小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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「……ファイス……ソード」

「アイシスソード」  

 螺旋の炎に氷の盾を作る。が、あっという間に溶かされ、その隙に王女が一気に間合いを詰める。

「ウィンドルソード」

 間合いに入った瞬間に呪文を唱え、ロゼルは辛うじて王女の攻撃を弾いた。
 とっさに王女は後ろに飛びのく。が、またもや続けて攻撃を仕掛けてくる。

「……ウィンドル……ソード」

 今度は切り裂く刃の風ではなく、螺旋状のサイクロンがロゼル目がけて繰り出された。
 あまりに早いスピードによける暇などなく、もろに食らった体は宙を舞って吹き飛んだ。

「きゃ……ぁっ……」

 ロゼルはリオネロや他の勇者たちを阻んでいる透明な壁に叩きつけられた。

「ロゼルっ……!」

 リオネロの泣きそうな声が聞こえた。
 床にずり落ちたロゼルはうつぶせのまま、立ち上がろうともがくが、うまく力が入らない。
 その間にも王女は躊躇うことなく攻撃を繰り出した。

「……サイス……ソード……」

 山をも切り裂く大きな刃がロゼル目がけて飛んで来る。
 辛うじてなんとか横に跳んで避けたものの、右足が切り裂かれた。これでは動くこともままならない。

 静かに王女が剣を動けぬロゼルに振り下ろす。
 ロゼルも剣でなんとか受けたが、体勢が崩されているうえ、力が入らない。
 王女は体重を乗せてロゼルに斬りかかる。

「うっ……」

 余りの力に少し力が緩んだその直後。


 キンッ


 音がしたかと思った刹那、剣が弾かれロゼルより少し離れた床へと突き刺さった。
 王女がロゼルの首に剣を突きつける。

(く……最早ここまでか)

「王女っ……」

「王女! お止めくださいっ」

「ロゼルっ、立てよ! 立てったらっ」 

「なんだ、もう終わりじゃねえだろうな。もう少し楽しませてくれよ。くくくく」

 勇者が口々に騒ぎ立てるのを遠くに訊きながら、ロゼルは落ち着いていた。
 なんとか片膝を立てて足をかばいながらもゆっくりと体を起し、王女の瞳を真っ直ぐに見つめる。

「私は……あなたとは戦いたくないのです……」

 無表情の王女にロゼルは話しかける。
 話しかけたところで届くなど思ってはいないがただ、話しかけずにはいられなかった。

「大丈夫……必ずあなたを助けます。……だから」

 王女の剣が少し揺れた一瞬の隙に剣を取り、ロゼルは王女の首に突きつけた。
 今度は王女が再びロゼルに剣を突きつけるのとほぼ同時だった。

「ロゼル、何を?」

 皆がどよめく中、ロゼルはただ王女の瞳を見据えていた。

「ははははは、刺し違えるつもりか」

 王女に剣を突きつけたまま、ロゼルはゆっくりと立ち上がった。
 ロゼルの首にも王女の剣の切っ先が突きつけられたままだ。

 すると王女の瞳から涙が一筋流れた。 

「……泣いてる」

 そんなことは言われなくてもわかっていた。
 初めから彼女は泣いていたのだから。虚ろな双眸の瞳の奥で。

「王女……。今一時の無礼、お許しください!」

 背後でリオネロとクリスの声を聞きながらロゼルは覚悟を決めた。
 少し俯いて呪文を唱える。
 右足の傷は痛み、立っているのもやっとだったが、それでも
目の前の王女が強いられている苦痛に比べればどうということのないものだ。

「ウォータスソード」

 螺旋状の水が鉄砲水のようになり、王女の体をふっ飛ばす。
 ロゼルの首に一筋傷が付き、血が流れたがロゼルは気にすることなくたたみかけた。

「アイシスソード」

「……ファイス……ソード」

 王女もとっさに呪文を唱える。が、一足遅かった。
 螺旋状の氷を含んだ風が王女に襲い掛かる。

「ウィンドルソード」

 勝負は一瞬だった。

 王女の呪文の炎でなんとか相殺できたように思ったが、
先ほどの水で濡れた王女の足は氷浸けになり身動きが取れなくなった上、
追撃の風で王女の剣は弾かれて遠くに飛ばされた。

 そこにロゼルが剣を突きつける。

 勝負はあったようだ。

「詠唱魔法の発動スピードはやはり操られている身では遅かったようですね……」

「……そこまで!」

「どうやら俺の勝ちだったようだなあ。シーラ?」 

 嫌みったらしく嬉しそうに悪魔がシーラに視線を送る。
 シーラは怒りに震えていた。

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