小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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其の六。これからの事。

「……ぅん?」

唐突に、目が覚めた。そして何故か目を開けると視界が真っ白――多分包帯かそれに近い布だ。それが左腕と髪が生えている部分を除く、上半身全体にぐるぐる巻きにしてあるように思える。




…いやいやいや、ちょっと待て。今までオレは妖怪たちと戦っていた筈だ。それなのに何で布団に入って今まで寝ていた?

「まさか、夢…ってこともなさそうだな」

現に、コテツに噛まれた足は痛むし、妖怪たちによって傷つけられた身体が悲鳴を上げている。

「痛たたた…」

上半身を起こしただけで相当な激痛が襲う。が、それでも動けなくはない。


…あれ?

「コテツは…」

妖怪たち相手に一緒に戦っていたコテツが居ない。
そう思って動かせる左腕で顔に巻き付いてる包帯を少しずらす。そして周囲を見渡す。
まず右側。誰もいない。ここで、今オレは自分の家に居ることが分かった。

次に前。やはり誰もいない。

最後に左側。そこで、今まで見た事のない、黒の着流しを着た金髪の、何故か猫耳が付いた…顔が中性的で分かりづらいけど多分男…いや少年が正座をして舟を漕いでいる男を発見した。

そして、その脇には『愚者』と『椿』が置いてあった。

「…おーい」

「zzz」

少し呼びかけてみたが…完全に寝ちまってるか?
ので、もう少し声を大きく出して呼びかけてみる。

「おーい」

「――は!………主!!」

今度は目を覚ましたようだ。そして、オレを見た途端声、声を上げてオレに抱き着いてきた。

「ちょ!?どうし…痛だだだ!?少し離れろ!」

少年がいきなり抱きついてきたので全身の傷が痛む。そして抱き着いてきた男に離れるように言う。

「…」

言われてハッとしたのだろう。慌ててオレから離れ、申し訳なさそうな顔をしてる。
…そんな顔されたらこっちが悪いみたいだな。何と言うか。

「あー、悪かった。だからそんな顔しないでくれ」

「……!」

ぱああっと、少年の背景が明るくなるように感じた。背後にある尻尾もブンブン振られている。

ん?あの尻尾どこかで見たような?それに、あの耳も……まさか

「お前、コテツか?」

「…!はい!」

…マジか。

「…戦いはどうなった?」

「お、覚えていないんですか?」

「?確か、戦ってたらいきなり涙が――ッ!!」

―そうだ。
思い出した。
オレは、いきなり涙が流れてきたと思ったら自分の本心を思い出して、それから…

「――なあ、コテツ。オレは妖怪になってその後、どうした?」

「…あの場に居た僕以外の妖怪たち全てを食らい、そのまま元の姿に戻りました」

…マジか。いや、まあ覚えていなくはない。ただ、まるで夢でも見てるみたいに曖昧な感覚がしたから確証は持てなかったけど。
ただ、前世の記憶なんてもう欠片程度にしか覚えてないけど、オレが妖怪化した姿は確かよくやっていた『ゴッドナントカ』に出てくる『スサノオ』ってモンスターと同じ姿だった筈だ。
まあ、外見的に好きだったから問題ない。

「そうか…所で、この包帯はお前が?そこまで酷い怪我は負った覚えは無かったんだが」

「は、はい。それなんですが、その…」

何かもごもごしてそのまま黙り込んでしまった。どうしたんだ?

「あ、鏡を持ってくるので待っててください!」

そういってあっという間に部屋から出ていき、あっという間に戻ってきたコテツ。
速いな…残像が見えてたぞ、今?

「ありがとな」

そういって、頭を撫でてやる。最初はビックリしていたけど、すぐに慣れて「えへへ」なんて笑いながら嬉しそうにしていた。

そして、コテツの頭から手を放し、顔の包帯に手をかける。すると、何故かコテツがビクビク怯え始めた。

「…どうした?」

「い、いえ。ただ」

「ただ…?」

「ぼ、僕は後ろを向いていてもいいですか?」

「?…まあ別に良いぞ」

その言葉を聞いてかコテツはホッとして後ろを向いた。…何かオレの顔にあったのか?

