小説『黄泉路への案内人』
作者:楽一()

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第四六話


SIDEクロノ


オペレーター「艦隊布陣展開! 攻撃準備完了しました!」

オペレーター2「何とか間に合いましたね。艦長!」

ク「あぁ、だが油断はするな。ゆりかご内部はどうなっている?」

オペレーター「内部に突入した六課メンバーは撤退中。間もなく撤退が完了するとのこと」

オペレーター2「!? 今は言った情報です! 神無月副総帥、主犯の零始の攻撃を受け重傷とのこと!?」

ク「なに!? だが、あちらにはシャマルさんがいる。なら何とかなるか・・・・(お前には無理ばかりさせるな)」

 彼はそう言いながら葵が映し出されたモニターを見る。

ク「(生きてくれよ葵・・・)今はゆりかごの撃破に集中だ!」

オペレーター「はい!」


SIDE out


 その後、無事ゆりかごを脱出した私たちは、今皆がいる場所に着地した。

ス「葵さん!?」

ティア「何でこんな・・・・」

エリ「シャマルさん!」

ルー「葵・・・・」

キャ「お父さん!」

葵「無事だ・・・なんとかな」

シャ「そんなことよりちゃんと治療ができる場所に!」

葵「まだ油断できない。ここでちゃんと・・・確認できてからだ」

 そういって葵は近くの気にもたれるように倒れこみ、空を見上げる。

竜『分かった。シャマル医師。悪いが治療魔法をかけてやってくれ。あと槍を抜いた場所から優先的に』

シャ「分かったわ」

 すると、翼だったか? 私のそばに来て、

翼「私はあなたが言ったようになっていいのでしょうか・・・」

 膝をつき、そう尋ねてきた。

葵「無論だ。お前は人形じゃない。ちゃんと生きているんだ。なら良いに決まっている。グッ」

 一本ずつ槍を抜いて、抜いた箇所から治療を始める。

葵「お前だけじゃない。本来なら皆そうでなければならない。選抜なんてしなくていい。皆が笑って暮らせる世を作りたい。そう思っていったまでだ」

朱「あんた、まだあの夢を・・・」

葵「諦めたとでも?」

ウル「亮はいないんだよ・・・・」

葵「決めたまでだ。それに私みたいなモノが現れたら助けてやれと言われたからな。最後のあいつの遺言であり、意志だ。受け継がない方がおかしい」

 そろそろ終わりか・・・確か予言だと私が消えるといっていたな。準備に入るか。





―最後の時を楽しめたよ





SIDEクロノ


 クロノは目の前に現れたキューブに発射キーを差し込む。

 周りには各艦隊の艦長たちがモニターで一斉発射の合図を待った。

オペレーター「艦長! ゆりかごを確認! 間もなく発射範囲内に入ります!」

 その言葉を聞いてクロノがキューブに鍵を差し込める。それを見て他の艦長たちも歩調を合わせる。

ク「終わりにしよう。葵達の戦いを。【不の者】達の戦いを。全ての呪われた戦いに終止符を打つために!」

 そして全艦長が鍵をひねる。

 だが、

ク「・・・何故。何故だ!?」

オペレーター「分かりません!? で、ですが制御システムに異常はありません!」

オペレーター2「他の僚艦も同様です!?」

ク「くっ「バン」何事だ!?」

 すると、管内が急に真っ暗になりすぐに非常システムに移行された。

オペレーター「原因不明・・・ですがアルカンシェルの発射システムに異常が!?」

オペレーター2「発射が間に合いません!? さらにチャージも!?」

ク「・・・バカな・・・」


SIDE out


ジェ『・・・何故だ』

 ジェイルのつぶやきはもっともだ。今頃アルカンシェルが発射されゆりかごは壊される予定だった。

 だが、その時は一向に来ない。すると、クロノから通信が入った。だが、その表情はかなり焦りを見
せていた

ク『すまない! アルカンシェルが発射できない! それどころかチャージシステムもやられた・・・』

 そのことを聞いた六課たちはかなり焦り始めた。当然竜也達も例外ではない。

フェ「翼?! 何か知ってる!?」

