小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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はい、えー投稿が遅れて本当に申し訳ありませんでした。
言い訳と理由はちゃんと有りますので、詳しくは最後にて。

それではどうぞ。

…タイトルが内容に負けてる気がしまくってる…








其の十四。伊吹童子、相対するは、忠義の狩猟豹。





「―――この辺りか」

愚者と椿を待ったまま、走る事数十分。


暫く走り続けて、漸く頂上にたどり着いた。犬走の言葉が嘘でなければ、ここにコテツが居る筈だが、コテツどころか、鬼の一体すら見当たらない。

「―――コテツ!どこだ!」

久し振りに自分から大声を上げ、コテツを探す。しかしながら返事は無かった。





だが―――その代わりとでも言わんばかりにズドォン!!という音が今までよりもはっきり聞こえてきた。

「…向こうか」

轟音が聞こえた方へ再び全力で走る。音が聞こえた方向へと、近づいて往く。向かう方向からほんの僅かだが酒の匂いがした。恐らく、鬼たちが居るのだろう。
…そう言えば、コテツはオレと違って酒が嫌いだった筈。

「少し、急ぐか…」

そんな言葉を吐いた直後。

「やあああぁぁぁぁ!!!!」

「はあぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

コテツと、もう一人の見知らぬ声が聞こえた直後。先ほどと同じ、ズドォン!!!という音が先ほど以上に大きく聞こえた。

「ッ!コテツ!」

聞こえた先へと走る、走る、走る。藪で隠された方へと只管に。闇雲に。



その藪を抜けた先に、大きな広場があった恐らくだが人三百人は余裕で入りきるほど広い。広場の中央を囲うように、額から、側頭部から角を生やした者―――鬼が熱狂しながら、何かを眺めていた。どうやら、オレには気付いていないらしい。

その正体を探る為に、空中に着地して上から見た。すると、中心だけが鬼たちが全くと言っていい程いない事に気が付いた。

その中心に二人―――いや、一人は恐らく鬼だろう。実質一人だけだ。側頭部からそれぞれ一本ずつ角を生やした髪の長い鬼の少女。もう一人は、見慣れた、家族の顔だった。

コテツは獣らしく、元の姿である狩猟豹を彷彿とさせる様な四肢を地につけ更に身体の高さを低く構え―――コテツが消えた。

少女の方を見れば、その握った拳を既に振り抜いていた。更に言えば―――拳が止まっている位置には、コテツの左脚があった。
それに合わせて、周囲に鳴り響く轟音。少女とコテツは互いに吹き飛ばされるも、すぐに立ち上がった。

だが、おかしな事が一つある。少女の顔は嬉々とした、この闘い―――もとい喧嘩―――を楽しんでいる表情をしている。が、コテツの顔はその逆―――。

嬉々とした表情でも無い。

その顔に浮かんでいるのは―――明確な怒りだった。

「―――コテツ!!!」

見ていられなくなり、大声で家族の名を呼ぶ。周囲の鬼たちの熱狂は一気に静まり返り、視線がオレに殺到する。少女もオレの事を見ていた。

コテツは驚愕した表情を浮かべると辺りを見渡し―――オレを見つけたようだ。





「―――あ…るじ?」

その返答に空中を駆け、鬼たちの頭上を通過し、コテツの目の前に降り立った。
改めて、コテツを見る。オレが眠る前と比べて、少し背が伸びていた。尻尾の数も四本に増えている。喧嘩の途中だったからか、体中―――特に足に酷い怪我を負っていた。
よく見ると―――ボロボロで分かりづらいが、左肩から胸にかけて裂けてしまっているオレの着流しを、自分の着ていた着流しの上に重ねて着ていた。

