小説『東方鬼蠍独拒記』
作者:寄生木()

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其の七。今現在の日常。それと、罪悪感。

コテツに一緒に旅をしないかと聞いて、了承を得て二人で旅をし始めて大体…最低でも五百年以上は経った。行く場所も無くなったから海を渡って、また別の遠い場所へ…そんなことを繰り返してたら旅をすることに飽きたので、今ではある森の中に住居――と呼べるかどうか怪しい物の中に住んでいる。

…ちゃんと時間の経過覚えてろよ?いや、時計もそういうのを知ったりする物持ってないのにこまめに覚えてられるわけがないだろ。

それで、コテツと旅をして結構な年月が経った――少なくとも百年以上――ある日、オレは自分の頭の中にあった自分の考えを無かったことにしなければいけない程、衝撃的な事実を知った。

それは――恐竜が居た事だ。

オレは、町の発展具合からオレが元々生きていた時代に近い――まあ、永琳がいろいろやってからの話だけど――世界に妖怪が追加されたような世界なのだと思っていた。
けど、実際問題どうだ。オレの目の前には名前は分からないが、少なくともオレが妖怪化した時よりもデカい生き物――恐竜が居た。

という事はだ。オレは少なくとも、過去に――本来であれば人類がまだ登場していない程過去に転生させられたことになる可能性がかなり高くなった。

まあ、過去に転生させられたこと自体は問題は無かった。恐竜も隕石が原因とされている気温の急激な変化に着いて行けず絶滅したとされてるから、放っておけば勝手に居なくなるだろうと踏んでいる。

問題は、オレの方だ。事実上寿命で死なず、妖力の枯渇が原因で死のうとも、『食べたモノを力に変える程度の能力』のおかげでかつて永琳に心配されていた食事の量も増え…これは関係ないか。地上に人間が居なくともオレは何かを食えば妖力を作って生きていけるようになった。
コテツは、オレから発生した妖力を分ける形で生き続けていられる。

――あと、この間チーター特有の太い、斑模様――コテツはその模様が若干違うが――尻尾の本数が二本に増えたと大喜びしていた…コテツってネコ科だから初めから本当は二本あるべきなのか、尻尾の先が二股になってるべきなのかは分からんが――

では、一体何が問題なのか。


……いろいろ不味いんだ。暇だし。少なくとも一億年以上は人類が地球に現れる事は無いだろうから。それに、そうしないとオレたちが、主に精神的に不味い。理由は後程。
――まあ、そんな結構前から起こっていた問題を思い出し、頭を抱えたくなった。

「主?どうしたんですか?起きて早々頭を抱えて」

「いや、大丈夫だ……これから食料調達に行くけど、来るか?」

「――行きます」

コテツとそんな他愛も無い――コテツが若干辛そうな顔をしていることを除けば――会話をしながらオレとコテツは今オレたちが住んでいる物の中から、緑が生い茂っている森の中へ出る。

そして、改めて今自分たちが住んでるものを見て、何となく苦笑いをしてしまった。

「やっぱり…これって、家って言うよりは……塔だよな?」

オレの視界に収まっているのは、今オレが言ったように塔だ。真っ白で、近くで見れば生き物の骨のような物がチラホラ見てとれる。高さは50メートルは確実にある。

「き、気にしたらいけませんよ、主」

いや、コテツ。そうは言ってもコレ、気にするなって方が無理だと思うんだが?とそんな意見を口に出さず、この塔が出来た経緯を思い出してみる。















確か、オレが恐竜やら植物やらを食べてる時にコテツが言ったことが原因だったりした筈だ。

その頃は、行く場所も無くなって森の中で毎日のんびり過ごしていた。そんな時にコテツが泣きついて来たんだっけ…?
始めは、恐竜にでもやられたのかと思ったが、話を聞くと『新しい家が欲しいです!』と言ってきた。

『……は?』

始めは訳が分からなかったが、そういえば町を壊した時新しい家を作ると約束したことを思い出した。ので、作ることにしたんだが…

――まあ、思いっきり失敗した。食った恐竜たちの骨やら周りにあった大きな岩石とかを縦に横に積み重ねていったら歪な、それでいて、何故か建物としてちゃんとしている塔(モノ)が出来てしまった訳だ。因みに、食った恐竜たちの骨をそのままにするのも勿体無いので何だかんだでオレが食うか、塔の一部になったりするので実質まだまだデカくなる筈だ―――


















「主?どうしたんですか?」

「いや、何でもない…」

あの塔が出来た経緯を頭から振り払う。これから朝食を狩りに行くのにそんなどうでもいいこと考える必要は無い。





――そして、塔から歩いて五分ほどの場所

『愚者』と『鷲爪』を取り出し、左手に持った『鷲爪』で真上に向けて

――バンッ!!

