小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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第三章 火山と花畑 



「記憶を頼りにざっと、ここからの地図書いてみたんだけどさ、
ここの山越えるにはこっちの谷を通るしかなさそうだな。
この山登るには急過ぎるし、温泉のこっち側はくるりと岩の壁ができてる……」

 温泉から出たロゼルはリオネロと二人休息所の中に居た。
焚き火で照らされた地面にリオネロが書いた地図を眺める。

「なるほど……。だがこの谷はちょっときつそうですね。
この火山と火山の斜めに出来た谷間、そう簡単には通れないでしょう」

「……だろうな。俺もそう思ってた」

 火山と火山の斜めに出来た谷間。
 そこは断崖絶壁で足場も悪いだろうと思われた。
 それに火山なのだ。火山灰が降り注ぐ中歩いていくのは困難を極める。
 それに谷間にマグマが流れていたとしてもおかしくはない。
 そして、多分だが、モンスターが多数生息している。

 この火山を越えれば、花畑が広がっているはずだ。
その花畑の先には首都を囲む大きな湖がある。
その湖さえ渡ればもう首都だ。
だが、そこまでの道のりは決して簡単ではない。

「……ここから先は私ひとりで行きます。
リオネロは明日の朝、ジュノに乗って砂漠を越え、来た道を戻り、フロームディアへ帰ってください。
……ここまで、案内してくれてありがとうございました」

「おいっ。何言ってんだよ。勝手に決めんなよ! 
 ここまで来てひとりでフロームディアに帰れって言うのかよ!」

 いきりたった声でリオネロが言う。

「もしかして……ひとりで帰るの、怖いんですか」

「ば、馬鹿! こ、怖いわけあるかっ。
 それより、あんたひとりでほんとうに首都まで行く気なのかよ? 
 まだ俺を足手まといだと思ってんの?」

「……そういう訳ではありません。
 ただ、ここから先、何が起こるかわからないのです。とても危険です。
 私の力ではリオネロ、あなたを守ることはできないかもしれません」

「要するに俺はお荷物って訳だ。ここまで案内してきたのによ」

 むすっとすねたような顔をして、唇を尖らせるとリオネロはそっぽを向いた。

「……どうか分かってください。あなたには本当に感謝しているのです。
 リオネロ、あなたにもし何かあった場合、私はセダやセダの母親だけでなく
 フロームディアの人々に合わす顔がありません……」

「やだね! 俺は何がなんでも勇者様、あんたと一緒に首都まで行く。
 ロゼル、あんたを案内するのが俺の仕事だ」

「リオネロ! 危険なのですよ! モンスターだって、
 どれだけの数がいつ襲ってくるかわからないんですよ!」

「だったらなんであんたは危険だとわかっていて、一人で行こうとしてるんだよ」

「それは……私には悪魔から貰った力が……」

「いくら力があるって言ったって、大人数相手じゃどうにもならないだろ?
 それにその力は城の魔法使いを倒すのに必要なんじゃないのか。
 俺だって男だ。自分の身くらい自分で守るさ」

「……どうしてそれを」

 どうしてリオネロが、私が勇者としてしなければならないことを知っているのか。
 どうして、大人数相手じゃ全く持って歯が立たないことを知っているのか。



 きゅぃいいいいーーーーー



「!」

 突然外で、奇妙な鳴き声が聞え、剣をとっさに構える。敵だろうか。
 石の扉に作りつけられている小窓から、ロゼルもリオネロも声を殺して覗き込んだ。

「…………」

 日がとっぷりと暮れた夜の世界に二人とも絶句した。

 ジュノよりももっと大型のそれはそれは大きな怪獣ともいえる生物が啼き、
ファステゴのような生物が群れを成して移動し、一つ角の鋭利で大きな生物が喧嘩をし、
飛んできたコウモリ羽のは虫類らしき生物は温泉につかろうと
彼らより一回り大きな鼠のような生物と争っている。

 そこにジュノの姿はない。どうやら活動しているのは夜行性の生物だけらしかった。
 大型の獣類は夜行性が多いと聞いてはいたが、実際目の当たりにすると、凄い光景だ。
 
「…………外で……野宿しなくてよかったですね」

「……ああ」

 ロゼルもリオネロもそれ以上何も言わなかった。


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