シーラの檻の前に王女を移動させ、皆が見守る中呪文が解かれた。
シーラはまた無詠唱だった。
王女の瞳に光が戻ると呪文が解けたのだと一同皆胸を撫で下ろした。
シェズの魔法で足の氷も解いてもらった。
「……ん」
王女が何度か瞬きをして、皆を見回す。
そして体を起してロゼルの姿を見つけると、何かを悟ったような哀しい顔をした。
「私は……? これは……一体? ……そう。皆様に迷惑を……おかけしたのですね」
視線を落として王女は言う。
「何もかも終わったのですよ。だから、そんな顔しないで下さい」
ロゼルが王女の傍らに膝をつく。
すると王女はロゼルの顔をまじまじと見てから、「お姉さま……ですか?」と微かな声で言った。
自分に向けられた王女のブルーグリーンの瞳にロゼルは頷いた。
王女は綺麗な瞳を潤ませて、ロゼルに抱きついた。
「お姉さま……ロゼルお姉さまっ」
「ロシェッタ……」
ロゼルは初めて妹の名前を呼んだ。
「よかった……」
リオネロもクリスもランスもオーガもお互い顔を見合わせて微笑んだ。
魔法使いたちは優しい眼差しを二人に向けていた。
「さてと……。シーラ、賭けは俺の勝ちだ。俺の望みを叶えて貰おうか」
いつの間にかシーラの檻の前に、悪魔の姿があった。
少年の姿をしているが、その笑みには恐怖を覚える。
「も、もちろんだとも」
「本当だろうな。さっき逃げようとしたのは、
俺から逃げるつもりだったんじゃねえだろうなあ? くくくくく」
「そ、そそそ、そんなことはない。賭けの代償は払う。
モンスターは元通りに戻す。私も姿を消す。だから、た、魂だけは喰わないでくれ」
「くくくく。てめぇの魂なんざ、まずそうなもの喰うわけねえだろ。
恐怖の対象が俺一人になるなら今回はそれでいい。くくくくく」
そういびつな笑みを見せると、シーラはすぐさま、モンスターを開放した。
「悪魔、お前なんでこんなところにおるんじゃ。
貴様の役目はもうとっくに終わっておるじゃろう?」
シェズが嫌悪の視線を悪魔に向けて言った。
リオネロはオーガの後ろで小さくなっている。
「別に。俺はただ……見たかっただけだ。
俺が紋章を与えた勇者たちが、どれほどのものなのかをな。
いやあ……久しぶりに楽しませてもらったぜえ」
「……気まぐれという訳じゃな。お前さんはいつもそうじゃ」
「そりゃあ、悪魔だからな。くくくくくくく」
そう言って悪魔は消えた。嗤い声だけが不気味に部屋に響いていた。