小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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 §   §   § 



 十数年前、セリトナ王国の国王は兼ねてからよからぬ考えを抱き始めた
魔法使いシーラ・シルヴァを脅威に思い、ロシェッタ王女が生まれると同時に、
姉であるロゼルとその同じ歳の王族の子供三人を勇者の印を刻み、四方へと飛ばした。

 それは、王の切り札であり、シーラを倒すことの出来る唯一の抵抗勢力であり、希望でもあった。
 彼らは魔法使いたちによって人知れず育てられた。
 だが、王が亡くなると同時にシーラが力を持ち、魔法使いたちは首都を守るために、
勇者のもとを離れ花畑の遺跡へ行かねばならなかった。
 魔法使いたちは彼ら中から自らの記憶を消した後、勇者の使命だけを与えて、彼らのもとを去った。


 ──そして数年後、勇者たちは城で再会したのだった。



「それにしてもロゼルが王女様だったなんてな」

「私も知らなかったのですよ。シェズに会うまでは」

「ほんとに?」

「シェズが私の仮面にかけてくれた魔法のお陰で記憶と歴史を取り戻したのです」

 城では宴の準備がなされていた。
 ロゼルたちが戦った騎士たちも回復し、元気に準備を手伝っている。
 城には活気が戻ってきていた。多くの召使たちの魔法も解け、皆、忙しなく働いている。


 シーラは悪魔との賭けに負け、今まで操っていたモンスターを全て手放した。
 凶暴化していたモンスターたちはシェズたち魔法使いのお陰で元通りとなり、
首都を守るシールドを作っていた魔法使いたちの役目も終わった。
 首都に召し上げられていた若い男や女たちは皆、故郷へと返されることとなり、
シーラが今まで強いてきた圧政も終止符を打つこととなった。


「これからは、ロゼルが政(まつりごと)を行うのか?」

「まさか」

 ロゼルは自嘲気味に笑う。

「政はロシェッタがシェズ達、魔法使いと共に行うようですよ」

「じゃあ、ロゼルは?」

「私は……そうですねぇ」

 ロゼルは中庭から覗く空を仰いだ。
 中庭にあった全ての毒草はロゼルたち勇者によって取り除かれ、
今はモンスター避けの白鈴草が植えられている。

「暫く、旅に出ようかと思うのです。自由になった今、
 私はクリスやランスやオーガたちが見てきた街や村を見てみたい。
 圧政が終わったとはいえ、末端に行き着くのはもう少し時間がかかることでしょうから、
 そういうところで何かお手伝いができたらいいと思っているのですが」

「じゃあ、フロームディアには戻らないのか?」

「それは……まだ。予定は未定ですから」

 ロゼルは視線を少し落とした。
 リオネロは寂しげな表情をして「そうか」とだけ言った。

 そこへ、ランスが駆け寄ってきた。

「二人ともここにいたのか。今会議が終わって王女も魔法使いの爺さんたちも大食堂に向かってる。
 これから王女も交えての宴だぜ。ちょうど宴の準備も整ったところだしな」

「そうですか。わかりました」

「早く来いよ。ロゼルがいないんじゃあ意味がない。城中の人間があんたに感謝してるんだからな」

「ええ。すぐに行きます」

 ロゼルは微笑んだ。

「ロゼル、せっかくだしその鎧脱げよ。王女との食事だというのに騎士の格好のままじゃあなぁ」

「それもそうだ。ロゼルも王女なんだし、ドレスくらい着ないと。俺ちょっと召使に頼んでくる」

 リオネロの提案にランスがはしゃいだ様子で駆けて行く。

「え? ちょ、ちょっと……ドレスって……」

「いいから。いいから。なにもお姫様らしくしなくってもいいんだって。
 王女と並んでも恥ずかしくないようにしてくれるだけさ」 

「でも……」

 少しして、ランスが召使数人を連れてきた。
リオネロに押されるまま、ロゼルは城の来客用の控え室へと入れられた。


 召使は全員女の人だ。だけれども、なんだか恥ずかしくて、ロゼルは着替えの間始終俯いていた。
 大体このドレスというものはどうして自分ひとりで着ることができない作りになっているんだ。全く。

 慣れないコルセットに息が詰まりそうになりながら、ロゼルはされるがままになっていた。
 ドレスを着つけるのと髪を梳かしてセットするのと化粧をするのが同時進行で目まぐるしい。


 ようやく全てが終わって、部屋の外に出るとリオネロとランスが廊下の椅子に腰掛けて待っていた。
 二人ともさっきの時間に着替えたのであろう。
 正装を身に纏っている。

「……ロゼル?」

「あんまり見ないで下さい」

 顔を赤らめて視線を逸らす。
 こんな格好リオネロに見られたくなかった……。

「ど、どうせ似合ってないですよ。こんなものを着たのは初めてなんですからね」

 きっと笑われるに決まっている。
 そう思って恐る恐る二人のほうを見ると二人とも馬鹿みたいに突っ立って動かない。

「どうか、しました……?」

 やはりあまりにも似合っていないので、二人とも声が出ないのではないだろうか。

「綺麗だ……」

「へ?」

「ロゼル……本当にロゼルなのか? 肖像画でしか見たことないけど
 先代の王妃と見紛う美しさだ。ロゼル姫よ。なんてお美しい……」

 ランスがそう言って跪く。

「じょ、冗談はやめてください。リオネロ、ランスをなんとか……」

 リオネロに助けを求めて視線を泳がすと、リオネロは顔を赤らめている。

「まいった……やっぱりロゼルは王女様なんだな。すっごく綺麗だよ」

 その言葉がなんだか嬉しくて、嬉しいのにどうしても素直に笑えず、少し視線を逸らした。

「ありがとう……ございます」


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