小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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 勝てるかもしれない。


 ロゼルはにっと微笑んで再びシーラに向かって走り出した。
 まるでそれが合図だったかのように、縛られ横たわっていたはずの勇者の一人が、すっと立ち上がった。

「イレースポイズム」

 すると、急に体が軽くなった。どうやら毒が消えたらしい。

(軽い……!)

「インクリースストロドム」

 黒いローブのフードを深く被った勇者は杖を高く翳しながら続いてもう一つ呪文を唱えた。
 それとほぼ同時にロゼルは十体のモンスターに向けて攻撃をしかける。

「ファイスソード」

 魔法によって増強された業火を纏った剣で空を斬ると、
炎がまるで生き物のようにモンスターを焼き尽くした。
 斬られたモンスターは次々と消え、ロゼルはこちらへと向かってくるモンスター全てを切り裂いた。

 十体全てのモンスターが一瞬のうちに消えうせ、部屋は再びもとに戻った。
 振り返ると、横たわっていた勇者全員が何事もなかったかのように立っていた。

「よかった……。先ほどは力添えありがとうございました」

 黒いフードの勇者に礼を言ってから、ロゼルはシーラへと剣を構える。

「ちっ……意識が戻りよったか。四人まとめて始末するのは面倒だが、仕方ない」

 シーラが右の手のひらをこちらに向けた。

なにかびりびりと音がし、空気が震えた。危ないと思ってとっさに剣を盾に身構えた、その時、

「シールドインヴァリドム」


 どこんっ


 詠唱魔法が聞こえたと思えば急にロゼルの目の前に出来た透明な壁に衝撃波が当たり、音を立てて消えた。

(また無詠唱……?)

「ナメてもらっちゃあ困ります。仮にも勇者の名を背負うものが
 毒なんかでくたばっちょる場合じゃあないんです」

 先ほどシールドの呪文を唱えた黒いフードを被った勇者が言った。

「毒だのちゃっちい小細工しやがって。どうせならこう芸術的にだな……」

 ロゼルと同じ騎士の鎧を着て、マントを羽織った勇者が言う。彼も仮面を付けている。

「待ってたんだよ。俺たちはよぉ。最後の一人が来るのを」

 続いて白の布を顔に巻いた、三人の中では一番がたいが良く背の高い勇者が言った。

「こざかしい……勇者四人でも私に勝てるかな?」

 シーラがいびつな笑みを見せる。

「我が名は北の勇者クリス・クロード!」

「同じく西の勇者ランス・ラルド!」

「東の勇者オーガ・オニキス!」

「南の勇者ロゼル・ロベルタ!」

 ロゼルも彼らに続いて名を言った。
 いつの間にか三人の勇者たちが、ロゼルの左右に立っていた。

「え……待っていたってなんですか?」

「あんたが来るまで毒にやられて捕まったふりをしてたんだ」

「どうして……?」

 疑問を投げかける暇も無く次の攻撃が繰り出され、勇者たちは左右に分かれた。

「おしゃべりしちょる暇はなさそうですよ!」

「ランス!」

「あいよっ……っと」

 ランスと呼ばれた騎士の鎧を着た勇者が、走りながらジャベリンを敵に向ける。

「インクリースストロドム」

「アイスジャベルク」

 ランスがシーラ目がけて氷のジャベリンを突き刺した。
 が、間一髪というところで見えない壁に阻まれ、壁にひびが入りガラスのように音を立てて崩れた。
 その隙にシーラは場所を移動し、次の攻撃をロゼルたち目がけて放った。
 先ほどランスがシーラに向けて攻撃した氷の呪文を変形させたのだろう、
大きなクリスタルのような氷の塊が物凄いスピードで飛んでくる。

「ファイスソード」

「グラビデスハンマー」

 ロゼルとオーガが呪文を唱え、ロゼルの炎で壁を作り、飛んでくる氷の塊を溶かした。
 その後ろから追撃の氷がまるで矢のように飛んでくるのをオーガが地面に叩き落とす。
 そのままの勢いでシーラに突っ込むが、無詠唱の見えない力に二人とも弾き返されてしまった。
 
 そこに殺意の篭った一撃が繰り出される。

「危ない!」

 地面に叩き付けられる寸前、ランスの声にとっさにオーガがロゼルに覆いかぶさった。

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