そのまま発砲した。

すると、一分もしない内に『ズシンッ、ズシンッ』と巨体の歩く音が聞こえる。
そして、オレたちの目の前に現れたのは血に飢えた肉食恐竜――それも、一匹ではない。小型のモノから死体となった小型の恐竜を銜えている大型の恐竜も含め、総数十一。

「コテツ。お前は小さいやつから潰していけ。オレはデカいやつから潰す」

「分かってます」

分かりきっていることだが、コテツは妖怪化し、尻尾の本数も増えたとはいえ、小柄な上に力も――脚力を除けば――強くは無い。

だからこそ、オレがデカいやつらから潰し、コテツは小さいやつらから潰していく。そういう風に役割をキッチリしておかないと互いの攻撃の餌食になったりする――実際オレはコテツの攻撃に巻き込まれたし。

と、コテツの返事を聞いてすぐ思案を始めたオレの背後から比較的小型の恐竜が襲いかかってきた。

――いや、襲いかかろうとした、の方が正しいか。そしてそれは失敗に終わる。
何故なら、

「――ゴメンね」

―――グチャ!!!―――ゴキン!!

――何故なら、コテツが既に視認することすら叶わぬ速度で恐竜の喉を食い千切り、そのまま頭に蹴りを頭に叩きつけ、頭を吹き飛ばしたからに他ならない。

…なんで見えてないのに分かったかって?だって口には食い千切ったのであろう肉をそのままモグモグ食ってるし、右足も口元と同じように血まみれになってる。

それに、本来コテツは視認できない速度で動けるかと聞かれれば否だ。ならば、何故かと聞かれればそれがコテツの能力――『速度を操る程度の能力』があるからだ。

速度を操る――自分の動きを速くしたり、相手の動きを遅くしたり、そういった使い勝手が良い能力と考えられなくもないが残念なことにまだコテツは自分の速度を上げることにしか使えないらしい。まあ、コテツの性格上、自分にしか使わないだろうけど。

前世で読んだ漫画で、『光の速度で』相手に攻撃するやつが居たような気がするが、それの劣化版とでも思えば理解しやすい…筈。

――恐竜たちは目の前で血が飛び散ったことで、その匂いに興奮したのだろう。今度は残った十匹すべてで襲いかかってくる。オレが狩るのは三体。コテツが七体。

「――ハッ!!」

――ザシュ!!――ザンッ!

オレは一番速く襲いかかってきた5メートルはある恐竜の右脚を斬り、バランスを崩しそのままオレに倒れそうになってきた巨体の首をそのまま刎ね飛ばした。まず一体目。残り二体。

次に、オレは襲いかかってきた恐竜の中で最も遅く、最も大きい恐竜に『鷲爪』で狙いを定め、

――バンバンッ!!!

二発、発砲する。
発砲した弾丸は吸い込まれるように恐竜の眉間を貫き、前のめりに倒れこむように絶命した。二体目。あと一体。

オレはすぐさまその場を移動。
――直後、オレが先ほどまで立っていた場所には――恐らく、今のオレでも分かるほどの知名度を持つ恐竜が居た。それはオレの記憶の中にある恐竜の化石の中で最もその骨格との大きさが近い――ティラノサウルスと思われる恐竜。

「■■■■――!!」

恐竜は甲高い咆哮を上げてすぐ、こちらに突っ込んできた。

オレはその場を動かず、右手に持った『愚者』を持った腕を少し肘を曲げ頭の上に刀身が来るように構えをとる。
これからオレが放つのは、前世の記憶にあったあるゲームの主人公が使用した技…だった気がする。

そして、1メートルも無い程に接近してきた恐竜を、

「―――――『是、射殺す百頭』」

――――ザザザザザザザザザンッ!!!!!!

