小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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「ロゼル……」

「……くっ……これじゃなんのために我々が……」

「悪魔、お前一体なんのつもりだ?」

 オーガが叫んだ。
 黒髪の少年の姿をした悪魔ははちらと一瞥しただけで何も答えなかった。
 
 彼の作った壁は、彼の力を分けてもらっている我々ではどうやっても壊せない。
 壁の外にいる彼らは大人しく見守るしかないようだった。

「何が始まるんだ……?」

 リオネロがぽつりと呟いた。

「王女同士の決闘です……」

「決闘? ちょっとまって、誰が王女?」

「ロゼルだよ。俺たちはロゼルを守るために、ロゼルと同じ背格好で
 同時期に勇者としてこの城へと出発した。全てはロゼルのためさ……」

「ロゼルは真の勇者であり、王女と姉妹なのです。
 こうならないために我々がいたというのに……不覚でした」

「王女と姉妹……? ってことは姉妹で戦おうとしているってことなのか?」

 真っ直ぐにロゼルを見据えたままクリスは頷いた。

「そんな……っ」

「それもこれもあの部屋の隅に居る悪魔のせい……シーラだけでは
 私たちを見分けることなど出来なかったはずなのです。
 くっ……どうしてあいつかここに……」

「え? 悪魔?」

 奥歯を噛み締めたクリスの横顔にリオネロは困惑した様子で訊き返す。
 ロゼルはあえてそれを遮った。

「……心配しないで下さい。これも私の運命です。リオネロ、隠していてすみませんでした」

 それだけ言って、ロゼルは王女と対峙した。
 どうやら彼女は操られているらしい。

 光の無い虚ろな双眸で王女は部屋の真ん中まで歩いてきた。
 そしてシーラから与えられた剣を構える。
 同時にロゼルも剣を構えた。

 静かな緊張が張り詰めた。胸の鼓動が自然と早くなる。

 先に王女が動いた。
 動きにくいひらひらしたドレスだというのにロゼル目がけて物凄いスピードで突っ込んでくる。
 

 キンッ


 剣と剣のぶつかる音がし、ロゼルと王女の一対一の決闘が始まった。

「く……っ。どこにこんな力が……」

 両者一歩も引かず、対峙したまま暫くじっと動かなかった。
 が、次の瞬間、王女の剣がロゼルを押し、それを交わそうとロゼルが後ろに飛びのいた。
 王女は休むことなく剣を振り回し、ロゼルを追い込む。

 暫く剣と剣がぶつかり合う音が響いた。
 王女の一方的な攻撃をロゼルが受け流している状況だ。

「……どうやらロゼルは、呪文を使わずに決着を着けるようですね」

「そうみたいだな」

 クリスが呟いてランスが相槌を打った。

「つまんねぇなあ……剣だけだとどうも地味でしょうがない」

 悪魔があくび交じりにそう言うと、「こざかしい。はよう力を使え」シーラが焦れたような声を出した。

「力?」
 床を転がり、のけぞり、跳ぶ。そうして攻撃を交わしながら、ロゼルは嫌な予感がした。

(まさか……)

「……ウィンドル……ソード」

 王女が剣の切っ先をロゼルに向けて呪文を放った。
 鋭い風の刃がロゼル目がけて降り注ぐ。
 なんとか横に転がって、交わすが全部は交わしきれなかった。
 鎧の上からいくつか攻撃をくらってしまった。

「あれは、ロゼルのっ……!」

「はぁ……は……ぁ」

 思いがけない攻撃に息が上がる。
 鎧を着ているにも関わらず生身にまで攻撃は届いていた。
 いくつか切り傷が痛んだ。

「ロゼル!」

「私と同じ、攻撃呪文……!」

 攻撃をしなければ、殺されてしまうかもしれない。
 それでも王女に刃など向けたくはない。
 ロゼルの刺し違える相手は王女でなくシーラ・シルヴァだ。
 
 ロゼルの苦渋の表情に「いいねえ……」と悪魔が嗤う。

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