小説『青春の別れ』
作者:ミカエル()

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まだタケと俺が幼い頃の話だ

タケと俺は生まれた時から隣同士で、親共々、仲の良い関係を築いていた
そして、もう一人、俺らにとっての親友がいた

その子の名前はサキ

一人っ子のサキは、一つ年下の女の子であり俺らと毎日遊ぶ仲だった
そんなサキは俺らを兄として慕い、タケと俺はサキを妹のように可愛がっていた

サキは成長するにつれ、男性からモテるほどの美貌を兼ね備えていった
俺は、妹してしか見れなかったが、タケは違った

タケはサキを一人の女としてみるようになり、サキを独占するようになっていった
そしていつしか、サキもタケを好きになり、お互い意識し始めたころ、二人は付き合い始めた

二人がくっついたのは意外であり俺にとっては心苦しいものでもあった
俺もどこかでタケを想う気持ちがあった
でも女であるサキには勝てないことなどわかっている
だから俺は、無理に二人を祝福しいつしか自然に二人から遠ざかるようになっていた

幸せそうな二人をみるだけで胸が苦しく、俺は無力感に襲われた

そんなある日

中学に入学したての頃、事件は起こった

酔いつぶれたタケが俺の家に来たのだ
相当飲んだらしく、妙にテンションが高かった

不自然に思った俺は、タケに問い詰めると、タケはおもむろに片手を顔に押し当て、俺の前で泣き崩れた
初めて見るタケの泣く姿がいまでも鮮明に覚えている

タケはサキと別れたようで
サキは俺の知らない間に、どこか引っ越しをしたらしいのだ

理由は細かくは聞かなかったが、タケは言った
「サキの記憶がなくなった」と。
聞いてみれば、タケがヤクザの跡取りとして噂が広まった時
危機感を感じた他の族らがタケを狙い始めたらしい
弱点を探していた族の総長らはサキの存在を知った

そしてサキは、集中的に狙われ始めていった
初めはタケが必死に守っていたのだが、サキが一人になった隙をみて誘拐されたのだ
タケは叔父に頼み、サキを探しだし居場所をつきとめて行くと
サキは数名の男にやられそうになっていた所だった

最後まではやられなかったが、それでもサキの心は恐怖で縛られ
いつしか恐怖から逃げるかのように、タケの存在や関わった人たち皆、記憶から消していった
恐怖が蘇らないように、また同じ目に合わないように、記憶からなくなったタケをみて
「だれ?」と言った言葉がタケの中では相当きいたようだ

そしてサキは両親とともにタケの側から姿を消したのだ

タケはこの事件以来、女性を好きになることはなかった
ましてや、女遊びもすることなく、逆に関わらないようにしていた

タケは言った
「一生俺の心はサキだけだ」と。
まだタケはサキの帰りを待っているようで
あの頃以上に、力をつけてきた
一人の女を守れる力を一人で戦い続け、いつでもサキが安心して帰ってくることを願うように

そして今
タケの存在はヤクザ界でも噂となり、誰もがタケに逆らうことはなくなっていた
タケに逆らうものは皆、不自然と姿が見えなくなった

サキの笑顔やしぐさ、声や雰囲気はどことなくユウに似ている
最初ユウを見たときのタケの表情は愛しく感じるような顔つきだった

タケは今でも言う
「俺はサキだけだ」

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