小説『黄泉路への案内人』
作者:楽一()

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第二三話


SIDEすずか


「葵君」

 わたしは葵君を探していると、たまたま一人になっていたのを見つけた。

「すずかか。どうした?」

「えっとね。お姉ちゃんからきいたんでしょ? わたしの本性」

「・・・・そうか、忍さんは君に言っていなかったのか」

 そういって彼は指を鳴らす。すると、結界っていうのかな? あたり一面の景色が一気に変わった。

「さて、今張ったのは結界というものだ。今ここには私と君しかいないし誰も入ってこれない」

 彼はわたしを見つめる。でも、何か違う。

「怖くないの?」

「なにが?」

「わたしは夜の一族。吸血鬼なんだよ!?」

「あぁ聞いた。忍さんからね」

「やっぱり。でもお姉ちゃんはなんで葵君にそのことを・・・・」

「私が人外だと言うことに気付いて話しかけてきたらしい」

「じんがい?」

「人以外の生き物ということだ」

 それって、わたしみたいな存在ということだよね。でも、なんで彼が?

「私は人であって人で無いんだ」

 彼は微笑むがいつものように明るい笑顔じゃない。どこか悲しそうだった。

「私の半分は人。半分精霊の血が入っているんだ」

「精霊? あの御伽噺の?」

「あぁ。信じられないか?」

「ううん。でもまだそれなら「吸血鬼よりまし。か?」うん」

 彼は、そっと目を伏せて、次の一言にわたしは驚いた。

「それが人体実験で生まれた存在でもか?」

「え・・・・」

「私は人と人の間に生まれたれっきとした人だった。でも、大人の勝手な都合の実験で精霊と融合させられた半精なんだ」

 え、それって・・・

「実験って・・・・」

「そのままの意味だ。すずか。これを知っても私が人だと思うか? 化け物のように見えるか?」

「そんなこと無い! 葵君は葵君だよ! たとえそれがどんなものであっても、それに違いなんて無いよ!」

 すると、彼は少し驚いたように目を見開くが、すぐに笑い出した。

「え? あ、葵君、い、いくらなんでも失礼だよ!?」

「いや、なに。すずか。私は君とおんなじことを君に言おう。私もすずかはすずかだと思う。たとえそれがどんなものであってもな。私が忍から君たちの素性を知って、君が吸血鬼だと知って態度を変えたか?」

「ううん」

「それが答えだ。君は君だ。何者でもない」

 彼のその一言で全てが変わった。あぁ、こうもわたしが吸血鬼だと知ってもいつも通りに接してくれる人がいるんだ。理解してくれる人がいるんだ。そう思うと心が落ち着いた。

「あ、あれ? なんで・・・」

 なぜか目から涙が出てきた。すると、彼はそっと私を抱いてくれた。

「なにがあったかは知らん。でも、泣きたいときは泣くといい。幸い結界も維持されているしな」

「う、うわぁぁあああああああ」

 思いっきり泣いた。でもこれは悲しい涙じゃない。嬉しい涙だ。

 それから数分後、葵君が抱きしめているということと、葵君の前で泣いたということで嬉しさと恥ずかしさがいっぱいで顔が真っ赤になった。
 
 でも、ありがとう。それだけは伝えた。

(葵君。わたし、月村すずかはあなたが大好きです)

