話すことにした。まあ、ある程度はぐらかしてだが。

人の夢の中に時々出てきては、とんでもない物を押し付けてくる『オレにとって最初の友人』と。コテツは疑うような目でオレの事を見てきたことを受け、オレは物置に入り『命の魔導書』を持ってくる。

「これがそのとんでもない物だ」

「これは…本、ですね。随分と大きいですけど。でも、本の一体どこがとんでもない物なんですか?」

「アイツ――グル曰く、『世界の創造や破壊も行えるよう術が記されている』らしい。まあ、書いてある殆どの文字が読めないオレにとってはある点を除けば無縁の代物だがな」

「…ある点?」

そこでオレはコテツとの会話を打ち切り、魔導書の中央のページを開く。コテツはそのページ全体に書かれている文字の内容が理解できないようで、頭の上に幾つも疑問符を浮かべていた。
オレはそんなコテツを内心微笑ましく思いながら、オレはその文の始まりを読み上げる。

「―――生を謳歌し、死を恐れよ」

「…え?」

「生に進み、死に堕ちよ」

コテツが驚いたような声を上げるが、今は気にせずそのまま読み続けた。

「…主、何をする気ですか?」

「生は光。死は闇。生とは繁栄。死とは滅亡」

左手をコテツに向け、『少し待て』との意味合いを込めた目でコテツを見ると、コテツは渋々黙りこくった。
左目を閉じ、頭に思い描く人物は―――コテツ。暗闇の世界の中でコテツの顔を頭の中で思い描き、その上で更に読む。

「生とは善であり悪、死とは悪であり善」

この部分を呼んだ直後、オレとグルの胸から光が溢れるようにして発生する。コテツは「うわっ!?」と驚いているがそれを黙殺し、続ける。

「生をもって死を知れ。死をもって生を知れ。生と死は鏡写しの対極」

この部分を読み終えた直後、オレとコテツの胸から発生していた光が胸のやや左側に集まり、潰れた様な円を形取り、互いの胸の光が繋がった。

「生とは死へと向かう道筋。その道筋は逆走すること叶わず。なれど、その道を恐れるな」

最後に続く一節。ここまで読み上げて、最後の一節を読もうとし、自分の胸に不揃いの三角形を互いに逆さに合わせた様な紋章が胸に浮かび上がっていた。コテツはそれに気が付いていないようだったが。
そして―――

「恐れた時こそ、真に死に飲まれ、打ち勝った時こそ、真に生を知るモノとなる」

最後の一節を読み終えた直後、オレとコテツの胸を繋いでいた光が消え、互いの胸に赤色で先ほどの紋章を含め、全く読めない文字が三角形の重なり合った中央に書かれていた。














「主、これは一体…」

「何、少し試したいことがあるだけだ。コテツ、悪いが少し後ろを向いていてくれ」

そう言って少し微笑んで後ろを向いた主。僕は主の言う通り後ろを向いた。今は背中合わせから少し距離が開いた状態だ。
今、僕と主の胸には赤色で奇妙な絵や文字が書かれている。少し擦ってみたけど、色が取れる様子も無いし、『大丈夫だろう…たぶん』程度に考えておこう。

それにしても、主の友人―――グルさんと言うらしいけど、相当な代物を主に渡したらしい。今まで主と共に居て、あんな光景を僕は今まで一度も見た事が無かった。
それにしても、この絵や文字は何なんだろう?主が文章を読み上げたのは分かったけど、その内容は物語とは全く違っていたし、まるである種の暗示にも聞こえたなあ…。


―――…そう言えば。主の表情が変化したのを見たのは相当久しぶりな気がする。
その事に気が付いたと同時に、背後からドサッとまるで人が倒れた様な音と、カランと固いものが落ちたような音が聞こえた。それと同時に感じる、嗅ぎたくも無かった―――血生臭い匂い。

「あ…ある…じ…?」

僕が主の方を振り向く。



そこで僕が見たのは、左肩から胸まで『愚者』で自らを斬り裂き、自信を斬った『愚者』を落とし、口から血を流しながら足元に血だまりを作り、倒れ伏している主だった。

「ゴフッ……」

「あ、主!?」

駆け寄る。身体から嫌な汗が沢山吹き出す。何で、何でと頭の中がぐちゃぐちゃになる。
能力を使って主の出血の『速さ』を遅くし、傷の治る『速さ』を速めようとする。けど、出血は遅くなったと言うには滑稽で、傷は治りつつあるというには馬鹿馬鹿しく思えた。ぐちゃぐちゃになった頭ではとてもじゃ無いけどすぐに能力を何時も道理に使う事が出来そうも無い。

…もっと、もっと早く気が付くべきだった!

