小説『ハルケギニアの青い星』
作者:もぐたろう()

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 私はアルフォンス・ド・ヴィルトール。このヴィルトール伯爵領の領主をしておる。私には自慢の息子と娘たちがおってな、政務の傍(かたわ)ら彼らの相手をするのが何よりの楽しみなのだ。みな、勉強も魔法も秀でており、その成長に期待してしまうのは私だけではないだろう。しかし、そのうちの一人、我が息子シリウスの優秀さには驚きを通り越して呆れ果ててしまう。

 あやつは妻や使用人にせがんでは文字の勉強を始めたかと思いきや、それでは飽き足らず私の書庫の蔵書を読ませてほしいと言い出してきおった。当時4歳と半年の子どもであったのにもかかわらずだ。あそこの書庫の本は難解なものが多く私ですら一握りの本しか把握できておらん。そればかりか、あやつは毎日あそこに篭もっては本を読み続け3年ほどでほとんどの本を読み終えてしまったそうだ。書庫には1000冊近い本があるので、さすがにこれは子供の虚栄と笑っておったが、あやつの知識の奥深さを思い知らされる度に本当のことであったのだろうと頭を抱えてしまったよ。
 さらには、知識を溜め込むだけではなく、その知識を活用し領村の環境改善のための具体的な案を羊皮紙にまとめて突きつけてきおった。あやつはその知識を活かし、環境悪化と疫病発生の関係性を私に説き伏せて、納得させてしまったのだ。あのときばかりは歴戦の商人を相手にしているのではと錯覚してしまった。
 また、あやつはそこで満足せず、環境改善の方策に加え、そこからさらに進んで領内の作物の発育を助ける堆肥の利用を提案してきおった。常人であれば一つの問題点の解決策を思いつけばそれで満足してしまうのだろう。しかし、あやつはそこから別の問題点の解決策へと発展させてしまった。まったく呆れた発想力だ。あやつが単なる頭でっかちではなく、本当の知恵者であることがわかるというものだ。
 実際に村人の死者はあれから明らかに減少した。また、集められた糞尿から作られた堆肥を用いた麦の育成実験でも明らかに収穫量が増えておった。そこで、今後は領内で広くこれを実施することを先日決めたところだ。
 ついでに付け加えると、あいつが持ってきた羊皮紙は子供が書いたとは思えないほど分かりやすく要点がまとまっており、これを見た家臣はこぞってその書き方を模倣し始めた。今では、多くの報告書がその書き方で書かれており、随分と仕事が楽になったものだ。

 魔法の方も優秀で家庭教師のアデルから報告を受け、その出来の良さを知るたびに顔が綻んでしまう。魔法を習い始めて3年ほどですでに水と風のラインスペルを自由に使いこなしているそうだ。魔法学校に入学する16歳の少年たちでさえその多くがドットメイジで、ラインスペルを使えるものなど1割にも満たないのだ。あやつはそれを9歳でやってのけている。
 最近では私たちに隠れて魔法の研究もしているようで、先日屋敷の裏で大きな雷を作り出し、林を火事にしかけたらしい。魔法の開発など王立魔法アカデミーで働く有能な研究者が何年もの時間をかけて初めて可能となるものなのだ。それをあやつはあろうことか、こんな短時間でやり遂げようとしていたのだ。
 領内の亜人討伐にあやつを同行させたとき、突然の巨大なオーク鬼の襲撃に大人たちが慌てふためく中、初陣であるあやつは一人冷静に指揮を取り、そのオーク鬼を一撃で仕留めたらしい。その際に使った魔法は屋敷の裏で研究していた雷の魔法のようなのだが、風のメイジのジーノでさえあんな雷の魔法は見たことも聞いたこともないらしい。その威力はラインスペルどころかトライアングルスペルの範囲すら凌駕し、最上位のスクウェアスペルですら太刀打ちできるか分からないそうだ。まったくあやつはどれだけ多才なのだ。

