気がつくと、病院のベッドの上にいた。
独特の消毒の匂い。
真っ白い天井。
そして、硬くて軋(きし)むベッド。
―なんで、病院なんかにいるんだろう?
思い出そうとしても、もやがかかっているように思い出せない。
私は起きる気もせず、寝返りをうって枕に顔をうずめた。
―ぬぅ・・・臭い。
おっさんの臭いというか―・・・隆史さんの枕の臭い。
あれ洗ってもすぐ臭いがついちゃうのは分かるけど、次の人も使うんだから、
臭いがつかないようにしてほしいわ。
―ていうか、この青いチェック柄のパジャマ、隆史さんのじゃない。
私のはピンクのチェック柄なのに。
持ってくるときに誰かが間違えたんだろうか。
あ、右腕にギプスが・・・。
私、骨折したのかな?
「調子はどうですか、藤原さん?」
髪の毛がバーコードみたいなオジサン―もとい、初老の医者に話しかけられた。
そんな髪を見ると、ぴっとするヤツで(バーコードスキャナって言うんだって!)読み込みたくなる。
スーパーのパートのおばさんのサガだろうか?
「まぁまぁです」
ん?なんか男の人の声みたい。
かすれてるカンジ・・・。
気のせいかな。
「あの・・・どれくらいで退院できるんですか?」
「あと、2週間くらいですかな。右腕の骨折だけなんで」
頭の中である疑問が生まれた。
それって―
「入院する必要あるんですか」
「まぁ、あんな事故の後ですから・・・。様子を見るために、ね」
事故・・・?
一瞬にして、頭のもやが消え、衝突した瞬間が鮮明にフラッシュバックした。
「三人はどうなったんですか!?」
「私はあまり知りませんが、娘さんが一番ひどいと・・・。真知子さんと息子さんは無傷らしいですけど・・・」
も、百花が!!?
私は、その医者の言葉に違和感を覚えずに、病室を出たのだった。