 そう、心の中にそっとつぶやいた。


SIDE Out


 すずかのことがあり、その後アリサとなのはにこってりと絞られ、ゲームをしたり、とまぁ色々あったが日が暮れたのを合図に今回のお遊び会はお開きとなった。

あの後なのはとアリサ、すずかと別れアルフとリニスを連れ、公園に来た。

「リンディ提督、ユーノ。聞こえるか?」

「えぇ、聞こえています」

「アルフの情報を踏まえ今回の黒幕が分かりました」

「え!?」

「なんだって!?」

 二人の驚きはごもっともだ。なにせ、プレシアが犯人ではないのだから。

 私は公園一帯に不可視と人よけの結界を張り、そこにリンディ提督とクロノを招き入れた。

「本来ならフェイトやなのはがいるのがベスト何だが贅沢は言っていられないか」

「それより黒幕がプレシアじゃないってどういうことなんだ!?」

「そうだな。今回の黒幕の説明をする前にこのことを知っておいてほしい。じゃないとわけがわからなくなる」

「? わかったわ」

 リンディ提督が納得したのを合図に

「まず一つ言っておく。私は君達の言うところの時限漂流者という者らしい」

「「「え!?」」」

 リニスは知っていたが、やはり知らない人間にはきついか。

「それでは、神無月君は別の世界の?」

「いや、私は確率の世界の住人だ」

「確率・・・じゃあ! 君は平行世界の住人ということか!?」

「あぁ」

「でもどこの・・・・」

「ここ地球のね。そして根本の違いは魔法が一般化されているかどうかだ」

 そういって自分がいた世界のことを話した。元いた世界では世界に魔法使いが全人口の98%もいて魔法も違えば全てが管理局のとは違うことを説明した。

「なるほどね。あ! これは録音していないから安心して」

「そうですか。で、アルフ。この写真のうち君が見たという化け物はどれだ?」

 手に出したモニターに四種類の化け物の姿を出した。

 一つはレベル1と言われるこの世界に来て士朗さんの病室で士朗さんに取りついてた物。
 レベル2の大きさは成人男性ぐらいだが、顔はイヌ科の動物を思わせる顔で瞳は赤く染まり、手、足も人とは程遠い。手は爪が鎌のように発達し、足は犬の足をさらに大きくしたようなものだ。
もう一つの大きさはレベル2と同じぐらい。そして、頭は動物から人に近いものにはなっているが角が二本、さらに目が4つある。まるで悪魔を連想させる化け物。レベル3と言われるモノ。

 そして最後は、

「これは明らかに人じゃないか!?」

 そう、レベル4と呼ばれるモノ。これは完全に人だ。違いと言えば肌が明らかに死人だろと言わんばかりに白く、目が人間でいう白い部分が黒く、瞳の部分が赤いということぐらいだ。

「これだ、この獣のやつ!」

 そういって指を指したレベル2か。

「葵、これは一体・・・」

「【不の者】と言われる者だ。私の世界の狂王や狂乱者と言われた科学者、零(れい)始(し)が生み出した兵器だ」

「兵器? ただ壊せばいいじゃないのか?」

 あぁ、ただの兵器ならアルフの言うとおりだ。

「アルフ、これはただの兵器じゃない。これは人間の感情を餌にして成長し続ける兵器なんだ」

「感情?」

「あぁ、特に人間にとっての負の感情。怒りや悲しみ、憎しみ、ねたみ、怨み。そういった人間がいる以上絶対に終えない負の化け物なんだ」

 その説明にこの場にいる全員が顔を青くなっていた。

「さらに厄介なことにこいつらは進化をする。レベル1から2に変化するのにはどれだけ人を不幸に陥れたか、レベル2から3になるためにはどれだけ多くの人間を殺すか、そしてレベル3から4になるためにはどれだけ人を喰らったかだ」

「喰らうって・・・・まさか・・・」

「文字どおりの意味だ。食す。我々人が野菜、肉を食べるようにこいつらは人間のことを餌としか見ていない」

「オェエエ・・・・」

 クロノが我慢できずについに吐いた。吐き終えると、クロノはこちらを見て、

「き、君はこれらと戦ってきたのか、その元いた世界で」

「あぁ。もともと、この零始によって私は強化されたのだからな」

「・・・・どういうことだ?」

「人体実験を行われた。精霊と人間の融合実験。魔法の威力を図るために死刑囚、子供、大人、老人、男、女関係なく殺したりさせられた。そして、最後に自分自身の本当の両親も・・・大切ない妹もな」

「「「「ッ!?」」」」


SIDEクロノ


「人体実験を行われた。精霊と人間の融合実験。魔法の威力を図るために死刑囚、子供、大人、老人、男、女関係なく殺したりさせられた。そして、最後に自分自身の本当の両親もな」

 その言葉を聞いて正直驚きよりも、その零始の残虐非道な行いに怒りを覚えた。

(実験のために人を殺させる? しかも、それで、この葵の親をだと!?)

