小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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「……きゃっ」

「シールドインヴァリドム!」


 どごおんっ


 爆音と風圧で埃が舞った。

 黒いフードの勇者クリスによって作られたシールドでなんとか直撃は免れたが、
部屋の床がめり込むほどの衝撃に、ロゼルと大男は暫く横たわっていた。
 すぐには立ち上がれそうにない。

「クリス! 呪文を!」

 ランスの声が黒いフードの勇者に向かって言う。
 が、クリスは呪文を唱えない。

 クリスのほうを見ると、苦しそうに胸を押さえている。

「クリス……? おいっ。どうした!」

 ランスが異変に気づき、クリスのもとに駆け寄る。
 口から血を吐き、胸からも血が流れている。
 そこにシーラの衝撃波が繰り出されたがランスがジャベリンでなんとか防いだ。

「しっかりしろっ」

「……私たちを狙うと同時に……あちらにも攻撃を……仕掛けたのですね……」

 部屋の床に横たわったままロゼルは息も絶え絶えに言った。
 口の中に慣れない鉄の苦い味が広がっていた。

「……っ。詠唱魔法の弱点かっ……!」

 詠唱魔法は、詠唱した魔法の効力が切れるまで次の呪文を詠唱できない。
 クリスはロゼルたちのために防御の魔法を詠唱していた。

 よって自分の身を守ることができなかったのだ。

「無詠唱の上に、同時攻撃ができるとは……」

 大男がゆっくりと起き上がりながら言う。
 ロゼルも起き上がった。思ったよりも大丈夫そうだ。
 シールドから漏れた攻撃は大男の勇者がほとんど受けてくれたようだった。

「わ……私のことは……構わんでください」

「しゃべるなっ。今止血する!」

「援護するぞ」

「……はい」

 立ち上がったロゼルは大男の勇者の指示で、彼らに攻撃が向かないように走り、
次から次へと来る攻撃を相殺する。
 相殺するのが精一杯だ。

 ランスが自分のマントを破いて、クリスの胸に巻いていくのが横目に見えた。
 回復の魔法なんていうものは悪魔からもらった力には含まれていないため、応急処置しかできない。

「杖を……」

「ん? 杖?」

 ランスはクリスに杖を渡した。だが、クリスはその杖をランスに弱弱しく押し返す。

「回復のっ……うっ……呪文を……」

「俺が?」

 クリスはうなずいた。フードから青白い顔が覗いている。

「言うとおりに……早……くっ……。デービー……リカ……バリィシャルム」

「わかった……。デービーリカバリィシャルム!」

 ランスが持った杖から淡い、だけれども漆黒の光があふれ出し、クリスの傷口に染みこんでいく。

「……大丈夫なのかよ、これ……」

 不安げにランスが呟いた。
 漆黒の光はクリスだけでなくランス、ロゼルたちのところまで届いていた。

「ほう……悪魔の回復呪文とは。あの小僧も余計なものを」

「シーラ、貴方の相手は私です。ダークソード・スフィンディア!」

「そんなぼろぼろの体で何ができる?」

 確かに立っているのがやっとだ。それでも気力で剣を構える。
 すると体の痛みが和らいでいるのに気がついた。

「あれ……?」

 はっとクリスのほうを振り返る。回復呪文の光が自分にも降り注いでいることに納得した。

「ありがたいですね……」

「加勢するぜ」

 どうやらオーガのほうも回復しているようで、
ハンマーを振りかざしてシーラが繰り出した攻撃を相殺する。
 そこにロゼルが闇を纏った攻撃をしかけた。
 とっさにシーラが防御呪文を繰り出したが、大男の追撃に砕かれ
ロゼルの攻撃をもろにくらう形となった。

「ぐっ……」

 闇の剣で斬ったシーラの肩の傷は、まるでそこだけごっそりと居空間に
とばされてしまったかのような、深い闇がぽっかり開いているだけだ。

「油断した……まあいい……戦うのは私じゃなくともよいのだからな」

 傷口を押さえながら、シーラは何か風のようなものを纏ってぱっと消えた。

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