小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

しおりをはさむ/はずす ここまでで読み終える << 前のページへ 次のページへ >>

 

 
 赤い絨毯の廊下を走っていくと、一つの大きな扉が見えた。

「ここにシーラがいるようですね……」

「ええ。私も強い魔力を感じます。それに……あいつもいる!」

 ロゼルは奥歯を噛み締めた。


 どうしてあいつがここにいるんだ……?


 ひとつ大きく深呼吸をして扉を開けようと手を伸ばすと、ゆっくりと自動的に扉が開いた。

「思ったよりも早かったな」

 部屋に入ると奥にシーラと椅子に座った王女の姿が目に入った。
 ロゼルと同じ金色の長い髪とブルーグリーンの瞳の彼女は、
まるで人形のように無表情に椅子に座っている。
 そしてその部屋の左端奥の窓際に椅子に腰掛けた黒髪の少年の姿があった。

「王女!」

 近づこうとしたとき、急に現れた鎧の騎士に行く手を阻まれた。
 ロゼルとクリスは思わず後ずさる。
 その数ざっと三十体。この広い部屋を埋め尽くすほどの数だ。

「シーラ・シルヴァ……」

「私が傷を負ったくらいで勝った気にならないで欲しいものだな。
 何も……戦う相手は私でなくてもいいのだと言わなかったか?」

「ロゼル!」

 クリスの声にとっさに飛びのいた。
 シーラのほうに気を取られている隙に騎士の剣が振り下ろされた。
 さっきまでロゼルがいた場所に剣が突き刺さる。
 ロゼルも剣を抜き、呪文を唱える。

「ウィンドルソード」

 次の攻撃を風圧で弾き、思い切り剣を振うと敵が数歩後ろに引いた。
 そこを思い切り蹴り飛ばす。がしゃんと音がして一体の騎士が倒れ、仮面が転がった。

「……これは……!」


 キンッ


 休む暇も無く真上から振り下ろされた剣を受け止め、剣と剣のぶつかり合う音がした。
 圧倒的な力で敵はロゼルを押す。力では到底叶わない。
 剣を一度押し返して相手の両手が弾かれたその隙に、すかさずロゼルは騎士のすねを切った。
 騎士はその場に崩れるように倒れ、ロゼルはその腹を思い切り踏みつけた。
 またもや、仮面が地面に転がる。
 今度は観察している間もなく、二体の騎士が一気に背後から襲い掛かってきた。
 それを辛うじて避け、床を転がり、クリスと背中合わせとなった。

「クリス……この騎士たち中身があります」

「そのようですね」

「もしかして……この国の騎士たちを……?」

 仮面の下には男の顔があった。ただのモンスターならば空っぽでもいいはずだ。

「どうやらこの国の本物の騎士を操っちょるようですね……」

「道理で城内の警備や人間がいない訳です。それならば、殺すわけには行きません」

 次々と向かってくる敵に、呪文も追いつかない。

 正直、自分の身を守るのが精一杯なのだが、
この国の安全を守るべき騎士たちを殺してしまう訳にもいかなかった。
 クリスも呪文を唱えるどころか、杖を振り回して騎士と戦っている。 

 横合いから切りかかってくる騎士を剣で受け流し、その背中を蹴り飛ばす。
 後ろから飛び掛ってきた敵を避けて、後頭部を思い切り蹴り飛ばし、
その蹴り飛ばされた敵をクリスが杖で突いてとどめを差した。
 気を失わさせるだけでも一苦労だ。

「キリがないですね……」

 倒した敵はまだ十人ほど。囲む敵はあと二十人ほど。

「呪文で一気に倒せられればいいのですがっ」

 面倒くさくなったロゼルは敵を思い切り左手で殴りながら言う。
 剣を振り回すのももう疲れた。

-30-
Copyright ©愛音 All Rights Reserved 
<< 前のページへ 次のページへ >> ここまでで読み終える