主が何でこんな突拍子も無い行動に出たのかは僕には理解できない。でも、もっと早く気が付いていれば…

「ぇ…ぁ…」

僕の…せいだ。

僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の
僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の僕の―――

「…少しは、落ち着け。馬鹿…」

「ッ!主!」

主は右腕を伸ばして転がった『愚者』を取ろうとするも、腕を動かすたびに出血量が増える。僕はあわてて『愚者』をとり、主に渡す。渡した直後、主は『愚者』を持った右腕を何もない空間に突っ込むようにしてしまってしまった。

「…そんな…今…にも死にそうな……顔するな。…大丈夫、だよ」

なんで、何で、ナンデ。
何で、主は―――貴方は、こんな状態でそんな言葉を吐けるんですか。
永琳さんたちがまだここに居た時もそうだった。僕が家で留守番していて主が今にも死にそうな傷を幾つも負って帰って来ても、笑って「ただいま」と言って、僕が付いて行った時も、僕が妖怪に襲われそうになる度に身を挺して僕を守って…。

「何で、ですか……」

「……」

「何で、主は―――そんなにも死に急ぐんですか」

「…だか…ら。心配…する…な…。それに……これは…しか…たが無…かった」

掠れた声で、蒼白の顔をした主がそう言う。仕方が無かった?一体何のためにこんな事を…。
そして、主から疑問を晴らす二つの答えが返ってきた。

「…さっき……の、本…あっただろ?………アレ…は、オレ…とお前を……死ねなく…するための…方…法が、書…いてあった」

「―――なっ」

「…『愚者』…を…突き刺…したのは、オレと…あの…能力の…『繋がりを断つ』…ためだ」

「…っ」

何も言えない。
つまり、こういう事だった。
主はあの本に書かれていた文章を読み上げる事で、主と僕は死ねなくなった。その後、『愚者』の『斬れないモノを斬ることが出来る」力を使ってあの能力…『他者に嫌われる程度の能力』との『繋がり』を斬ったのだろう。主がこの様な狂行に出たという事は、そのためには自身を『愚者』で斬る必要性があったから。だから今、自分は血を流して倒れ伏している、と。

「…とは言…っても…オレと…コテツ…が、同時に…死…んだら…どうしよう…も無い…が………コテツ」

「…はい。何ですか、主?」

流石に文句の一つでも言いたかった。けど、主から何か言いたいことがあるらしかった。僕は、泣きそうになるのを堪えて、主の言葉に耳を傾ける。

「悪い…が、少し寝る……。だから…お前は、オレが…寝続け…てる間、絶対…に……生き延びろ……」



―――これは、命令だ。



「…ッ!はい!」

「…よし………いい……返事だ」

そう言って。
主は一人、ゆっくり、ゆっくりと、目を閉じた。

















主が死んだように眠りこくってしまってから早数か月。三階の寝床に主は眠っている。目を覚ます気配を一向に無い。でも、しっかりと息はしているし、傷も塞がった。確かに生きている。なら僕は主の命令通り、僕は生き延び続けるだけだ。
ただ―――

「……主」

―――主、ごめんなさい。心が、折れそうです。
二階の僕の寝床になっている枯草の上に寝ころがりながらそう思った。
話に聞いたくらいだけど…今なら、主の心境が分かったかもしれない。幼い時に孤独を感じる事は、その幼さ故に無かったんだと思う。でも改たまってこの様に独りになると主がまだ人間だった頃―――永琳さんの父となる前の頃どんな苦痛の中で生きてきたのかを、僕は少しだけ知った。

「…主は、こんな生き地獄を僕よりも長い間味わってきたんだよなぁ……」

自分の口からその言葉が出てきて、思わず苦笑する。でも、ある意味ではいい機会だとも思えた。僕もこの地獄を知っていれば、少しは主に―――主の『強さ』に近づけると思って。僕は主が思っているほど、強くは無い。すぐに諦めてしまうし、主が考えているほど頭の回転も速くない。身体の強さで勝てても、別の…心の、精神の強さでは主の方が圧倒的に強い。

だから、僕はその強さの元が何処から来ているのかを知りたい。それが、僕の願いだ。

「…よし、朝ご飯を採りに行かなきゃ」

そう呟いた直後の事。
遠くから、『ごごごごご……』と。地に響くような音が聞こえてきた。

「…ん?」

その音はどんどん大きくなる。そして、次第に塔全体が揺れ始め、天井からピキピキッといった音が鳴り響く。

「…うわわわ!!??」

立つ事すらままならなくなって、這いずるような状態になって、どうにか自分を落ち着かせ能力を使う。
自分の速さを上げて、主が眠る三階へと登り、どうにか立ち上がって主を抱えて外に逃げ出そうとした直後。

―――揺れが、今までの揺れよりも圧倒的に強くなった。









その日、森の動物たちは大騒ぎだった。今まで経験したことが無い…地震を経験したのだ。その慌てぶりも無理はない。

だが、それよりも慌てている事が一つあった。それは何か。

簡単だ。泡沫とコテツが住んでいる、巨大な―――60メートル程の円柱の形をして、その頂に巨大な結晶を乗せ、蔦でその身を覆っていた―――塔が見るも無残な、残骸と化しているからだ。

恐竜の骨と岩石で作られていた塔は見るも無残な瓦礫の山へとその姿を変え、頂に乗っていた巨大な結晶は粉々に―――とは言っても人一人位の大きさはあるが―――なっていた。

