小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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第八章 勇者は悪魔の紋章と共に 



「勝負は着きました。さあ、王女を元に戻してください」

 ロゼルがそう言うとシーラは一目散に逃げ出した。

「あ、こらっ。待て!」

 ロゼルが追いかけようとしたその時、


 がこんっ


 突然大きな音がしてシーラの真上から鳥籠のような檻が降って来た。
 ロゼルは一瞬身をすくめ、次の攻撃がくるかもしれないと防御の体制をとった。

「檻……?」

 一体何が起こったのだろうと、一同がきょとんとしていると
今度は急に四人の魔法使いたちが一斉に現れた。
 皆ローブに身を包んでいるが、その中に知った顔があった。

「逃げるとは卑怯じゃぞ。シーラ・シルヴァ。お前さんは負けたんじゃよ。大人しくせい」

「シェズ!」

「おお、ロゼル。間に合ったかいの?」

 ほほほほとシェズは笑みを見せた。
 その笑顔にほっと安堵する。

「ほら、お前さんも、はよう壁を取り払ってやらんかい」

 シェズが悪魔に向かってそう言うと悪魔は嬉しそうに嗤って、呪文を解いた。
それを見届けてからシェズは王女の様子を見る。

「ロゼル!」

 壁が消えると同時にリオネロ達が一目散に走ってきた。

「心配させやがって……」

「すみません……」

「シロム!」

 クリスがシェズとはまた別の魔法使いの老人に駆け寄った。

「クリス、久しぶりじゃのう。役目は全うされたようじゃな」

 そう言って白髪交じりの柔和な老人はクリスを抱きしめる。

「おおっ。誰かと思えばシムワール爺じゃねえか。なんでこんなとこに?」

 オーガがシロムと呼ばれた魔法使いの隣にいる老人に話しかける。

「勇者に呼ばれたから来たに決まっておるだろうが。用も無いのにこんなところに来たりはせん」

 頑固そうな口調でシムワールは言った。

「はははは。それもそうだな。それで? 誰が呼んだんだ?」

「そこにおるロゼルじゃ」

 髭の長いもう一人の魔法使いが言った。

「シクランゼ! あんたも来たのか」

 ランスが嬉しそうな声をあげた。

「話はあとじゃ、先に王女の魔法を解かねばならん」

「そうでした。シェズ、王女の容態はどうです?」

 皆が王女とシェズを囲むようにして立ち、不安げな視線が注がれた。

「完全に心を失っておるようじゃな……。我々の魔法ではどうにも出来ん。シーラをここへ」

 シェズがそう言うと、他の魔法使いたちが魔法を使ったのか、
檻がシーラを入れたまま、こちらへと浮かんできた。

「ほれ、シーラよ。王女にかけた魔法を解きなされ。そなたは負けたのじゃぞ」

 シェズがシーラを説得しに掛かるが、シーラは視線を逸らしたままだ。

「シーラ! いい加減にせい!」

 いらだった様子でシムワールが怒鳴る。

「貴様のおかげで我らがどんな目に遭ったことかっ。
 王が亡くなったのをよいことに何もかも自分本位に動かしおってからに」

「貴殿のせいだとはいえ、首都の民にはなんの罪もないからと、
 首都を守るシールドを作って早六年。だが勇者に敗れた今、貴殿が力を振るうことは叶うまい。
 さあ、観念して魔法を解いたらどうじゃ」

 魔法使いたちが次々と詰め寄るが、シーラはそっぽを向いたまま黙殺した。
 それを見ていたロゼルはそっと剣を抜いた。

「ダークソード……スフィンディア」

「ロゼル?」

 拉致があかないと思ったロゼルは檻の間からシーラに剣を突きつける。

「その腕、切り落としましょうか? それとも耳からの方がいいですか?」

 真剣な表情でロゼルは言う。
 シーラは一度斬られた恐怖からか、がたがたと震え始めた。

「わ、わかった。呪文は解く。解くからダークソードだけは、勘弁してくれ」

「わかればいいんです」

 ロゼルはにこっと笑みを作って、剣を鞘に収めた。

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