第12話 命日
アゲハ
『あれ?ミラの奴どこ行ったんだ?エルフマンも…いつもならいるはずなのに』
ギルドでメシを食っていると、ふとミラの姿がさっきから見当たらないことに気づいた。
いつもならオレをいじってくるのに……おかしいな。
カナ
「あの二人?たしか教会に行くって言ってたような……」
アゲハ
『教会?何でまた……』
あ、思い出した。たしかリサーナの命日だっけ?原作知識でミラから直接聞いた訳じゃないから日にちまでは知らなかった。
レビィ
「もうすぐリサーナの命日だからね」
アゲハ
『リサーナって…ミラとエルフマンの妹の?』
カナ
「そう、仕事中の事故で1年前にね」
レビィ
「命日が近づくとあの二人教会に通い出すんだ」
アゲハ
『そうだったのか………』
やっぱりこの世界に来てからオレの中で色々なものが変わった。一番変わったことは、命の尊さを学んだこと。あの二人の事をマンガでさらっと読んでいた頃の自分が無償に恥ずかしくなってきた。
マカロフ
「おい、アゲハや。ちょっとこっち来い」
アゲハ
『何だよ、ジイさん』
オレが自己嫌悪に陥っていると、ジイさんに呼ばれた。溜息を吐きつつジイさんの元へ向かう。オレが傍に来たのを見計らって、ジイさんが口を開いた。
マカロフ
「アゲハ、本日よりお前をS級魔導士とする」
アゲハ
『…………………………………はい?』
え、今何て言った?あ、聞き間違いか、なーんだそういうことか。
「「「「「何ぃいいいいいいいいいい!!!!」」」」」
どうやら聞き間違いじゃなかったようデス。
「スゲ━━━━!!!」
「過去最速じゃね!?」
「ていうか承認試験も無しでなんて………」
「それに何でこのタイミング?」
周りが驚きのあまりざわめく。
アゲハ
『そうだよ!!試験に合格しねーとS級になれないんじゃなかったのか!?
それに何でこのタイミングで!?』
いや、別にS級が嫌な訳じゃないよ?むしろなりたかったぐらいだ。
ただ……ただね?カナの視線が痛いんだよぉおお!!カナがS級になりたい理由は知ってるけどさ、だからってオレをそんな目で見るのは理不尽ってもんですよ。
ともかくオレは、身の安全のためにもジイさんに理由を聞く。
マカロフ
「元々ワシはお前をS級にしようと思っていた。エルザに無傷で勝つぐらいじゃからな。しかしそれでも納得できない者もおるじゃろうと判断し、次の試験まで待つことにした」
アゲハ
『じゃあ何で………』
マカロフ
「実は早急に始末せねばならん仕事が出てきてのう、しかもS級のな。今ギルドにはワシ以外にS級魔導士がおらん。そのワシも今から評議院に呼ばれてここを留守にするからそのクエストに行ける者が誰もおらんのじゃ」
アゲハ
『それで、急遽オレをS級魔導士にしてクエストに行かせようと?』
マカロフ
「ああ、すまんが頼まれてくれるか?」
アゲハ
『ん〜まあ、そういうことなら別にいいけど』
マカロフ
「恩に着る。早速じゃが明日から向かってくれい。これが行き先とその行き方を示した地図じゃ。くれぐれも気を付けてな」
アゲハ
『分かった、じゃあ早速準備するよ』
オレはそう言ってギルドを出た。
準備のため家に帰ろうとしたがふと、ミラの事を思い出した。
アゲハ
『言っといた方がいいよな、S級の事…』
オレは教会へと進路を変更した。
アゲハ
『一雨……来そうだな』
〜カルディア大聖堂〜
ミラ
「リサーナ………」
エルフマン
「姉ちゃん………一雨来そうだ。そろそろ……」
ミラ
「もう少し……もう少しだけ……」
アゲハ
『ミラ、エルフマン』
ミラとエルフマンを見つけ、オレは二人に声をかけた。
ミラ
「アゲハ……?」
エルフマン
「お前……何でここに……」
アゲハ
『ミラに……話しておきたいことがあって………』
ミラ
「私に?」
ミラはオレの事を本当の弟のように可愛がってくれてる。だから、そんなオレが自分の妹を失ったS級クエストに行くのは嫌なのかもしれない。ミラたちの過去を知っているから、心配させてしまうことも分かってる。
でも……それでもちゃんと伝えなきゃ、いけない気がしたんだ。
アゲハ
『オレ…明日からS級クエストに行くことになった』
ミラ
「…………え?」
アゲハ
『それだけはきちんと伝えたくて』
たとえ、大切な“姉ちゃん”を悲しませることになっても、このままじゃミラもエルフマンも先に進むことはできないから。
オレは行くよ、S級クエストに……
〜Side Out〜
〜Side ミラ〜
アゲハ
『オレ…明日からS級クエストに行くことになった』
ミラ
「…………え?」
アゲハ……今、何て言ったの?
S級クエストに……行く?
何で……何でS級魔導士でもないアゲハが?
アゲハ
『それだけはきちんと伝えたくて』
私の脳裏にあの時の光景が浮かんだ。
リサーナが空へと吸い込まれていくあの光景が。
また……また、大切なものを失ってしまうかもしれない。
そんな恐怖感で私の頭は一杯になった。
エルフマン
「アゲハ……お前…」
エルフマンも動揺している。
そうよね、よりによってリサーナの命日が近い日にS級魔導士でもないアゲハがS級クエストに行くって言ったんだから。あのときの事思い出しちゃうわよね。
アゲハ
『お前らが、S級クエストで妹を亡くしたのは知ってる。そしてオレの事を弟のように思ってくれていることも』
そう、私も、そして最近はエルフマンもアゲハの事を弟のように思うようになっていた。
アゲハ
『だから、オレがS級クエストに行くことリサーナの事を重ねちまってるかもしれない事も分かってる』
ミラ
「アゲハ………」
アゲハ
『でも…いや、だからこそお前らには笑って見送ってほしいんだ』
アゲハはきっと私たちがまだあの事件を乗り越えられてないことを分かってる。だからこそ私たちにこの事を話に来たのだろう。
アゲハ
『オレの言いたいことはそれだけだ。それじゃあオレは明日の準備があるから、またな』
あ、アゲハ……どうしよう。止めたい。行かないで、って。リサーナみたいにまた大切な人を失うのは嫌だ、って伝えたい。
気がつけば私はアゲハの背中に抱きついていた。
アゲハ
『ミ、ミラ!?』
行かないでほしい………でも私たちは前に進まなきゃいけない。
だから………
ミラ
「絶対……無事に帰ってきて。何かあったらただじゃおかないんだから」
アゲハ
『ミラ………。分かった、約束する。絶対無事に帰ってくるよ』
今は笑って、アゲハを見送ろう。
ミラ
「いってらっしゃい」
アゲハ
『いってきます』
次の日、アゲハはS級クエストに出掛けていった。
〜Side Out〜