翼「分からない・・・私は何も知らされていないんだ!? 本当だ!?」

 その焦り用から見て本当に知らされていないようだ。すると、葵が冷静な声で、

葵「翼・・・地上本部のデータハッキングは誰がした?」

翼「・・・目だ・・・まさか!?」

葵「多分な・・・」

は「どういうことや!?」

葵「おそらく目が管地上本部から適当にIDを奪い、本局に紛れ込んで造船技術をハッキングしたんだろ。そしてアルカンシェルの技術を知った」

竜『まさか・・・あいつはその対応をしていたというのか』

 私は体に鞭を撃ち、たちあがった。

葵「多分な・・・あいつはどこまでも邪魔してくれる」

ク『手はないのか!? 何か手は!?』

ジェ『アルカンシェル以上の威力の物などこの世に・・・・「あるよ一つだけ」なんだと!?』

 私は孤狐とヴェルに、聖夜の書と、

(ま、マスター?!)

(何故、身から外せるのだ・・・)

 エクスとルミルを外し渡す。

孤「葵、なんでエクスとルミルを外せるの!? これは死んでもその身から外せれない、永久契約だよ!?」

葵「だからすべての負担を背負って解約した。あれを破壊するにはお前たちにはきつすぎるからな・・・これは」 

 そう言い終えると、私の体から黒いオーラが出て、

な「ダメ!」

フェ「葵、それはダメだよ!?」

は「葵君が死んでまう!?」

 そして、そのオーラが収まると私は赤騎士の甲冑を身にまとっていた。

葵「まさかこの力が役に立つとはな。クロノ、ゆりかごの正確な位置データをくれ」

ク『あ、あぁ』

 私はクロノからデータを受け取り。

葵「行こうか。最後の罪滅ぼしだ」

 飛び立った。







 宇宙に向け。






 
 速く








 ただ速く







 そして、数秒も経たないうちにその場についた。








ク「あれは・・・葵なのか・・・」

 軌道上に待機していた他の艦長たちも人間が生身で、甲冑を身にまとって出てきたことに驚いていた。

 だが葵はそれを見ることはなった。ただ、ゆりかごを見据えていた。





葵「さぁ始めよう。この大地にすむ者たちの未来のため。幸福のため」





 すると、葵は謳い始めた。どこの言葉かもわからない言葉で。だが、その一つ一つは優しく、安らぎを与えるようで、まるで子守唄のように聞こえた。






Mae fy mam yn chwerthin(母は笑った)






――それは喜び






Bywyd newydd ar gyfer y geni, y geni Bywyd Newydd(新たなる命の誕生に、新たなる生命の誕生に)







――まるで大切なものが誕生したかのように喜びに満ちた







Roedd fy mam wrth ei bodd(母は喜んだ)







――それは幸福







Mae'r twf mewn bywyd a wnaed gan y fam(母が創った生命の成長に)







――まるで愛する者をめでるように







Mae hyn yn fendith gan fam(これは母からの祝福なり)







――それは母からの贈り物にして永遠の楽園







Roedd fy mam dyngodd gan Dduw, ac felly(故に母は神に誓った)







――その者たちの未来を、幸せを守るために







Ond y rhai sy'n caru a diogelu a tharian eich corff (己の身体を盾にしてでも護ると)







――その決意に揺らぎはなく、その心に迷いはない。







そして私は最後の一章を言い放った







Felly Duw. Er enghraifft, roesoch hapusrwydd tragwyddol a heddwch am byth i'r rhai sydd wrth eu bodd(だから神よ。愛する者たちに永遠の幸せと未来永劫の平和を与えたまえ)







