小説『Brave of Seritona -南の勇者の物語-』
作者:愛音()

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 宴は楽しく始まった。
 綺麗に着飾ったロゼルを見て、多くの人がランスと同じように
先代の王妃と似ていると口々に言い、オーガやクリスにいたってはロゼルだとわからなかったようで、
二人同時に口説かれるというかつてない経験をした。
 後からリオネロが割って入って、誤解を解いてくれたからよかったものの、
 慣れない出来事にどう対処していいか戸惑ってしまった。


「この度は、貴方がた勇者たちに、我が国の重役であった魔法使いシーラ・シルヴァにより、
 独裁となっていた我が国を救っていただき、誠に感謝しております」

 王女が皆に感謝の意を表し、頭こそ下げなかったものの、その言葉からは熱いものが感じられた。

「私の名は、ロシェッタ・ロベルタ。今回、姉であり勇者でもある、
 ロゼル・ロベルタを支え、助けてくださった皆様、本当に感謝いたします」

「ロシェッタ……そんな堅苦しい挨拶はやめてください。
 皆私のためではなく、あなたとセリトナ王国を救うために、命を懸けたのですよ」

「そうだせ、ロシェッタ王女。それに俺たちはあんたの親類でもあるんだ。そう畏まらなくったって」

 ランスがにやっと笑みを見せた。
 聞くところによるとランスは王の従兄弟の妹の子であるらしい。
 オーガは王の弟の妾の子で、クリスはロゼルのまた従兄弟に当たるらしい。

「そうでしたね……それで、そちらの方は?」

 金の髪が並ぶ中では目立つ茶色い癖っ毛の男の子に視線が注がれた。

「彼は、リオネロ・リーヴィー。私をここまで案内してくれたのです」

「そう、それは大役を。さぞ大変だったことでしょう」

「そうでもないさ。俺は足でまといだっただけ」

「そんなことないですよ」

 ロゼルは間髪入れずに言った。

「リオネロがいてくれてとても助かったんですから」

 リオネロに向けて微笑むと、彼は照れくさそうに頭を掻いた。

「それにしても遠路遥々四人の勇者が、同時期に首都に着けたというのは、まさに奇跡じゃったな」

 シロムがにこやかに言うと、

「そりゃあ、なんだって俺たちロゼルに合わせて行動してたんだからな」

 オーガが誇らしげに胸を張る。

「馬鹿者、わしらが手助けしてやらんかったら、
 首都にさえ辿り着けんかった若造が、偉そうに言うでない」

 シムワールがオーガに向かって厳しく言ったがその顔はどこか嬉しそうだ。

「まぁまぁ、わしらだって助けられたんじゃ。少しくらいいいではないか」

 シェズがワインを一口飲んで、ほほほと笑った。

「全くじゃな。シーラのように強い力を持つ者は何を考え出すかわかったものじゃない」

 シェズと向かい合って座っているシクランゼが頷いた。

「そういや、ちゃんとした自己紹介がまだじゃったな。王女にはもうしたが」

 シロムが勇者たちの方を向いて言う。

「わしはシロム・シルビー。ご存知の通り魔法使いじゃ。北の花畑の遺跡に住んでおった」

「シロムには随分と世話になっちょったんです」

 クリスが微笑む。

「俺もシムワール爺には世話になった」

「また、爺などといいおって。シムワール・シドルドじゃ。東の花畑に住んどった」

「シクランゼ・シヴァート。西の花畑で暮らしておった。ランスも少しは役に立ったようでよかったわい」

「余計なお世話だっつうの」

「南の花畑でロゼルとリオネロを拾った。
 シェズ・シェノールじゃ。あのときは危なかったのう。二人とも」

「ええ、本当に助かりました」

「ほんと、死ぬかと思ったぜ」

 ロゼルもリオネロもシェズに向かって微笑んだ。
それにクリスやランス、オーガも頷いた。

「ほんとですよ。あの時はさすがの私も肝を冷やしました」

 予想外のところから言われ、ロゼルとリオネロもお互いに顔を見合わせた。

「俺も。ロゼルの紋章が露になったあのときは焦ったぜ。まったく……」

「紋章を持つ勇者同士は、シーラやシムワール爺たち魔法使いと同じように、
 他の勇者たちの紋章を感じることができるからな。あれ? 
 その顔じゃ知らなかったみてぇだな。
 まあ、それのおかげで俺たち全員、ロゼルの現在地がわかったって訳だ」

 オーガが笑いながら言った。

「そうだったんですか……ちっとも知りませんでした」

「俺も。ロゼルがちゃんと言っててくれなかったから、
 シェズに言われるまで紋章隠すなんて思いつかなかった。そうだったのかぁー」

二人とも感嘆の声を漏らした。それから、ロゼルはふとした疑問を投げかける。

「そういえば、シーラ・シルヴァはどうなったんです?」

「悪魔との賭けに負けてしまったからの。存在を消せと言われているらしい。
 そこで、我々はこの城の地下牢に幽閉することに決めたのじゃ。
 我々の特殊な魔法を何十にもかけておるから、悪魔にもわかるまいて」

「あ、悪魔はどうなったんだよ?」

 リオネロが少し怯えた様子で訊く。

「悪魔ならとっく帰ったわい。もとの最果ての島にな」

「そ、そうなのか」

 ほっとしたような顔をしたリオネロの様子にどっと笑いが起きた。

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