「では、あなたが髪の色が変わるのも」

「あぁ。実験の影響だ」

「君達の国は何をしていたんだ! 違法どころじゃない! 道徳的に、倫理的にもそして人間的にも違反してる!」

「クロノ覚えているか。私がなぜ組織は信用しない。だが、君達は信用しようといったのは」

「あ、あぁ」

 何を言っているんだ彼は?

「この研究のバックには日本政府、魔法省、環境省、文部科学省、国際ウィザード連合がついているんだ。無論警察や日本軍、今こちらではまだ自衛隊かな。それがついているんだ。頼れると思うか?」

 だが、彼の言葉は終わらなかった。

「その後、あっちの世界では選ばれた12人の子供を使って最強の人間兵器を作る計画が立った。通称&#8555;familys計画。その選ばれた12人のには日本の旧暦が性として与えられた」

「なんだいそれは?」

 アルフの疑問はもっともだ。達体12人で何ができるんだ?

「神無月。これは今の暦で十月を表す。つまり私は十番目に選ばれた子供だと言うことだ。兵器になる
ためにね」


 もう、言葉も出ない。実験で得られた魔力。それも葵並の人間があと11人もいる。だが、それよりもなんで、そんなことを!

「そっからはもう地獄だった。投薬、人殺し、魔力注入。そして、神姫と出会った」

「え?」

「この子たちはその実験室で出会ったんだ。だが、それで終わればよかった。両親を殺した後私の魔力が暴走。そして、研究室は消失。その後は通常の生活を送たというわけだ」

 それだけじゃない。葵はまだ何か隠している。でも、それを聞いてはいけないと思ってしまう。そうでもしないと、今の自分を保てなさそうみたいだ。

「すまないな。こんな変な話をして」

「いえ」

 母さんも顔色が悪い。それだけじゃない。どこか悔しそうだ。

 僕だってそうだ。世界が違うが、恐らくこの話を聞いて管理局も似たようなことをやっていると思ってしまう。彼が組織を恨んだり、信用できないと言うのがよく分かった。

 それよりも、彼を友として迎えたいと、心の支えになってやりたいと思った。確かに僕は彼より弱い。でも弱者は弱者なりに葵を支えてみせる。


SIDE Out


SIDEリンディ


「さて、話はずれたな。アルフ。もう一度確認する。君が見たのはレベル2でいいんだな」

「あ、あぁ」

 彼は少し考え、

「なら対応できるな」

「神無月君。レベル3と4だとまずいの?」

「えぇ。まだ、レベル1と2なら。3と4になると倒せなくはないんですが、意思を持つようなるため面倒くさいんです」

「意思?」

「はい、レベル1と2はただ己が欲のための身に行動します。簡単に言えばゴーレムみたいなものです。ですがレベル3と4は自らの意思を持ち、行動します。そのため人に近くなります。ですが、やはり己が欲には逆らえません。ですから、作戦を立てたり計画性を持って厄介になります」

「なんとも、本当に厄介ね。それで、プレシア女史からそれを取り外せる作戦はあるの?」

「無論。そのため協力をお願いします」

「分かったわ」

 もう、彼に辛い思いをさせたくはない。偽善と思われるかもしれない。でもそれでもいい。

「では、私はこれで」

「まって」

「なんでしょう」

「なんであなたは戦うの?」

 でも、聞かずにはいられなった。でも、彼は満面の笑みで、

「大切なものを護るため。ですよ。エクスとルミル。なのはやフェイト。アルフやリニス、無論リンディ提督やクロノ、ユーノ、エイミィ、今ではアースラの皆さんもね」 

 そういって彼はその場を去っていった。

 参ったわね。あんな子供に護られる大人なんて。でも、嬉しいわね。


SIDE Out

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