 詠唱が終わると私の背中に虹色に輝く大きな翼が生えた。



 そして、両手を前に出すと、翼同様の色の魔法陣が展開された。




 魔法陣からは私自身からエネルギーを集め、そして次第に大きくなる。




 次第に魔力は球体状になり、私の手から離れ、ゆりかごを包むように飲み込んでいった。




 ゆりかごは、その球体にしだいに飲み込まれて生き、光に包まれる。




 そして、光が晴れるとそこにゆりかごの姿は無かった。





オペレーター「・・・ゆりかご・・消滅」

ク「・・・なんという・・・力だ・・・」


―地上


孤「あ・・・・葵の・・・バカ・・・・」

 孤狐は俯き、拳を握る力が増していく。だがそのほほから雫が流れるのを見た。

は「え?」

な「あの魔法知ってるの?」

竜『【生命の神秘】という魔法だ』

フェ「生命の・・・・」

アリ『・・・神秘』

 言いえて妙だ。その力は命故にでき、命あるからこそ可能な魔法だ。命ある者たち、いやモノ達には何らかの力が宿り時にそれは神秘的とすら感じられる。

孤「使用者の生命力を極限にまで使用し、使用者が思い描く結果をもたらす魔法」

朱「でも、祈りが大きければ大きいほど使用生命力が大きい」

ギ「ま、まさか?!」

ウル「・・・・葵はもう・・・帰ってこない」

 すると、通信が入った。

葵『聞こえるか?』

全員「!?」

葵『悪いな・・・約束・・・護れそうにない』

シ「あ、葵?! なにを言っているんだ?!」

ヴィ「戻ってくるって約束したじゃねぇか!!」

葵『すまんな』

シャ「そんな謝罪いりません!」

カ『葵さん・・・戻ってくるんですよね・・・?』

アイン「そうだ。戻ってくるんだろ!?」

ヴェ「そうです! 変な嘘入りません!」

葵『・・・・ウソじゃないんだがな』

ス「信じられませんよ!」

ティア「葵さん、ウソはつかないんですよね!?」

エリ「そんなお父さんが嘘つくわけないじゃないですか!」

キャ「そうですよ! 戻ってくるんですよね!」

ルー「葵・・・帰ってきて!」

アギト「そうだよ・・・・あに・・き」

リイン「戻ってくるって・・・約束したです!」

葵『ごめん。こればっかりは無理だ』

ジェ『娘たちを・・・泣かせるつもりか・・・』

ウーノ「葵さん・・・この責任を取るために戻ってきてください」

ドゥーエ「・・・・なんで」

トーレ「・・・・お前なんだよ!?」

クァ『・・・生きていてください。今救助班を』

葵『体が・・・もう持たないんだよ』

チ「そんな言い訳聞きたくない!」

セイン「そうだよ!」

セッテ「そうです。戻ってきてください!」

オットー「・・・戻ってこないと怒る」

葵『・・・ははっ。私は幸せモノだよ。本当に』

ノーヴェ「なにいってんだよ・・・・」

ディエチ「そうです・・・・」

ウェ「葵兄はこの世で一番幸せ者っす」

ディード「なのに・・・何でこんなことに」

 するとそこに、ヴィヴィオ、コロナ、リオの姿が映し出された。

葵『ごめんな。こんなふがいない父親で』

ヴィヴィオ『パパ・・・戻ってくるよね?!』

リオ『行っちゃイヤだよ!』

コ『そうです! 戻ってきてください!』

葵『・・・最後にお前たちに出会えてよかった。もう時間みたいだ』

 すると、葵の姿は虹色に輝く砂のようにさらさらと散っていく。

は「葵君・・・なんで、なんで葵君なん?!」

アリ『約・・・束・・護ってよ・・』

フェ「そうだよ・・・戻ってくるって、帰ってくるっていった」

な「そうだよ・・・何で・・・何で!?」

葵『すまない。そして今までありがとう。幸せな人生だったよ』

 そういって葵は笑顔だった。だからみんな笑顔になった。自然と。何でか分からない。ただこのときよく「笑顔で見送ってくれ」という言葉の意味がわかった。




 泣いて見送っちゃだめだ




 最後に皆で笑おう。




 あの人に心配かけちゃだめだ。




 あの人のために。




 好きな人が好きだった自分自身の中の今までで最高の笑顔で。




 そして、葵は、





 消えた






イヤァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!







 その場に残った者は泣いた。




 二度目の者も泣いた。




 ただ悔しくて、ただ悲しくて。




 自分たちが何もできなくて。




 でも生きなければならない。




 それが葵が残した願いであり希望だから。

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