小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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第六章 四人の勇者 



 翌日の朝、ロゼルは一人、城壁の中にいた。

 小奇麗にされた中庭を歩きながら、人が一人もいないことに疑問を抱いた。
 城壁の外には、役人が武装した傭兵と共に門を守っていたが、
中に入ると人一人、犬や猫、鳥の姿すら見かけないときた。

「……罠でしょうか」

 少し不安になって辺りを見渡す。他の勇者たちはどうなったのだろう。




 昨晩、真夜中のことだった。

「ロゼル……、ロゼル」

 リオネロの囁く声で目を覚ました。

「リオネロっ! 貴様、まさか本当に寝込みを襲いに来るとは! ただでは済みませんよ!」

 反射的に剣を鞘から抜いて、ベッドから落ちて腰を抜かしているリオネロに突きつけていた。

「ち、違うんだって! 誤解だよ。誤解!」

「何が違うというのです?」

「ちょっと気になることがあって、起したんだよ! 頼むから剣を向けないでくれ」

 狼狽しているリオネロがなんだかかわいそうに思い、ロゼルは剣を収めた。

「気になることというのはなんですか?」

「あれ、あれだよ。窓のところ」

 リオネロが指差した窓の方に目をやる。

「なんかずっとコツコツ音がするんだよ……」

 言われてコツコツと窓を叩く音にようやく気づいた。
 窓に近づくと黒い鳥がくちばしで窓を叩いている。

「敵? 魔法使いからの刺客?」

 ロゼルの後ろで小さくなりながら、リオネロが言う。ロゼルは窓を開けて、鳥を中に入れてやった。
 ロゼルの手の平に止まったかと思うと、それはぼふっと一瞬で黒い紙になった。

「大丈夫です。リオネロ。これは他の勇者たちからの伝言です」

「伝言? 何て書いてあるんだ?」

 ほっとした表情を見せた後、リオネロは訊いた。

「明日のことですね……。どうやら他の勇者たちも無事に首都にいるようです。
 一緒に奇襲をかけようと私を待っていたようですね」

「そうか。ということはロゼルが最後だったわけだ。……明日の出発時刻とかに変更はあるのか?」

 暫く黒い紙をじっと見ていたロゼルだったが、紙を二つに折って顔を上げた。

「いや、ありません。予定通り出発します」




 あの伝言どおりに皆が行動していたとすれば、全員が城壁内に入っているはず。
 敵の罠だとすれば、油断はできない。
 ロゼルはいつでも剣を抜けるよう、警戒しながら歩いた。

「それにしても妙ですね……」

 そのとき、何気なく中庭にある草花に目を留めた。

「しまった……」

(毒草……!)

 中庭に生えている草花全てが毒草だということに気づいた。
 それも花粉や胞子に毒を持つ草花ばかりだ。
 呼吸するだけで毒が体内に回る。恐ろしいものだ。

「ウィンドルソード!」 

 とっさにロゼルは旋風で草花もろとも巻き上げた。風は遥か彼方上空へと運び、
一緒に飛ばされた草花も見えなくなった。

「毒草とは……盲点でしたね」

 少し、吸ってしまったのだろうか。急にがくんと地に膝を着いた。

「もう少しだというのに……」

 毒草なんかで……こんなところでくたばって、それこそ勇者の名折れだ。
 そんなことのためにここまで来た訳ではない。

「くっ……」

 ロゼルは歯を食い縛り、地面に突きたてた剣に体重をかけて立ち上がった。
 そしてよろよろと歩き出す。
 魔法使いがいるであろう王の部屋へ。


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