「今戻った。…ありがとう。オレの命令に従ってくれて」

「―――ッ!主ぃ!!!」

涙を流しながらオレに突っ込んでくるコテツに対し、オレは「落ち着け」と言ってなだめる。
…こういうのは柄では無かった筈なんだが…。

「へえ…お前がそこの妖獣が言ってた『主』ってやつか」

「―――」

「…落ち着け。何があった?」

鬼の少女が言葉を僅かにでも発する度に、コテツの眉間に皺が寄って行く。オレは頭を撫でながらそう言って、コテツに事の顛末を聞いた。

いや、聞こうとした。
その答えは鬼の少女が答えてしまったのだ。

「あー、その事なんだけどね。私がこいつを無理にでも戦わせるためにちょっと、おちょくったんだよ。そうしたら喧嘩どころか本当で殺す気で来て…いやー、助かったよ。ありがとね。あ、私は伊吹萃香。お前たちは?特にそっちの妖獣」

「…数多泡沫だ…コテツ」

「は、はい!」

何故か怯えながら返事をするコテツ。怒る前触れの様に見えたのだろうか。ならば、それは間違いだと伝えなければ。

「主として命じる。コテツ―――真正面から叩き潰してこい」

「―――はい!」

「―――へえ…上等だ!その勝負受けて立つ!」

そうして、オレが中心から離れたのを確認したコテツは鬼の少女―――伊吹の首に蹴りを見舞っていた。

「…速いな。ずっと見ていなかったせいもあるかもしれんが、それでも速くなっている…はたまた、オレが衰えたか」

「いや、お前さんみたいなのに限ってそういう事は絶対ないね。大体何なのさ。お前のその膨大な妖力といい、あの妖獣―――コテツだっけ?も能力を使ってるのを含めても速すぎるだろう…」

「…コテツには『速さを操る程度の能力』を持っているのでな。しかも、オレが知っている尻尾の数も増えている。この姿で戦って果たして勝てるかどうか―――それと。オレの名は数多泡沫。お前の名は?」

伊吹のとはまた少し違った金髪の、額から赤い角を一本生やした鬼がオレの後ろで胡坐を掻きながらその手に持った杯を傾けていた。

「―――おっと、自己紹介が遅れて悪かったね。私は星熊勇儀だ。…にしても、あの妖獣の主ってことは、それを従えるだけの力量が有るって事だろう?」

「…さあな。少なくとも、オレはそう言う風に考えた事は殆ど無い」

「じゃあ、どんな風に考えてるっていうんだ?」

一角の鬼―――星熊が笑いながらオレに尋ねた。
視線を正面に戻し、コテツと伊吹の勝負を見る。おかしなことに、その場にはコテツしか居なかった。だが、コテツは殴られたように一度怯んだ。

直後に、何も無い―――筈だった空間に噛み付いた。その場所から浮き出てくるように、伊吹が姿を現した。左腕はコテツに噛みつかれ血を流し、その表情は驚愕一色。

「づ!?こんの…離せ!」

「―――!」

コテツが噛む力を強めたのだろう。伊吹の顔が苦痛に歪む。伊吹は空いた右腕でコテツに殴りかかるが、コテツはそれよりも速く―――圧倒的に『速く』、腕を用いずに伊吹を地面に投げた。
…投げたとは言った物の、かくゆうオレもあまりの速さに何が起こったのかを地面に背を着け倒れている伊吹と、口を血で真っ赤に染めたコテツから想像しただけなのだが。

「かはっ!…やってくれたね!」

伊吹がそう言うと、また伊吹が見えなくなる。が、それに続く様にコテツも消えた。いや、消えたわけじゃ無い。先ほどと同じく、目視出来ない―――能力の影響で視力が強化されているオレの眼ですら、その姿を捉えるのは不可能だった。