オレが使う事の出来る、最強の九連の斬撃を持って、その命を刈り取った。










今日の収穫は朝食どころか、今日一日は絶対に持つ程度には獲物が狩れた。

…コテツの戦闘の様子はどうしたって?

……アイツはアイツで自分の食料のためとは言え、他の生き物を殺すことに罪悪感があるみたいで、『ゴメンよ、ゴメンよ…』って泣きそうな顔しながら戦ってる様子を説明しろと?

…けどオレも人の事言えた義理じゃない。オレの周りに食料となる恐竜が居るのも、オレの動物に好かれる体質があるからだ。動物たち――恐竜たちも一応このカテゴリーに入る――はオレにじゃれつく意味合いで近寄ってくるから、それを利用してると考えると自分で自分が嫌になるほど自己嫌悪している。

でも、それでも、『生きるため』と割り切るしか無い。人間が早く出てきて欲しいと思うのは、オレたちがこれ以上無暗に生き物を殺したくないから、というあまりに自分勝手な理由からだ。

…あー、何か暗い空気になっちまったな……

「…コテツ」

「…何ですか、主」

朝食を食べ終えたオレは、まだ恐竜の肉に手を付けていないコテツに声をかける。
いつも通り、罪悪感が原因で喉を通らないんだろう。コテツはこちらを僅かにも見ず、背を向けたまま震えた声で返事を返してきた。
全く。コイツ、いつもは頭良いくせにこういう所は割り切ったり出来ないんだよな…。

「コテツ――少し散歩してくる」

―――だから、泣きたい時は思いっきり泣いておけ?

それだけ言って、オレは今オレたちが住んでいる塔を出た。

――そして、すぐ。

「――うわあああああああぁぁぁん!!!」

塔から、大声で泣く声が辺り一帯に広がって、やがて、空間に溶け込むかのように聞こえなくなった。








さて、少し時間をおいて塔に戻ったところ、コテツが泣き止んでそのまま寝てしまったらしい。…意外と子供らしい部分もあったんだな。
時間は、多分昼頃。

オレは身体に巻いてある包帯を外し――コテツの前では絶対にとれない。まずとらしてくれない――自身の右上半身を晒す。

前に、どうにかして治そうと考えていた時期があったが、すぐ諦めた。幾ら妖力が増えたり、時間が経過しようとも、治る気配が一切ないからだ。
右目も無いから、今でこそ慣れてしまっているが最初の内は距離感が掴めないで大変だった。

まあ、そんな説明は今はどうでもいい。コテツが寝ている間に妖怪化した状態で訓練しないと…。

…包帯つけてるんだから、そのまま妖怪化すればいいだろうって?
――確かに出来なくはない。ただ、オレとしては包帯をぐるぐる巻きにして行動するのは嫌なんだ。だから、せめてこれ位は許容してくれ。
けど、包帯外したまま行動して、毎回顔合わせるたびに怯えられるのは嫌なんだよな…。

――全身に妖力を流す。本来、身体強化が成されるそれはオレにとっては姿かたちを作り変えるための作業にしかならない。
…言い方を変えたら、『妖力使って身体強化が出来ない』と同じだが。

そして、オレの周りに黒い靄の様な妖力が発生し、そこからどんどんオレの視点が高くなり――

――そこに居たのは、巨大な化物蠍とでも言える、巨大な妖怪

この姿になれるようになったのは、実は町を出てすぐだ。『左腕もできたんだし、全身もできるんじゃないか?』と考え、やってみたところ、すんなり出来た。


――身体を基点に尻尾を振るう。少し滑るが、その滑った勢いを利用して右腕の『口』を突き出し、そのまま食らい付く。


ただ、慣れるまでがきつかった。元の身体と足の本数も動かす感覚も違う中で、いろいろと苦労したものだ。


――尻尾の剣を辺りに突きつける。すると、その場所から前進するように過剰な妖力を纏った衝撃波が発生した。


とりあえず、動きを一通り確認し――何故かこの姿の時だけ妖力を使ってレーザーだったり、遠距離攻撃を使える――人の姿に戻る。

包帯を出来るだけ髪を一緒に巻かないように身体に巻きなおし、それを終え――特にやることも無いので塔に帰る事にした。

「――オレも、寝ちまうとするか」

一言。そんな独り言を呟いて。

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