「らちがあかん」
そういいつつ水城が玄関のドアを開けた。
「この愚弟がぁあああ!」
「いぎゃぁああああ!」
今度は見事なパイル・ドライバーが決められていた。
四男は床にたたきつけられてから動かなくった…。
「おぉー」
笹田はパイル・ドライバーに目を輝かせていた。
「お前ん家いつか死人が出るぞ…」
俺に言われてもなぁ…。
「テメー今度やらかしたらカナディアン・デストロイヤーかけっからな」
屍になった四男に向かって物騒なことを吐き捨てる次男。
「マジで族だったんだな」
とポツリとこぼすと次男が俺たちの存在に気付いた。
「なんだ帰ってたのか、おかえり。 友達も一緒か?」
次男は、肩の調子を確かめながら無愛想に言葉を紡ぐ。
「た、ただいま」
「「お邪魔します」」
「いつも弟が世話になってるな。 まぁ、ゆっくりしてってくれ」
次男は「オレは書類取りに来ただけだから、会社戻るわ」と言って会社に戻って行った。
「嵐のような兄弟だな」
「ナハハハ! 山吹家はいつみても面白いな!」
お前らオレはこれから「アレ」と一緒に暮らすことになるかもしれんのだぞ…。
「いってぇ… あの野郎思いっきり叩きつけやがった…」
四男が復活した。 首の関節が気になるのかしきりに首のあたりをさすっていた。
「ん? 征大兄貴帰ってたのかよ? つーか友達も一緒?」
やっぱり兄弟だな…。次男とおんなじこと聞いてら。
つーか、オレ征大兄貴って呼ばれてるの? どう反応したらいいわけ?
「えーっと、お邪魔します」
反応に困って口籠る俺を水城がすかさずフォローに入る。
持つべきものは友だな。
「お邪魔するのだ!」
「あー、笹田さんじゃん」
勢いよく手を挙げてあいさつをする笹田。
そして、笹田に「やっほー」と手を振る四男。
「ナハハハ! 山吹四号! 元気そうだな!」
四男だから四号って… ってちょっと待てよ。
「えっ、何お前ら知り合い?」
ナイス! 水城! 俺もそれが聞きたかった!
「ナハハハ! 近所のサッカー友達!」
「そうそう! サッカー仲間! 英語で言うとアミーゴ!」
二人で元気よく「ワハハハ」と肩を組んで笑っている。
あー、ハイハイ。今ので分かったわ。 この四男そうとう頭悪いわ。
まず、アミーゴは英語じゃねェしよ。
それに、笹田とおんなじテンションで喋ってるってことは、『笹田のことが理解できてる』証拠だ。
『笹田のことが理解できる』やつ。それはとてつもなく頭がいいか、もしくは結構なレベルで頭が悪い奴の二択に分かれる。
頭がいい奴は笹田の言いたいことを先回りしたり計算したりして理解している。 それに対して頭のが悪い奴は笹田の言いたいこととかを感覚で感じ取る。いわゆる類友である。
因みに水城は、前者である。
そしてこの四男は後者だ。 言っちゃ悪いがこの四男はいかにもスポーツマン。 笹田のことが後者で理解できるやつは、たいていスポーツマンが多い。笹田自体がスポーツマンだからだ。
笹田のことを理解する馬鹿というのは、スポーツマンな馬鹿である。
結果、笹田を理解できるこの四男はそうとう頭が悪いということだ。
「アレなんか今スゲェけなされた気がする」
「ナハ! 奇遇だな! 私もだ!」
頭に疑問符を乗っける四男と笹田。
「気のせいだよ」
めんどくさいので適当に誤魔化すことにした。
チラリと横目で水城を見るとやつは、すごく呆れた顔で馬鹿二人を見守っていた。
「んで、今日のこれはなんの集まりなの?」
急に四男がキョトンとした顔で俺たちに尋ねた。
まさか『パラレルワールドに迷い込んで家族が増えて不安なのでついて来てもらった』なんて素直にはいえねェしな。
「ナハ! 山吹が不安だって言うからついてきた!」
「不安?」
さぁさぁだぁああああああああああああ!!
馬鹿かお前! 馬鹿なのか! 馬鹿なんだよね! 知ってる! 初登場時から知ってたわ!!
お前素直に育ち過ぎだよ! もうちょっと誤魔化すとか嘘をつくとか覚えろ! オレはお前の将来が不安だよ!
「みみみ、みずきさまぁぁああああああああ! たすけてぇえええええええ!」と冷や汗たらしながら目で訴えかけると
「いや、山吹が勉強で不安なところがあるっていうから今日は勉強開始に来たんだ」 とメガネのずれを正しながら答えた。 ナイスフォロー! スゲェよお前! メガネは伊達じゃねェよ!
「なんだー。 遊びに来たんじゃないのかぁ。 兄貴の部屋で勉強するんだろ? オレお菓子とか飲み物とか持ってってやるよ」
と四男は興味がうせたのか台所へ向かっていった。
水城は、その後ろ姿に「バイバイ」しつつ背中にある右手でガッツポーズを作っていた。
やべぇ、超カッコいい。 水城超カッコいい。
とか考えつつ。
「私はオレンジジュースがいいぞー」
と四男に続いて台所へ向かおうとする笹田を必死で引き止める俺だった。