改めて包帯に手をかけ、包帯を外す。そこに写っていた顔を見て思わず血の気が引いたと同時、コテツが後ろを向いた理由も分かった。

「な…」

何せ、髪の生えている部分はそのままに、右目があった場所は空洞になっていて顔の右半分が、大火傷を負ったかのようにボロボロで、皮膚が残っていなかったのだから。

嫌な予感がし、上半身の包帯も外す。その下も顔と同じように、右腕と上半身の右側――ただし、下の方に行くにつれて皮膚が残っており、腹は横腹の辺りまでで落ち着いていた――もボロボロだった。

――いや、果たしてこれは顔や腕と呼べるのだろうか。オレには肉塊が強引に人の形になろうとしたモノに見えた。
そういう風にしか、見えなかった。

だが、オレはこんな怪我を負った覚えは一切ない。それに、これだけ派手に皮膚が無くなっているのにそれらの部分に痛みは無い。

「…何でだ?」

「主、その、少し説明しづらい事ですけど…」

「何だ?その前に、お前はオレの能力の影響はないのか?」

「…えーと、他者に嫌われる程度の能力でしたっけ?僕は元々動物だったので、能力の影響を受けていないんじゃないですか?」

「元々動物だった奴はオレの能力の影響を受けない…か」

少し前のオレだったら嫌でも拒否していただろうけど、今なら大歓迎だ。

「それとその傷なんですが、多分、妖怪化した代償か何かかと…」

「代償?どういう事だ?」

コテツの言葉に思わず疑問を抱く。まさか、ただ妖怪になっちまっただけでこんな事になっちまうのか?

「えーと、まず僕なんですが、元々動物は長生きすると自然と妖獣となったりして生きる事が出来ます。
自然界にいる妖怪たちの妖力に常に晒されているから、自然と妖怪になってしまうんだと思います。僕の場合は、ちょっと違いますけどね。
人間も主の様に妖怪になること自体は可能ですが、本当にごく一部のしかなれないうえに、人間は妖怪化してしまうと妖力を放出することが出来ないから死んでしまうと思うんです」

「妖力を放出できないから?」

「はい。人間は他の動物と違って霊力を扱うことが出来る。でも、霊力に慣れ過ぎているのが原因で妖力に身体が適応できないんだと思います」

慣れてないものを取りすぎると身体に悪いのと一緒です、とコテツは付け加えるように言う。
…こいつは人間として生まれてたなら、さぞ高名な学者にでもなってたんじゃ無いかと本気で思う。

「じゃあ、何で本来適応できないはずの人間であるオレがまだ生きてるんだ?」

包帯に巻かれていた親指以外の指は四本束になるように、一緒になってる状態だったので、今度は一本一本ちゃんと巻いて行く…よし、あとは顔だけか。 

「憶測に過ぎないんですが、妖力が溜まらないようにする為の出口…捌け口とでも言えば分りますか?」

「…アレか?妖力を水として、オレの身体を器とする。で、その器に入りきらないほどの水が入ってきたから、今のオレはその器の一部…オレの右上半身を壊して、外にワザとこぼしてる状態ってことでいいのか?」

「そういう考え方で大丈夫かと。現に皮膚が無くなってしまっているところから妖力が流れ出ていますし」

「…マジか」

試しに自分の中を探ってみると、今まで有ったモノが無くなっている感覚とそれを埋め尽くすほどの膨大な妖力らしい力、そして『食べたモノを力に変える程度の能力』ってモノが追加されてた…妖怪化した姿がスサノオだったからか?

まあ、名前だけ見てもらえればわかると思うけど、名前のまんまの能力だ。

試しにコテツに水を汲んできてもらい、そのままコップに入った水を飲む。そうしたら、力が湧き上がってくる感覚があった。

たぶん何でもいいから飲み食いすると、妖力が増加されるらしい。

…あれ、力に変えるってことは回復じゃないんだよな?てことは妖力の上がり続ける事に上限なしか?

