小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 

 翌朝、日の出とともに騒がしかった外が嘘のように静まり返り、小鳥の声で目が覚めた。


「どうしても付いていく」と、聞かないリオネロを先頭に、
ロゼル達は休息所からさらに東の方角にある火山と火山の間にある谷を目指した。
 谷の入り口に当たる、火山の岩肌に立つと、火口から黒い噴煙が昇り、
谷底には真っ赤なマグマが流れているのが見えた。
その熱がかなり離れているにもかかわらず、ロゼルたちのところまで届いていた。

 そのマグマの川沿いに谷間の岩肌を慎重に登りながら、ロゼルもリオネロも何一つ話さなかった。

 ある程度の高さまで登り、いよいよ山は断崖絶壁となった。
 その岩肌にできた細い道を落ちないようにゆっくりと歩いている、その時だった。



 びゅぅぅぅぅ


 
「わっ」

 妙に視界が開けたと思った途端、突風に体勢が崩れた。
 なんとか岩肌にしがみついたものの、風は一向に弱まる気配がない。

「飛ばされる……っ」

 何かがおかしい、と目を見開くとそこには怪鳥が数羽こちら目がけて突っ込んでくるところだった。

「くっ……モンスターか。こんなときにっ」

 前方を見るとリオネロは風に体を丸めて岩肌にしっかりしがみついていた。
 モンスターが来ていることに気が付いていない。

 ロゼルは剣を抜いた。

「ファイスソード」

 振りかざした剣から炎の渦が怪鳥目がけて、襲い掛かるが、羽ばたきによる風圧で弾かれてしまった。

「きゃっ」

 弾かれた風で、ロゼルは岩肌に叩きつけられた。
 間一髪のところでなんとか下に落ちることはなかったが、しがみついているのがやっとだ。

「ロゼル!」

 リオネロが悲鳴に気づいてこちらを振り返る。
 その瞬間、岩にしがみついていたリオネロの手が外れた。

「わああああっ」

「リオネロ!」

 みるみるうちにリオネロの体は宙に舞い、ロゼルの後ろへと吹き飛ばされた。
 ロゼルも両足が地面を離れ、今や両手でしがみついているのがやっとの状態だ。

「くっ……」

 吹き止むことのない強い風に限界が近づく。
 剣だけは何が何でも落とすわけにはいかない。
 右手で剣を岩肌に突き刺して、なんとか耐え忍ぶ。

「きゃあっ……」

 が、あまりの突風に突き刺した剣ごと、体が後ろへふっ飛ばされた。


 下は赤く燃えたぎるマグマ。もう終わりだ。


 そう思った時、左腕がぐいと引っ張られた。
 そのまま引っ張られ、気が付くとリオネロが岩肌の窪みに座り込んでいた。
 ロゼルもその場にへたり込む。

「リオネロ……! 生きていたんですね!」

「勝手に死んだことにしてんじゃねぇよ……しっかし、あんた重いな。その鎧いい加減脱げよ」

「こればっかりは脱ぐわけにはいきません」

 そう言って、窪みからそっと顔を出した。
 敵はまだいるが、ロゼルたちには気づいていないようだ。

「弱りましたねぇ……」

「そうそう、思いだしたんだけどさ。少し戻ったところに洞窟があるんだ。
 そこからなら、ここを通らずに花畑に行ける」

「その話本当ですか」

「ああ。四方との交易のときに、ここの道が通れなかった時があるんだ。
 その時に使ってた道なんだ」

「そこから行きましょう。案内をお願いします」

-12-
Copyright ©愛音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える