小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 

 リオネロに案内されたその洞窟はただ真っ暗な闇がどこまでも続いていそうな、
 言うなれば悪魔が好みそうな洞窟に思えた。

「松明が必要なんだけど……生憎燃やせそうな木の枝が無いな」

 ここは火山だ。火山に木など生えているはずがない。

「明かりなら、私が」

「お、さんきゅ」

 ロゼルが剣を取り出して、呪文を唱える。

「シャインソード」

 すると、剣の先端が淡く光り始め、道を照らす光となった。

「すっげぇ」

 リオネロが感嘆の声を上げる。それから、付け足した。

「足場に気をつけて。もしかしたらマグマの川ができているかもしれない」

「わかった」

 ロゼルが先頭に立ち、リオネロの指示を仰ぎながら、二人とも一心不乱に歩き続けた。


 
「……はぁ、はぁ……」

 暫く歩き続けて出口の見えない闇に、二人とも疲れが見え始めた。

「……息が……」

「もう少しだよ。……がんばれ。ここで……休んじゃ駄目だ」

 そう言うリオネロも苦しそうだ。

 四方の交易のための通路に、この洞窟があまり使われていなかった意味がわかった。
 なぜわざわざ危険な断崖絶壁を通るのか。答えはこの息苦しさだ。
 
 火山の中に自然と出来た洞窟は、大量に火山から出るガスを含んでいる。
 そのため、洞窟に充満しやすく酸素も少ない。
 急いでこの洞窟を抜けなければ、意識を失って死んでしまう。

「ええ、そうですね」

 火山ガスから二人を守るまじないもあるにはある。
 だが、それを使えば、明かりを使えなくなる。
 明かりがなければ進むことなど不可能だ。

「そこ、左斜め下、多分マグマだ」

 リオネロの声に、踏み出した左足を止めた。よく見ると赤い亀裂がある。

「……慎重に進むしかなさそうですね」

 徐々に熱さが増してきているのがわかる。
 ロゼルはより慎重かつ素早く歩き始め、それに置いていかれないようにリオネロが後をつける。
 そうして、そろそろ限界が近づき始めた頃、一筋の光が見えた。

「やっと出口……」 

 意識が遠のきそうになりながら、やっとのことで外に出ると、一瞬明るさに目が眩んだ。
 目が慣れてくると、目の前にはいっぱいに広がる花畑が広がっていた。

「綺麗……」

「うわぁー。やっぱり何度見てもここの花畑は凄いや」

 後から出てきたリオネロが、花畑へと走って行き、立ち止まると大きく深呼吸をした。
 続いてロゼルもリオネロの隣まで走って行き、同じように大きく深呼吸をする。
 それから二人顔を見合わせて笑い、その場に仰向けに寝転がった。
 夕暮れの色と混じった空の色がとても綺麗だ。

「はははははっ。まるで天国だ」

「ほんとですね。さっきまで地獄にいたようなものですからね」

 花のいい香りが辺りに漂っていた。
 ロゼルもリオネロも生きていることを強く実感した。
 さっきまでの疲れや、しんどさはどこかへふっとんでしまったかのようだ。

 花の香りを吸い込んで目を閉じる。

 少しの間そうしていると、突然啼き声が聞こえた。



 きゅぃぃぃぃぃー




 ロゼルたちの目の前を滑空するように先ほどの怪鳥が横切り、ロゼルはとっさに飛び起きた。 

「何だ?」

「……何か、くる!」

 そう思った瞬間、ロゼルとリオネロはモンスターに囲まれていた。
 岩のように丸い形をした人型だが、ロゼルたちよりも二回りほど大きい。
 ファステゴと同じ色の皮膚は石のように硬く、体を丸めて攻撃してくる。

「リオネロ、よけろっ」

 一斉に四方八方から転がってきたモンスターに、ロゼルはリオネロを庇うように横に跳ね飛び、
 とっさに剣を構えた。その瞬間、色とりどりの花びらが舞った。

「グレム……」

 ロゼルたちを囲んでいるグレムは六体。
 いくら魔法を使えると言っても、六体いっぺんに倒すのは無理だ。

「ウィンドルソード……」

 一体のグレムがこちらに突進しようと動いたのとほぼ同時に、ロゼルはそのグレムに攻撃を仕掛けていた。
 ロゼルの振り下ろした剣から無数の風の刃が、グレムの体に突き刺さる。
 が、かすり傷が出来た程度で、あまり効いていない。

「……ちっ。効かないか」

 六体のうち半分くらいは倒さなければ。
 残念ながらリオネロを守りながら戦うのには限界がある。
 それに、さきほどまで洞窟を歩いてきたことによる疲労もピークに達してきていた。

「リオネロ、チャンスがあれば逃げてください。私が囮になります」

「ちょ、何言って」

「あなたを死なせたくないのです」

 ロゼルは未だ花畑の中に尻餅をついている、リオネロの方を少し振り返った。

「ちょ……ロゼル……」

「ダークソード……スフィンディア。我に今力を」

 剣が黒い闇を纏い、グレムが興味を示した。
 同時に突っ込んできた三体に向けてロゼルが剣を振るうと、
その漸撃は闇となり三体のグレムを包み込んだ。
 そしてそのまま三体のグレムは消滅した。
 それを見届けるようにロゼルは地面にしゃがみこむ。
 そこへリオネロの叫ぶ声が聞こえた。

「ロゼル、後ろ!」

 振り向くと同時に、側頭部に鈍い衝撃を受けた。

「きゃ……あっ」

(こいつ……殴ることも出来たのか……)

 吹っ飛ばされて宙を舞いながら頭の隅でそんなことを思った。
 そして急に目の前が真っ暗になって意識が途絶える。

 ロゼルの鎧の仮面が宙を舞った。 

-13-
Copyright ©愛音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える