「待っていたよ。やはり君が最後だったようだね。他の皆はこの通り」
「シーラ・シルヴァ……」
やっとのことでたどり着いた部屋で、
濃紺のローブを身に纏った銀の短髪と同じ色の口ひげを生やした男が立っていた。
部屋を見渡すと扉から少し離れたところで三人の勇者達が、ロープで縛られて横たわっている。
どうやら気を失っているようだ。
「……貴様っ! 彼らに何をした?」
捕らえられた勇者達を見て、ロゼルの怒りは頂点に達していた。
「私は別に何も? 城壁内の毒草にやられて勝手に倒れていたのだよ。
君も、あそこでおとなしくくたばっていれば、ここまで運んできてやったものを」
毒に気づかずあのまま倒れていたら、彼らのようになっていたという訳か……。
シーラ・シルヴァはにやりと笑みを見せた。
「王や、王女はどこにいる……?」
「君には関係ないことだろう? 最も王は病で数年前に亡くなっているんだがね。
あれ? その様子だと存じてなかったようだな」
「王が病で……? そうですか」
一度でもお目にかかりたかったのだけれど。
ロゼルは背筋を伸ばした。息を整えて、両手で剣を構える。
「魔法使いシーラ・シルヴァ……この国の民に代わって私が倒します」
「血気盛んだねえ。若いというのは良いものだ。どれ……相手をしてやろう」
「たあああああっ」
ロゼルは何のためらいも無く、シーラに切りかかる。ただ感情に任せただけの刃。
だんっ
確かにシーラに切りかかって行ったはずなのに、突然見えない壁のようなものに弾き返された。
ロゼルの体が床に叩きつけられる。
そのうえ毒のせいであまり体が言うことを効かない。
「くっ……今、詠唱が聞こえませんでしたね……」
剣を床に突きたててなんとか体を起して体勢を整える。
手を伸ばしてみると確かに壁のようなものがある感触がした。
「なんだというのです……?」
ロゼルは再び剣を構えた。
「ウィンドルソード!」
風を纏った剣を振りざすと、渦をまいた風圧で見えない壁にひびが入り、がしゃんと割れた。
「こんなもの……っ」
割れた欠片がぱらぱらと床に落ちて消えていく。
「……やはりそう簡単にはいかないか」
シーラはまたも無詠唱でモンスターを出現させた。
一、二、三、四……十体はいる。
ロゼルは反射的に飛びのいた。
むやみに突っ込めばこちらの身が危ない。
「…………っ」
無意識に奥歯を噛み締める。
勇者たちが横たわっているのをちらと横目で見ながら考えを巡らせた。
毒の体では十分に力を発揮できないうえ、シーラまでの距離は開いてしまった。
その時、ふと視界の隅に横たわっている勇者の手が動くのが見えた。