他の妖怪もそうかもしれないけど、比較する相手がコテツしかいないからな…。まあ、どうでもいいか。

能力が追加されたことと、その内容を言ったら「…三つ目ですか?」と驚きながら引かれたけど。

あと、さっきのオレの説明で分からなかった人。膨大過ぎる力にオレ自身が耐え切れないのである程度の力を逃がすための捌け口を作るのにこうゆう風に顔やら腕やらが大変なことになってるって考えておいてくれ。

オレとしては、まだ気付かないうちに妖怪にやられてましたーって理由の方が納得できる。

……試しに左腕に霊力を流すのと同じ感覚で妖力を流してみたら、左腕がいきなり膨れ上がるように変化し、オレの体の大きさに合って無い程、巨大な鋏のような『口』になった。

大きさは変わっても、感覚としては指が無い事と、自分の顎の様に動かせたことを除けば殆ど同じだった。コテツの言うように、伸びたりするかはまだ確かめてないが。

コテツはいきなりの事に焦ってたけど、オレが自分でやったって言ったら落ち着いてくれた。

――そう言えば

「今さらだけど、ここってもしかしなくてもオレたちの家か?」

「はい。あ、僕の着てる服も勝手に拝借させてもらいました。すみません」

「いや、そういうのはいい。包帯は…聞くまでも無いか」

ここには永琳だって住んでいたんだ。包帯じゃなくとも医療用品が置いてあっても不思議じゃない。

「さて、こっち向いても大丈夫だぞ?あとついでに『愚者』と『椿』も取ってくれ」

「あ、はい。分かりました。それで、この後どうします?」

『愚者』と『椿』を受け取りそのまま――繋げられるか分からなかったけど、普通に、いや、今までより楽に繋げることが出来た。
今まで説明してなかったので説明して置くと、物置とは別の、武器用の四角柱上の空間に、だ。いつも物置に入らずに腕を空間に突っ込んで武器を取り出せるのはこのためだ。

どうする、か…………………

「――まず、この家を出るぞ。話はそれからだ」












さて、少し前に本気で考えたことがある。
それは、永琳たちが居なくなった以上、この町を残しておくのは色々不味そう――何が不味いって主に未来が変わってしまいそう――なので、ぶっ壊すことにした。

コテツに言ったら「な、何故ですか!?」と言いながら詰め寄ってきたが、少し内容をはぐらかして――この先人間が生れる事があったら、あの町を残しておくのは色々不味いんじゃないかという旨を伝えたら普通に納得してくれた。

まあ、正確には『俺たちの住んでいた家』を壊すのはどうかと思っただけで特にそれ以外には反対する理由も無いらしい。

「まあ、時が来れば新しい家を建てるさ。………作れたらな」

「ちょ?!主!?今の一言で物凄い不安になったのですが!?」

「うおっ!お前こそ涙目になって抱き着こうとしてくるな!」

それに、新しい能力も試してみたい。そういう願望もあったから丁度良かった…のか?














さて、ここはオレたちの住んでいた町から少し離れた草原。こんなところまで来て何をするかと聞かれれば、答えることはただ一つ。

「さて――久しぶりにやるか」

オレは『愚者』を取り出し、右手で持ち、腕をダラリと下げる。ただし、『愚者』は手首を動かして刀身が地面と平行になるようにする
これがいつものオレの構え。ワザと隙だらけにしてカウンターを狙っているのではなく、如何なる体勢であったとしても相手の急所を斬り、突き、殺せる様にあえてこの構え方をする。

…一応言って置くけど、今まで戦闘描写らしいものが出てこなかったのはだいたいこの戦い方が原因だ。実戦型だからこそ、味気なく戦いが終わってしまう。だから、まともな描写がほぼなかったんだ。

もしくは、書き手の力不足。…こっちの方が割合占めてる気がするけど。

今は関係ないが、まだ記憶が鮮明だったころに前世でやったりしたゲームの技を一つだけ再現したが、名前は確か………『是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)』――ハイスピード九連撃――だったっけ?を『愚者』を使って再現できた。

