第二章 勇者の憂い
セリトナ王国は、王の城がある首都を囲むように湖があり、
その周りを円を描くように花畑が広がっている。
そこを中心として東西南北に花びらのように島が繋がっている。
四つの島を形成している、花びらの根元にはそれぞれ山脈があり、
東には緑の山、西には岩山、南には火山、北には雪山がある。
つまり、勇者たちはその山を越えなければ首都へは辿りつけない。
そして、南の島であるこの場所から火山へと向かうには、
乾いた荒野のような砂漠を越えていかなくてはならないのだ。
フロームディアの街を後にした、二人は、崖の細道をなんとか歩いていた。
いや、歩くというよりは落ちないように横にずれていっていると言ったほうがいいかもしれない。
足場はほんの少ししかなく、いつ崩れるか分からないような断崖絶壁だ。下を見るだけで目が眩む。
「だから、言ったろ? 馬は連れてかない方がいいって」
先を歩いているリオネロが、ロゼルに向かって叫んだ。
「他に道はないのですか?」
「あるにはあるけど、下の道はモンスターだらけで通れない。昔は通れたんだけどさ」
そう言いながらひょいと、広い崖のくぼみに降り立って、こちらの方を見る。どうやら、運動神経はいいようだ。
「……そうですか」
続いて、ロゼルもリオネロのところに辿りつき、思わず座り込んだ。
「ちょっと休憩しましょう」
「そんな重いもの着てるから、へばるんだよ。脱げば?」
呆れたような口調で、リオネロが言う。
「いや……これは脱ぐわけにはいかないのです」
「ふうん……それじゃ、篭手だけでも外しなよ」
鎧を脱ぐことをロゼルは頑なに拒んでいたが、「それもそうだな……」とそれは了承した。
正直、掟さえなければ、こんな鎧一刻も早く脱ぎ捨てているところだ。
ロゼルが両方の篭手を外している間に、リオネロは細い枯れ枝をどこからか集めて、火をつけた。
さすが、四方の交易に出ていたとあって、手際がいい。
用心にこしたことはない。
「……あんた、女か?」
「ん? なぜそんなことを聞くんです?」
「いや……その華奢な手、女のようだと思ってさ」
リオネロは篭手を外した生身の両腕にちらと、視線を送ってから、照れくさそうにはにかんだ。
ロゼルも自分の腕に目をやる。
「……そうでしょうか。もし私が女だとして、何か都合が悪いことでも?」
「い、いやそういうわけじゃないんだけどさ」
その時、きぃーっと甲高い鳴き声と同時に、大型鳥類が襲い掛かってきた。
「わっ」リオネロが驚いて尻餅をついた。ロゼルはすかさず剣を抜き、モンスター目がけて切りつける。
「……ウィンドルソード」
風を纏った剣の剣圧で、一瞬のうちに切り裂かれたモンスターはみるみるうちに、崖の下へと落ちていった。
「……そろそろ行きましょう。長居すると危険です」
剣を収めながら、ロゼルはモンスターが来た方向に目をやる。
それからはずした篭手を拾って付け直した。
「そ、そうだな。……やっぱ勇者様は勇者様だ」
訳のわからないことを言いながら、火を消すとすぐにリオネロはロゼルの前を歩き出した。