そんな塔の残骸から少し離れたところにコテツは顔を青くしながら、脂汗を沢山かきながら荒く息をして座り込んでいた。その脇には、死んだように眠っている泡沫が仰向けでいた。
動物たちは、彼らに寄り添うように周りに集まっている。

塔が地震で崩れ、コテツも落下しそうになった際、能力を使って瓦礫の落下する『速度』を下げたのだ。とは言っても、泡沫の時と同じく、ゆっくりと言うにはいささか合っていない気がしなくも無かったが。
それはともかく。コテツは速度を落とした瓦礫の上を飛びながら、どうにか塔の残骸の下敷きにならずに済んだのだ。

「はぁ…はぁ……た…助かったあぁ…」

空気が抜けるように、座る体勢から後ろに倒れこむコテツ。だが彼は、目の前の光景を見て、愕然とした。

「…な…え?と、塔が……」

彼が見たのは塔のなれの果て。今まで彼と彼の主が住んでいた場所。そこで彼の思考は数分固まり、その思考が再起動した直後―――彼は、泣き出した。

「う、ぐすっ、うええええええん……」

動物たちは慰めるようにコテツにすり寄るが、コテツが泣き止む気配も無い。しかし、そこに――

「コテツ殿。泣き止む。我、大丈夫」

「――っ!?」

コテツに声をかける存在が現れた。場所は元は塔であった瓦礫の山の上。嗚咽を殺し、涙を流しながらだが戦闘態勢を構える。コテツの周りにいた動物たちもそれに合わせて今すぐにでも飛び出せるような臨戦態勢を取った。
慌てたように両手を突きだし、声の主―――コテツよりやや背の高い、透明な石の装飾を首に沢山付けた、肩にかかる程度の血の様な真っ赤な赤色の髪を持った黒と白の服―――こちらの言い方では囚人服か―――をきた少女は言う。

「落ち着いて。我、敵ではない」

「…何で、僕の名前を知っているんですか?」

「今まで見ていた。我、初対面、形、こうなる、予想していなかった。謝罪」

何とも喋りにくそうな話し方だな、と内心そう思いながらもコテツは警戒を続けながら目の前の少女の言葉に疑問を持った。

(…我、大丈夫…?……まさか)

「君は…もしかして…」

そのコテツの声に、少女は首を縦に振る。

「我、泡沫殿とコテツ殿が住んでいた、塔。我、付喪神」

「―――つ、付喪神?」

初めて聞く言葉に、コテツは首を傾げ、少女はまた首を縦に振りながら、コテツの疑問に答えた。

「物に魂、宿り妖怪と化したモノ。それが我」

「………つまり、君は主と僕が住んでいた塔が妖怪化した姿なんだね?」

首を縦に振り、少女はコテツの言葉を肯定した。
それを見て、コテツは戦闘態勢を解く。それに伴って、動物たちの雰囲気も柔らかなものになって行く。

「ご、ごめんね?行き成りだったとはいえ、殺気を向けちゃって…」

「大丈夫。見知らぬ者、警戒する、当たり前。気にしなくて良い」

「そう言ってくれると助かるよ…名前は、何て言うの?」

「…名」

コテツがそう聞くと、少女は少しの沈黙の後、口を開いた。

「…龍美。骨岩龍美。よろしく頼む、コテツ殿」

少女―――龍美はそう言って、極めて薄くだが、笑みを作った。コテツもそれを見て、

「うん、よろしくね。龍美さん」

そう言って笑っていた。











「…所で、龍美さん。それ…どうするの?」

「大丈夫。見ていて」

そう言って龍美さんは僕がそれといった―――彼女の真下にある塔の残骸に手を伸ばした。
付喪神っていうのは要は妖怪になった物の事を言うらしかった。…でも、龍美さんは物と言うよりは、建造物の様な気がするけれど…。
あれ?でもそうすると、主が持っている武器たちも付喪神になってもおかしくない様な…。
因みに主は今いろんな動物に囲まれて眠り続けている。

そんな事を考えていたら、龍美さんが瓦礫の一つに触れた。その直後。

ズズズズッ…と、様々な瓦礫が引きずられ、ぶつかり合う音が聞こえる。僕が唖然として見ていると、瓦礫は徐々に形を持っていく。
それは、歪ながら、人間の上半身だった。けれど、大きさは相当あって、目も鼻も口も付いておらず、全身に透明で巨大な石―――たぶん、砕けてしまった結晶だろう―――が不規則に埋め込まれている。問題は胴体だ。崩れてしまった筈の塔の一階から四階までが、胴体に埋め込まれていた。

龍美さんは丁度頭の所に腰を掛けていた。

「出来た」

「…えーと、龍美さん?これは…」

「―――家」

そう言って、息を吸ってから龍美さんはもう一度、ハッキリと言った。

「―――泡沫殿、コテツ殿、我、棲む家」






誤字脱字等、ご報告よろしくお願いします。

-15-
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える




東方求聞史紀 ?Perfect Memento in Strict Sense.
新品 \1995
中古 \306
(参考価格:\1995)