「もう……顔を隠す必要はなさそうですね」
そう嘆息してクリスがフードを外した。
「そうだな……」
続いてオーガも布をとり、ランスも騎士の仮面を外す。
ばさっと金の髪が揺れて、ブルーグリーンの瞳が露になった。
それを見ていたリオネロとロゼルははっと息を呑んだ。
皆、ロゼルと同じ髪と瞳の色、
そしてクリスのとランスにいたっては女と見間違うような風貌をしている。
クリスはロゼルより長い真っ直ぐな髪で少し大人しそうなお姉さん、
ランスはショーットカットの活発な女の子に見える。
彼らが全員仮面や布を外したのを見届けてから、ロゼルも仮面を脱いだ。
皆の額には悪魔の紋章が刻まれている。
「ここでは紋章を隠さなくてもよさそうだな」
ランスがにやっと笑った。
この部屋には悪魔がいるし、目の前にシーラがいる今、隠す理由など何もない。
「女……。誰だというのだ?」
シーラが困惑した様子で、皆を見ている。
どうやら私たちの誰が女なのか分からないらしい。
「さあどれが女かな?」
ランスが楽しそうに言う。
「私たちを見分けられないとは、シーラ貴方、女を見る目を持っちょらんようですね」
「……っ。その大男は違うとして三人……。確か女は一人のはず。
それに女が俺とは言わない……いやカモフラージュか?」
本気でわからないらしく、焦りの色が見える。
一体何がしたかったのだろう。
「馬鹿かお前は。……やれ。高みの見物のつもりでいたんだがなあ。
ひとつ、手助けしてやるとするかあ。くくくくく」
黒髪の少年がにやっと不気味な笑みを浮かべ、椅子に座ったまま、人差し指をちょいと動かした。
「わっ」
「ロゼル!」
「しまった!」
何か見えない力で前に引っ張られ、つんのめって転びそうになる。
ロゼルははっと後ろを振り返った。
すると、突然ロゼルと他の勇者たちの境目に透明な壁が出来た。
「何?」
リオネロが壁の向こうでどんどんっと壁を叩く。
何かを叫んでいるようだが、何も聞こえない。
ロゼルはゆっくりと部屋の隅の黒髪の少年を睨みつけた。
「一体なんのマネだ?」
「ちょっと賭けをしてるんだ。ロゼル、お前と王女でなあ。俺はその手伝いをしたまでだぜぇ?」
「余計なことを……っ」シーラはちらと黒髪の少年を見て舌打ちし、
それからロゼルに向き直って「剣使い。お前だったか」と感心したように笑みを見せた。
王女も無表情のまますっと椅子から立ち上がる。
「いかにも。私の名はロゼル・ロベルタ=クイーンティアーズ・リオ・セリトナ」
ロゼルは正式名を名乗った。
それは王家であることを示す名であり、女であることを表していた。
「そうか……なら剣使いの相手なら剣だな」
そう言ってシーラはぽんっと剣を出現させ傷の無い方の片手で掴んだ。それを王女に持たせる。
「…………?」
ロゼルは訝しげな視線を送る。
黒髪の少年はいびつな笑みを浮かべたまま、
「おっと……これじゃあ静か過ぎてショーにもらなねえな。わりぃ」
「まったくだ。観客あってこその決闘。勇者あってこその宴。さあ、準備は出来た……」
シーラがそう言うと先ほどまで何も聞こえなかった空間に急に音が戻ってきた。
透明な壁がなくなったのかと思い、振り返ったがどうやらそうではなかった。
リオネロや他の勇者たちは透明な壁に手を付き、不安げな視線を送っている。