「消えた……?」
「そうだ、クリス!」
暫く警戒して辺りを見回していたが、シーラの姿がないとわかるとクリスの怪我のことを思い出した。
ロゼルもオーガも慌てて駆け寄る。
「私は大丈夫です」
クリスは杖を使って弱弱しく立ち上がった。
傷はもうだいぶ癒えているようだ。
「シーラはどこへ行ったんだ?」
「さあ……わかりません」
ロゼルは俯いた。ここまで来てみすみす逃がしてしまうとは。
「勘ではありますが……多分塔に逃げたのではないかと」
「塔?」
「あれです」
窓からクリスが杖で指した方向を見ると、少し離れたところにそびえ立つ円柱の塔が見えた。
「きっと、王女も一緒におられることでしょう」
「王女があの塔に?」
「ここからだと一旦下まで降りないと無理そうだな」
ランスが窓の外を覗き込む。
「下は毒草の中庭だぜ? クリスの毒消しの呪文があるとはいえ、かなりのロスだ」
「毒消しの呪文? ……それでさっき……。そんなものがあったとは知りませんでした」
「私は補助役ですからね。そういう補助の呪文ばかり与えられちょるんです」
クリスが弱弱しく微笑んだ。
「さてと……どうする?」
「困りましたねえ」
「ええい。考えている時間が勿体無いだろうが。さっさと下りるぞ」
オーガが扉へと走り出したそのとき、窓の外で鳥の声が聞こえた。
はっとして窓を開けて外を見る。
「鳥……? リオネロ!」
「おーい。ロゼルー」
窓の外で鷹のような大きな鳥に乗ったリオネロが手を振っている。
「リオネロ!」
鳥は羽をすぼめて開け放った両開きの窓からすっと入って来た。
それを見て、オーガが足を止めてこちらへと戻ってきた。
「ロゼル、あんたの知り合いか?」
「ええ。友達です。それにしてもリオネロ、どうしてこんな大きな鳥に?」
「まあ、話は後だ。ロゼルの手紙はちゃんと渡してきたから大丈夫だぜ」
鳥から降りてリオネロは得意げに言った。
近くで見ると鳥は茶色い翼に黄色と黒の鋭いくちばし、翼は広げればざっと人間二人分ほどはある。
「へえ……あんたたちが選ばれし勇者たちかぁ……
俺はロゼルの友達でリオネロ。リオネロ・リーヴィー」
「俺はオーガ・オニキス。東から来た」
「ランス・ラルド。西の勇者だ」
「私はクリス・クロード。北から来ました」
「よろしく」とリオネロは三人と握手を交わした。
「丁度よかった。私たちをあの塔まで運んでくれませんか?」
「いいよ。でも生憎二人ずつしか乗せられねえ」
勇者たちが一斉に顔を見合わせた。
「ではまず、私とロゼルが先に行きましょう」
皆が頷いた。防御呪文や回復呪文が使えるクリスの言葉に誰も反対しなかった。
「クリス、体はもういいのか?」
「ええ。大丈夫です」
「それじゃ、俺たちは後から行く。気をつけてくれよ」
ランスが笑みを見せて拳を軽く突き出した。
「ええ。リオネロ、お願いします」
「了解。しっかり捕まって」
風を切る大きな鳥に乗ってロゼルとクリスは先に塔へと向かった。