まあ、実際問題超が付くほど接近してる状態でもない限りは全部当たらないけど。

「コテツ、今のうちに物置に入っておけ。巻き込まれるぞ」

「は、はは…。否が応でもそうさせて下さい…」

空間を開け、物置に繋ぐと何か乾いた笑みと共にそそくさと中に入ってしまった。

オレは、物置に繋がる裂け目が消えたのを確認し、『愚者』に妖力を込める。
…正直、『愚者』の力が発動するか分からない。今まで霊力でやってたし、妖力でやったことは無いから失敗する可能性の方が大きい。

――まあ、失敗してもその時は長い時間をかけて『椿』を使って建物を切り崩していくつもりだが。

「……」

『愚者』を両手で持ち、腰を捻り、身体に力を溜めるのと一緒に『愚者』に妖力を流し込む。

先ほど分かったことだが、オレの身体は妖力を流し込むと勝手に妖怪としての姿――包帯を外せば妖怪にしか見えないが――になってしまうらしい。

コテツは身体強化に使ってるとか言っていたが、オレはそれが出来ない。『妖力を使う事=全力の戦闘』が勝手に成立してしまうからだ。

まあ、普通に妖怪と戦っていた時も霊力使って身体強化はやっていなかったからいいけど。

――此度斬るモノは『空間』。かつて、山一つ崩してしまった過ちから使うことはもう無いと思っていた一撃。

――だが、もうその制約は必要ない。何故なら、この地にはもうオレしかいないから。周りの被害を気にする必要性は無い。

そして、妖力を流し終えた『愚者』を――

「―――おおおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」

――全力で横に一閃する!!



直後。
オレの真正面の空間が横にズレた。
そして、そのズレにはオレやコテツ、永琳が住んでいた町も含まれている。

だが、僅か数秒で空間のズレ自体は治ってしまった。そう、空間だけは――

―――ガラガラ!!!―――ズドンッ!!!!!!―――

遠くから、沢山の大きい物が崩れる音と、何か途方も無く重たい物が地面に落ちる音が響く。それも、断続的に。途切れることなく。

――その空間と共に斬られた建物などが、無事でいられる道理は一切なかった。
















「コテツ。もう出てきて大丈夫だ」

僕が入っていた(逃げ込んでいた)主の物置の空間が突然開いたと思ったら、主からもう大丈夫だという事を伝える声が聞こえてきたので、僕は外に出た。

――そして、自分の周りの状況を見て、唖然とした。

「あ、主…この瓦礫の山は………と言うか何をしているんですか?」

辺り一面、見渡す限りに瓦礫の山が出来上がっていた。ただ、問題はそこではなく、その内の一つに主が妖怪化した左腕を突っ込み、『ガリッ、ゴリュ!!』などと硬い物を強引に砕いた時のような音が鳴らしていることだ。

「ん?これは町を斬った時の残骸だ。何をしていると言われても、ここにある瓦礫を食っているんだが…?」

「いや普通食べられませんからね!?」

まあ、妖怪化した時に得たと言っていた『食べたモノを力に変える程度の能力』には、『○○を食べなければならない』といった制約が無いのだろう。現に、瓦礫の量が減るにつれて妖力も徐々に先ほどよりも上昇している。

「なあ、コテツ」

「…?どうかしましたか?」

まさかとは思うけど、瓦礫を食べたからお腹が痛いとかは…

「オレがここにある瓦礫全部食い終わったら、旅でもしないか?」

「…旅、ですか?」

「ああ。ひたすらに自由に当てのない旅をして、行く場所がなくなれば海でも渡ろうと思ってる。別に強制するつもりもないが――ついて来るか?」

予想していた言葉と違う言葉が出てきたことに安心しながら、今主に言われたことを考えるまでも無く僕は即答した。

「主。――僕は主に付き従うだけです」

「…そうか…………」(ボソッ)

「…何か言いましたか?」

「いや、なんでもない…って、お前今の絶対聞こえてただろ!?今の!」

「さて、なんの事ですかね?僕には分からないですよ?」

そうしてじゃれ合い程度の口喧嘩が始まって、会話が止まってしまいました。


でも、小さく聞こえないように言ったのであろう言葉は本当にうれしかったんですよ。
…僕の耳にはしっかり『ありがとう』って聞こえていましたからね。


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