オレは、再び視線を星熊に戻す。唖然。その単語が最も似合う表情をしていた。

「―――オレは、コテツの事を家族として考えているつもりだ」

そう言った直後、星熊はオレに対し、表情をきょとんとさせ、直後に大笑い。
一しきり大笑いし終えた星熊は、息を整えながらこう言った。

「成程ね。妖獣はああは言ってるけど、実際は殆ど対等な関係だと」

「その解釈で問題ない。それと…先程からオレに向けている殺気は、『オレと勝負したい』という意思表示で構わないか?」

殺気…と言ってもいいのだろうか。そうと言うにはあまりに薄すぎて、睨まれた方がまだ怖く感じる程度の殺気が星熊からオレに向けられていた。

「へえ、唯力押しだけで戦うだけって訳でも無さそうだね…。ますます戦いたくなったよ」

「…そうか。なら、丁度良かったかもしれないな」

「…どういう意―――」

直後、ズンッ…と鈍い音が周囲に響く。再びコテツと伊吹に目を向ければ、伊吹の腹に膝を叩き込んだコテツの姿があった。そのまま伊吹は力なく仰向けに地面に倒れた。

「なっ!?萃香!?」

数秒の沈黙の後、オオオオオオォォォォ!!!と、耳が痛くなるほどの歓声が響く。耳を強化していなくて良かったと改めて実感した。



「―――ん?」

一瞬、誰かに見られたような気がしたが…気のせいか。












僕が膝を伊吹萃香に叩き込んで、決着が着いた瞬間、周囲は歓声、歓声、歓声の嵐に包まれた。

「やるじゃねえか!あの妖獣!まさか妖怪の山最強の一角、伊吹嬢を倒しやがった!!酒だ、酒を出せえ!!」

「すげえ!すげえよあいつ!!次は誰だああああ!?」

「あたしが行くよ!って言うか、よく見ればかっこいい顔してんじゃないか!あたしゃ惚れたね!」

「何を!私だってあんたより先にあの子に惚れてたっての!」

「ばーろ共!連戦なんざつまんねえよ!しっかり休ませてやれってんだ!テメエらは」

…うん、一番最後の鬼の方、半分ありがとうございます。
疲労困憊で、立つ事すら限界で、そのまま倒れ―――そうになったのを、誰かが受け止めてくれた。いや、誰かが何て言わなくても、すぐに分かった。

「主…やりました…よ?」

「…ああ。休んでおけ」

その言葉を聞いてすぐ、僕は沈みこむ様に意識を黒色に落とした。









「…まさか、萃香を倒しちまうなんてね…」

コテツと伊吹をオレと星熊が座っていた場所に横たわらせ、オレと星熊は今まで二人が喧嘩をしていた場所に立っていた。

「で、お前さんは妖獣―――コテツよりも強いって事らしい。凄く楽しみだけど、勝てるかどうか…」

「そうか。…そう言えば、喧嘩は何かを賭けて行うんだったな?」

そう言うと、星熊は何故か口元を抑えながら「誰がそんな事言ってたんだ?」と聞いてきた。

「いや、随分前に八坂にその様に聞かされてな。その時にその様な事を言って、賭けを行ったからな」

「…お前さんが本当に妖怪なのか疑わしく思えてきたね…。相当物騒な得物も持ってるし。―――なら、勝った方が負けた側から何か一つ貰うってのはどうだい?」

「問題ない。…では、始めるとしよう」

「―――ああ、萃香の敵討ちって訳でも無いが、全力で挑ませてもらうよ!」

星熊が駆けだしたのとほぼ同時、オレも駆け出し―――

「―――おおおぉ!」

「―――うらぁ!」

オレの持った愚者の柄頭と、星熊の拳が衝突した。







誤字・脱字等あればご報告をよろしくお願いいたします。












えー、投稿が遅れた言い訳ですが、相当酷いスランプに陥っていました。
それともう一つ。理由と言い訳を分けた理由ですが―――






―――ちょっと利き手の指を三本折って、投稿できない状態になってました。
原因は、完全に自業自得な訳で、暗い帰り道を自転車で走っていたら段差に気が付かず、ぶっ倒れた拍子に利き手の指(人差し指、中指、薬指)が変な着き方してしまって…という具合です。
本当に申し訳ありませんでした。これから早いとは全く言えませんが、出来るだけ早目早目の更新を心掛けたいと思います。
それでは。   by寄生木


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