 一般的に過ぎた力はその性格を歪ませてしまうものだ。しかし、あやつは貴族としての振る舞いを理解し、その力に驕ることなく領民はもちろんのこと使用人にさえ慈悲の心で接しておる。積極的に領内の視察に同行しては、村内の病人や怪我人の治療にあたり、優しく声をかけている。そんな、あいつは多くの人に愛されている。親としては数々の才能に恵まれたことよりも、そんな優しい子に育ってくれていることが何よりも嬉しいのだ。

 かつては次期の領主をあやつにしようと思ったこともあった。しかし、あやつ自身がそれを望んでいないし、あやつの才能をこんな小さな領地に閉じ込めるべきではない。あやつはいつか国の中枢、さらには国という枠組みすら超えて活躍する傑物と考えている。それに、私にはあやつに負けず劣らず優秀な、自慢の息子のフランもおる。今はあやつが将来活躍できるように様々な経験を積ませることが私にできる数少ない親の責任と考えておるよ。

 おっと、話が長くなったな。まぁ、普通はこんな話信じられないだろう。親馬鹿の与太話とでも思ってくれてかまわないよ。










 俺の名前はフラン・ド・ヴィルトール。ここヴィルトール領を治める伯爵の息子だ。俺には年の近い腹違いの兄がいるんだけど、こいつが嫌味なくらい優秀なんだ。兄の名前はシリウス。女みたいなきれいな顔をしているけどとんでもない。この前、冷静な顔して巨大なオーク鬼を一撃で黒焦げにしやがった。さらには頭も良くて、俺が読めないような難しい本を平気で読んだり、父上に領内の統治について意見書を書いて進言をおこなったりもう滅茶苦茶。こいつは本当に9歳の子供なのか?俺は何度も大人が子供の皮をかぶって子供のふりをしているに違いない、そんなくだらないことを考えたもんだ。
 年が近いこともあって、昔はそのあまりの才能に何度も嫉妬した。だから、俺も必死で文字を勉強したし、あいつが魔法や剣の練習するときは一緒に付き合って差を広げられないように必死で頑張った。陰では人知れずにかなり努力もしていた。それでも、こいつは俺の一歩も二歩も先に行ってしまう。
 だけど、こいつは本当にどうしようもないお人よしで、俺の勉強や魔法の練習にいつだって付き合ってくれたし、見下すような真似は絶対にしなかった。そして、困ったやつを見つければ、後先考えずに頭を突っ込む。その尻拭いはいつも俺の仕事だ。あいつは、いつもすまないって言って笑ってごまかしやがる。そんなこいつを俺は嫌いになれなかった。
 こいつは俺にとって、自慢の兄であり、大切な友であり、競い合うべきライバルだ。本人には恥ずかしいから絶対に言わないけどな。










 私はナタリア・ド・ヴィルトール。このヴィルトール領の伯爵様、アルフォンスお父さまの娘です。
 私には自慢のお兄ちゃんがいます。その自慢のお兄ちゃんであるシリウスお兄ちゃんは、すごく優秀で、とっても優しい。
 私が小さかったときはいつも遊んでくれたし、私がわがままを言ってもいつだって笑ってお願いを聞いてくれた。お兄ちゃんはとってもカッコよくて、何でもできちゃうし私の憧れなの。
 そんなお兄ちゃんからもらったこの赤いカチューシャとお兄ちゃんとおそろいの金色の髪の毛は私の宝物。ただ、このカチューシャをくれたときお兄ちゃんが少しだけさみしそうだったのが今でも少しふしぎ。
 お兄ちゃんみたいになりたくて、私はお兄ちゃんにくっついて文字を教えてもらったり、魔法を教えてもらってるんだ。私はまだまだお兄ちゃんみたいに上手にできないけど、お兄ちゃんはいつだって私の頭をなでてほめてくれる。
 子供の頃はお兄ちゃんのお嫁さんになるのが夢だった。だから、お父さまから兄妹はけっこんできないと聞かされたときはいっぱい泣いちゃったな。お父さまなんか、大きらいって言ったらお父さまはかわいそうなくらいすごく落ちこんでた。
 だから、これからは妹としてお兄ちゃんに近寄ってくる悪い女の子を追いはらうのが私の役目。あなたもお兄ちゃんに近づいちゃダメだからね。

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